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【短期連載】MTRLメンバーが選ぶオススメ書籍紹介・vol.9(ニューカマー2026夏 編)

MTRLには、経営戦略、民族学、触覚、デザイン、建築、不動産、ホテルなど...多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。本企画では、そんなメンバー一人ひとりが、自身の家の本棚から「MTRLの原点」ともいえる一冊を選び、ご紹介します。それぞれの蔵書から立ち上がる思考や関心を通して、各メンバーが思い描く「MTRLとは何か?」を紐解いていきます。月に一度、個性豊かなメンバーが登場する短期連載です。是非ご覧ください。

第9回目は今年の春にMTRLTOKYOにジョインしてくれたメンバーの特集です。
前職では、経営戦略や不動産などの経験を持ちながら、多様な領域で活動をしてきた2人がおすすめする書籍をご紹介します。
本記事最後まで必見です。お楽しみください。

vol.9登場メンバー

株式会社ロフトワーク, MTRLリードディレクター
杢 浩睦

東京大学大学院理学系研究科化学専攻修了。大学院では電気化学応答性高分子の界面設計に関する研究に従事。卒業後は経営コンサルティングファームにて、大手企業の中期経営計画のモニタリング実行支援や新規事業開発等に携わり、その後ロフトワーク MTRLにリードディレクターとして参画。多様な人・領域・組織が交わる場やコンテンツを好み、個人が生まれに関係なく個性に従って満足に生きられる世界観に憧れる。大好きなジャンプ作品は『僕のヒーローアカデミア』。

株式会社ロフトワーク, MTRL プロデューサー
柿沼 夏帆

1994年大阪生まれ、神戸大学国際文化学部卒業。大学ではEUの政治的分断について学び、異なる価値観を持つ人々をつなぐ方法を模索。フランス留学を経て、ブランディングに興味を持ち、住宅・不動産企業専門のブランド・マーケティング会社に入社。地域の工務店や不動産会社の経営理念構築からブランド構築、マーケティング支援まで一貫してプロデュース。映画『カモン カモン』で子どもたちが語る未来への希望に触発され、100年先により多くの選択肢を残すための仕事がしたいと考え、ロフトワークに入社。MTRLプロデューサーとして、社会的価値を追求するプロジェクトに取り組んでいる。フィルムカメラと個性的な本屋さんが好き。

MTRL リードディレクター 杢 浩睦

オススメ書籍|マッカーリ・サイモン『物理化学(上)』

Q1.この本を選んだ理由は何でしょうか?
MTRLで扱う素材の性質──なぜこの色なのか、なぜ水に溶けるのか、なぜこう変形するのか──は、突き詰めればすべて分子・原子レベルの構造や振る舞いに根ざしています。それを理論的に探究する学問が「化学」です。そのなかで、そもそもなぜ分子や原子が、ミクロの世界においてそのような構造をとるのか、という根幹を理解する「量子化学」という学問に、当時学生だった自分を引き込んでくれた一冊が本書でした。

Q2.この本の一押しポイントは何でしょうか?
量子化学は、ミクロの世界を理論的に理解する学問という特性上、多くの人が数学の壁で挫折する分野です。本書のすごさは、それを平易な数学と丁寧な説明で「ある程度理論的にわかった気になれる」ところまで連れて行ってくれること。丁寧な式の導出やちょうどいい難易度の解説がそれを支えてくれます。

Q3.この本をどんな人にお勧めしたいでしょうか?
大学の学部課程向けの学術書なので、気軽に読める本ではないかもしれません。一方で、半分読み切ることすら難しいのが当たり前な理系学術書というジャンルにおいて、ここまで丁寧に読める本はかなり貴重だと思います。おすすめしたいのは、実際のすごくミクロの世界で起きている”なぜ”を数理的に理解してみることに興味がある方です。

Q4.最後に一言(言いたいことや伝えたいこと)
日常生活で見ている素材が分子や原子の粒度でどういう構造や物理特性を持つのかを知ると、その性質を一から勉強せずともなんとなく理解したり、仮説を立てられるようになると思っています。(まあもちろん実際は様々な複雑な要因の重ね合わせなので、本当になんとなくではあるのですが笑)
目の前の素材の面白さをミクロ視点で理論的に捉えるための基礎が詰まった名著です。

 

MTRL プロデューサー 柿沼 夏帆

MTRLでプロデューサーをしている柿沼夏帆です。
今回は、ある程度やれることが増えてきてこれからどんなふうに生きていきたいか、考えていた時期に読んだ2冊を選びました。

オススメ書籍① |ティム・インゴルド『人類学とは何か』(奥野克巳・宮崎幸子 訳/亜紀書房)

「人々についての研究」ではなく「人々とともに」──ティム・インゴルドが教えてくれた、関わりながら問いつづけるという態度

1冊目は、イギリスの人類学者ティム・インゴルドの『人類学とは何か』です。

この本のなかで人類学は、「人々についての研究」ではなく「人々とともに研究すること」だと語られます。読んだとき、これは自分の仕事の話でもあるな、と思いました。
ロフトワークやMTRLが日々やっていることも、誰かを外側から分析することではなく、一緒に事業をつくったり、一緒にビジョンの実現に向けて手足を動かしたりすることです。
相手の現場に入り、応答を重ねながら、まだ形のないものを立ち上げていく。人類学とプロデュースはずいぶん遠い仕事に見えるけれど、やっていることの態度は似ているのかもしれません。

そもそもこの本は、「私たちはどのように生きるべきか」という問いから始まります。
学問の入門書というより、生き方の本として読めるところが気に入っています。

ずっと頭に残っているのが、1930年代のカナダ北部でのエピソードです。
人類学者のA・アーヴィング・ハロウェルが、先住民アニシナアベ(オジブワ)の古老ベレンズに「私たちの周りにある石は、すべて生きているのだろうか」と尋ねる。
ベレンズは長いあいだ考えたあと、「いいや、でも、生きているのもある」と答えます。

石が生きているかどうかは、石の側に決まっているのではなく、その石とどう関わってきたかによるのだと思います。
目の前の物質を、性能表の数値として理解するのか、誰かの生活や記憶と結ばれたものとして受け取るのか。それだけで、見えてくるものはまったく変わってしまいます。

いま私は、どうしたら国内の産業を盛り上げられるだろうか、どうしたら文化として育てていけるだろうか、といったテーマに向き合っています。
自分たちが、あるいは他のプレイヤーが、どう関与すればどんな変化を起こせるのか。どんな変化を起こしたいのか。
その意志を持って描くことにはまだ苦戦していますが、インゴルドの詩的な言葉に、そのたびに励まされている気がします。

これからどう生きていきたいかを考えている方におすすめです。夏休みの読書にも、案外ぴったりかもしれません。

 

オススメ書籍② 長い旅の途上』(文春文庫)

東京で働く私と、いま海を飛び上がっているかもしれないクジラ──星野道夫『長い旅の途上』がくれる、遠い自然という豊かさ

2冊目は、写真家・星野道夫さんの『長い旅の途上』です。星野さんの本で最初に手に取ったのがこれで、以来、何度も読み返しています(『旅をする木』も本棚にあります)。
10万頭のカリブーがアラスカの原野を移動していく場面が圧巻で、そこは何度読んでもすごいなと思います。ザトウクジラも、オーロラも出てきます。

なかでも印象に残っているのが、東京で忙しく編集者として働く友人が、アラスカを訪れて漏らしたという言葉です。東京で慌ただしい日々を送っている、
まさにその瞬間にも、アラスカの海ではクジラが飛び上がっているかもしれない。そのことを知れただけでよかったんだ、と。

星野さんは、人間にはきっとふたつの大切な自然があるのだろう、と書いています。ひとつは、道ばたの草花や近くの川の流れのような、日々の暮らしのなかで関わる身近な自然。
もうひとつは、そこに行く必要すらない、遥か遠い自然。「そこに在ると思えるだけで心が豊かになる自然」。それは私たちに、想像力という豊かさを与えてくれるから。

この本が仕事に効いているかというと、正直よくわかりません。読むのはたいてい寝る前で、数ページめくって、カリブーの群れを頭のなかで動かしてみて、そのまま眠ってしまう。
それ以上のことは特にしていない気がします。

ただ、2冊を並べて考えてみると、共通しているのは「つながり直す」ということかもしれません。
処理しきれない量の情報に埋もれていると、目の前にいる人のことも、自分自身のことも、社会や自然のことも、だんだん遠くなっていきます。
どうしたらつながり直せるんだろう、というのが私がいま一番考えたいことで、この2冊はそのヒントをそれぞれ違う方向からくれます。
インゴルドが「ともに在ること」を思考として手渡してくれるとすれば、星野さんは、それを想像力として思い出させてくれる。

MTRLには、素材を入口にしながら、それぞれまったく違う関心を抱えた人が集まっています。
この記事が、そんな仲間と出会うきっかけになったらうれしいです。

 

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