人文社会学、デザイン、芸術、メディアデザイン、建築など…材料基軸のプロジェクトデザインを多く手掛けるMTRLのメンバーは、多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。
本企画では、MTRLメンバーのこれからのマテリアルを考える上でオススメする書籍を紹介します。それぞれの選ぶ書籍を通してそれぞれのメンバーの考える「マテリアルとは何か?」に迫ります。

第7回目はMTRL TOKYOに別部署からジョインしてくれた、新メンバーにフォーカスします。
MTRL TOKYOの中でもグローバルなバックボーンを持つ2人が考える「マテリアル」とは何か?他のメンバーとは違うユニークな視点での捉え方があるかもしれません!本記事最後まで必見です。お楽しみください。
vol.5登場メンバー
株式会社ロフトワーク, MTRL アシスタントディレクター
安永 葉月
1997年イギリス生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。大学では食の場における対話に関心をもち、イベントの設計や対話のドキュメンテーションを手掛ける。またロンドン芸術大学への留学を経て、クリエイティブの立場から政治参加やコミュニティ作りにどうアプローチできるかを考えるようになる。卒業後はイタリア発のNGO Future Food Instituteにてコミュニティマネジメントに従事。その後2022年にロフトワークに入社。現在はポッドキャスト「COMポスト資本主義」で社会課題からアートまで幅広いテーマをカジュアルに、聞き手に考える時間を提供するような気持ちで配信している。
株式会社ロフトワーク, MTRL プロデューサー
金 徳済
兵庫、大阪で在日コリアンとして育つ。London College of Fashion(ロンドン芸術大学)スポーツウェアデザイン専攻。卒業後は海外インターンを経て上京。ヨネックスとGUで商品企画、デザイン、開発を行う。海外、モノづくり、仕組みづくりに関心がある。個人、組織、社会の課題解決と価値創造に取り組みたいと思い、ロフトワークに入社。
MTRL クリエイティブディレクター(留学生) 安永 葉月

オススメ書籍①
書籍名|Food: Bigger than the Plate
V&A (出版) May Rosenthal (著), Catherine Flood (編集)

コメント :
本書は2019年にロンドンのV&A博物館で開催された食に関する展示の関連書籍です。コンポスト、農業、物流、料理、食事に章分けされていて、各カテゴリーにおいてこれからの食を考えるヒントとなるアートやデザイン作品が紹介されています。
当時留学をしていた実感として、イギリス(少なくともロンドン)では環境・社会問題の課題意識が強く、それに対するデザイナー・アーティストの応答もラディカルだったり、コンセプトが重厚で刺激的なものが多かったように思います。食は私たちを物理的に形成するマテリアルであるのと同時に、上手くデザインをすれば私たちと他者や、自然世界との関係性を形成することができるマテリアルでもあると信じています。
オススメ書籍②
書籍名|生まれた時からアルデンテ
平野 紗季子 (著) 平凡社

コメント :
本書は著者の平野氏が本能のままに食品で遊び、情熱を共にするシェフと語らい、食体験を感覚的に分析、連想、編集したエッセイガイドです。彼女が食で真剣に遊ぶことで、読者はこれまでに知らなかった・思いも至らなかった食の持つ表情や可能性に愕然とし、不思議と納得してしまいます。マテリアルを面白がり、丸ごと味わい、尖った視点で編集することは、MTRLの活動にも通ずる姿勢かなと思いますし、食というマテリアルをこれほどの執着と共感力を持って語っている同世代からは多くの刺激を受けます。
オススメ書籍③
書籍名|アンダーグラウンド
村上 春樹 (著) 講談社

コメント :
本書「アンダーグラウンド」は村上春樹が地下鉄サリン事件の被害者62名をインタビューし、それぞれの個別の「物語」を見つめることから、メディアでは語られてこなかった個別の真実や、オウムを生んだ日本社会の輪郭を浮かび上がらせるノンフィクション。
折に触れて、世の中や自分を構成している最重要な要素が物語であることにハッとすることがあります。占いやニュースから、政党が掲げるマニフェスト、私たちの出自や属するコミュニティ、それらをまとめたアイデンティティまで。世界は物語で溢れかえっており、私たちは色々な次元でそれを必要としているのでしょう。
デザインの領域でも製品やサービス、ブランドの持つ「ナラティブ」について考えることは多いですが、それが人にどのような影響を与えうるのか。人を魅了し、インスパイアできるような物語を伝えるだけではなく、地下鉄サリン事件のような悲劇を引き起こすに至った物語や、その結果被害者の物語がどのように変容したのかを、デザインから物語作りに携わる者として知りたい、きっと知らなければと感じさせられました。
まだ物語が持つマテリアル性については考え続けたいですが、空気のように当たり前に必要なものでありながらも、多くの人を動かす実効力もある不思議な見えない素材であると言えそうです。
MTRL プロデューサー キム・ドッチェ

オススメ書籍①
書籍名|アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争
武田ランダムハウスジャパン(出版社) バーバラ スミット (著), 宮本 俊夫 (翻訳) 発売日2010/4/10

コメント|
1冊目は20世紀のスポーツ用品業界を描いた本です。幼い頃からものづくりや異文化に触れることが好きだった私は高校の時、一時運動不足になったことがきっかけでスポーツの意味や価値についても考えるようになりました。そして海外の大学・グローバル展開する企業でスポーツアパレルの企画/デザインを専門としてきました。業界の変遷や内部の話について知りたいと思い、学生の時この本を読みましたが、特に印象に残っているのはアダディダス二代目トップ「ホルスト・ダスラー」の洞察や機転でした。職人気質の創業者アディからマーケティングの素養や外交力のあるホルストの代になり、アディダスが世界で突出したポジションを確立するまでの過程は(功罪ある20世紀の話ですが)刺激的で、業界問わずプロダクト/サービス提供者にとって参考になる点も多いと思います。独メーカーだけでなく、日本やアメリカのメーカー、世界市場について描かれているので、ナイキ創業者が書いた「SHOE DOG」を読まれた方は視点の違いなども楽しめるのではないかと思います。
オススメ書籍②
書籍名|10歳からの考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方
アスコム(出版社), 石原 健次 (著), 矢部 太郎 (イラスト) 発売日2021/10/23

コメント :
視点替えという繋がりで二冊目はこちら。就寝前に短編集/一話完結のオーディオブックを聞きたい気分だった時、見つけたものです(オーディオブックやナレーターの声が苦手な人は紙か電子で)。登場キャラクターが国内外の童話の中の世界にワープし、観察や対話を行いながら、先入観や一般的に言われていることに対して「本当にそうだろうか?」という問いや「そうだったのか!」という発見を重ねていきます。現実世界の新規開発、組織活性、循環経済…その他いかなる取り組みにおいてもステークホルダーのニーズ、アイデア、思想が終始一致しているということは殆どありません。「立場や視点が異なれば考えや正義も変わる」というのは当たり前ではありますが、課題や仕事を目の前にすると誰しもそのことをすぐ忘れてしまいがちです。タイトルに「10歳から」とありますが、ある人の視点や正義を基につくられた童話を題材にナラティブなコミュニケーション、共創的なアプローチの形を示してくれている本書は実社会で奮闘する20代以上のビジネスパーソンにもおすすめです。
オススメ書籍③
書籍名|冒険の書 AI時代のアンラーニング
日経BP(出版社), 孫 泰蔵 (著), あけたらしろめ (イラスト) 発売日2023/2/16

コメント :
2冊目は10代だけでなく20代以上にもおすすめという話をしましたが、「学生向けだからOO、自分は30代だからOO」と年齢区分だけで切り分けないこと、学校/企業という境界を越えて学びや活動の機会をつくることが大切だと考えています。小学~高校生を巻き込むワークショップやプログラム型のプロジェクトに複数携わり、最近特に強くそう感じています。そんな中、孫 泰蔵さんが立ち上げたクリエイティブな子どもたちのコミュニティVIVITAの一拠点を訪問する機会があり、こちらの本も読みました。とにかく面白く、目から鱗の連続です。有史以来、各時代の思想家や教育者に主人公が質問を投げかける形でなぜ今の教育の形になったのか、これからの学びのあり方はどうあるべきかを探究していく、まさに冒険の物語です。子どものふとした発言から哲学の話に突入したかと思えば刑務所と学校施設のデザインの共通点の話が出てくる、AIに造詣の深い投資家としてのリアルな見解とともに詩の一節が提示されるなど、ユーモアに富むローラーコースター級の展開であっという間に読み終わってしまいます。最後に:世の中の企業/大学/研究機関が全情報をオープンにできる訳ではありませんが、私は今後、10代やAIを含む多様なステークホルダーとのアンラーニングや共創を実践していきたいと思います。