- Event Report
「うまくいっていないこと」から、話そう。 ― Circular Economy Meet-up #1 開催レポート
2026年7月15日、FabCafe Tokyo(渋谷)にて、長瀬産業株式会社と株式会社ロフトワークの共催イベント「Circular Economy Meet-up #1」を開催しました。掲げたコンセプトは「成功事例の発表会ではない」こと。企業も立場も異なる約30名が、資源循環をめぐる試行錯誤や”悩み”を率直に持ち寄った一夜をレポートします。
Circular Economy Meet-up #1 サプライチェーンを越えて、資源循環の”悩み”とアイデアを持ち寄る夜
・開催日:2026年7月15日(水)
・会場:FabCafe Tokyo(東京・渋谷)
・主催:株式会社ロフトワーク / 長瀬産業株式会社
・イベント概要:https://mtrl.com/event/tokyo/260715_meetup
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資源循環の”悩み”を、あなたは誰と話せていますか

2025年の循環経済法改正、プラスチック新法の施行――。企業の資源循環対応は、もはや「CSR」ではなく「経営課題」として扱われる時代に入っています。多くの企業が対応を迫られ、それぞれに取り組みを進めている。けれど、その過程でぶつかる壁や試行錯誤を、サプライチェーンの垣根を越えて本音で語り合える場は、まだ多くありません。
展示会で語られるのは磨き上げられた成功事例。説明会は一方通行になりがち。では、「まだうまくいっていないこと」は、どこで話せばいいのでしょうか。
そんな問いから企画されたのが、今回の「Circular Economy Meet-up #1」です。うまくいっていないこと、困っていること、道半ばの挑戦までを持ち寄り、参加者同士の学びと共感、そして次の連携の糸口を見つける。ピッチとネットワーキングを組み合わせた対話重視の2時間は、あっという間に過ぎていきました。
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オープニング――一方通行ではなく、つなげていく夜に

左:ロフトワーク 長島絵未/右:長瀬産業 江河知寿さん
イベントの口火を切ったのは、モデレーターを務めたロフトワークの長島絵未。「クリエイティブの流通」を手がけるロフトワークが、「すべての人のうちにある創造性を引き出すことで、世の中がもっと良くなる」という理念のもと、素材・循環をテーマにした過去イベント「プラスチック・ナイト」や「crQlr Awards(サーキュラーアワード)」などの取り組みを続けてきたことを紹介しました。
続いて、共催の長瀬産業株式会社から、ポリマーグローバルアカウント事業部の江河知寿さんが登壇。「雨が降ったら人が来ないんじゃないかと心配していましたが、熱中症になりそうなぐらい暑く、今回のイベントは熱い夜になりそうです」と会場を和ませたうえで、この夜の過ごし方をこう呼びかけました。
「説明会や展示会だとどうしても一方向のコミュニケーションになりがちですが、今日はミートアップという形でお話を聞いたあと、皆さんにもいろんな話題を交わしながらつなげていくネットワーキングをしていただきたい。」
- 登壇者:早渕 百合子さん(九州大学 洋上風力研究教育センター 脱炭素エネルギーマネジメント研究部門 部門長・教授)
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Main Pitch① 「横串が刺さっていない」――全体を見渡せなければ、本当の環境負荷は分からない
最初のピッチは、九州大学の早渕百合子さん。資源循環を取り巻く状況の変化を、研究者の視点から読み解くところから始まりました。
「以前は企業イメージ向上やCSRの一環として取り組まれていましたが、今は違います。やった方がいい、ではなく、やらなければ経営や国際競争力の面で立ち行かなくなる時代です。」かつて家電リサイクル法のように個別分野ごとに整備されてきた法制度は、近年、包括的な枠組みへと変わりつつあります。つまり、設計から調達、廃棄・リサイクルまでを一体で捉えなければ、本当の環境負荷は見えてこない時代になっている、と早渕さんは指摘します。
象徴的だったのは、サプライチェーン全体のCO₂排出量を示すスライドを作ろうとしたときのエピソードです。「生産段階でCO₂がとても多く出ているというスライドを作ろうとしましたが、そもそもその数字を裏付けるデータがありませんでした」。少し古いデータを探し出して、ようやく数字を用意できたと振り返り、「データは各社・各所に散らばっているはずなのに、横串が刺さっていない」と、研究の最前線ですら直面するデータ分断のリアルを率直に語りました。
「資源循環の数字とCO₂の数字は、似ているようでまったく別のもの。ある部分だけ削減しても、見えていない別の部分で増えているかもしれない」。メーカー、リサイクラー、ブランドオーナーがそれぞれにデータを抱え込む現状に対して、早渕さんが「横串を刺すための接着剤」として挙げたのが、まさにこの日のような対話の場でした。
「今日話した人とまた次の話をする。そして今日いなかった人も呼んで、さらに次の対話につなげていく。この接続が非常に重要です。」
「今日がスタート」。このイベントを貫くことになるキーワードは、最初のピッチで早くも示されていました。
- 登壇者:西村 知子さん(大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 統合企画センターサービスデザイン・ラボ環境ビジネス推進部 部長)
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Main Pitch② 96%リサイクルの先に見えた、”実装”のリアル
続いて登壇したDNPの西村知子さんのピッチは、恒例のクイズから始まりました。「DNPグループが提供している商品・サービスは、カレンダー、コールセンター、スマホの部品のうちどれでしょうか」。会場の反応を受けて、「大体こう聞くと『全部でしょ』と言われるんですが、その通り、全部です」と笑顔で明かすと、印刷会社というイメージとのギャップに、会場は和やかな空気に包まれました。
営業職を経て2019年から環境ビジネスの構築に参画してきた西村さん。サーキュラーエコノミーに取り組むきっかけは、国際的なイベントの会場装飾だったといいます。
「会場に貼られた印刷幕は、出力から設置、取り外しまで当社が担当しました。このときに静脈産業の皆さんと出会い、多くの知見をいただいたことが、現在のサーキュラーエコノミー実装支援サービスの原点になっています。」2022年に埼玉県と実施した「プラスチック資源循環の見える化」実証実験や、翌年の埼玉県民の日のイベント「サーキュラーファッションショー」での取組み(県民の乳業メーカー工場から排出される牛乳パックと県職員の作業着を粉砕し、DNP工場の廃紙と混ぜてボードに成形、ワードローブを制作)などの事例を話したのち、西村さんが率直に語ったのは、実装段階ならではの壁でした。「2022年の実証実験では、生活者からの回収量はそれほど良くありませんでした。チラシやポスターで告知しましたが、なかなか認知が広がりませんでした」「製造面では、再生プラスチックを扱える加工メーカーはまだ少なく、用途に応じたレシピづくりが重要になります」。
回収率、コスト、そして再生材の”出口”。販促品では比較的取り組みやすくても、自動車や家電用途ではより高い品質や精度が求められる――やってみたからこそ見えた課題の解像度が、聞き手のメモを走らせます。締めくくりに紹介されたのは、これらの経験を体系化した「DNPエコノミー実装支援サービス」。資源循環スキームの構築からトレーサビリティの確保、サプライヤー支援、結果の見える化、情報発信まで、一連のプロセスを支援する6つの機能が説明されました。
- 登壇者:江藤 めぐみさん(日本電気株式会社 みらい価値共創部門 GX事業開発統括部 CE事業開発第2グループ ディレクター)
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Light Pitch① 『スイミー』のように、束になって大きくなる
「取り組みだけでなく、その中で直面している課題も率直にお話ししたい」。NECの江藤めぐみさんのピッチは、この日のコンセプトそのもののような宣言から始まりました。
かつて携帯電話やパソコンを製造し、今も社内に樹脂の専門家がいるNEC。「資源循環の領域をデジタルテクノロジーで大転換する」というプロジェクトのコンセプトを、江藤さんはレオ・レオニの絵本『スイミー』に重ねます。
「小さな魚がバラバラでは大きな魚に食べられてしまうけれど、集まって一つの群れになれば大きな存在として振る舞える。量が少ない・規模が小さいと言われるようなものも、束になれば規模を出せるのではないか、ということを模索しながらプロジェクトに取り組んでいます。」再生プラスチック事業に取り組んで約2年。たどり着いた結論は「再生プラスチックを作る皆さんと使う皆さんがしっかり連携していく必要がある」というシンプルなものでした。しかし、その連携を阻む最大の壁として江藤さんが挙げたのが「情報の非対称性」です。作る側にとって配合や工程は企業秘密。一方、買う側は品質保証のために情報が欲しい。「この両者を、単に『情報を出してください』とお願いするだけでは解決しない」――早渕さんの指摘したデータ分断の問題が、事業の現場では利害の壁として立ち現れていることを示す言葉でした。
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用した丸喜産業との実証実験、セキュアなデータ流通を実現するトラスト技術、製造基幹システム、自動交渉AI。打ち手を紹介したうえで、江藤さんはこう締めくくりました。「どの技術を使っても、あっという間にこの問題が解決するわけではない。仲間と率直に課題を共有しあい、解決に向けて諦めずに挑み続けることが唯一の突破口になるのではないか」。
- 登壇者:湯ノ口 智恵さん(旭化成株式会社 機能材料統括部 機能材料開発センター 新価値開発部 用途開発グループ グループ長)
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Light Pitch② 「これはもう課題ではなく、危機感」――材料メーカーの仲間づくり
「距離が近くてすごくいいですね」。会場の空気に触れる一言から始まった、旭化成・湯ノ口智恵さんのピッチ。「サランラップをご存知の方も多いと思いますが、実はそれだけの会社ではなく、マテリアル領域・住宅領域・ヘルスケア領域の3領域で事業を展開しています」と自社を紹介し、自身はエンジニアリングプラスチックなどを扱う機能材料部門に所属していると説明しました。
早渕さんの講演に「かなり通じるものを感じた」という湯ノ口さん。サステナビリティ対応が求められる新たなステージに入り、環境価値は企業活動に欠かせないものになっている――その認識のもと、材料メーカーの現場で感じている課題を「規制の加速」「サプライチェーンの壁」「本音で議論できる場の不足」の3つに整理して共有しました。奇しくも3つめの課題は、この日の開催趣旨と重なります。
「我々自身が、若い世代や子どもたちの世代に、いかに良い環境を残していけるかが本当に大事だと思っています」。リサイクル樹脂やバイオマス樹脂の開発、ケミカルリサイクルの実証、資源循環プラットフォーム「BLUE Plastics」といった取り組みの紹介を経て、最後は力を込めてこう呼びかけました。
「一社のデジタルプラットフォームだけでは全体を解決できません。本気で企業の枠を越えた場をつくらなければいけない。これはもう課題ではなく危機感だと思っています。弊社も協力させて頂きながら皆さんと共に実現を目指しましょう。」
- 登壇者:森 浩一さん(株式会社Gab マテリアル事業部長)
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Light Pitch③ 廃棄物を”炭”に変え、物語ごと製品にする
創業7期目を迎えた株式会社Gabで、事業部長を務める森浩一さんが取り組んでいるのは、リサイクルが困難な廃棄物の炭化による資源循環です。
.Gabはこれまで、ゲーム感覚ごみ拾いイベント「清走中」や、フードロスの果物を活用した漬け酒キット、国内最大級のエシカルメディアなどを展開してきました。さらに昨年9月には、マテリアル事業「.Garbon」を立ち上げ、累計2.6億円の資金調達を実施しています。
リサイクルが困難な廃棄物の約8割が、埋め立てや焼却、海外輸出に回っている——。こうした現状に対する.Gabの答えが、廃棄物を無酸素状態で熱分解し、炭化物へと転換する技術です。森さんは炭の価値を「機能性(消臭・抗菌など)」「黒色(顔料・塗料・インクの代替)」「物語性(廃棄物が製品に生まれ変わるストーリー)」の3点に整理し、トヨタ自動車のシート端材を「.Garbonレザー」へ再生する取り組みなど、大手企業との連携事例を紹介しました。
「炭化プラントを日本全国に普及させたい。さらに今後、資材や建材、肥料などへの配合による大量の出口先も探している。」
ピッチは、こうした今後の展望と、資源循環の実現に向けて協業できる企業への呼びかけで締めくくられました。
- 登壇者:白川 陽一さん(レコテック株式会社 事業開発マネージャー)
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Light Pitch④ ごみは「処理するもの」から「調達するもの」へ
「ごみ問題はこれまで環境問題の一部として捉えられていましたが、状況は大きく変わりつつあります」。レコテックの白川陽一さんは、イランや中国のレアアース問題を例に挙げながら、原油価格の高騰や資源の国有化が進む中、ごみ問題は経済安全保障の領域まで広がっていると説明します。ELV規則をはじめとする再生材利用義務化の流れの中で、ごみは「処理するもの」から「調達しなければならないもの」へ――。廃棄物処理市場は現在年間約9兆円規模ですが、資源としての活用が進めば2050年には約25兆円規模へ拡大する可能性があるといいます。
一方で、「ごみを預かる現場は20年、30年ほとんど変わっていません」と白川さん。「分けるより燃やす方が安い」「静脈物流の担当者は現場に行くまで何がどれだけ出ているか分からず、収集車の積載効率が50%以下ということも珍しくない」。この市場の期待値と現場の実態のギャップを埋めるのが、排出元・静脈物流・調達側をデータでつなぐインフラ「pool」です。
世田谷区の玉川高島屋ショッピングセンターでは、300以上のテナントから排出される廃棄物を日々計量・データ化し、ダッシュボードで排出量やCO₂排出量を可視化。管理担当者の工数を約70%削減したほか、「分けるほど処理費が安くなる」インセンティブ設計も実現しています。2026年4月からは横浜市内約1,200拠点で運用が始まり、収集車の積載効率100%を達成。「商業施設から自治体、そして民間都市開発エリアへと展開し、あらゆる資源を広域かつ効率的に集めるデータインフラにしていきたい」と、都市スケールの構想を語りました。
- 登壇者:鶴崎 祐大さん(株式会社Circularand 代表取締役)
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飛び込みピッチ 一社では実現できないからこそ、議論の”共通の土台”を
当日の飛び込みピッチ枠に手を挙げたのは、サーキュラーエコノミーのビジネス設計を支援するシミュレーターを提供する株式会社Circularandの鶴崎祐大さんです。
冒頭で紹介されたのは、「メーカーの97%がサーキュラーエコノミービジネスを検討している一方で、実際に取り組みを継続できている企業は約25%にとどまる」という調査結果。構想段階では何から始めればよいか分からず参考事例も少ない。検証段階では売上や利益、将来の規制・市場変化を踏まえた事業性を見通しにくい。そして社内で企画が進んでも、部門ごとにKPIが異なるため合意形成が難しい――。検討と継続の間に横たわる3つの壁です。
Circular&のシミュレーターは、東京大学と三菱電機の共同研究をもとに開発されたもの。製品の劣化や故障率、回収率といった「製品の状態」と、価格感度や嗜好性などの「顧客行動」をモデル化し、シミュレーション上で取引を再現することで、サーキュラービジネスの事業性を事前に可視化できることが特徴です。2026年4月には、三菱電機によるエアコンのサブスクリプション実証において、社内の合意形成ツールとして活用されました。
「今日の登壇者の皆さんもおっしゃっていたように、サーキュラーエコノミーは一社だけでは実現できません。だからこそ、関係者が共通の前提を持って議論できる土台として、このシミュレーターを活用していただければ」。この日繰り返し語られた「一社では回らない」という悩みに、意思決定の道具で応えるピッチでした。
おわりに――”悩み”を持ち寄れる場が、循環の接着剤になる

データの横串が刺さらない。情報の非対称性が解けない。回収率が上がらない。再生材の出口がない。社内の合意形成が進まない――。
この日、7組の登壇者が持ち寄ったのは、輝かしい成果よりもむしろ、それぞれの現場で向き合い続けている”悩み”でした。
けれど不思議なことに、悩みが率直に語られるほど、会場の空気は前向きになっていきました。自社だけの行き詰まりだと思っていた壁が、実はサプライチェーンの別の場所で誰かが同じように向き合っている壁だと分かる。その発見こそが、早渕さんの言う「横串を刺すための接着剤」の正体なのかもしれません。
「今日がスタート」。この言葉の通り、ピッチ後のネットワーキングでは、立場を越えた会話が閉場まで続きました。この日の出会いと対話が、次の共創やアクションへとつながっていくことを期待しています。
長瀬産業とロフトワークでは、本イベントをシリーズとして今後も継続していく予定です。次回は、あなたの”悩み”もぜひ聞かせてください。