- Event Report
【イベントレポート】家族でも恋人でもないつながりを、どう選び、どう育てるか? ── これからの『親密圏』を考える

家族社会学者 永田夏来さん・合同会社&ante 代表 原田優香さんと考える、選びとり育てる関係性
私たちは、誰と、どのようにつながりながら生きていきたいのでしょうか。
恋愛や結婚、家族といった枠組みは、いまも親密なつながりの「標準」として広く共有されています。SNSのタイムラインを流れていくのは、結婚式や出産・子育てのストーリー。けれど世帯のかたちに目を向けると、単身世帯はすでに全世帯のおよそ4割を占め、もっとも多い世帯の形となっています。そしてたとえ結婚したとしても──核家族だけで子どもを育てていく難しさや、どちらかが病気などで支えが必要になったとき、まわりに頼り合える関係があるかどうかで状況が大きく変わることを思うと、「家族とつながってさえいれば完結する」とは言い切れないようにも感じます。
その一方で、血縁や恋愛にとらわれないシェアハウスのあり方や、これまで「当たり前」とされてこなかったつながりを描く物語が小説やドラマ等になるなど、少しずつ目が向けられているように思います。
こうした多様なつながりを、私たちは意識的に選び、育てていけるのか──。この問いを起点に、2026年5月21日、渋谷のLoftwork COOOP10でトークイベント「どんなつながりを選びたい?── これからの親密圏を考える」を開催しました。家族社会学者の永田夏来さんと合同会社&ante代表の原田優香さんを迎え、ロフトワーク/MTRLの柿沼夏帆の進行のもと、この問いをめぐる議論が交わされました。

どんなつながりを選びたい? ── これからの親密圏を考える
FabCafe、MTRL(株式会社ロフトワーク)主催。家族社会学者の永田夏来氏と、合同会社&ante代表の原田優香氏をゲストに迎え、「家族でも恋人でもない親密なつながりを、私たちは意識的に選んで育てていけるのか?」という問いを、現代社会における親密圏の多様なかたちから考えるトークイベント。後半は参加者によるミニワークも行い、それぞれが望むつながり方を可視化する場として開催されました。
なぜいま、「親密圏」を問い直すのか

ロフトワーク・柿沼
日々の忙しさのなかで、いまの自分が誰とどうつながっているかを立ち止まって考えることは、つい後回しになりがちです。けれど、そうして過ごした先に、自分に残るものは何だろう——そんな問いが、この日の出発点にありました。
WHOは健康を、病気でない状態を超えて「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と定義しています。この身体・精神・社会という3つの側面のうち、私たちがふだんいちばん意識しにくいのは、他者とのつながりに関わる「社会的な健康」ではないでしょうか。そこに少し目を向けるだけで、人生における関係性は、もっと豊かなものにならないか。
こうした関心から柿沼は、本イベントにおける親密圏を「生活を支え合う、ケアし合う、時間を共にするという機能を、恋愛や家族といったこれまで当たり前とされてきたかたちに縛られず、自分で意識的に組み立てていく複数のつながりの場」と定義し、それを「自然に発生するもの」ではなく「意識的に選び、育てるもの」として捉える視点を提案しました。本イベントは、永田さんの理論と原田さんの実践を手がかりに、参加者一人ひとりが自分なりの「これからの親密圏」を探る場として企画されました。

本イベントでの「親密圏」の定義スライド
家族という枠組みを、もう一度ほどく ── 永田夏来さん

家族社会学者・永田夏来さん(兵庫教育大学大学院教授)。当日はオンラインで登壇し、スクリーン越しにトークを展開
家族社会学者として、結婚や出産といった人生の節目で人と人との関係がどう変わっていくのかを、当事者の声をもとに見つめてきた永田さん。まず取りかかったのは、「家族」という言葉が私たちに思い浮かばせるイメージそのものを、いちどほどいてみることでした。
「近代家族」は、昔から続く“当たり前”ではない
永田さんは、父親がいて、母親がいて、子どもがいて仲が良い——そんなよく描かれる家族像は、決して昔から続いてきた形ではなく、19世紀から20世紀の近代化のなかで生まれ、戦後の高度経済成長期に「標準」として広まった、ひとつの特殊なかたちにすぎないと指摘しました。
こうした家族が「標準」たりえたのは、本来は別々の「性愛」「同居」「育児」「家計」という機能を、一つの世帯にまるごと束ねていたからでした。私たちが「家族」と聞いて思い浮かべるイメージの正体は、この“一括パッケージ”だったといえます。けれどいま、その束ね方は急速にほどけはじめています。永田さんがその変化を映す一例として挙げたのが、カレー沢薫(原案協力:ドネリー美咲)『ひとりでしにたい』(講談社)です。伯母の孤独死に直面した35歳の独身女性が、「婚活」から「終活」へと関心を移していく——結婚や家族を当然の前提にしなくても、人とのつながりをどう結び直すかを問うこの作品に、永田さんは時代の気分の変化を読み取ります。
家族でも恋人でもない関係に、多くの人が「わかる」と感じはじめている——その共感の広がりこそ、近代家族の“パッケージ”がほどけつつあることの表れだと永田さんは語りました。

永田さんのスライドより
親密圏を3つのレイヤーに分けて捉え直す
そうして近代家族を相対化したうえで永田さんが提示したのが、「親密性の分散」と「モジュール型家族」というフレームワークです。「家族」という一つのユニットに親密さを集約するのではなく、“モジュール”のように機能ごとに別々の他者とつながりを編み直すという発想です。永田さんは親密圏を以下の3つのレイヤーに分けて整理します。
- 情緒や欲望のレイヤー:親密さの複数性。1人の相手にすべての親密さを束ねる必要がない状態。複数の関係を併存させる実践がすでに広がっている。例:オープンリレーションシップ、離婚後も子育てを協働する元夫婦
- 物理的空間共有のレイヤー:共同生活に生じる親密性。血縁でも恋愛関係でもない他者との共同生活。「家族ではない他者と暮らす」ことから、家事分担や情緒的支え合いが日常的に発生する。例:シェアハウス、介護付き多世代型シェアハウス「はっぴーの家ろっけん」、矢部太郎『大家さんと僕』(新潮社)、阿佐ヶ谷姉妹『のほほんふたり暮らし』(幻冬舎)
- 時間共有のレイヤー:デジタルメディアを媒介した親密性。物理的に離れていても、時間を共有することで親密性が立ち上がる。「顔は知らないが、名前と気分の浮き沈みは知っている誰か」という関係。例:グループチャット、オンライン配信、ボイスチャット、SNS/ゲーム
近代家族はこれら3つを一つのユニットに詰め込んでいましたが、いまはそれぞれを別々の他者と編成し直す「モジュール型家族」「分散ケア共同体」への移行が起きていると永田さんは語ります。
「1人の相手にすべての親密さを束ねる必要はない」
居場所を複数化して、薄く重ねていく。永田さんのこの言葉は、過度な共依存を避けつつ、結果として強固なセーフティネットを築く現代的な知恵を示しています。
同時に永田さんは、「家族そのものがなくなるわけではない」と補足しました。家族を否定するのではなく、これまで家族に集約されていた機能を別々の他者と編成し直せる──そう捉え直すところに、モジュール型家族という発想のおもしろさがあります。

イベント会場の様子
実践のなかで育つ「選びとられた関係」 ── 原田優香さん
続いて登壇した原田さんは、自身が共同創業した合同会社&anteのメンバー2人との関係の変化を、実践者の視点から率直に語りました。

合同会社&ante代表・原田優香さん
距離が遠くなっても、人は「親密」でいられる
設立当初の3人は、一緒に仕事をし、物理的にも近く、コミュニケーション量も多い親密な状態でした。しかしその後、メンバーの留学や大学教員への就任により、共に仕事をすることが難しくなり、物理的距離も開いていったといいます。
原田さんを襲ったのは、「孤独」や「置いていかれるような寂しさ」という生々しい感情でした。そこで原田さんが選んだのは、それでも関係を断ち切るのではなく、納得するまで互いの気持ちを伝え、聴き合うという、極めて高コストな営みです。泣きながらの喧嘩、沈黙に耐える時間、繰り返される対話──そのプロセスを経て、「物理的な距離が遠くても、コミュニケーション量が少なくても、人は『親密』でいることができる」という関係性へと、つながりをアップデートできたと振り返りました。
ここで原田さんが手がかりとしたのが、社会学者アンソニー・ギデンズの「対等な人間どうしによる人格的きずなの交流」という概念です。相手を人格として尊重し、不安や葛藤も含めて分かち合うこと──それは、相手に拒絶されるリスクを抱えながらも、能動的に踏み込み続ける行為でもあります。原田さんは親密圏を「選ぶ」ことの残酷さと豊かさの両面を、自らの体験を通して伝えました。

原田さんのスライドより
つながりに問いを立て、「わたし」から豊かな関係性をはじめる
原田さんの探究は、人間どうしの関係にとどまりません。山登りで自然と向き合うこと、友人の猫を世話すること──互いに良い影響を与え合う「呼応」のかたちは、生き物や場所との間にも編まれていると語ります。
原田さんが&anteの事業として実施しているワークショップ「呼応する関係性を巡る旅」では、参加者が4日間をかけて、自分自身と他者、社会との関係性に問いを立て、言葉にしていきます。親密圏は誰かに与えられるものではなく、「わたし」のなかに問いを起こすところからはじまる──原田さんのメッセージは、そう響きました。
- 原田さんのスライドより
- 原田さんのスライドより
ディスカッションから見えてきた、3つの論点
2人のインプットを受けたQ&Aと参加者ディスカッションでは、理論と実践が交差する論点がいくつも浮かび上がりました。
「一貫した自分」でいなくてもいい
参加者から「複数のコミュニティで異なる自分がいて、どれが本当の自分かわからなくなる」という問いが投げかけられた際、永田さんは「一貫した一人の自分であり続けなければ、というプレッシャーは、特定の時代の産物」と答えました。ある場では保守的な親として、別の場では奔放な趣味人として──矛盾(複数の役割)を抱えたまま、状況ごとのベストな選択を積み重ねていくことを、永田さんは「コンテキストに応じた不一貫性」として肯定的に位置づけました。
統一的な物語をひとつ求める必要はない、しかしその時々のコンテキストを明確にすることは大切である──。永田さんのこの応答は、レイヤーごとに異なる自分を生きることを、複雑化する社会のなかで自分を立たせるための知恵として位置づけるものでした。
対話のコストは、誰がどう引き受けるのか
会場からは、より根源的な問いが投げかけられました。家族という規範から離れて、独立した個人同士が対等な関係を結ぼうとするとき、ケアの倫理だけで持続できるのか。「分裂した個人」が生まれてしまうのではないか。一人ひとりが耐えられなくなるのではないか──。
この問いに永田さんは、コストの非対称性の観点から応じました。ギデンズが示すような「人格的きずな」を結ぶ対話的な親密性は、非常に高いコストを伴う営みである。一方でこれまでの家族は、非常に低いコストで機能する装置だった。その低コストの家族モデルがいま崩れているなかで、個人だけに依拠するやり方でいいのか──。
関連して参加者からは「シェアハウスをつくりたいが、建物を作っただけで人が入ってくれるのか、場が先か関係性が先かわからなくなった」という具体的な問いも提起されました。永田さんは、シェアハウスのような物理的空間の共有が日常的なケアや支え合いを生む可能性を語りつつ、同時に「盛り上がっているシェアハウスの背景には、能動的で巻き込む力の強い人がめちゃくちゃ頑張っているという状況がある」という属人性の課題にも触れました。場のハードを設計することと、関係性を持続させる仕組みを育てることは、別の問いとして丁寧に分けて考える必要があります。

Q&Aセッションで集まった問いの一部
能動性のジレンマと、「代わりの規範」を立てないという応答
会場からは、「自ら能動的に関係を作ることが難しい人にとって、能動性を求められること自体が抑圧になるのではないか」という問いも提起されました。家族という旧来の規範を相対化したとして、では代わりに何を拠り所にすればよいのか──。
この問いに対して、永田さんは「代わりの規範を立てる必要はない」という方向では応じませんでした。手がかりとなったのは、社会学者キャロル・スマートが提示した「パーソナルライフ」という考え方です。家族という単一モデルを参照点に置いてきた社会学から離れるとき、その先にもう一つ別の参照モデルを据えるのではなく、個々人の関係や記憶に立脚したまま、状況ごとにふさわしいかたちを探っていく──。「単一のモデルに縛られず、コンテキストごとにその都度で選択をすればいい」という永田さんの言葉は、「能動性」を新たな規範として誰かに課すこととは、慎重に区別されるべきものとして響きました。
それでも、「ベストな選択」を組み立てる能動性そのものに辿り着けない人がいるという問いは、依然として残ります。この問いは、レポートのなかで綺麗に閉じることはできません。だからこそ、これからの親密圏を「設計対象」として捉え直すときに、繰り返し立ち戻るべき留保として、ここに記しておきたいと思います。

インプットトークをメモする様子
ミニワークで立ち上がった、参加者それぞれの「ちょうどいい距離」
後半のミニワークでは、参加者それぞれが望むつながり方を可視化する対話が行われました。会場からは、理論を補完する具体的でビビッドな気づきがいくつも立ち上がりました。


ワークショップの工程を説明するスライド
ある参加者は、疎遠になった関係を無理に「育て直さない」心地よさを語りました。すべての関係を常にアップデートし続ける必要はなく、過去の思い出としてそのまま静止させておくことも、ひとつの豊かな関係のかたちだという視点です。
別の参加者は、モンゴルで100人規模のキャンプに参加した経験を共有しました。名前も知らない100人と1週間ゲルで時間を共にしただけで、数十年来の知己のような親密さが立ち上がる──時間の長さではなく、空間の密度によって親密圏が生まれる可能性を示すエピソードでした。
また、コミュニケーションのレイヤーごとに自分の「得意」「不得意」が異なることへの気づきも共有されました。情緒の共有は苦手でも、趣味を介した時間の共有は得意な人もいる。自分はどのレイヤーで、誰となら、つながりやすいのか──親密圏の自画像を描き出す時間になりました。
そして、もっとも会場の共感を集めたのが、ある参加者から出てきた「お葬式に呼びたい人」という問いでした。結婚式と違い、お葬式に誰を呼ぶかは自分では決められません。それでもなお「自分が死んだあと、知らせが届いて集まってほしい」と願える相手とは、いったいどんな関係なのでしょうか。頻繁に会わなくても、自分からはもう何のお返しもできない状況でも会いに来てほしい──この問いは、現代の人間関係がいかに「ギブアンドテイク」という互酬性に依存しているかを、逆説的に浮き彫りにします。お葬式に呼びたい人とは、取引を超えた「存在の肯定」を託せる、特別な親密圏の手触りを持った相手なのかもしれません。
- ミニワークの様子。小グループでの対話から、「お葬式に呼びたい人」「育て直さない関係」など、それぞれの「ちょうどいい距離」をめぐる言葉が立ち上がりました。
おわりに──親密圏は、これからの設計対象になる
イベントを通して見えてきたのは、親密圏とは「与えられるパッケージ」ではなく、「自覚的に設計し、運用し続けるプロセス」だということでした。家族という一つのユニットに親密さのすべてを背負わせる時代は終わりつつあり、情緒・空間・時間といったレイヤーごとに、最適な他者とつながりを編み直していく時代が始まっています。
それは、誰かに自動的に与えられる安心ではありません。能動的に選び、対話を重ね、ときに痛みや葛藤も引き受けながら育てていく営みです。
あなたは、誰と、どのレイヤーで、豊かな時間を共有したいですか。家族に還元されない多様な共同性を「設計の対象」として捉え直すこと──それは、自分の暮らしを、ひいてはこれからの社会のレジリエンスを設計することにもつながっていきます。あなた自身の親密圏を、どう編んでいきますか。
イベント登壇者
兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授
永田夏来(ながた・なつき)
1973年長崎県生まれ。家族社会学者。兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授。早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得。
結婚・妊娠・出産といった人生の節目と、人と人との親密な関わりのあいだに生まれる揺らぎに関心を持ち、当事者の実践から現代の家族を問い直す研究を続けてきた。近年は「モジュール型家族」や「分散ケア共同体」という観点から、血縁や恋愛を前提としないつながりの可能性について考えている。
単著に『生涯未婚時代』(イースト・プレス)、共編著に高橋幸との『恋愛社会学』(ナカニシヤ出版)、筒井淳也・松木洋人との『岩波講座社会学 第10巻 家族・親密圏』(岩波書店)、共著に宮台真司・かがりはるきとの『音楽が聴けなくなる日』(集英社)など。2019年にはピエール瀧の逮捕に伴う電気グルーヴの作品回収・配信停止撤回を求める署名活動を行った。
長田区の路地を歩くのが好き。
合同会社&ante 代表, 産業カウンセラー/組織開発コンサルタント
原田 優香
イベント企画・運営、場づくり、コミュニティづくり、プロジェクトマネジメントなどの経験を経て、2022年12月に「わたしの感情が動き出す場を増やす。」をミッションに合同会社&anteを設立。自身が組織で働く中で、他者との関係性に悩んだ経験を原点に「人が組織やチームでいきいきと働くために必要なことは何か」という問いを探究したいと思い2023年4月に立教大学大学院リーダーシップ開発コースへ進学し、2025年4月に修了。研究テーマは「上司と部下の関係性の向上」。
現在も、人がいきいきと働き、互いの強みを活かし合えるチームづくりに向けて組織開発・人材開発・学びの場づくりや、人が豊かな関係性を育み、心から信頼と安心を感じられるために必要なことは何かを探究・実践している。好きなことは登山と旅と美味しいものを食べること。愛読書はヴィクトール・フランクル『夜と霧』。
イベント企画・運営・記事執筆
株式会社ロフトワーク, MTRL プロデューサー
柿沼 夏帆
1994年大阪生まれ、神戸大学国際文化学部卒業。大学ではEUの政治的分断について学び、異なる価値観を持つ人々をつなぐ方法を模索。フランス留学を経て、ブランディングに興味を持ち、住宅・不動産企業専門のブランド・マーケティング会社に入社。地域の工務店や不動産会社の経営理念構築からブランド構築、マーケティング支援まで一貫してプロデュース。映画『カモン カモン』で子どもたちが語る未来への希望に触発され、100年先により多くの選択肢を残すための仕事がしたいと考え、ロフトワークに入社。MTRLプロデューサーとして、社会的価値を追求するプロジェクトに取り組んでいる。フィルムカメラと個性的な本屋さんが好き。