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【イベントレポート】効率化の先で、どう「偶然性」と「手触り」を残すか ─ AI時代のデザインエンジニアリング

生成AIの急速な普及によって、デザインやプログラミングの参入障壁は大きく下がり、ものづくりのプロセスは大きく変わり始めています。 デザイナーがコードを書き、エンジニアがビジュアルをつくる。あるいは、一人のクリエイターがAIを使いながら、リサーチから企画、実装までを横断する。これまで職種ごとに分かれていた境界は、少しずつ曖昧になっています。一方で、誰もが一定水準のアウトプットを素早くつくれるようになったとき、人がものをつくることには、どのような価値が残るのでしょうか。

2026年9月14日、渋谷のFabCafe Tokyo/Loftwork COOOP10にて、トークイベント「作り方が変わった。ーデザイナーとエンジニアの境界を踏み越える、AI時代のクリエイティブプロセス」が開催されました。ゲストにはFabrica.の岡田 敦子氏、Takramの緒方 壽人氏が登壇。モデレーターは、神山まるごと高専に在学し、ロフトワークMTRL事業部でインターンをしているメリット キアが務めました。

制作現場でのAI活用から、プロトタイピング、デザインとエンジニアリングを横断する意味、そしてこれからのクリエイター像まで。AIによって「つくり方」が変わりつつある今、人間がものづくりに関わる意味を考えた一夜をレポートします。

作り方が変わった。 ーデザイナーとエンジニアの境界線を踏み越える、AI時代のクリエイティブプロセス

株式会社ロフトワーク MTRL主催。Fabrica.の岡田 敦子氏とTakramの緒方 壽人氏をゲストに迎え、未来のクリエイティブプロセスをデザインエンジニアリングを通して考えるトークイベント。

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なぜいま「デザインエンジニアリング」なのか

ロフトワーク・メリット

イベントの冒頭では、今回のテーマである「デザインエンジニアリング」についてメリットから紹介がありました。

デザインエンジニアリングとは、デザインと実装を分けるのではなく、その両方を行き来しながらプロダクトや体験をつくっていくアプローチです。企業やプロジェクトによって対象領域は異なり、Webやソフトウェアだけでなく、ハードウェアまで扱う場合もあります。

メリットが通う神山まるごと高専では、テクノロジー・デザイン・起業家精神の3領域を横断して学びます。その背景にある考え方について、メリットは次のように紹介しました。

メリット:「すごいエンジニアやデザイナーになることだけではなく、デザイン、エンジニアリング、起業家精神、3つをちゃんと理解できる人になってほしい、ということを学校でよく言われていました」

一つの専門性に閉じず、異なる領域を理解して行き来する。 その考え方は、境界が揺らぎつつあるAI時代にどのような意味を持つのでしょうか。

効率化の先で失われた「偶然性」 ── 岡田 敦子氏

イベント会場の様子

岡田氏からは、「プロダクションにおけるAIとの向き合い方」をテーマに、Fabrica.の制作現場での実践が紹介されました。

Fabrica.では2022年末頃からAIを取り入れ始め、現在ではリサーチ、企画、デザイン、実装、テストなど、さまざまな工程で活用しています。AIによって、一人でも多くの工程を進められるようになり、制作スピードは大きく向上しました。しかし、効率化を進めるなかで、別の問題も見えてきたといいます。

岡田氏:「みんなでディスカッションして偶然的に生まれるアイデアの掛け合わせみたいなものが、なくなっていってしまったんですね」

一人とAIで効率よく進められるようになった一方で、チームで「ああでもない、こうでもない」と話す中から生まれていた、予想外のアイデアや発想の飛躍が減ってしまったのです。さらに、すべてをAIと一人で進められたとしても、「最終的に誰がそれを良いと判断するのか」という問いが残ります。

岡田氏:「せっかくプロダクションなので、チームでものづくりをすることを効率化しすぎてはいけないのかもしれない、というところに行き着きました」

そこで現在は、AIですべてを代替するのではなく、人間同士で考えるプロセスを残したまま、AIを組み込む形へと変化しているそうです。

職種ごとに異なるAIの使い方

Fabrica. 岡田 敦子氏

AIの使い方は、職種によって異なります。

プロジェクトマネージャーの場合、壁打ちや大量データのチェック、簡単な業務ツールの制作などにAIを活用。これまでエンジニアに依頼していた小さな自動化を、自ら実現できるようになりました。ビジュアルデザイナーにとっては、頭の中にあるイメージを素早く可視化し、チームやクライアントと認識をそろえるための道具です。UIデザイナーの場合は、競合調査や情報整理、構成案のたたき台づくりなど、制作の前段階を支えます。さらにエンジニアリングの現場では、リサーチからモック開発、設計、実装、コードレビュー、デバッグまで、AIが関わる範囲が広がっています。

ただし、AIに任せられる工程が増えても、「何をつくるのか」「何を確かめるのか」「本当にこれでいいのか」といった判断を担うのは、あくまで人間です。

岡田氏:「現時点では、人が意志を持ってAIをツールとして扱うことが大事だと思っています」

AIによって省略できる作業が増えたからこそ、逆に「人間が手放してはいけないもの」が見えてきたとも言えそうです。

「理解してからつくる」から、「つくって理解する」へ ── 緒方 壽人氏

イベント会場の様子

続いて登壇した緒方氏は、大阪・関西万博のパビリオン展示や四国遍路のためのアプリ開発など、自身の実践を交えながらデザインエンジニアリングについて語りました。そのなかで大きなキーワードとなったのが、「プロトタイピング」です。プロトタイプというと、完成品をつくる前に試作品をつくり、テストと改善をするためのものという印象があります。しかし緒方氏は、それだけではないと話します。

緒方氏:「つくってみないとわからないことがいっぱいある。考えることと、つくることを一緒にやるためにプロトタイピングする」

考えがまとまってからつくるのではなく、考えるためにつくる。 頭の中や言葉だけでは共有しにくい感覚も、実際にものがあれば他者と一緒に考えることができます。そしてAIによって、このプロセスはさらに加速しています。

緒方氏:「今までは、理解してからつくる順番だった。それを、まずつくってみて、つくってみてわかる、という順番に変えられる」

まずつくる。触ってみる。そこで理解する。そしてまたつくり直す。AIによって、「理解してからつくる」から「つくりながら理解する」へと、ものづくりの順番そのものが変わりつつあります。

人間がループの中にいること

Takram 緒方 壽人氏

一方で緒方氏は、AIに仕事を任せきってしまうことへの懸念も語りました。

哲学者イヴァン・イリイチの考えを紹介しながら、道具には人間の能力を拡張する段階と、行き過ぎることで人間から力を奪う段階があると説明します。そこで重要になるのが「Human in the Loop」という考え方です。

緒方氏:「AIを使うとしても、ループの中に人間がいるというところが大事なんじゃないかなと思います」

AIに考えさせる一方で、人間も考える。出てきたものを見て判断し、また次の入力をする。AIによって人間をプロセスから外すのではなく、人間の思考そのものを広げていく。 その距離感が重要だといいます。

パネルディスカッション:AIとはどのくらいの距離で付き合う?

後半のパネルディスカッションでは、AIとのコミュニケーションや、デザインとエンジニアリングを横断する意味、未来のクリエイター像について議論が広がりました。

パネルディスカッションの様子

「相棒」でも「正解を出す機械」でもない

議論の前半では、AIにどこまで考えさせ、どこから人間が介入するべきなのかという話題が上がりました。

緒方氏は、AIに長い工程をそのまま任せるよりも、途中で人間が出力を確認しながら進める方がうまくいくことが多いと話します。岡田氏も、AIから返ってきたものに違和感があれば指示を変えたり、複数の案を出して比較したりしながら使っていると説明しました。つまり、AIに考えることを任せる一方で、人間も考える。 その往復を続けることが重要になります。では、そのときAIをどのような存在として捉えると、ちょうどよい関係をつくれるのでしょうか。話題は、AIとの「距離感」へと移っていきました。

緒方氏は、AIを「あくまで道具」として捉えていると話します。しかし、その使い方は単純な命令とは少し異なります。

緒方氏:「『こうしてください』というより、独り言を言うような感じです。それをAIが聞いて何か返してくれる。隣で何か言っているような感じが、今はちょうどいい」

一方、岡田氏もAIを思考の壁打ち相手として利用しています。

岡田氏:「独り言みたいに『ああだ、こうだ』と言っていると、いい感じにまとめてくれる。そこから『そうかな、ちょっと違うかも』と考えられる。思考を加速するには、かなりいい壁打ちになります」

ただし、AIが返したものをそのまま「正解」と考えないことも重要です。

岡田氏:「『これでいいじゃん』となりがちなところを、本当なのかなと疑って見る。 複数のAIにやらせることもあります」

AIから答えを受け取るのではなく、AIとのやりとりを通して自分自身の考えを深めていく。 二人の話には、そんな共通点がありました。

パネルディスカッションの様子

「自分の言葉で説明できるか」

議論のなかでは、AIによってつくられたアウトプットを「理解した気になってしまう」危うさについても話が及びました。学生であるメリットからも、レポートをAIに整えてもらうと、内容がそれらしく見えることで「これでいいかも」と思ってしまうという実感が共有されました。

緒方氏は、AIによって整ったアウトプットが簡単につくれるようになれば、それ自体が基準になっていくのではないかと話します。

緒方氏:「AIが出す一見きれいに整ったものが当たり前になっていくと思います。だからこそ、そこからどれだけ自分らしさやユニークさを加えられるかが、これから求められていくんじゃないでしょうか」

さらに、AIを使ったとしても、自分の言葉で内容を説明できることが重要だと続けました。

緒方氏:「読むと説明できる気にはなると思うんですけど、実際に説明してみると結構できないことが多い」

アウトプットをつくれることと、それを理解していることは同じではありません。ものをつくるハードルが下がったからこそ、そこにどんな意図があるのかを自分自身で説明できる力が、より重要になりそうです。

パネルディスカッションの様子 Takram 緒方 壽人氏

スピードの先にある「手触り」

AIによって制作の速度が上がるなか、メリットから「速くつくれること自体が重要なのか」という問いも投げかけられました。

緒方氏は、速さそのものが目的なのではないと話します。

緒方氏:「早く終わるためのスピードではなくて、よりいろいろなことを試せるためのスピードだと思います」

限られた予算や時間のなかで、より多くの可能性を試し、改善のループを回せることに価値がある。そして、そこでデザインとエンジニアリングを横断する視点が重要になります。

岡田氏:「技術的には良い仕様のアウトプットなんだけど、なんかかっこよくないとか、手触りがちょっと違うことがある。そこにデザインの視点が入ると、同じ仕様なのに急によく見えたりする」

緒方氏も、エンジニアリングだけでは解けない「人間」という要素を扱うことがデザインの役割だと話しました。

緒方氏:「人間が入ってくるところは、テクノロジーの設計だけでは解けない要素なんです。そういう計算できない部分も含めて全体を考えるのが、デザインなのかなと思います」

技術的に正しく動くことと、人が触ったときに心地よく感じること。その両方を往復できるところに、デザインエンジニアリングならではの「手触り」があります。

パネルディスカッションの様子 ロフトワーク メリット キア

クリエイターは、画面の外へ

最後に議論されたのは、AIがさらに進化した未来のクリエイター像です。岡田氏が着目したのは「判断」と「責任」でした。

岡田氏:「AIがプログラムを書いて情報漏洩しても、『AIの責任です』とは言えない。専門性を持って判断できる人は残らざるを得ないと思います」

AIが生成したものであっても、それを選び、世の中に出す責任を負うのは人間です。だからこそ、何が正しく、何を選ぶべきか判断するための専門性は、今後も重要になります。

一方、緒方氏が語ったのは、もっと根源的な「つくりたい」という気持ちでした。

緒方氏:「つくりたい人がいなくなったらクリエイターがいなくなる。つくりたいという気持ちがある限り、なくならないんじゃないかな」

さらに、PCの前で完結する作業をAIが担うようになるほど、クリエイターは現実の世界へ出ていくのではないかと話します。

緒方氏:「パソコンの前でできることは、どんどんAIができるようになる。だから、リアルなところに出ていくような未来のデザイナーになるのかなと思います」

緒方氏自身も、長野県で米づくりをしながら、水田の水位や水温を計測するセンサーなどをAIを活用して自作しています。実際の土地を歩くこと、人と話すこと、ものに触れること。AIが画面の中の仕事を担うからこそ、現場でしか得られない一次情報や体験の価値は、これまで以上に高まっていくのかもしれません。

パネルディスカッションの様子 Fabrica. 岡田 敦子氏

おわりに ─「つくること」を人間の手から離さないために

AIによって、ものづくりは速く、身近になりました。リサーチし、考え、デザインし、コードを書き、プロトタイプを動かす。かつて複数の人と長い時間を必要としたプロセスを、一人でも進められる場面が増えています。しかし、今回のトークで繰り返し語られていたのは、単なる効率化ではありませんでした。

チームで話す中から生まれる偶然性。つくって触ることで初めて得られる感覚。AIが出した答えを疑い、自分自身で判断すること。そして、画面の外の現場に出ていくこと。

効率化できるものが増えたからこそ、人間がどこに時間を使うのかを選べるようになったとも言えます。

今回、企画とモデレーターを務めたメリットにとっても、イベントを通して「デザインエンジニアリング」の捉え方をあらためて考える機会となりました。メリットが二人の話を通して見えてきたのは、単に「できることの幅が広い」ことだけではありません。領域を越えながら、実際につくり、考え、判断し、またつくり直していく姿勢そのものが、デザインエンジニアリングの重要な部分なのではないかということでした。AIによって、わからないことや苦手なことも補いながらものづくりができるようになった今だからこそ、出てきたものをそのまま受け取るのではなく、自分で触り、自分の言葉で説明し、自分で判断することが、より重要になっていきます。AI時代のデザインエンジニアリングとは、単に「デザインもエンジニアリングもできる人」を指すだけではないのかもしれません。

異なる領域を行き来しながら、自ら問い、つくり、触り、判断し、またつくり直していくこと。

誰もが簡単につくれるようになる時代に、自分はなぜつくるのか。

今回のイベントは、「人がつくること」の意味をあらためて考える場となりました。

 

イベント登壇者

Fabrica.
岡田 敦子

広告制作プロダクションにて、デザイナー、エンジニア、プロダクションマネージャーを経てプロデューサーに。2021年、Creative Execution Collective「Fabrica.」を設立。広告・エンタメ・システムインテグレーション領域で、統合プロモーションや大規模システム開発、イベント、デジタルコンテンツ全般など幅広くプロデュースを手掛ける。近年は企業のDXコンサルティングにも従事。ACC、Spikes Asia、ADFEST、One Show、D&ADなど国内外の広告賞を多数受賞。また、BASSDRUMテクニカルプロデューサーとTechnical Director Association監査役を兼務。

Takram
緒方 壽人

デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスを領域横断するデザインエンジニア。東京大学工学部卒業。プロダクトからサービスまで多様なプロジェクトに携わる。主な実績として「HAKUTO」月面探査ローバー、2025大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」など。グッドデザイン賞審査員。著書に『コンヴィヴィアル・テクノロジー』。

イベント企画・運営・記事執筆

株式会社ロフトワーク
メリット キア

埼玉県出身。徳島県神山町にある神山まるごと高専1期生。音楽やアート、コミュニティー、教育、地域創生などをキーワードに活動。学生寮組織の立ち上げや学生マルシェの開催を行う。現在は神山まるごと高専Roomsにて学生寮マネジャーに就く。ロフトワークにてインターン中。