人文社会学、デザイン、芸術、メディアデザイン、建築など…材料基軸のプロジェクトデザインを多く手掛けるMTRLのメンバーは、多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。
本企画では、MTRLメンバーのこれからのマテリアルを考える上でオススメする書籍を紹介します。それぞれの選ぶ書籍を通してそれぞれのメンバーの考える「マテリアルとは何か?」に迫ります。
第3回目はMTRL TOKYOの若手ディレクター3人にフォーカスします。
若手ならではの視点で捉えるマテリアルとは何か?
人文社会学、デザイン、芸術、メディアデザイン、建築など…材料基軸のプロジェクトデザインを多く手掛けるMTRLのメンバーは、多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。
本企画では、MTRLメンバーのこれからのマテリアルを考える上でオススメする書籍を紹介します。それぞれの選ぶ書籍を通してそれぞれのメンバーの考える「マテリアルとは何か?」に迫ります。
第3回目はMTRL TOKYOの若手ディレクター3人にフォーカスします。
若手ならではの視点で捉えるマテリアルとは何か?
東京藝術大学大学院デザイン科空間設計橋本研究室卒。組織設計事務所関係のインテリアデザインファームに所属。インテリアデザイナーとして内装設計に留まらず、サインやアート監修や家具設計まで幅広く手掛ける。その後、インテリアの知見を活かして人々の生活空間に寄り添うデザイン活動に携わりたいという想いから、家具販売ECの商品企画開発へ転身。素材を活かしたカフェテーブルやスツールなど数々の商品の企画から設計、製造管理、サイト掲載まで一貫して従事。
そうした経験から、材料関連の製造現場を通して、デザインシンキングやデザイン経営の重要性に気付かされ、2022年ロフトワークへ。趣味は夫と一緒に建築、空間、スパ巡り。
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒。大学ではインスタレーションを表現手法にしたファッションデザインを学ぶ。卒業後、アパレルのコレクションブランドで企画生産管理、店舗運営に従事。その後、素材やものづくりの新たな可能性を探求するためロフトワーク/MTRLに入社。趣味は日光浴。
早稲田大学文化構想学部 文芸・ジャーナリズム論系修了。卒業後、映像制作会社にてアシスタントディレクターとしてTV番組や配信番組の制作に従事。2021年11月にロフトワークへ入社。
MTRLのクリエイティブディレクターとして、これまで企業の研究開発や新規事業創出の支援、学術機関の活動・発信支援、アイデアソンの設計・ファシリテーションなどのプロジェクトを担当。
趣味で小説をはじめとした様々な文芸表象についての創作・批評活動を行っている。
オススメ書籍①
書籍名:「コーネルの箱」
コメント :
ジョセフ・コーネルの不思議な世界観のボックスアート作品を素材にして、チャールズ・シミックが文化人の散文を引用したり、自身の詩を寄稿した一冊。ここでは、本の中身というよりも、私とジョセフ・コーネルとの出会うきっかけとこの本を購入するに至るまでのエピソード。
高校1年生の美術の授業でボックスアートを作る機会があって、その時に教科書に作品が載っていました。その時は作るの楽しいなーくらいで、作家名なども気にせずいたのですが、父の転勤でミラノで高校生活を過ごすことになり、転機が。
アートの授業で美術史をリサーチしていて、立体作品が好きだったのでシュルレアリズムに自然と惹かれ、調べていくうちにジョセフ・コーネルやマックス・エルンストといったアッサンブラージュ、コラージュの作品へ辿り着いたのでした。あぁ、あの時の作品だ、というのが思い出と一緒にフラッシュバック。となりのトトロの「あなたトトロっていうのね〜!」の有名なシーンよろしく、「あなた、ジョセフ・コーネルっていうのね!」と衝撃を受けました。いつか、彼の作品集が欲しいなと思いつつ、時が経ち今は夫となった人との建築行脚でせんだいメディアテークに寄ったらこの本が。速攻購入。
ジョセフ・コーネルが趣味で収集した断片的なものが、箱の中で小さな世界を形成していて、外の世界や広い宇宙への憧れや自分自身の存在に対する問いなどの哀愁を感じさせつつ強いメッセージ性を感じずにはいられない独特な世界観の作品達がとても繊細で美しく、引用される小説家や劇作家、著者の散文と一緒に、芸術家の世界観を目で楽しませてくれる一冊です。
(DIC川村記念美術館に収蔵作品があるので、ご興味持たれたら見に行ってみてください。)
オススメ書籍②
書籍名:「生とデザインーかたちの詩学」
コメント :
題名にデザインがついているので、妙に真面目な美大生っぽさ(?)や、やや敷居が高そうだわ、と思われるかもしれませんがオススメの書籍。プロセスや構成に惹かれがちなので、①とも似たところがあるのかなぁと思うのです。
こちらは言葉の持つ意味や力からそれらを越えて多次元的(宇宙的に)にコンクリートポエトリーとして紙面に落とし込むことを例に、それらのプロセスがデザインの諸元的な在り方ではないか、ということを、著者向井周太郎氏の言葉で書かれています。
「デザインとは、本来そのポイエーシス(ギリシャ語のポエジー「詩」)というような意味での詩的営為である、あるいは、そうあってほしいと思うのです。科学者、詩人、デザイナーが一つであるような制作の世界でありたいと思うのです。デザインの教育や研究も、私はそのような意味での世界形成の創造的なプロセスであると考えています」
深澤直人氏の書評には、「デザインを掘り下げ、かたちの起源を探り、氏と同次元の地平に立った人々の詩に耳を傾ける。科学の実証のための実験が、あるいは観察と洞察の記録が遥かにアートの魅力を超えた輝きを放つことは珍しくない。この書は訴えではない。1つの筋ではなく星の瞬きのような多次元への思考の分散と集中である。」と語られており、昨今より複雑で目まぐるしく変化する生活の中で、ふと立ち止まってものの意味や形、あるいは文化など起源を振り返り意味を問う行為と、それらを真っ直ぐに見つめて、ものやかたちを創造することへ昇華していくことがデザインないし、人が生きていく中で価値ある創造的な行為である、と気が付かされます。
大学院生の時、修了制作で人の行為と日本の独特な曖昧さを持つ空間感を現すようなプロダクトを考えていた時に、読み込んでいました。たまたま、単位にならない建築学科の授業の、空間構成とはなんぞやというレポート提出する時期に読んでいて、コンクリートポエトリーの表現、紙面の余白と文字の対比的な構成も空間的な構成と言えるのではないか、という飛んだベクトルを攻めた内容をレポートにぶつけたエピソードを持つ、一生大切にするであろう思い出深い本です。(カバーは水かぶってヨレヨレ。中身はハイライトとポストイットだらけ。)
なんでデザインが好きなんだろう?なんでこのかたちが良いと思うんだろう?と疑問を抱いた人には、ぜひ読んでみて欲しい一冊です。
オススメ書籍①
書籍名:「進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密」
コメント :
こちらの書籍はMTRLの社内勉強会で講義をしていただいた、「世界史を変えた新素材」などの著書で知られるサイエンスライターの佐藤健太郎さんにオススメしていただいた書籍です。
この書籍では、ホモ・サピエンスがなぜ他の生物が辿った進化の過程を超えて、現在の様に進化し文明を築けたのかという事を「文化の進化」にフォーカスして述べています。
文化を進化させる上で「火」「言葉」「美」「時間」の四つの要素が重要であったと本書では説いています。
「なぜ人は美しいと感じるのだろう」という漠然とした疑問が美大出の自分にとってはよく考えていた事であったのでこの書籍の「美」の項目は興味深いものでした。
書籍の中では様々な歴史の事例がでてきますが、個人的には、絹糸に対して人間が抱く「美」の欲求から、通商を発展させシルクロードを築きあげ文明が栄えていったというのが一番分かりやすかったなと思いました。
普段何気なく感じている「美しい」という気持ちが、今の社会や暮らしなど様々ものの根底にあるのかなと思うとロマンを感じずにはいられませんでした。
ロフトワークの中でもMTRLはものづくりの世界と密接に関わる部署なので、プロジェクトではアウトプットするものも「美しい」と思うものをアウトプットできたらいいなと思ってます!
オススメ書籍②
書籍名:「デザイン・アートの基礎課程」
コメント :
名門セントラル•セント•マーチンズのファンデーションコースで実施されている発想法や自らのオリジナリティを探す方法、リサーチ方法などが紹介されています。
この本を初めて読んだ時に、学生時代に自分の独自性とはなんだろうと思い悩んでいた頃の自分に教えてあげたいなと思ったほど、内省して独自の強みはなんなのかを見つけ出すヒントになりそうな本だったのでお勧めします。
独自性を探すというのは、個人だけの話には留まらず組織や製品にも通づる話だと思うので、アートやデザインに馴染みのない方にも読んでもらいたい一冊です。
オススメ書籍①
書籍名:「息吹」
コメント :
テッド・チャンという小説家はSF作家ではあるものの、サイエンスフィクションではなく、スペキュラティブフィクションの作家であると思います。
同作家の『あなたの人生の物語』も同様ですが、「SF」と言うワードから想起されるような、我々の生きる世界の未来についての物語だけではなく、パラレルな世界や人間の「あり方」や「ありえ方」を精緻な論理で描いています。我々はこれを読むことで普段は接することのないロジックや視座を我々の生きる世界に持ち帰ることができるのです。
小説、とりわけSF小説における読書体験は、その没入性が持つ力を存分に発揮して、日常や実世界に対する魅力的な解釈を与えてくれます。こうした作家は彼だけではないですが、彼はその道の最も優れている作家の一人であることは間違いないと思います。
『息吹』『あなたの人生の物語』のどちらも短編集で、読みやすいと思うのでぜひ読んで見てください。
オススメ書籍②
書籍名:「季節の記憶」
コメント :
小説に限らず、物語には往々にして劇的な場面が求められます。何らかを喪失した登場人物は、ある時はもがき苦しみ、ある時は助けられながら、周りの人々と言葉や感情を交換していく中で、何らかを取り戻したり、あるいは、別の形の充足を得て、成長する。この中のカタルシスだったり、これによるカタストロフィーだったりが物語の価値を左右するように思われます。
確かにそのような物語は面白いですが、これは物語の価値について考える際の必要条件なのでしょうか。これを認めてしまったら、我々の日常が面白くないことを認めてしまう気がしてなりません。何もせず、何も生まない戯れを無価値と一蹴するのならそれまでですが、冗長の中にも価値は少なからずあるはずだと信じたいですよね。
この小説はそんな我々を勇気づけてくれる一冊です。凪のような日常が淡々と流れ、土地や人間、それらの関係が紡がれていくだけで、きちんと物語になっています。アルカイックスマイルみたいな小説です。
オススメ書籍③
書籍名:「日本近代文学の起源」
コメント :
出自がデザインの畑ではないので、大学でやってきたことの一部を紹介できるような本を最後に紹介します。
柄谷行人『日本近代文学の起源』文学徒の必読書です。必読書や入門書と言われるものは、「それさえ読めば良い」ではないところが罠ですが、良書であることには違いありません。
批評行為とは、その対象となる営みの「編纂」や「価値の再生産」的な活動だと思います。意味づけや価値づけであると捉えるならば、意味のイノベーションにも密接に関わる行為とも考えられます。「面白い」「つまらない」といった直感を構造的に分解することは、自分自身を読み解く行為と言えるかもしれません。根底にある哲学や芸術史を覗いてみると、物事の解像度がグッとあがるかもしれません。
この本はそうした批評行為の(痛快な)実践の一つです。
批評とはデザイン的であり、ともすればデザインこそ批評的行為だなと思いつつ、批評行為の持つクリエイティブ的価値についてはまた別の機会にお伝えできると良いなと思っています。