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【短期連載】MTRLメンバーが選ぶオススメ書籍紹介vol.2(京都、名古屋メンバー編)

【短期連載】MTRLメンバーが選ぶオススメ書籍紹介vol.2

人文社会学、デザイン、芸術、メディアデザイン、建築など…材料基軸のプロジェクトデザインを多く手掛けるMTRLのメンバーは、多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。
本企画では、MTRLメンバーのこれからのマテリアルを考える上でオススメする書籍を紹介します。それぞれの選ぶ書籍を通してそれぞれのメンバーの考える「マテリアルとは何か?」に迫ります。

第2回目は京都、名古屋を拠点に活動するMTRLの2人のメンバー。
各自がそれぞれ独自の強みを持ち、様々なプロジェクトを推進している。
各々が考える「マテリアル」とは何か?

vol.2登場メンバー

株式会社ロフトワーク / MTRLプロデューサー、旅人
田根 佐和子

大手PC周辺機器メーカーで営業部門、広告部門を担当した後、2006年、ロフトワークに入社。クリエイターとのチームメイキングに定評があり、ソーシャルゲームなどのコンテンツ・ディレクション分野で活躍。2011年に京都オフィスの立ち上げメンバーとして京都移籍。現在は素材の新たな可能性を探る事業「MTRL」のプロデューサーとして、企業や職人、研究者を繋ぐ活動をしている。特技は”興味の湧かないものはない”こと。職人/技術者/研究者への人一倍のリスペクトと個人的な好奇心から、プライベートでも日本中を駆け巡って会いに行ってしまう。趣味はスキーとダイビングという、ロフトワークでは数少ないアウトドア派。

https://loftwork.com/jp/people/sawako_tane

FabCafe Nagoya, コミュニティマネージャー
斎藤 健太郎

名古屋生まれ名古屋育ち。岐阜大学大学院工学研究科電気電子工学専攻修了。ダンサーと写真家を両親に持ち幼少の頃より何かを使って表現すること、面白いと思わせることが当たり前の環境で猫とともに育つ。

名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。学生時代は「テクノロジーは表現の幅を無限に広げてくれる」と考え工学の道に進み科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、システム設計、UXデザインや舞台設計、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見と遊び心で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりが得意。コンセプト立案から現場オペレーションまで幅広くこなすマルチプレイヤーで、インドカレーと猫が好き。

好きな言葉はアンラーニングで、最近NPO法人東山動物園くらぶの理事になった。

MTRL プロデューサー・コミュニケーター 田根 佐和子


オススメ書籍①

書籍名:「ちいさなちいさな王様」

コメント :
ドイツで有名な小説とのことで既読の人も多いかも。
ある日、自宅に現れた人差し指サイズの王様と対話をしながら普段から当たり前と思ってる事が「あれ? なんでそれが当然だと思ってたんだっけ?」と静かに溶解していくカタルシスが楽しい小説。よくこんな物語書けるな。ハッケは天才すぎる。
また、ゾーヴァの絵がまた素晴らしすぎる。

「おまえのところについて、ちょっと話してくれるかね?」

頭の中に小さな王様を飼っておくと、いつでも一歩立ち止まって考えることができる。そういうバイブルみたいな本。

オススメ書籍②
書籍名:「岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。」

コメント :
2015年7月、夭逝した任天堂の社長、故・岩田聡のインタビュー録。幼少時ゲームにハマり、長ずるに従っていったん離脱して、社会人になってからまたゲームに戻ってきたごく普通の日本人として「ゲーム界の良心」として生前からずっとウォッチしていた人(なのでよく知ってるが、この本は岩田語録としてはダイジェストでしかない。全集出してくれたら買うんだが)。

亡くなったときは悲しかったなあ。
告別式は祇園祭の巡行の日で、恐ろしい豪雨だった記憶がある。涙雨にもほどがある。

相手を思って発する言葉の柔らかさと温かさとつよさ。天才プログラマーとしても有名な方だが対人コミュニケーションや組織の風土作りにおいても間違いなく天才だったと思われる。
ずっと尊敬し続けてる。

” On my business card, I am a corporate president. In my mind, I am a game developer. But in my heart. I am a gamer ”

人を楽しませるということはどういうことなのかをずっと模索し続けていた岩田さん。
私はクリエイターではないけど、岩田さんが亡くなった年からずっと、ヨッシーの精霊馬を作り続けてるくらい、尊敬する人の記録。

 MTRL・FabCafe Nagoya  斎藤 健太郎


オススメ書籍①

書籍名:「ダンジョン飯」

コメント :
私達は日々、どこかで何かに加工された食材を調理した/されたものを口にしている。加工される前の状態を現地で見て、触れて、ときに自身で屠殺するような経験をしている人はどれだけいるだろうか。私は学生時代に食肉センターに屠殺の見学に行くといい経験になると先生に言われたことがあったが、勇気が出ずに足を運べていない。それでも毎日食事をし、様々な生物や植物から頂いた食材を身体に取り込んでいる。

本書は剣と魔法の世界で繰り広げられる、モンスターの潜む迷宮内でのメシのお話である。この世界でも家畜がおり、モンスターは人に敵意を持って攻撃してくる存在として描かれている。が、主人公はそうしたモンスターを食べたいとずっと思い続けている悪食な存在であり、身を守るために戦うのではなく、倒して食べるために戦う。いかにして食べるか、という偏愛に満ちた視点で描かれる物語は、なんとなく気持ち悪いから食わず嫌いしていたアレや、アフリカではよく食べられているソレなど、色々なものが私も食えるかもしれない……という気持ちを沸き立たせてくる。

食材とは可食性のマテリアルと言い換えられ、これらのマテリアルは人の生活と近いところにあるからこそ様々な感情と結びついている。こうした情緒が描かれる余白を持ったマテリアルは徐々に広がっているように思える。これからの時代、マテリアルは無機質なものではなく個人的な趣味趣向を元にした目線によって価値付けされてくるかもしれない。あなたの手にあるマテリアルはどんな調理をされ、誰が好み、誰が食わず嫌いをしているだろうか。

オススメ書籍②
書籍名:「ファンカルチャーのデザイン」

コメント :
私はファンカルチャーにどっぷりな人生を送ってきた。ニコニコ動画で投稿される無駄に洗練された無駄のない無駄な技術というタグに代表されるようなものが大好きである。本書はそういった、ごく私的な楽しみの視点から生まれる様々な熱量が、参与観察を行っている著者の視点から俯瞰的に分析され描かれる。

中でも5章ではコスプレを趣味とする女子大生の(学生らしい下心ある)熱意によって展開される、3Dプリンタを使って安価に理想の衣装を作り出したい願望と、3Dプリンタが使える研究室の先輩、オタク趣味をただただ語りたい友人が互いに与え合うことで生まれる時間が描かれている。”おもしろい”もしくは”豊かだ”と思う観点は三者三様であるが、その場に3Dプリンタがあり、オタク談義を聞いてくれる友人がおり、持て余している時間をなんとなく豊かに過ごせるなら、と各々の利益によって同じ時間を共有するさまは相利共生と片利共生が混ざり合う、まるで自然環境における営みであると思う。

あるひとつの素材を取り上げて、マテリアルに感情が付加され得る時代においてはどのようなファンカルチャーに取り巻かれているのかを想像するだけでも楽しくなるのである。

オススメ書籍③
書籍名:「Encyclopedia of Flowers -植物図鑑」

コメント :
本書は植物図鑑であり、世界一美しい植物写真集である(と思う)。フラワーアーティスト・東信と写真家・椎木俊介によって描き出される圧倒的なディテールはいつまでも、そして何度でも眺めたくなる。B5判サイズで512ページもあるため辞書のように重く、その重さに釣り合うほどに存在感のある植物の写真がページを捲るたびに現れる。もはや芸術作品の図録のようであるが、ミクロに見ればそれぞれは植物であり、流通しているものも多いだろう。末尾には学名・和名・写真による実用的な索引がついているのも嬉しいところだ。図鑑としてもしっかり機能する出来なのである。

本書を一度読めば通勤経路に存在している青山フラワーマーケットの存在感がグッと際立ってくることは間違いない。ぜひ一度、気になる植物を購入し、瑞々しく、しかしほんの一瞬で失われる美しさ、変性していく形と存在の意味を楽しんで欲しい。

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