人文社会学、デザイン、芸術、メディアデザイン、建築など…材料基軸のプロジェクトデザインを多く手掛けるMTRLのメンバーは、多種多様なバックボーンを持ったメンバーが集っています。
本企画では、MTRLメンバーのこれからのマテリアルを考える上でオススメする書籍を紹介します。それぞれの選ぶ書籍を通してそれぞれのメンバーの考える「マテリアルとは何か?」に迫ります。
第5回目は、MTRLの中でもデバイスやセンサー・アクチュエータを使用した、ものづくり関連のプロジェクトを担当することが多いディレクターに書籍を紹介してもらいました。
vol.5登場メンバー
株式会社ロフトワーク, MTRL クリエイティブディレクター / 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 リサーチャー
柳原 一也
大阪府出身。2018年ロフトワークに入社し、翌年からMTRLに所属。大阪の編集プロダクションで情報誌や大学案内などの制作を行った後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科へ入学。身体性メディアプロジェクトに所属し、修士課程修了後リサーチャーとしてHaptic Design Projectの運営に携わる。プライベートでは大学院時代の友人と「GADARA」名義で自然物とテクノロジーの調和をテーマに制作活動を行っている。
株式会社ロフトワーク, テクニカルディレクター
土田 直矢
大学卒業後、組み込みソフトウェアエンジニアとして次世代車載システムのスマートフォン連携機能、車載ソフトウェアプラットフォームの製品開発に従事。ロフトワークでは、技術的知見を用いたサービス・プロダクトの開発支援プロジェクトを担当し、様々なプロトタイプを制作。プロジェクトマネジメントだけではなく、自分で手を動かしながらアイデアを形にしていくことを大切にしている。社外活動としてCalm Technologyの思想を土台としたプロダクト開発チームを運営。「まずは試してみる」をモットーに日々ものづくりの楽しさを探求している。
MTRLクリエイティブディレクター 柳原一也
オススメ書籍①
書籍名:「ゼロからトースターを作ってみた結果」
コメント :
新品のトースターをECサイトで購入すれば、3000円あれば十分購入可能で翌日には届けてくれます。ですが、いざ素材からつくるとなるとどれくらいの費用と手間がかかるでしょうか?
本書は著者であるトーマス・トウェイツがそんな疑問に果敢に挑戦する様子が描かれています。既製品を分解しその仕組みや素材を調べるリバースエンジニアリングから始まり、作るために必要な素材があればその道の専門家にアドバイスを得て作り方を聞き実際に原材料を掘り起こしたりと探究心と実行力に関心します。
まわりもモノがどのようにできているのかやその価格がどう決まっているのかなどにも興味が広がると思います。
同じ作者の人間をお休みしてヤギになってみるという書籍もあるのでそちらもぜひ。
オススメ書籍②
書籍名:「DR.STONE(集英社)」コメント :
次はマテリアルの面白さが描かれているSF漫画を紹介します。
突如人類が石化され3700年が経ち様々なテクノロジーが失われた世界を舞台に、石化から目覚めた主人公・千空が持ち前の科学の知識を活かして仲間とともに人類を復興させるために様々な素材や機械を開発しながら石化の謎を解くために奮闘する物語。
物語内で時折描写される科学物質誕生のエピソードや科学物質が引き起こした実際の事故の話等が勉強になる他、話の展開にスピード感があることも手伝ってどんどん物語の世界観に引き込まれていきます。
「本格的な科学実験を行うためにガラス容器が必要だからガラスをつくる」、「仲間との通信手段としてトランシーバーを作成するために真空管を作成する」など目的のために何を作るかがシンプルに描かれていることも複雑になりそうな物語をシンプルに読み進められるポイントになっています。
また、目的の物質を完成させるまでにどんな物質や加工が必要かが描かれているフロー図が時折登場するのですが、登場の仕方に毎回唆られます。
この物語を描く上で原作者が影響を受けたという「この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた(河出書房新社)」もあわせてぜひ読んでみてください。
今年の4月からアニメの第三期が始まっているのでそちらもぜひ!
オススメ書籍③
書籍名:「陰翳礼讃」
コメント :
谷崎潤一郎は大学生のときに文学作品を読んでみようと思ってたまたま手にとった「痴人の愛」がものすごく面白くて何冊か読みました。
陰翳礼讃は日本人が持つ美意識を言語化した随筆として紹介されることが多いと思いますが、デザインやCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)の観点でも参考になる書籍です。
電気が通り海外から電灯や扇風機などの製品が導入され日本人の生活が大きく変わった昭和初期。生活は便利になるけれど日本家屋の雰囲気を台無しにしているのではないかという作者の問いを中心に日本らしさとは何かが綴られています。
谷崎自身の生活者として工夫していることや試してみたけどうまくいかなかったことなどが実践を通して語られていて、ただの批評になっておらず面白いです。とりわけ読み進める中で意外だったのが谷崎が新しいテクノロジーの導入に関して全く否定的な立場ではないこと。便利なテクノロジーをどうすれば日本人にとって馴染むように取り入れることができるかの視点が本質的で全く古くならないため読み返すたびに発見があります。
ものづくり系のプロジェクトではとくに参考にすることが多く、PanasonicのAug Labと実施した苔の環世界に着目したロボットやインタフェースを開発したプロジェクトの際にも振り返って読みました。
本書で例として出されるテクノロジーは扇風機や電灯といったプロダクトですが、AIやロボティクスに応用しても考えられるような普遍性があると思います。
MTRLテクニカルディレクター 土田直矢
オススメ書籍①
書籍名:カーム・テクノロジー 生活に溶け込む情報技術のデザイン
コメント :
エンジニア時代、便利なものを作りつづければ生活が豊かになるのか?と悩んでいたときに出会った一冊です。
私たちは日々、スマートフォンやパソコンの通知に注意をむけていますが、それは本当に必要な通知や音でしょうか?ユーザーの注意を常に奪うのではなく、必要な時にだけ最小限の注意を引くプロダクトを生み出すにはどうすればよいのか。「使いづらさ」あるいは「使いやすさ」さえも意識させることなく、人々の生活に当たり前のように溶け込むプロダクトやサービスをつくるためにはどうすればよいのか。その発想手法が得られる一冊です。
オススメ書籍②
書籍名:リーダブルコード ―より良いコードを書くためのシンプルで実践的なテクニック
コメント :
MTRLではプロトタイプ制作においてプログラミングをすることもあります。そんなときに参考にすることが多いのがリーダブルコード。エンジニアなら読んだことがある人も多いのではないでしょうか?
前職、新卒でエンジニアとして入社した際に、先輩から「とりあえずこれ読んで」と渡されたのがこの本でした。読んでもはじめはピンと来ませんでしたが、開発経験を積んでいくうちにだんだんと理解できるようになりました。
書いてある内容は正直プログラミングを行う上で当たり前のことしか書かれていません。しかし、その当たり前をできているのかと改めて見つめ直してみると、何かしらの理由をつけてできていなかったりします。
「チームメンバーだけじゃなく、未来の自分のためにも分かりやすいコードを書くように心がけような」
この本を読むたびに、そう教えてくれた先輩の言葉を思い出します。
オススメ書籍③
書籍名:りんごかもしれない
コメント :
他のメンバーが実用書や小説などを選んでいる中、お気に入りの絵本を一冊紹介します。対象年齢は4歳以上ですが、大人でも楽しめる絵本です。甥っ子の誕生日プレゼントに買ったのですが、自分も欲しくなってしまい、もう一冊買ってしまいました。
学校から帰ってきた少年がテーブルの上にりんごを見つけ「もしかしたらこれはりんごじゃないのかもしれない」と様々な妄想を膨らませるというお話なのですが、少年の自由な発想には感服します。
VUCA時代と言われ、将来の予測が困難になっている現代において、この絵本の少年のように答えのない問いに対し、自由に楽しく考えをめぐらせるスキルの必要性は増しています。
ヨシタケシンスケ氏の作品には共通して、問いに対して自由に発想する楽しさが描かれています。子供といっしょに読むことで大人とは違った視点に気がつけるかもしれません。お子さまがいる方はぜひ一緒に読んでみてください。