• Event Report

クリエイターが織物の現状を理解し可能性を模索する2日間 – YOSANO OPEN TEXTILE ツアー

異業種のクリエイターたちが与謝野町を訪れ、若手の織物職人とコラボレーションしながら、丹後ちりめんをはじめとする与謝野の「織り」の技術についてリサーチとプロトタイピング行う YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT

2016年1月14日-15日には、クリエイターが与謝野町へ向かい、若手織物職人さんの現場を訪問しながら、与謝野織物の現状理解とプロトタイプづくりのヒントを探ってきました。

参加したクリエイターは、プロダクトデザイナーの吉行良平さん・デザインリサーチャーの浅野翔さん・ファブディレクターの高松一理さんの3人。このツアーでクリエイターが感じたことと合わせてレポートをご覧ください。

与謝野町役場でご挨拶&織物についての事前情報共有

1月14日朝、与謝野町へ到着するとキリッと冷たい空気がお出迎え。クリエイターである浅野さん、吉行さん、高松さん、そしてプロジェクトスタッフと共にまずは与謝野町役場へ訪問し、山添町長と今回のプロジェクトに対する意気込みを共有しました。

その後商工観光課の松本さん・徳澤さんと共に、丹後ちりめんが出来上がるまでの工程を映像資料で見せていただきつつ、生機、白生地、色無地などの生地サンプルを触りながらディスカッション。

与謝野町を代表する「丹後ちりめん」の制作工程は、大きく10。生糸の状態から糸を繰り、整経、撚糸、製織、精錬、乾燥、幅出し、検査、出荷、と1つの生地を織るために非常に細かい工程を経て作られていきます。この工程は与謝野町全体で分業され、江戸時代から絹織物の産地として栄えた文化が今もなお色濃く残っています。

※丹後ちりめんについては、詳しくは丹後織物工業組合Webをご参照ください。

織物職人さんの機場を訪問

《株式会社ワタマサ:渡邉正輝さん》

ここからディレクターの水野大二郎さんが合流します。

最初に訪れたのは、大正7年から丹後ちりめんの製造販売を行う株式会社ワタマサさん。専務の渡邉正輝さんにアテンドいただきながら、糸を干し、繰り、撚糸していく様子を見学し、自動織機の音が鳴り響く現場を見ながら各工程を念入りに見ていきます。

渡邉さんの機場は、整然とした広いスペースを活かし、大きな織機を使いながらダイナミックに製織されているのが印象的でした。

渡邉さんが、最後にみせてくれた大量の図案等のストック、試しなどのピース。
その先の展開を常に探っているが印象的でした。(吉行)

《羽賀織物:羽賀信彦さん》

次に訪れたのは、和装着尺や染め帯地などに使われる紋入りの白生地を得意とされる羽賀織物さん。京もの認定工芸士である羽賀信彦さんは、ちりめん街道の伝統的な家屋で、11台の小幅織機を導入されています。

気になったのは、様々な道具やパーツ類。横糸を織り込むための杼(シャトル)や、手彫りで作られた紋紙、織機の要となるパーツなど、それぞれが重要な役割を持っており、織工程ならではのユニークさを持っています。


羽賀さんはエンジニアリング的なこともされていて、パーツ取りのために分解された織機が置いてあったのが印象的でした。(高松)


その道具などを製造販売する業者がなくなっていたり、道具が高騰している話が記憶に残っています。(浅野)


とにかく、羽賀さんが笑顔でその空気が工場にもながれていました。この仕事を本当に好きなのだろうと感じ、素直な姿勢されていることに、刺激をうけました。(浅野)


僕から見るとすごいと思うことを当たり前にやってる姿が印象的でした。(吉行)


すり減ったシャトルを受けるパーツを見せていただいたのですが、一日に何万回と繰り返す杼(ひ)の動きがこんなに硬い樹脂も削ってしまうのだなと驚きました。(高松)

《今井整経所:今井信一さん》
次に訪れたのは、与謝野町でも数少ない整経(経糸に必要な本数・長さ・張力を揃える)を営まれる今井整経所さん。

巨大な整経機が2台鎮座し、祭壇のように配置された先染めの黒糸が巻き上げられていく様はなんとも神秘的。一本一本の糸を緻密に整経していく技術があってこそ、与謝野町の優れた生地が生み出されているのだな、と改めて実感しました。


ひとつのミスも許されない作業の繊細さと、それを続けられる職人さんの熟練度がとても印象的でした。(高松)


かつては後染めの白い糸をセットしていたのに、今は時代の流れで先染めした糸を使っているのはなんでだろうと、疑問に思いました。(浅野)

また全工程でよく見かける、ドーナツ型のおもり「静和(しずわ)」。織物産業に使用されるアイテムは美しいものが多く、ひとつのプロダクトとして完成された魅力があります。


素材自体を手で触れ均一に整えるという丁寧な作業がある事が驚きでした。美しい基本、軸が作られている事で多くの柄もうまれたのではないかと感じました。(吉行)


“しずわ”のような使い込まれた、洗練された造形の道具がひとつひとつ可愛らしさを感じました。(浅野)

《高美機業場:高岡徹さん》
最後に訪れたのは、和装用白生地や風呂敷を作る高美機業場。後継者である高岡徹さんの現場ではなんといっても、水を使って強く糸を撚っていく八丁撚糸機が圧巻。


奥へ奥へとすすみながら、みさせてもらった機械が力強く、きっと大切に使われてきたであろう作業場、建物自体の存在感とつながるものがありました。(吉行)


ちりめんに使用する糸は、通常糸にかけられる撚りのT/mをかなり上回るため、水を使って行うのだと聞きました。(高松)

こちらで着目したのはセリシンという白濁した蛋白質。繊維のコアであるフィブロインを包むセリシンは、付着したままだとゴワゴワな織物になるため、工程上取り除かれ廃液となるのが通常です。このセリシンを持ち帰り、色々と実験してみようという話になりました。


ゴミやB品の厳しさなど、とても貴重にとり扱われているのだと理解しました。その一方で、もっと使える可能性があるものを切り離しているのかなと思うことも。(浅野)

《今井織物株式会社:今井裕二さん》
二日目、最初に訪れたのは絹織物工場を改修した丹後ちりめん歴史館。丹後ちりめんの歴史を俯瞰して説明いただいたのは、今井織物株式会社の今井裕二さんです。

町内でも数少ない与謝野織物の小売を行われている場所。今井さんの説明を受けながら、丹後の歴史を学びつつ理解をさらに深めていきます。色とりどりのハンカチやスカーフ、シルクパウダーやスキンクリームなど、現在の織の技術を活かしたあらゆる商品が並んでいるのが印象的でした。


ポリエステルちりめんと100%絹のちりめんを触り比べて、あらためて絹の柔らかさに驚きました。(高松)


軽やかに、説明してもらいましたが、実際の商材をとおして、いろんな角度から技術や素材をみている今井さんの話がおもしろいです。(吉行)

《堀井織物工場:堀井健司さん》
続いて、堀井織物工場:堀井健司さんの機場を見学。ちょうど丹後織物工業組合の回収車へ回収要望を知らせる赤いフラッグが出ていました。

堀井さんのもとでも、織工程を反芻しながらプロトタイプづくりに活かせるヒントが無いかを模索します。例えばゴミ箱に収められた素麺のように美しい糸くずの使い道を聞いたり、織機の各動作がどういうフィードバックを得て製品に反映されるのか、などを丁寧にヒアリングしていきます。


点在する細かな道具ひとつひとつに役割があり、どれも大切にしている様子が堀井さんの人柄とつながりました。工場のひとつひとつの表情が絵になるような羨ましい雰囲気でした。(吉行)

《由里機業場:由里直樹さん》
最後に訪れたのは、由里機業場。由里直樹さんは、広幅のジャガード織り機を使い、主に先染シルクのネクタイ地の製造を行っておられる職人さん。織の名手といった感じで、このツアーの中では初めて洋装をメインに扱われていました。

織物をつくるには「組織と撚り」。織物をひとつの構造体として捉えられている姿が印象的でした。うろこのように織ったり、わざとスカスカにして透けるように織ったり、立体的な襞を作るためにあえて縮む素材を織ったり、豊富な知識を利用してテクニカルな挑戦を続けておられました。


織り方ひとつで立体構造を作れたり、4倍幅の布が折れたり、というお話を伺いました。織りの可能性を追求されている姿勢が伝わってきました。(高松)


実験をくりかえして、素材や技術から意匠をうんでいる事、またそれを市場にだしての確認作業ふくめ非常に興味深かったです。(吉行)

ツアーで得たことを振り返る

役場へ向かい、可能性を感じた点や気になった点を付箋にひたすら書き出し、脳内にあるアイデアの種を見える化していきます。

書き出せたら、その付箋を壁に張りながら各クリエイターごとにプレゼンテーションを行います。その後、面白いと思った付箋に対して赤シールを使って投票しながら、分類していきます。真剣に議論しつつ、時には突拍子もない発言に笑ったりしながら、アイデアの種をブラッシュアップしていきます。

正直「こんな細かいところまで見ていたのか」と思うくらい、クリエイター達の洞察力にびっくりしました。「偶然に起こる現象やエラー、バグを価値として捉えられないか」「不要だったり、役に立たないと思われるものの価値を再定義できないか」「表面上ではなく、織の組織や構造、成分や要素の源流に対してアプローチできないか」など、柔軟かつ斬新な意見が続出。

また、吉行さんが持ってきたブシュニハと呼ばれるモロッコの爪楊枝。イメージを伝えるために使用する「プロトタイプ(ある意味)」は、こういう形もありなんだな、ということを思い知らされました。

「このプロジェクトは常につくり続け、成功と失敗を繰り返していくことで最終アウトプットの品質を高めていくぞ!」というディレクターの水野さんの熱いメッセージで、与謝野でのツアーの振り返りは終了しました。

次の活動に向けて

1/14の夜には若手織物職人さんたちとクリエイターチームで交流を深めました。乾杯!

もちろんただの飲み会ではなく、職人とクリエイターのコミュニケーションを深め、腹を割って話せる間柄づくりを行うことも目的です。

職人さんたちが持ってきてくれた商品を見ながら、昼間には話せない濃い内容を共有しあい、熱く語りながら夜は更けていきました。

ツアーの模様は以上です。3月末の成果発表に向けて、若手職人×クリエイターのチームでどんなアイデアが生まれるのか、非常にワクワクします。

次回はこのツアーのインプットをもとに MTRL KYOTOにて 若手職人×クリエイター×一般サポーターによって繰り広げられたアイデアソンのレポートをお送りします。

どうぞお楽しみに!

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