• Project Report

小説を執筆し、SF的思考を体得する4日間 SFプロトタイピングワークショップ

 

Outline

「SF(サイエンスフィクション)」が持つ想像力を起点に、未来の社会・生活者のイメージを描き、ビジネスの新たなビジョンやアイデアを導く「SFプロトタイピング」。不確実な時代において、物語の力を活かし、未来の価値創造のヒントや先端技術の活かし方を探る手法として注目されています。

クラウド・AI・セキュリティなどの先端デジタル技術を活用し、ヘルスケア・働き方・都市開発などの領域でソリューションやサービスを提供する、NECソリューションイノベータ株式会社も、同手法に着目しました。

NECソリューションイノベータは「2030ビジョン」を掲げ、技術・開発力の向上や知見の拡大、まだ見ぬサービス・新しい価値創造を通じて、「高い技術力とイノベータの目線で社会価値を創造するソフトウェア&サービス・カンパニー」となることを目指しています。このビジョンのもと、未来志向の強いサービスアイデアを生み出すために、デザイン思考を中心にさまざまな手法を用いたワークショップを行っています。

本プロジェクトでは、同社のなかでも中長期的な価値創出を目指す研究開発部門のイノベーション推進本部のマネージャー層が中心となり、未来をより鮮明に描写する「SFプロトタイピング」の手法を活かしたワークショップに挑戦。ロフトワークは、ワークショップの企画・運営を支援しました。4日間のプログラムを通じて、「SFプロトタイピング」を通じた価値創造プロセスを導入することを目指しました。

執筆:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)

プロジェクト概要

プロジェクト期間:2022/08〜2022/10
クライアント:NECソリューションイノベータ株式会社

 

体制

  • プロジェクトマネージャー:飯島 拓郎
  • クリエイティブディレクター:柳原 一也
  • アシスタントディレクター:幕内 稜也
  • プロデューサー:中圓尾 岳大
  • プロジェクトサポート:伊藤 望(以上、株式会社ロフトワーク)
  • 協力クリエイター
    • 樋口恭介(SF作家/コンサルタント)
    • 青山 新(デザイナー/リサーチャー/SF作家)
    • 難波 優輝(美学者/SF作家)

Challenge

ビジネスシーンへの活用が期待される「SFプロトタイピング」とは

SFプロトタイピングは、インテル社の未来学者、ブライアン・デイビッド・ジョンソン氏によって提唱された概念です。もとよりITを中心としたビジネスに応用されてきた背景がありますが、近年の急激な技術の進歩や予測不能な時代性を踏まえ、現在ではさまざまな民間企業が未来洞察の手法として取り入れています。

未来のビジョンを描くプロセスは数多くありますが、本プロジェクトでは、SFプロトタイピングの特徴のなかでも、以下の5つに着目しました。

  • 物語起点の自由度の高いアイディエーションができる

「フィクションの物語」であるSFを起点とするSFプロトタイピングは、自由度が極めて高いことが特徴です。SFの想像力を活かし、「理想の未来」を描いたり、ときにはディストピアのイメージから発想を広げたりするなど、べき論や制約に縛られない、飛躍的なアイディエーションが可能です。

  • マクロからミクロまで、多様なスケールの社会変化を描写できる

SFの発想力と描写力を活かして、社会システムや暮らし方が大きく変化した遠い未来へと発想を飛ばすこともあれば、未来における生活者一人ひとりの価値観やライフスタイルといった、ミクロな変化に焦点を当てることもできます。マクロからミクロまで、多様なスケールの時代変化と自社技術を結びつけられるのです。

  • 「プロトタイプ」の作成を中心に、発散と収束を行う

「SFプロトタイピング」という名前の通り、参加者で協力しながらSF小説やプロダクトのアイデアスケッチといったプロトタイプを作成することも、大きな特徴と言えます。自由な発想による意見交換で広がったアイデアを収束させ、プロトタイプという「カタチ」にすることで、より具体的な議論へとつなげていくことができます。

  • SF作家とコラボレーションを行う

多くの場合、プロフェッショナルとして活躍しているSF作家とのコラボレーションを通じてワークを行います。作家と参加メンバーとの議論によって発想を広げ、物語のアウトラインを作成。その後、作家の手によって未来の自社技術やサービスに関連する小説をアウトプットします。

  • SF的思考力を育成する

SFプロトタイピングを活用したワークショップを繰り返し行うことで、未来を自由かつ鮮明に描く「SF的思考」が身につきます。サービス・プロダクト開発の担当者の未来志向を高め、既存の枠組みやロジックを超えて新たな発想を織り込めるなど、人材育成の面からも期待が高まっています。

4日間のプログラムで、SF的思考習得のきっかけをつかむ

本プロジェクトでは、研究開発部門で研修やワークショップの企画・設計を手がけるメンバーを対象に、SFプロトタイピングを実践・インプットする4日間のオンラインワークショップを実施しました。今後、SFプロトタイピングの手法を社内研修に活かすことを視野に入れ、SFプロトタイピングの従来の利点に加え、更なる挑戦として以下の3つのポイントを工夫しました。

  • ワークに参加する社員自身がSF小説の執筆に挑戦

一般的なSFプロトタイピングの手法では、SF作家が小説やそのプロットを執筆しますが、本プロジェクトでは、ワークに参加した社員自身が小説を執筆することに挑戦。社員のSFプロトタイピングに対する解像度や実感を高め、「自分たちのアプローチ」として今後も活用することを目指しました。

  • 複数のSF作家の視点を掛け合わせる

一般的に、SFプロトタイピングのワークショップでは1名のSF作家と連携して実施するケースが多いなか、本プロジェクトでは3名のSF作家とコラボレーション。ワークの設計支援や小説執筆のサポート、ファシリテーションを担当しました。一人の作家の手法のみに頼るのではなく、複数の作家の手法に触れながら、社員それぞれが自分に合ったスタイルを参考にできるよう設計しました。

  • 自社技術と紐付けた「バックキャスティング」を実施

プログラムの最終段階として、未来から遡って現在まで続く変化を段階的に描いていく「バックキャスティング*」をワーク内に設計。SFプロトタイピングで飛躍した発想と、既存の自社サービスとを関連付けながら、これから自社が主体的に起こしていく変化の過程を洞察しました。

*バックキャスティング:課題解決や目標達成を試みる際に、「ありたい未来」を先に考え、その未来を実現するまで道筋を逆算して描き、「今するべきこと」まで落とし込む手法。逆に、現状の分析から未来を予測する手法を「フォアキャスティング」という。

4日間のワークにおけるプログラム全体の流れ。導入から執筆、逆向(バックキャスティング)までを一気通貫で行った。

Approach

「書きたい」を引き出す設計で小説執筆をサポート

  • 一人ひとりの専門性と関心をモチベーションの軸に置き、執筆をサポート

本プロジェクトでは、参加した社員一人ひとりが自分ごととして「描きたい未来」を考え表現するために、SF小説を執筆しています。

しかし、ほとんどの社員にとって、SFプロトタイピングへの参加や小説の執筆は初めての経験。小説を執筆するには、「SF作家の発想力を学ぶ」という受け身の姿勢だけでなく、個人の感性や想像力を活かして物語を描き、それを言葉として表現する必要があります。これが、今回のワークショップにおいて非常にハードルの高い課題でした。

小説の執筆において、アイデアの源泉やモチベーションの核となるのが「自分がどんな小説を書きたいか」を明確にすることです。そこで、ワークの1日目に、SF作家が事前に執筆した物語のアウトラインを参照しながら、社員と作家陣が意見を交換するディスカッションを実施。個人の専門領域や課題意識にひきつけながら「描きたい未来」や「小説のテーマ」を定めました。

本ワークは全てオンラインホワイトボード「miro」を用いて実施。Day1のワークでは、SF作家が作成した小説のアウトラインをもとに、自身の興味関心や、浮かんできたアイデアを記載し、ディスカッションを行った。
  • 段階的なワーク設計と充分なフィードバックによって、「やり抜く」ための環境を提供

初めての小説執筆をサポートするために、SF作家が物語の基本構造のつくりかたをレクチャーしました。短いプロットから作成してみたり、5W1Hを整理するなど、段階的なワークによって、手を動かしながら小説の企画・構成方法をインストールしました。さらには、内容に関連した先端事例を共有するなど、小説のネタや前提知識を豊富に用意した上で、社員による執筆を後押ししました。

さらに、一人で作業するだけでなく、参加者同士の対話機会や、SF作家からフィードバックを受ける時間を充分に確保し、モチベーションを維持しました。結果として、多くの参加者が小説を完成させ、自身が目指したいSF的世界観を表現することができました。

小説執筆にあたり、作品の「アウトライン」や「5W1H」といった基本構造から整理するためのシートを用意。

複数の作家がプログラムにコミット、「対話」を重視してアイデアを深める

SFプロトタイピングは、まだまだ実験的な手法。それゆえ、具体的なアプローチは作家一人ひとりによって異なります。今回は、参加者自身が執筆を行うことを踏まえ、執筆のアプローチにバリエーションを持たせるために、3名の作家がワークショップの設計とファシリテーションに参画。作家同士の対話や共創を通じて、ワーク全体の体験品質の向上を図りました。

  • プログラムファシリテーションを務めた、3名のSF作家

今回コラボレーションした3名のSF作家は、作家としての実績に加え、SFプロトタイピングの豊富な経験を持つ方々です。

SF作家、ITコンサルタント
樋口恭介

SF作家、ITコンサルタント。単著『構造素子』(早川書房)で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞。外資系コンサルティング会社でシニアマネージャーとして勤務する傍ら、スタートアップ企業Anon Inc.のCSFO(Chief Sci-Fi Officer)を務め、数々のSFプロトタイピングのプロジェクトに関わる。2021年には、SFプロトタイピングをテーマにした単著『未来は予測するものではなく創造するものである』(筑摩書房)を刊行。第4回八重洲本大賞を受賞する。

デザイナー、リサーチャー、SF作家
青山 新

デザイナー/リサーチャー/ライター。「anon press」編集長。SFを中心とした、未来志向型のデザインを中心に、執筆や表現活動を行う。主な作品に、「オルガンのこと」(『異常論文』所収、早川書房)、「ココ・イン・ザ・ルーム」(日本科学未来館「セカイは微生物に満ちている」にて展示)など。樋口恭介氏とともに運営する「anon press」では、SF小説や未来に関するリサーチ、論考、座談会等のテキストを発信している。

美学者、批評家、SF研究者
難波 優輝

美学者、批評家、SF研究者。分析美学、ポピュラーカルチャーの哲学、SFスタディーズを専門としており、主に哲学の観点から日立製作所などのSFプロトタイピングのプロジェクトに関わる。近著に『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』(共編著、早川書房)、『ポルノグラフィの何がわるいのか』(修士論文)。「メタバースは「いき」か?」(『現代思想』)など。

  • 「自分の小説」を起点に作家との「対話」を行い、アイデアを深める

また、SF作家一人ひとりが各チームにファシリテーターとして参加していることも大きな特徴です。本プログラムでは、執筆する小説の品質を高めること以上に、SF作家と社員間で濃度の高いコミュニケーションを促すことで、未来への発想を広げ、視点を深めるための「対話」が行われることを重視しました。
なかでも、社員にとっては「自分の執筆した小説」を起点に、作家によるフィードバックや対話が行われることで、自分が表現したい世界観や考え方をいっそう探究することができ、限られた時間の中でもSF的思考を深めることができました。

「バックキャスティング」で、具体的なアイデアやロードマップに落とし込む

プログラムの最終日には、作成したSF小説をもとに「バックキャスティング」を実施。SF小説で描いた未来像から現在まで、段階的に時間を巻き戻し、長期的な時間軸の中で「どのような出来事が、どのような変化をもたらしうるか」「そのために今できることは何か」を考えるワークを実施しました。

バックキャスティングにおけるマイルストーンの描き方について、SF作家らが丁寧に解説。自社技術や既存の事業領域の視点に限らず、社会通念やカルチャーから個人の価値観まで、自由な視点での議論が行われました。

最終的なアウトプットとして、現在から未来までの段階的な変化を描いた1枚のロードマップを作成。さらには、直近の事業で新たに設定すべきターゲットや、中長期的に目指すべきゴールも定めています。

バックキャスティングワークのmiroボードの例。遠い未来から現在まで、段階的に技術や社会の変化、サービスアイデアなどを考案する(画像は、プロジェクト時の内容とは異なります)

Outcome

プロジェクト実施後には、NECソリューションイノベータ・SF作家・ロフトワークの三者で、プロジェクトの振り返りミーティングを行い、SFプロトタイピングのメリットや今後の活用可能性について議論しました。

NECソリューションイノベータ社内では、社内のメンバーとのアイディエーションワークにおける選択肢の一つとして、今回のSF思考ワークショップを応用したアイデアがいくつか見出されています。例えば、社内のマーケティング担当者やデザイナーなど、多様な人材を巻き込んで同ワークを実践することで、ビジネスとのつながりを生み出しやすくすること。さらに、社内でワークショップを繰り返し行うことで、将来的にSF的思考が組織全体に広がり、未来志向でレジリエンスの高い組織文化が醸成されることも期待されます。

また、「SFプロトタイピング」自体のブラッシュアップについても議論。小説をつくるだけでなく、映像やプロダクトのモックといった複数のアウトプットによる多角的な「プロトタイプ」を行うことで、社員の実感値を高め、ビジョンデザインやサービスデザインへの応用性を拡張するアイデアや、SFプロタイピングをよりライトに体験するパッケージなどが提案されました。

SFプロトタイピングは活用されてまだ間もない手法であり、より良いアプローチへの探索の姿勢は、立場を超えて三者が共に抱いています。今後も、更なる検証を行うことで、SFの力を借りて事業の未来を考えるアプローチを実践していくことを目指します。

Member

株式会社ロフトワーク, クリエイティブディレクター
飯島 拓郎

中央大学法学部卒。地方行政における住民参加のあり方、住民が自ら実践する課題解決への行政のサポートの仕組みについて学ぶ。卒業後も、人が自らの生活をより良くするための手段として、選挙における投票以外の政治参加のあり方を研究している。ロフトワークでは、リサーチを通して課題を見極め、様々なクリエイターとコラボレーションで解決するスタイルを実践中。特に、WebプロジェクトではtoBからtoCまで幅広い領域を担当している。

株式会社ロフトワーク, MTRL クリエイティブディレクター / 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 リサーチャー
柳原 一也

大阪府出身。2018年ロフトワークに入社し、翌年からMTRLに所属。大阪の編集プロダクションで情報誌や大学案内などの制作を行った後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科へ入学。身体性メディアプロジェクトに所属し、修士課程修了後リサーチャーとしてHaptic Design Projectの運営に携わる。プライベートでは大学院時代の友人と「GADARA」名義で自然物とテクノロジーの調和をテーマに制作活動を行っている。

株式会社ロフトワーク, クリエイティブディレクター
幕内 稜也

神奈川県出身。東海大学大学院工学研究科建築土木工学専攻を卒業。
大学で建築意匠を学ぶ傍ら、長期インターンシップで新規事業部の立ち上げに関わり、大学院では学生寮のリノベーション設計に携わる。ユーザー視点での設計に取り組む中で、建築を物質としてだけでなく内部のコミュニティから設計したいという考えを持ち、2022年にロフトワークに入社。人の笑顔を見ることが好き。

株式会社ロフトワーク, プロデューサー
中圓尾 岳大

愛媛生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。比較政治学、ジャーナリズムを学ぶ。食品スタートアップの社員1号として創業期に参画し、商品企画から国内外の販路開拓、生産・在庫管理、PR、CS業務等を行う。事業の立ち上げを通じて、ビジネスにおけるデザインの重要性を実感。領域を横断してプロジェクトを生み出すロフトワークに魅力を感じ入社。週末は下界を離れ、キャンプや登山に出かけることが多い。

株式会社ロフトワーク, VUユニットリーダー
伊藤望

神戸大学経済学部卒。生活者とクライアントとクリエイターの間で、新たなサービスや事業を生み出す触媒になるべくロフトワークへ入社。新サービス/事業を生み出すための機会発見のためのリサーチや、リサーチに基づく新規事業開発、未来の生活者/社会の変化シナリオの策定、新たなコンセプトを生み出すためのフレームワーク開発、アイデアソンの設計の案件に携わる。人がアイデアを思いつく仕組みについて研究中。リサーチ結果やブレインストーミングで生まれたアイデアなど大量の情報を統合/編集していくのが得意。販促コンペ協賛企業賞、足立区東京2020大会記念協創提案型事業審査委員長など。本屋かサウナかTwitterのどこかにいます。

メンバーズボイス

“ロフトワークさんや作家さんたちのファシリテーションのおかげもあり、非常に盛り上がったワークショップになりました。弊社研究部門としても、今後の方向性を決めるにあたって得るものが多くありました。
今回の感動ポイントは、自らが持つイメージの“世界観”を構築できたところです。皆さんのサポートを得ながら小説を書き上げるという、普段は絶対にやらないであろう取り組みをしましたが、これがまた効果的で。未来の世界で生活している人々の想いや意図が明確になるだけでなく、矛盾点や不足点などにも気付き、ハッとすることが多かったです。
今回得られた知見を活かして、よりイノベーティブな技術を生み出す組織として成長していこうと考えています。”

NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部 森口 昌和さん

“フィクションをつくり、世界観を導出し、そこから各人の問題意識を抽出し、詳細検討したいスコープを定義したのち、バックキャスティングを行う過程でもう一度フィクションベースでガジェットについて考えるというプロセスをとったのは個人的にも初めての経験だったのですが、非常に効果的に感じました。フィクションは発散だけでなく収束=問題の結晶化にも使えるのだという事実は僕にとっても新しい発見であり、その一点だけをとってみても、たいへん刺激的なプロジェクトだったと言えます。
SFプロトタイピングは通常のプロジェクトマネジメントの方法論などとは異なり、PMBOKなどのような形でベストプラクティスが体系的にまとまっているわけではありません(慶応大の大澤博隆さんや宮本道人さんは方法論の研究もしていますが、まだまだ始まったばかりです)ので、このような実験的な試みは今後長い目で見たときに、歴史的にも貴重なものになってくるように思います。それ自体がプロトタイピングっていうか、純粋に、新しいことをやるのは楽しいしね。”

SF作家/ITコンサルタント 樋口 恭介さん

“アイデアの拡散から収束までを一貫して実施する濃密なワークショップで、価値あるものになったと思います。SFプロトタイピングにプロモーションや気分転換のような役割を期待されるケースが多くなった現在において、こうした本来のポテンシャルを問い直す試みは重要です。特にバックキャストのフェーズでは、それまでのSF作家が発想を補助する構図から、参加者が自分の専門を活かして主体的に未来へのアプローチを提案する構図に転換したように感じられ、コラボレーションの効果をわかりやすく感じられました。
SFプロトタイピングはいわば、各人が自分の欲望を自覚し、それを説得的/実効的なものとしてデザインしていく試みだと思います。近年では「SFプロトタイピング」という言葉に付随する顔ぶれが固定化しつつありますが、こうした取り組みを通じてもっと多くの人がプレイヤーになり、ありうる未来の多様性を高めていった先にこそ、その真価が発揮されることと期待しています。”

デザイナー/リサーチャー/SF作家 青山 新さん

“本プログラムを通して、とりわけバックキャスティングに魅力と意義を見出しました。飛躍させた未来のSF世界に向かって、現実世界のありうる変化を洞察していくバックキャスティングによって、フィクション制作時に発揮される創造的なモードと、ビジネスとしていかにワークするアイデアを作れるかが重要になる分析的なモード、その両者の発想力のいいとこどりを狙うような仕掛けだと感じます。
未来洞察の手法としてのSFプロトタイピングには様々な発展可能性がありますが、アウトプットをいかによりなめらかに事業計画やサービス企画に応用できるかが一つのイシューだと考えており、今回のプロジェクトは、そうしたSFプロトタイピングをいかに活用するのかという問いに対する、一つの意義ある「実験と回答」として捉えています。
本レポートのように実践が蓄積されていくことで、より一般的な未来デザイン技法としてSFプロトタイピングが発展していく未来を垣間見ました。”

美学者/SF研究者 難波 優輝

“様々な未来洞察の取り組みを実施してきたNECソリューションイノベータさんとのプロジェクトだからこそ、SFプロトタイピングの良さを最大限引き出すための設計を意識し、プロジェクト終結後も社内でこの手法が生かされることを目指しました。
今後社内で生かしていくには、同社の皆さんの中でSFプロトタイピングの価値が腹落ちすることが重要だと考えていたので、ワークショップの内容はもちろん、実施体制も工夫しています。3名のSF作家さんが各グループのファシリテーターを担当する形式を取ったことで、密度の高い対話を通して皆さんがSF思考を体感できたことが重要なポイントだったと感じています。ここで感じたSFプロトタイピングのエッセンスが、社内で少しずつでも広がってもらえれば嬉しいです。”

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 飯島 拓郎

“今回のワークショップでは、これまで行ってきた参加者自身に実際にSF小説を書いてもらうことも実践しつつ、SF作家さんに各チームのファシリテーターとして参加いただくことでしっかり対話してもらう時間を取ることが出来ました。
SFプロトタイピングは決して奇を衒うような話を考えることではなくて、物語の登場人物や設定を通してありえるかもしれない未来を描ききり、それを元に他者と対話することに真価があると思います。
「再利用可能なロケットで宇宙へ行く」「AIが文章から物語や絵・動画を生成する」など一昔前にはまるでSFで描かれていたようなことが次々と実現している現代だからこそ、SFの世界を前提に自由に未来を想像し対話する場をつくることは大切だと感じています。”

株式会社ロフトワーク MTRL クリエイティブディレクター 柳原 一也

プロジェクトに関心のある皆様へ

本プロジェクトに関心のある方、「SFプロトタイピング」に関心のある方はぜひお気軽にお問合せください。

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