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【レポート】持続可能な未来のデザインを実践的に学ぶサマースクール「School of Fashion Futures」

2022年8月から9月にかけてKYOTO Design Lab[D-lab]による、デジタルフード/アルゴリズミックデザイン/サーキュラーデザインなど、持続可能な未来のデザインを実践的に学ぶ5日間のサマースクール「School of Food Futures」が開催されました。

デジタルフード/アルゴリズミックデザイン/サーキュラーデザインを中心に、オフラインワークショップと、国内外で活躍するゲスト講師を迎えてのオンラインレクチャーという最先端のフードデザイン・プロダクトデザイン・サーキュラーデザインの潮流を学ぶスクールのレポートをお届けします。(text :石井誠 [Loftwork])


information
2022年12月10日(土)、本サマースクールをきっかけにした3Dプリントチョコレートの試食会イベントを実施します。予約不要ですので、ぜひお気軽にご来場ください。
詳細はこちら。 >>> チョコレート・フーチャーズ – 3Dプリントチョコレートの試食会

フード「デザイン」は一体何をデザインするのだろうか?

「School of Food Futures」スタートに先立って、サマースクール・ファシリテータの水野大二郎氏と緒方胤浩氏により、お二人の共著書『FOOD DESIGN フードデザイン:未来の食を探るデザインリサーチ』を参照しながら「フードデザイン」の概説についてのレクチャーが行われました。

書籍では食にまつわるテクノロジーやサービスの先進事例、文化形成を目的に据えた調査研究のプロセスを掲載。フードデザインの手法と役割を照らし出していく中で、不確実な問題に対する可能性を提案する「これからのフードデザイン」の考え方と実践方法が提示されており、サマースクールはこれらの研究を元に実施されました。

また、気候変動や人口増加、紛争問題に関連する食料輸出制限など、さまざまな課題が私たちの食環境において顕在化してきている中、フードテックと呼ばれる一連の技術開発や、昆虫食に象徴される持続可能な食品開発も注目を浴びており、あたらしい食のシステム、サービス、食品を生み出すために、これまでの食に関する知識や技術を身につけるだけでなく、人間・地球にとって望ましい食のあり方を問い直し、これまでになかった食文化をデザインすることが、今求められていると語られました。

オフラインワークショップ

KYOTO Design Lab[D-lab]を会場としたオフラインワークショップでは、受講者ごとにアイデア、テクニカルの両面で学生メンバーがサポート。チームで「Rhinoceros+Grasshopperを用いた新食感創出のためのアルゴリズミックデザイン」や「サーキュラーエコノミーにおけるデザイン」を学びつつ、「3Dプリントチョコレート」や「フード3Dプリンタによるさまざまな素材の出力」などを行い、挑戦的なプロトタイピングを実施していました。

【オフラインレクチャーの各日程ごとの概要】

  • 8/29(月) アイスブレイク、講義、フード3Dプリンタの演習、3Dモデリングの演習
  • 8/30(火) サーキュラーデザインの演習、フード3Dプリンタの演習、スペキュラティブデザインの演習
  • 8/31(水) 3Dデータ作成、フード3Dプリンタを用いたプロトタイピング制作
  • 9/1  (木) 3Dデータ作成、フード3Dプリンタを用いたプロトタイピング制作
  • 9/2  (金) 最終制作物の印刷、3Dプリントチョコレートの試食会

▲オフラインワークショップでは実際にフード3Dプリンタの操作方法や特性を学びながら、並行して制作物のアイデアを得るための「フードデザイン」にまつわる膨大な資料を参照し、「スペキュラティブデザイン」の手法を用いたプロトタイピングを実施していました。

▲デジタルでのモデリングは参加者の思い描く形になるように学生メンバーやD-labスタッフが手厚くサポート。
チョコレート出力をしていた3Dプリンターは市販品をカスタムしたもの。

▲「スペキュラティブデザイン」の手法を用いたプロトタイピングではさまざまな未来洞察を参照し、参加者ごとに「食」の観点から起こりうる未来を洞察、その未来に対してどのような食がありうるのかをそれぞれのバックグランドや普段の生活の中から見つけ出していました。

▲講義と並行して連日行われていたフード3Dプリンタのプロトタイピング。「サーキュラーデザイン」の観点を学んだことにより、粉末状の市販製品だけでなく、野菜や果物の皮や乾物などを加工して練り合わせていく参加者が多く見受けられました。

▲講義では異なる2タイプのフード3Dプリンタを使用。基本的な使い方のレクチャーの後のプロトタイピングでは目的の形状を作り出すために治具の作成や冷却方法など、たくさんの知見の詰まった「工夫」もレクチャーされていました。

▲目的の形状や構造を生み出すために「型」となるものをサポートを受けながらアナログ/デジタルで生み出していく参加者たち。

▲使用している素材や器具が「食」にまつわるものだけに、プロトタイピングの活気と熱量のある風景は人気レストランの調理場のようでした。

▲年々「サイズ」が縮小しているチョコレートに対して「構造」により食べた時の感覚を変えず、サイズも維持するためのアプローチなどユニークなプロトタイピングが実施されていました。

▲最終日はFabCafe Kyotoにて試食会とプレゼンの実施、それぞれの制作経緯なども聴きながら最終アウトプットについて、今後の展開や可能性も踏まえて語り合いました。

▲オフラインレクチャーはゲスト講師である若杉亮介氏(Byte Bites株式会社 CEO)[画像左端]、水野大二郎氏、津田和俊氏、井上智博氏[画像右端]、緒方胤浩氏 [画像中央] により進行された。画像は最終日のFabCafeKyotoでの発表会の様子。

オンラインレクチャー

オンラインレクチャーは、「フードデザイン」をより広い視点から捉えることを目的に、オフラインレクチャーの講師に加えて国内外で活躍するゲスト講師を迎え、トークやプレゼンテーションに加えて、質疑応答・交流の機会を設けつつ実施しました。

【オンラインレクチャーの各日程ごとの概要】

8/28(日) Introduction 緒方胤浩/水野大二郎
サマースクールの紹介/レクチャー登壇者の紹介/登壇者への事前質問受付コーナーの使い方紹介/フードデザインについての紹介/食とデザイン、デジタルファブリケーションの関係、今後の展望と課題

8/29(月) 3D Food Printing 若杉亮介
Byte Bites活動紹介/3Dフードプリンティングの現在地点/起業を通じてわかった社会からの要請/食のパーソナライゼーションとウェルビーイングの可能性

8/30(火) Entomophagy(昆虫食) 佐伯真二郎
昆虫は「ふつうの食材」とわかってきた/ラオスの豊かな昆虫食文化と栄養不良の裏表/SDGsの理念と実践を昆虫食から理解する/昆虫食は誰のために「デザイン」されるべきか?

8/31(水) Circular Design 町⽥紘太
食と静脈産業/「お菓子の家」を建てる/fabulaとしての活動紹介

9/1(木) Food and Ethics 津田和俊
YCAM食と倫理リサーチの取り組み紹介/食とバイオテクノロジーに関する事例紹介/食のサーキュラーデザインに関する萌芽的事例の紹介

9/2(金) Presentation オフラインワークショップ参加者/緒方胤浩/水野大二郎/津田和俊
最終制作物についてのプレゼンテーション/フード3Dプリンタを用いた実験で見えた可能性と課題/試食会の様子、実食レポート

オンラインの利点を活用し、海外在住の講師の登壇もあり、各分野の最先端の実践者たちからの視点を学ぶことができたレクチャーとなりました。改めて「食」が内包し、接続する分野の広さと今後の課題、そして可能性が多数可視化されました。本レポートでは、ゲスト講師レクチャー回のごく一部をご紹介します。(*以下の各テキストは、すべて筆者の視点により論点を要約したものです。)

若杉亮介
Byte Bites株式会社 CEO

トピック : 3Dフードプリンティングの現在地点
1. 起業を通じてわかった社会からの要請・・・フード3Dプリンタなどのファブリケーションを用いて社会課題の解決を探求してきた中で、フード3Dプリンタは食体験の共有を行うための「分散生産」が可能であったり、「食感の付与」といった需要が出てきている。

2. 食のパーソナライゼーション・・・データライズされていく社会における「食」のパーソナライゼーションやその需要は進むと思われる。飢えを凌ぐための「食」から自分らしさを表現するための「食」が存在してきている(例:ヴィーガン/ファスティングなど)

3. 食のウェルビーイングの可能性・・・食がもたらすものには「多様性」が背景にある、食を通して異なる価値観や感性に触れることが可能である。栄養素の効率的な補給だけではない可能性が存在する。

佐伯真二郎
おいしい昆虫生活®主宰
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長

トピック : 昆虫食は誰のために「デザイン」されるべきか?

1. 「ふつうの食材」としての昆虫の再発明・・・大人は「前例主義者」になりがち。子供時代に食べなかった昆虫に大人が抵抗を感じるのは普通だが、その直感で未来を想像すると若い世代、異なる文化とズレてしまう。ようやく昆虫の栄養分析も進み、EUでもふつうの食材として認可され、日本では昆虫好きな子供が「味も知りたい」と昆虫食を楽しむようになった。

2. ラオスの豊かな昆虫食文化と栄養不良・・・ラオスの農村部では日常的に野生食材が食べられ、そこに多様な昆虫も含まれる。彼らの生活に不足しがちな栄養素、油脂を多く含むゾウムシの養殖を普及させることで、土地の劣化などを抑えながら循環する農法を開発している。この農法を、長年続く子供の栄養不良の解決につなげるよう、保健行政、NGOと連携して実践している。

3. SDGsの理念と実践を昆虫食から理解する・・・日本では身近に感じやすいゴールに関心が行き、途上国は注目されていないが本来はあくまで途上国が主役である。先進国はどれか1つに取り組むだけでは義務を果たしたことにはならない。貧困撲滅を最大の課題とし、17のゴールを統合して考えられる専門家が必要で、小さく持続可能な問題解決の現場、つまり「途上国のためのデザイン」が未来につながる。

町⽥紘太
fabula株式会社 代表取締役CEO

トピック : 食と静脈産業
1. 食と産業の課題・・・食品廃棄物は、すべて肥料化できるものでもなく、約8割が無価値物として処理されている現状がある。「ゴミから感動をつくる(価値をつくる)」には消費者を想像した上での、ものづくりが必要不可欠である。

2. 「お菓子の家」を建てる・・・食品廃棄物を粉砕・圧縮して成形する素材は建設材料としての利用が可能な強度を持っている。さらに「見た目」、「香り」、「味」など感性的な面で従来の素材と異なる利用の可能性もある。

3. 食品廃棄物を素材としたプロダクトの展望・・fabulaは食品廃棄物を素材としたさまざまなプロダクトの製造をしている。器などのカトラリーから、家具程度の規模での制作は既に実施しており大型の建築物への使用も協業計画している段階にある。

津田 和俊

京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 講師
山口情報芸術センター[YCAM]主任研究員

トピック : 食と倫理
1. 食と倫理・・・「システムとしての食」をどうより良い状態にしていくか。特に環境への影響を評価して、いかに削減していくか。ポスト成長時代に向けて、「再生」「コモンズ」「ケア」などといった考え方をいかに食のシステムに取り入れていくか。アーティストとの共同制作、書籍、映画を通して、食と倫理について学ぶ。

2. 食とバイオテクノロジー・・・「アグリ・バイオ・キッチン」といった観点から食を考えるレクチャーシリーズの紹介。農家や研究者と連携して発酵微生物と地域の食について学ぶワークショップ、ゲノムが解読された生物だけを食材にして作った「ゲノム弁当」企画など、キッチンからはじめるバイオテクノロジーの可能性を模索。

3. 食のサーキュラーデザイン
・・・多様な植物を栽培して生態系をつくりながら作物を育てる「拡張生態系」、細胞培養による「代用肉」の取り組みなど、「食のサーキュラーデザイン」の萌芽的事例を紹介。

総括・まとめ

オフライン、オンライン共に「フードデザイン」という新しい分野において、まだ見ぬ広大な平原に何があるのかを多くの講師や参加者の視点から得ることができたレクチャーでした。

最終プレゼンでの講評の中でも講師より「サーキュラーデザインは単に廃棄食材の利活用や都市部だけの循環だけで成り立つものではないと思っていたが、改めて食は自然生態系から発生してくるということも踏まえて考えていくべき」というコメントもあり、さまざまな生態系の循環、アクターネットワークやマルチスピーシーズなどにも繋がっていく、今回のレクチャー全体の繋がりを改めて示すようなお話がありました。また、パーソナルファブリケーションのあり方についてもさまざまな洞察のあるレクチャーとなりました。

講義中も参加者から「フード3Dプリンタは食材の特性が造形に影響する、食材管理が大変」といった声があったり、運営チーム側でもプロトタイピングにて「出力中に食材の状態が変わっていく」、「予想以上に変数が多すぎる」といった難易度があることも分かりました。

しかし、チョコレートのような汎用性のあるものに限らない素材選定にも関わらず、最終的にはそれぞれのチームが目指す形状や食感が生み出されました。

これは単に受け身のレクチャーではなく、講師、参加者、学生サポートメンバーたちが数々のトライ&エラーに対して「チーム」として考え、話し合いながら進んでいったからこそ、そして単に新たなデジタル機器の体験には収まらない「これまでに無いものを作り出そうとしていく」熱量があったからこそではないでしょうか。

「食」は人が生きる上で形を変えてさまざまな面で「一律」なものではなく、受け手や場所ごとに変化していく課題として存在します。「食べる」という行為の拡張と合わせて「選択すること」も広がっていく未来。

そこで誰と何を実践していくのか「選択肢」を知るための視野を広げる場としても「School of Food Futures」の活動が継続されればと願います。

開催概要

日時|2022年8月28日[日] – 9月2日[金] ※8/28[日]はオンラインレクチャーのみ
会場|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab[D-lab]、MTRL・FabCafe Kyoto、及びオンライン
※9月2日[金]のみFabCafe Kyotoにて実施

定員|オフラインワークショップ 10名 / オンラインレクチャー 200名
参加費|オフラインワークショップ受講 100,000円 オンラインレクチャー受講 10,000円
主催|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab[D-lab]
運営協力|MTRL・FabCafe Kyoto

◎ゲスト講師詳細等の詳細はKYOTO Design Lab[D-lab]さま告知ページをご参照ください。
https://www.d-lab.kit.ac.jp/events/2022/school-of-food-futures/