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Material Meetup TOKYO vol.18

[Event Report]Material Meetup TOKYO vol.18左官の魅力と可能性に迫る-素材の痕跡と気配-

素材をテーマに、ものづくりに携わるメーカー・職人・クリエイターが集まるミートアップ「Material Meetup TOKYO」。第18回目となる今回は、「『空間を見つめる先にある素材』-素材の痕跡と気配-」をテーマに、2024年8月5日FabCafe Tokyoにて実施しました。

今回のゲストは、素材と動作の組み合わせで左官の可能性を広げるとともに、左官の啓蒙活動も行っている有限会社原田左官工業所 代表取締役社長 原田宗亮さんと、株式会社method(メソッド)代表取締役、武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科客員教授、東京ビジネスデザインアワード審査委員長、TOKYO MIDTOWN AWARD審査員などの肩書きを持ち、フリーランスのバイヤーとして国内外のあらゆるモノにまつわる仕事に携わる山田遊さんです。

なぜ今回、“左官”を取り上げたのか。イベントの起点となった、MTRL クリエイティブディレクター 小林 奈都子の2本のコラムとともに、お楽しみください。
Seeking for Spatial Materials-ver.0「日常と素材」
Seeking for Spatial Materials-ver.0.5「素材の佇まいとふるまい」

セッション1:原田左官工業所 原田宗亮さん

まずは原田さんによるセッションです。

今回のテーマである左官について、みなさんどれほどの知識をお持ちでしょうか。左官と塗装の違いはわかりますか?

左官とは「床・壁・天井を塗って仕上げる仕事」であると語る原田さん。お城やお寺などの古い建物の壁を塗るイメージが強いかもしれませんが、実は、駅や商業ビルのような大規模なコンクリート建造物の床も左官職人さんの手によって仕上げられているのだとか。

そして左官と塗装は、明確に違うと言います。左官では左官材(モルタル・漆喰・珪藻土などを含むもの)を鏝(コテ)を使って厚みを付けながら塗るのに対し、塗装は液体の塗料をローラーを使って塗るという違いがあります。

また、昨今の左官では、単に鏝で平らに塗るだけでなく、「荒らす・押さえる・磨く・磨ぐ・掻く」といった動作を加えたり、材料にさまざまなものを加えることで、仕上がりの表情で魅せる仕事が増えているそうです。

伝統的な技法である「洗い出し仕上げ」にガラスを加えたもの

左官で仕上げたモダンな幼稚園の手洗い場

「作業工程や工法は昔から変わっていませんが、顔料で色を加えたり、中に入れるものを変えたりすると、今までに見たことがないような新しいものをつくることができます。さらにデザインの力を借りれば、今の空間に合うものをつくることも可能です」

(原田さん)

左官材に茶葉を加えて仕上げたもの

割れた陶器を埋め込んだもの

プラスチックの歯車を埋め込んだもの

割れたプラスチックのコップを混ぜ込んで仕上げにしたもの

原田左官では、こうしたリサイクルしたものを混ぜ込んで仕上げたものを『アップサイクルテラゾ』と名付けました。(注:テラゾとは、左官材をなめらかに磨いて仕上げた人造石のこと。)アップサイクルテラゾには、ものを大事に使っていこうという“企業の姿勢”や“場の意志”をのせることができると言います。

「『何かを混ぜて仕上げてくれ』と頼むこと自体はどこの左官屋さんにもできる。けれど、きれいに仕上げられるかどうかとなると、話は別。経験豊富な人に頼んだほうがいいと思います」

(原田さん)

セッション2:method 山田遊さん

続いて、山田さんによるセッションです。

南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年にmethod(メソッド)を立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を始めた山田さん。
感覚的な仕事だと思われがちなバイヤーの仕事ですが、実際は明確なmethod(方法・方式・手法・順序・筋道・秩序)をもとに、右脳と左脳を駆使しているのだと言います。

そんな山田さんの仕事を大きく分類すると、「店をつくる」「ものをつくる」「イベントをする」「ものを見せる」「ものを選ぶ」の5つです。

それぞれの事例をいくつかご紹介します。

店をつくる

コンセプトの立案から、商品のバイイングやディスプレイ、運営についての助言に至るまで、主にインテリアグラフィックデザイナーと協業しながら一貫して行われています。

国立新美術館ミュージアムショップ「SOUVENIR FROM TOKYO」(2007)

21_21 DESIGN SIGHT SHOP「単位展 —あれくらい それくらい どれくらい?」(2015)

名尾手すき和紙直営店「KAGOYA」(2024)

ものをつくる

主にグラフィックやプロダクトデザイナーと協業しながら、商品開発やブランドの立ち上げ、プロダクトのリデザイン、パッケージデザインのリニューアルなどを手掛けておられます。

永塚製作所「FIELD GOOD」(2016)

山名八幡宮「授与品」(2016)

大阪「こども本の森 中之島」(2020)

イベントをする

店内で定期的に開催するイベントの企画や、施設内におけるPOP UP SHOPなどの企画(と一部運営)、デザインイベントの主催や協力、オープンファクトリーのような産地で開催するイベントの監修など、都市・地域などの場所や規模の大小を問わず、さまざまなイベントの実現に携わられています。

東京ミッドタウン・ホール「DESIGNTIDE TOKYO」(2012)

燕三条 工場の祭典2018(2018)

ものを見せる

店内における商品陳列、店頭やショーウィンドウでの一部ディスプレイをはじめ、国内外のミュージアムや施設内で開催する企画展や常設展における展示構成とその実施など、モノを美しく並べて見せることにも取り組んでおられます。

スイス「Tsubame-Sanjo Factory Festival」(2018)

Interior Lifestyle Tokyo(CORNER SHOP)by method」(2019)

ものを選ぶ

店内備品に始まり、メディアから依頼されたテーマに即したもの選び、ホテルの室内や館内におけるOSE(Operating Supplies & Equipment)や、一部FFE(Furniture, Fixture & Equipment)の選定と調達、国際会議における贈呈品の選定と調達など、バイヤーの本分であるものを選び、調達するという行為を広げ、活動されています。

海外からの参加者への記念品などの選定協力「国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会」(2012)

アメニティ・室内備品の選定「NOT A HOTEL AOSHIMA」(2022)

最後に

左官にかかわる話として、山田さんの事務所と自宅をご紹介いただきました。どちらにもギャラリーが併設されています。

こちらは事務所。モルタルの厚みによって床のレベル(高さ)を変えることで、ギャラリーと打ち合わせスペースをゾーニングされています。

こだわりの詰まった山田さんの空間や素材に対する想いは、次のクロストークで詳しくご紹介します。

クロストーク

次は、ロフトワークの小林がモデレーターを務め、原田さんと山田さんとともに素材について語り合ったクロストークの模様をお届けします。

 

左官の“受け入れる力”に価値がある

小林:左官にはいろいろな素材を混ぜ込める、異素材の融合を許容する“受け入れる力”があるように感じました。原田さんは左官材にさまざまな素材を混ぜ込むことに挑戦されていますが、これは難しいなと感じたものはありますか?

原田さん:チャレンジしたけどダメだったのは、食品ですね。アーモンド。カビが生えないようにコーティングするなど工夫はしたのですが、虫を呼んじゃって1年も保ちませんでした。コーヒー豆も。塊として散りばめることはできますが、挽いた粉を混ぜ込むのはダメですね。

山田さん:有機物だからダメというわけではないですよね?茶葉の事例もありましたし、草や藁を入れることもあるので。

原田さん:そうですね。でもドライフラワーはやってみたけどダメでした。入れること自体はできるけど、なんだかわかりづらくてきれいに見せられない。

山田さん:何かを伝えたいからこそきれいに見せたいんだろうけど、それって人間の過剰な要求じゃないかなと思うんですよね。廃材を左官材に使うことで、熱エネルギーを使わずにある種のリサイクルができているわけだから、たとえきれいに見えなくたって、左官による廃材の利活用という行為自体に、大きな価値があると感じました。

 

素材で語るストーリー

小林:混ぜ込むものによって、企業やブランドの想いをのせられるというお話もありました。

原田さん:昔からキラキラした化学繊維が入った繊維壁というものがありました。それを応用して、デニムの廃材を使ったデニム色の壁をつくったり、企業のユニフォームを細かくして混ぜ込んだりしたこともあります。

山田さん:たしかに、デニム屋さんの壁を「イメージに合わせてネイビーにしました」と言われるよりも、デニムそのものが混ぜ込まれていたほうがストーリー性が高い。店舗内装と商品につながりが生まれますよね。

小林:そのストーリーを知ることで、考えるきっかけにもなりそうです。山田さんは事務所や自宅にうまく左官を取り入れて空間をデザインされていると思いますが、左官の魅力はどんなところにあると思われますか?

山田さん:左官で仕上げると、しっとりするのが魅力ですよね。うちで飼っていた猫がよく土間で気持ちよさそうに寝ていたのが印象的でした。どうしても人は視覚優位になりがちだから、見た目のきれいさに惹かれてしまうけれど、触感ももっと大切にしたほうがいいと思うんです。目を瞑って左官の壁に手で触れてみると、その良さが顕著にわかりますよ。不思議なやわらかさがあるんです。硬いんだけどやわらかい。空間の心地よさを左右する大きな要素のひとつではないでしょうか。

 

 

今までの当たり前が当たり前じゃなくなる未来に向けて

小林:最後に、左官や素材の未来について、おふたりの考えをお聞かせください。

原田さん:今まで左官で当たり前のように使っていた天然の骨材(砂や砂利など)は、これから世界的に手に入りにくくなります。また、漆喰に使用するツノマタという海藻を採る海女さんの数が減って、手に入らなくなる問題もある。左官だけでなく日本産業全体の課題として、原料不足や後継者不足などの要因から、今までと同じことができなくなる可能性が高いんですよね。だからこそ、自分がなくなってほしくないと思うものは、「買い続けて支援する」という発想を持つことが不可欠だと思います。

山田さん:まさに。ものづくりの世界では、高齢化や採算が合わないなどの理由で廃業する人たちが増えて、つくりたいものをつくれなくなる時代が確実に迫っています。この問題は2030年に顕在化すると、個人的には考えている。僕もものづくりにかかわる人間のひとりとして、かなり高い危機感を持つべきだと思っています。何を守って、何を残していくか。自分が何を大事にしていきたいのか。一人ひとりが自身のスタンスを大事にしてもらいたいと思いますね。

今回も深い議論ができた「Material Meetup TOKYO」。次回の開催もどうぞお楽しみに!

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