- Column
Seeking for Spatial Materials-ver.0「日常と素材」
Seeking for Spatial Materials-ver.0「日常と素材」
こんにちは、MTRLディレクターの小林です。
すっかり梅雨の時期に入り、道を歩くと紫陽花の綺麗さに目を奪われます。
さて、街を歩いていると、たくさんの素材が目に入りますね。いわゆる、「建材」と呼ばれるもの。
歩道のレンガブロック、縁石、ガードレール。古い雑居ビルのファサードやそこに入るテナントビルのコンビニの入口のガラスドアとそのサッシ…
インテリアデザイナーとしてのバックグラウンドを持つ私には、言葉に挙げたらキリが無いくらい、街を歩いていると素材が目に入り、気になると足を止めて観察してしまいます。
MTRLに入ってもうすぐ3年目。
「建材」の持つ社会的な側面や人/空間に与える作用を、デザイナーとしてではなくディレクターの切り口で捉え、言葉にしてみようと思いたちました。
ありふれた日常の中に映る「建材」
前述したような「建材」は、私たちの日常の背景となっています。コンビニのような店舗など、機能用途を果たす「場」を構成しています。また、住まいや仕事場など、私たちを取り巻くすべての環境に共通しています。
住居、オフィス・店舗といったコマーシャルスペースなど、人の暮らしの中で素材は「背景」として、それぞれの場を包み込んでいると言えます。そして、暮らしの「背景」の視点を引いて俯瞰すると、「場を包み込む」ために、幾重にも下地材、構造材、インフラが人の手や技術によって折り重なって建物が建てられ、街や都市が作られていることに気が付きます。
日常の我々の生活を支えていて、意識しないほどに溶け込んでいる建物や街の隠れた部分。そこに目を向けると、その技術力や先進性、日々の管理といった細部に至るまでの配慮や情熱を感じずにいられません。
建物の中で人が快適かつ安全に生活する。そのための建設。
当たり前なことじゃない?とツッコミを入れたくなる方もいらっしゃるかと思います。
ただ、その当たり前な快適さや居心地の良さは、「最後の仕上げ」で左右され、特に内装、家具、什器の存在が大きく影響します。そして、人のスケールよりも格段に大きく無機質な建造物と、人の暮らしや営みといった温かみを結びつけるために、とても重要な役割を担っています。
それは、かつて私が従事していたインテリアデザインと言う領域であり、空間演出とも呼ばれます。そして、場の雰囲気や印象をガラッと変えることができます。その変幻自在さは、人が主体であるからこそと考えます。人の生活の中に「背景」として日常/非日常を問わず、内装の仕上げ材や家具が溶け込み佇んでいるのです。
また、人の目に入りやすく、触れる機会が多いため、内装材や家具に使われる素材は「建材」の中でも身近な体験を共有できる存在であると思います。皆さんの中に、お家だったり、家具と関連した記憶や思い出があるのではないでしょうか。
こうした発想から、専門性を持ち合わせずとも、空間の観察から建材(内装材や家具)の役割や存在を身近に感じていただきながら、日常の風景が変わるような発見や気付きを得られるのではないかと思いました。
そして、暮らしの「背景」を見つめた先に浮かび上がる建材に焦点を合わせ、空間の中でどのような魅力を発揮し、私たちに作用しているのか。視点を引いたり近づいたりしながら、建材の持つポテンシャルや価値を探ります。
「空間を見つめる先にある素材/Seeking Spatial Materials」と言う題材のMaterial Meet UPを、鋭意企画中です。コラムからイベントに繋がるような構成を考えています。
次回のコラムと併せ、今後の活動に関心を寄せていただけると幸いです。
株式会社ロフトワーク, MTRL クリエイティブディレクター
小林 奈都子
東京藝術大学大学院デザイン科空間設計橋本研究室卒。組織設計事務所関係のインテリアデザインファームに所属。インテリアデザイナーとして内装設計に留まらず、サインやアート監修や家具設計まで幅広く手掛ける。その後、インテリアの知見を活かして人々の生活空間に寄り添うデザイン活動に携わりたいという想いから、家具販売ECの商品企画開発へ転身。素材を活かしたカフェテーブルやスツールなど数々の商品の企画から設計、製造管理、サイト掲載まで一貫して従事。
そうした経験から、材料関連の製造現場を通して、デザインシンキングやデザイン経営の重要性に気付かされ、2022年ロフトワークへ。趣味は夫と一緒に建築、空間、スパ巡り。