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Seeking for Spatial Materials-ver.0.5「素材のたたずまいとふるまい」

Seeking for Spatial Materials-ver.0.5「素材のたたずまいとふるまい」

空間を見つめた先には、たくさんの素材が浮かび上がります。浮かび上がる素材は日常の「背景」であり、多くは建材と呼ばれるもの。建材にフォーカスを当て、コラムと写真を添えてお届けします。

こんにちは、MTRLディレクターの小林です。

暑く不安定な気候の日が続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
先日、久しぶりに水族館に足を運び、視覚的な涼を楽しみながら、暑い日を乗り越えています。

さて、先月に続いてコラム第2弾となります。

今回はMTRLで取り扱っている建材商品にも触れながら、建材や内装材に関連したお話をしようと思います。

PICK UP MATERIAL

ケイミュー株式会社のSOLIDO という材料は、外壁材の端材やパルプなどの廃材を回収しリサイクルしたサイディング材(外壁材で使われる、セメントと繊維質材料を混ぜて成形し固めたもの)です。
さらに、SOLIDOそのものの製造過程で生まれた端材や廃材も再利用されを生かしながら生産されています。成分や原材料の違いはありますが、セメントや土を混ぜて窯で焼き上げるタイルと近く、薄く固く大判の板状にしたものがサイディングです。

建材や工業製品は品質の観点から、質感や仕上げを徹底して均質であることが求められますが、SOLIDOでは仕上がりのゆらぎを素材の特性として受け入れ、「一つとして同じものがない」として製品一枚一枚の独自性を肯定しています。
また、一般的なサイディング材と一味違い、業界的にタブーとされていた白華(エフロレッセンス。時間の経過とともにセメントの原料である石灰石からカルシウムが浮き出て表面が白くなる現象)の性質を素材そのものの良さであり、経年変化を楽しめるとしてポジティブに捉えて考えられています。SOLIDOが生まれるまでのストーリーが、SOLIDO特設サイトに掲載されています。素材開発のプロセスや視点が、日本的な「守破離」を連想させます。ぜひ、ご覧ください。

セメント→コンクリート、モルタル

SOLIDOの原材料になるセメントやその違いについて、分かりやすい解説を抜粋しご紹介します

コンクリートを作るための材料の一つで灰色の粉末です。現在セメントは、そのほとんどがコンクリートとして使われていますが、大別して「ポルトランドセメント」「混合セメント」「特殊セメント」の3つに分けられます。通常、私たちが目にすることが多いのは「ポルトランドセメント」です。

一般社団法人セメント協会ホームページより引用)

コンクリートとモルタルは、混ぜるものや用途によって分けられます。
「モルタル=セメント+水+砂」モルタルは、セメントに水と砂を加えて作られています。

コンクリートと違って、砂利は含まれていません。

主な違いは、以下の2つです。
・セメントはコンクリートとモルタルの材料になるものである

・コンクリートは構造体に、モルタルは仕上げ材に使われる”

株式会社アーキトリップホームページより引用)

素材の佇まい

モダニズムの筆頭であるコンクリート建築。「コンクリート打ちっぱなし」とも言いますが、建物の骨格にも顔にもなるものです。ロフトワークの一部ワークスペースやFabCafeも、コンクリート現し(柱・壁・天井など塞いで仕上げをしない状態)とモルタル床です。洗練されたハイセンスな店舗(カフェやアパレルなど)や住宅の土間など様々な内装でモルタル仕上げを目にします。近代/現代建築とその内装のキーマテリアルの象徴とも言える存在です。


ダイナミックかつ建築シークエンスの分節を生み出す壁(北川原温建築都市研究所が増改築を手がけた中村キース・ヘリング美術館)


内と外をつなぐ洗い出しの土間(と地域猫)

近代建築の代表格とも言える素材で作られ、仕上げられた空間は「ストイックでシャープ」な印象を与えることが多く、構造の機能や空間構成の「礎」としての凛としてどっしりと構えるようなコンクリートが、仕上げのモルタルや左官によって繊細さを纏い、柔らかい佇まいで空間に調和をもたらします。コンクリートの粗々しさと人の生活や空間の間をを結びつけるようなイメージです。

実はモルタル仕上げそのものはコンクリートと比べ、長い歴史を持っています。

日本におけるポルトランドセメントの歴史は、幕末にフランスから輸入されたのが最初の事例とされており、その後日本では1875年に初めてポルトランドセメントの製造に成功した。現存する国内最古の鉄筋コンクリート構造物は1903(明治36)年に造られた琵琶湖第一疎水路上の橋(日ノ岡第11号橋)といわれ、今も日ノ岡にある第3トンネルの東口に現存しているが、京都の町家など一般の建築に使われるようになるのは、大正時代の末期の頃である。
セメントモルタルは当時の左官職人にとって、石灰を使う漆喰に比べて強度もあり耐水性にも優れた画期的な新素材であった。

三洋化成MAGAZINEより引用)

引用元の内容が素敵なのでぜひみていただきたいのですが、その前に。

素材のふるまい、調和

硬さの中の柔らかな表情。空間を分けながら、大きくまとめていく。(ブルーボトル渋谷カフェにて)

「テラゾ」という言葉を聞いたことはないでしょうか。モルタルに砕いた大理石を混ぜて面を平滑に研ぎ出すイタリア発祥の人造石を指します。混ぜ込む素材(骨材と呼ばれます)を玉砂利にして床や壁に塗りつけてセメントを洗い出す工法は「洗い出し」と呼ばれ、日本家屋の玄関や庭園で使われてきました。
漆喰や土壁などを含め、こうしたコテで塗りつける工法を左官(工事)と呼びます。仕上げ材として生活に身近な存在で、骨材や色、表面の磨きによって多彩な表情があります。

私の父方母方どちらの祖父母の家にも、白くキラキラしてざらっとした砂壁が使われていました。前述した洗い出し玄関の床には黒く丸い石が、お風呂場の床と壁には青く楕円のタイルが使われていたのを覚えています。記憶に刻まれた、とはこのことかもしれません。
この原風景とも呼べる思い出やこれまでの建築探訪の積み重ねを通して、左官というものがいかに日本的な木造建築や文化的な相性が良いのだということに気付かされ、魅力を感じてきました。モルタルに限らず「左官」という存在が、木や金属など異素材を受け入れて寛容にふるまい、空間に調和をもたらす素材と言えます。

素材や空間の中で接続詞となるだけでなく、人に作用するポイントも多彩です。私の幼少期に強く印象付けられたことからも、そのことはご理解いただけるかと思います。
触った時の感触や香り、温度、表面の煌めき異素材を砕いた輪郭の動き、そしてコテやハケのゆらぎなど身体的な動きを痕跡とした模様など、意識的に向き合わなくても、人の五感を揺さぶる強さを持っています。この左官の特徴は、作り手(左官職人や設計する人)と使い手(生活者)を繋いでいるようにも思えますし、時を越えた融和を感じさせ、素材の痕跡や気配を織り交ぜた、「和をもって尊しとなす」という言葉がしっくりきます。

この発想や思考、もしくは仮説は果たして共感を得るのか?
せっかく本コラムで左官の「言語化」に挑戦したので、検証や展開など広げていこうと思い立ち、作り手と選び手をゲストに招いたミートアップイベントを企画してみました。

みなさま奮ってご参加ください。

株式会社ロフトワーク, MTRL クリエイティブディレクター
小林 奈都子

東京藝術大学大学院デザイン科空間設計橋本研究室卒。組織設計事務所関係のインテリアデザインファームに所属。インテリアデザイナーとして内装設計に留まらず、サインやアート監修や家具設計まで幅広く手掛ける。その後、インテリアの知見を活かして人々の生活空間に寄り添うデザイン活動に携わりたいという想いから、家具販売ECの商品企画開発へ転身。素材を活かしたカフェテーブルやスツールなど数々の商品の企画から設計、製造管理、サイト掲載まで一貫して従事。
そうした経験から、材料関連の製造現場を通して、デザインシンキングやデザイン経営の重要性に気付かされ、2022年ロフトワークへ。趣味は夫と一緒に建築、空間、スパ巡り。

https://loftwork.com/jp/people/natsuko_kobayashi

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