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Loftwork is…ものづくりのこれから 硬直した業界の構造に、オルタナティブな選択肢を生み出したい。 木下浩佑が描く、つくる人が仕掛け人になる未来

MTRLの運営母体である株式会社ロフトワークのWEB連載企画「Loftwork is…」の2ndシーズンにMTRL / FabCafe Kyoto の木下浩佑が登場しています。

「Loftwork is…」とは
ロフトワークの多様な“クリエイティビティ”を探索するインタビューシリーズ。2ndシーズンは「ロフトワークの人たちが向き合う、 “○○のこれから”」にフォーカスして連載しています。

デジタルクリエイティブからコミュニティデザイン、場づくり、イノベーション創出、社会課題の改善まで、幅広い領域でプロジェクトや事業に取り組んできた、ロフトワークの「人と活動」に焦点を当てることで、私たちが発揮している“クリエイティビティ”の解像度を高めていきます。

今回のテーマは、「ものづくりのこれから」。

人が集うカフェに、3Dプリンターやレーザーカッターをはじめとしたデジタルものづくりマシンを設置し、未来のイノベーションを生み出してきたクリエイティブコミュニティ「FabCafe」。

ロフトワーク京都ブランチが運営する「FabCafe Kyoto」は、ものづくりや素材開発を手がける人たちが、さまざまなバックグラウンドを持った人たちと一緒に、未来のイノベーションを起こしていく実験場のような空間。

素材メーカーとクリエイターの共創を支援しイノベーションを生み出すプラットフォーム「MTRL」の提供や、3カ月間限定でクリエイティブな公開実験ができるレジデンスプログラム「COUNTER POINT」などを実施しています。

取材当時、FabCafe Kyoto内で行われていた展示「“Weaving the Future” work in progress」の様子。素材としてのテキスタイルの可能性を、京都の繊維産業に携わる事業者と国内外のデザイナーとのコラボレーションのもとで探ったワークショップ「Textile Summer School 2022」の成果展示。

そんな空間を起点に、ものづくりや素材開発に取り組む人たちに向き合い続けてきたのが、FabCafe Kyotoのマーケティング&プロデュースを手がける木下浩佑さん。

木下さんが一貫して取り組んできたのは、ものづくりや素材開発を担う人が、異分野の人や技術とつながって、化学反応を起こしていく場をつくること。

FabCafe Kyoto マーケティング&プロデュース 木下浩佑

「もの」が流通するまでにはどんな業界であれ、材料の製造、材料加工、製品の開発設計、検査、市場調査、企画・販売……と多くのプロセスを経ていきます。

その上で木下さんの根底にあるのは、「つくる人がリスペクトされてほしい」という思い。
だからこそ、ものづくり業界で硬直化している構造に「オルタナティブな選択肢を生み出したい」と言います。

つくる人が多様な選択肢を持ち、つくる人と使う人がフラットにリスペクトしあえる未来を描く木下さんに、「ものづくりと素材開発のこれから」を聞きました。

取材・執筆:小山内 彩希
撮影:小椋 雄太(あかつき写房)
企画・取材・編集:くいしん

ものづくりにおける「ヒエラルキーを壊したい」

写真右、「Loftwork is…」シリーズの企画・編集を担当している、くいしん・小山内彩希。本記事の聞き手。

 

── 木下さんのキャリアを辿ると、ロフトワークに入社されてFabCafe Kyotoでディレクターになる以前は、IID 世田谷ものづくり学校で働いていたと聞いています。「ものづくり」に向き合う根底に、木下さん自身のどんな思いがあるのかが気になっています。

僕には、ものづくりに限らず、社会の基盤を維持するために働いているエッセンシャルワーカーのみなさんがちゃんとリスペクトされる世の中であってほしいという思いが、基本的な態度としてあるんです。僕たちが安心して生きていくことを支えてくれている人たちに光が当たってほしい。

それがものづくりの領域の話であれば、たとえば、土木インフラに関わっている人たちだったり、建材をつくっている素材メーカーだったりになります。ネジ1本とっても、僕にはつくれないし、つくろうとも思ったことがないけれど、それを狂いもなく大量につくり続けている人たちのおかげで僕たちは安穏と暮らしていけている。普段なかなか意識できないことかもしれませんが、これってすごいことだと、純粋に思っているんですよね。

── たしかに、私たちの生活は常に、誰かの「つくる」行為を根底にして成り立っています。木下さんがそこを担う人たちに対して「リスペクトされる世の中であってほしい」という思いを抱えているのは、現状はそうなっていないと感じているからですか?

それもありますが、どちらかというと、ものづくりを取り巻く構造はもっと違う形になっていけるんじゃないかと期待しているということですね。

ひとつの製品ができるまでの過程には、まずは原材料を採取し、それを加工して素材にし、さらに加工して二次素材にし……と、さまざまな工程が積み重なっています。そういった過程の中で、最終製品をつくるいわば「川下」にあたるプレイヤーが消費者のニーズに対する解像度を最も高く持っているため、なかば必然的に、彼らがサプライチェーンをリードしてきたという面があります。

素材メーカーとクリエイターの共創を支援するプラットフォーム「MTRL」が取り扱う素材は、木材・金属・布などの一般的な素材から伝統工芸素材、最先端のテクノロジーが搭載されたセンサーやモジュールまでさまざま。

たとえば自動車業界においては、消費者のニーズを捉えた製品を企画するのは自動車メーカーで、その自動車メーカーから「ほしい」と言われたものに対して、素材メーカーはコストや機能など複合的な要件に応える素材を提供する、という流れが一般的です。もちろんそこには合理性があって続いてきているのですが、循環型社会へと動き出している今の世の中ではむしろ、素材メーカー側からこそできる価値提案もあるのでは?と思ったりするわけです。

循環型社会では、たとえば、「一度製品になったものを、再利用するためにもとの素材へ分解したい」のようなニーズがあれば、素材メーカーの方が「分解」という工程においてイニシアチブをとれるかもしれません。「分解しやすさ」が製品の機能や体験にとってこれまで以上に重要になるのであれば、技術と信頼を備えた素材メーカーこそ、その価値を実現性をもって社会に提案できる存在になるのではないでしょうか。

こういった観点から、ものづくり業界の構造を組み直す中で、オルタナティブな選択肢を生むこと。それが僕のやりたいことですね。受発注の関係をリフレーミングして違う関係性にしたり、コンテクストを変えて今までと違う価値を生み出すというのは、狙ってやろうとしていることです。

── 木下さんの「構造を組み直せないのか」という思いは、どういったことから湧き出てきたものなのでしょうか。

割と最近になって言語化されたんですよね。「ああ、自分は、ずっとヒエラルキーにモヤモヤしてきたんだな」って、いろいろ経て気づいたといいますか。

理由をひとつには絞れないんですけど、あえて挙げるとすると、僕自身が音楽が好きで、中でもサブカルチャー、カウンターカルチャーが好きということがあると思っています。クリエイティブワークに関わる人たちも、程度の差こそあれ、行き過ぎた権威に抗うようなカウンターカルチャー的な気質を持っていると思っていて、そこが一致したのかもしれない。

社会の価値観が変わっていく中で少しずついろいろな構造が変化していって、資本力・権力・発言力といった、旧来的な意味での「強いパワー」に依存せずともビジネスを継続できるところに向かいつつあると感じています。
構造変化が起こりつつある理由のひとつには、サーキュラーエコノミーやサーキュラーデザインという言葉のビジネス文脈での普及も挙げられるのでは、と思います。登場した頃は多くの人が、「環境にいいことしないといけないよね」程度の認識だったけど、今は「そのほうが経済合理性もあるよね」という、いい意味でドライな認識が浸透しつつありますよね。

そうすると、サプライチェーンの構造変化だけでなく、そもそものステークホルダーのマッピングの書き換えまで起こっていくという話になっていくし、「今まで接点のなかったAとBが力を合わせると、実はこれだけのことができる」のようにチーム形成の仕方まで変わっていける。

それを図式化したものを、水野大次郎先生、津田和俊先生の『サーキュラーデザイン:持続可能な社会を作る製品・サービス・ビジネス』という書籍で見たんです。これからのサプライチェーンのデザインは、異なる職の人たちが今までとは違う形でコラボレーションをするところに、大きな可能性があるんじゃないかと感じましたね。

つくり手のポテンシャルをアンロックして化学反応を起こす

── 素材メーカー側から仕掛けていく、あるいは、異分野の人同士がコラボレーションしていく、などからオルタナティブな選択肢を生み出していきたい思いがある木下さん。選択肢が生まれることで、何が起こるのでしょうか?

既存の枠組みの中での受発注の関係性を変えたり、異分野の人同士が接続する文脈をつくっていった結果、化学反応が起きやすいというのはあると思います。

── オルタナティブな選択肢を生み出していった先に、化学反応が起こる?

そう思っていますし、化学反応が起こってほしいという思いで、まだ隣り合っていない人と人、人と技術、人と場所をつなぎ続けてきました。ロフトワークに入社する以前は、IID 世田谷ものづくり学校、その前はコンテンポラリーアートを扱うギャラリーやカフェにいたのですが、どんな仕事でもやっていることはずっと「間に入ってつなぐ」ことでした。

── 間に入ってつなぐ。

厳密に言うと、僕はつなぎ役の中でも、ちゃんとマッチングさせて製品として成立させることはほとんどやっていなくて。とりあえず一回遭遇する機会をつくることだけを考えて設計している感じです。

そもそも、おなじものづくりを担っていても、業界が違えば、思っている以上に互いの持っている技術や使っている素材について知らなかったりするんです。そういった前提がある中で、FabCafe Kyotoでは月に一度、多種多様なバックグラウンドの人々が集まって「つくる」にまつわるアイデアやプロジェクトをシェアする「Fab Meetup Kyoto」というイベントをやっています。

FabCafe Kyotoで行われた過去のFab Meetupの様子

コロナ明けに、イベントによく来てくれるとある大学の教授が、「自分で調べるだけでは出会えない、おもしろい情報に高確率で遭遇できるのがこの場だよね」と言ってくださったんですよね。「つくる」を共通言語にしていろんなバックグランドを持った人たちが集まっているから起こること。今は誰もが自分の欲しい情報に素早くたどり着ける時代だからこそ、「調べても出てこないことに出会えるこういう場が世の中に必要なんだ」と改めて思い直した言葉でした。

── 「マッチングさせて製品として成立させることはほとんどやっていない」というお話ですが、では一体、木下さんのいう「化学反応」とはどういったことを指すのでしょうか。

たしかに、ものづくりの企業とのコラボレーションというと、デザイナーさんをマッチングさせて新製品をつくるようなことがゴールとされがちですよね。でも僕の思う化学反応とは、必ずしも「製品として何がアウトプットされたか」だけを指すものではないんです。

たとえばFabCafe Kyotoは、個々人の好奇心と創造性を膨らませることができる「COUNTER POINT」という取り組みを実施しています。個人が3カ月という期間限定で、FabCafe Kyotoを使って公開実験ができるプログラム。

偏愛に突き動かされたプロジェクトを全力で応援し、共に育て、この街に解き放つ。 FabCafe Kyotoを使って活動したいプロジェクトのための3ヶ月限定レジデンスプログラム。

そのCOUNTER POINTにかつて参加していた方のおひとりで、普段は版画制作を行っているアーティストがいたのですが、彼女は「ここで何かつくるなら、今まで使ったことのない技術を使いたい」とデジタル刺繍ミシンを使い続けたんです。結果、すごい数の作品をつくって、展示会ではそれらがすごい勢いで売れていきました。

その方が「作家として10年、20年、やれることは全部やってきたと思ってきたけど、全然違うアプローチが見つかった」と言っていたのが印象的でした。

作家が新しい手段を獲得すると、まったく違う表現が生まれ、それが新しい価値になったり、それによって喜ぶ人が増える。僕自身が起こしていきたい化学反応とはそういうことです。そして、化学反応が起こる実験場であり続けることがFabCafe Kyotoの役割だと思っています。

「Textile Summer School 2022」のワークショップについて、木下さんは「デザイナーや学生さんと職人さんの間で、往復書簡のように技術や知恵を交換して、どんなものがつくれるかリサーチしたり実験したりしました」と振り返る

 

── ものづくりにおける技術や素材についての情報は、割とクローズドなイメージがあります。一方で、木下さんからもFabCafe Kyotoからも、クローズドなものを積極的にオープンにしていく姿勢を感じており、それが化学反応につながっているのかなとも思います。

京都のメンバーの間で、2年くらい前によく使っていた言葉が「ポテンシャルをアンロックしていく」だったんです。それが僕たちの基本的な態度のひとつだと確認し合っていました。クローズドなものをオープンにするというのは、それと同じことだと思いますし、常にやりたいことかもしれないです。

僕の場合、広く発信するとか価値を増幅させることはあまり得意じゃないんです。

だけど、隠れた技術だったり、素材の持つ可能性だったりを、別の領域にいる人にとっても面白がれるようにするにはどうしたらいいか?ということは、割と考えられるのかなと思っていて。それをやろうとし続けている感じですかね。

人を増やすのではなく、活躍の幅を広げることから「死ににくい社会」をつくる

── ものづくりにおける構造変化が起こっていくという仮説がある中で、この変化が早い時代、先のお話であった循環型社会のほかにどんなことがものづくりに構造変化をもたらすと考えますか?

サプライチェーンの構造はすでに変わってきている最中にあると感じています。

背景にはもちろん、環境に配慮しながら経済成長を目指すサーキュラーエコノミーが広がってきたことがありますが、それだけでなく、趣味嗜好の多様化で合ったり、多品種少量生産が技術的に可能になってきたということも、構造変化をもたらす要因としてあります。

その上で僕の役割としては、今まで言われた通りにつくってきた人たちが既存の構造に変化をもたらしていく動きをもっと焚き付けていくことだと思っています。素材メーカーがほかのプレイヤーと手を組みながら新しい試みを仕掛けていったら、絶対に世の中が面白くなるので。

── 隣り合っていなかったもの同士をつなげることから「化学反応を起こしたい」というお話もありました。化学反応を起こした結果、世の中にどんなものが生まれていってほしいですか?

やっぱり、岡本太郎さんではないけれども、「あら、これいいじゃない」ではなく、「なんだ、これは!」と言わせるものが増えてほしいという思いはあります。

そこには、変なものやすごいものが増えたらうれしいっていう個人的な気持ちもあるのですけど、もっと大前提で、世の中に変なものがたくさんあるということが多様性のある社会へ近づくということだと思っているんです。

多様性のある社会って、いろんな人が死ににくい社会だと僕は解釈しています。

今後は、変なものやニッチなものをつくっている人が経済合理性に迎合しなくても、それなりに生きていける仕組みに変化していければいいなと思いますね。

── これまではニッチなものをつくっている人たちは、生きていくために経済合理性に迎合せざるを得なかった側面もあると思います。そこを打破していくために、今後ものづくりはどのようなところから変わっていけばいいでしょうか?

もっと素材が活躍できる選択肢を増やして、活躍できる幅を広げていくことが大事だと思っています。

ものづくりを担う人を増やすのではなく、選択肢を増やす。今まで非合理的とされていてやってこなかったことや、不可能とされてきたことに挑戦していくと、単一のアプローチではなく複数の選択肢を持てるようになると思います。それが、いろんな人が死ににくい世界へ近づく一歩じゃないでしょうか。

おわりに

今回、木下さんのお話を通じて、ものづくりを取り巻く構造は、アップデートの変革期にあるということがわかりました。

画一的だった従来のアプローチが多様化していけば、それによって生まれる表現方法、提供できる価値も多様になるというのは、自然なことのように思います。

「世界中のいろんな人が多様な生き方を実現していこうとしている現代社会では、その環境を整えるためのものづくりが、今まで以上に不可欠なものになっていくはずと思っています」と木下さん。

価値転換が加速していく社会に担い手として参加していくためには、ものづくりに携わる人もそうでない人も、従来のアプローチにクエスチョンを持つ姿勢と、自らに化学反応を起こし選択肢を広げていくためのアクションが求められるのではないかと思いました。

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