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Material Driven Innovation Award 2022 Exhibition ~素材を起点にWell-beingを考える~ 展示・ワークショップイベント開催レポート

SDGsの目標3(Good Health and Well-Being)にも掲げられ、自律分散やダイバーシティ&インクルージョンなどの現代の課題を語る際のキーワードとしても注目されている「Well-being(ウェルビーイング)」。そもそも、Well-beingとは何なのでしょうか。そして、Well-beingは私たちにどんな価値をもたらすのでしょうか。

MTRLでは、2022年の6月から8月にかけて、Well-beingにまつわる様々な疑問に対して、素材を起点にして考えるための展示・ワークショップイベント「Material Driven Innovation Award 2022 Exhibition」を開催しました。

「Material Driven Innovation Award」とは、革新的なマテリアル(素材)や製品、技術を扱うメーカーを対象とした、マテリアルから生まれる新たな意味を探るデザイン賞シリーズです。エントリー型プラットフォームAWRD(アワード)にて開催しました。

従来、AWRDにて開催されていたコンペティション的な側面とは異なり、デザインやプロダクトに対してのリサーチとしての側面があるのもこのAWRDがもつ特徴です。そのため、大賞を定めて評価するだけではなく、審査員ごとに異なる様々な視点から特別賞なども設けられています。

初開催となる2022年は、「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」をテーマに行われ、2022年1-3月と約1ヶ月半の応募期間で、人や地球環境の幸福に貢献する製品を生み出す可能性のある革新的なマテリアル(素材)を募集し、計102点の応募が世界中から集まりました。

その中から、大賞1点、ファイナリスト3点、奨励賞1点、渡邊淳司賞、堀内康広賞、井高久美子賞、小原和也(弁慶)賞の合計9点が選出されました。

▼アワード開催概要

Material Driven Innovation Award 2022
 Material New Narrative / 素材の新たな価値を探るマテリアルアワード

展示・ワークショップイベントは、この「Material Driven Innovation Award 2022」にて、大賞、ファイナリストに選ばれた4点の「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」を起点に、Well-beingをより深く考えるきっかけとして企画・開催されました。

ここからは、2022年の6月から8月にかけて、東京、京都、名古屋の3拠点を巡回した展示と、東京、京都の2拠点で行われたワークショップの様子をレポートします。

▼イベント開催概要

東京:展示ワークショップ

京都:展示ワークショップ

名古屋:展示

[展示]東名京のMTRL拠点で考えるWell-being×マテリアル

本展示は期間を変えて3箇所、それぞれMTRLの拠点があるFabCafe Tokyo, FabCafe Kyoto, FabCafe Nagoyaの一角を舞台に開催されました。

「Material Driven Innovation Award 2022」のメインビジュアルが目を引く会場で、ファイナリスト・大賞を受賞した4点の素材、「Food Paper」「TRF+H」「ZEROカーボNソイル」「Co -Obradoiro Galego」を展示しました。

(左から東京、京都、名古屋)

各素材の展示には、素材の展示に加えて、冊子型のキャプションが添えられました。

この素材・作品がどういった経緯で生まれたのか、どのような人の手で作られたのか、どのように周りに影響を与えるのか、といったマテリアル自体の詳細な情報と、受賞時の審査員コメント、そして、受賞に至った際に寄せられた受賞者のコメントを載せた、マテリアルをWell-beingという視点で見た時のコンテクストが詰まったキャプションです。

キャプションを通して実物を見ることで、素材を起点に生み出されるWell-beingをより具体的に思い浮かべることができます。


展示では、受賞素材の展示に加えて、展示や受賞素材から感じた「Well-being」を貼ることのできるシートを設置しました。これは、審査員としても協力いただいた、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員の渡邊淳司さんらが制作された、「わたしたちのウェルビーイングカード」(2021年版)の一覧表で、Well-beingの要因27種を「I」「WE」「SOCIETY」「UNIVERSE」の4つに分類したものです。

素材そのもの、そしてその素材の持つコンテクストを踏まえてこのシートと照らし合わせて鑑賞をすることで、その素材がどのようなWell-beingを生み出したのかを感じてもらるように、という思いを込めました。

展示に参加いただいた方には、素材の名前が書かれたシールをシートに貼っていく形で、その素材がどのようなWell-beingの要因を生み出すことができる素材なのかを投票していただきました。

各会場での展示期間は1週間ほどの短い期間でも、MTRLの拠点である東京、京都、名古屋をインターバルも短く巡回することができ、多くの人の目に触れ、素材を起点にWell-beingを考える機会になったのではと考えています。

今回の展示は、現在、世界に広がるクリエイティブネットワークを介して、バルセロナやクアラルンプールなどでの海外巡回も計画しています。

[ワークショップ]Well-being ×マテリアルを具体的に捉え、自分ごとにする

東京・京都の2拠点で行われたワークショップは、アワードの審査員や展示にも協力いただいた、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員の渡邊淳司さんをアドバイザーに迎え、設計・実施されました。

実施回によって多少差異はありますがワークショップは大きく4つのステップで構成しています。

STEP1 アイスブレイク

「心臓ピクニック」を用いて、自己紹介を行うアイスブレイクです。

話す人は聴診器を胸に当て、聴く人は心臓ブロックに触れながら、自身の名前や所属などを共有します。日常的なコミュニケーションで使われる視覚、聴覚に加えて、普段外部には顕にならない心臓の動きを触覚で伝えることで、初対面同士のグループでも全人格的な信頼を醸成することを目指しました。

普段とは違うコミュニケーションに面白さを感じたり、逆に戸惑いを感じたりと様々な反応があり、いずれも打ち解け合うきっかけとしてはポジティブに働いたようでした。

STEP2 私にとってのWell-beingを考える

STEP2では、展示でも登場した「わたしたちのウェルビーイングカード」を用いて、27の選択肢から自身のウェルビーイングを構成する要因3つを選ぶワークを行いました。

ワークを通して、「I」「WE」「SOCIETY」「UNIVERSE」の4つのカテゴリーのなかで、自身がどのように偏っているのかであったり、他の参加者とのカードの違いや、選んだ理由の違いなどを感じたりすることで、多様なウェルビーイングのあり方を知り、受け入れるということが目的です。

一覧から選び取るという手順によって、考えを棚卸ししたり、整理することができたという反応や、また、自分や他の参加者がなぜそのカードを選んだのかを聞いていく中で、ウェルビーイングという概念自体に対しても、イメージを掴むことできたという感想が上がりました。

STEP3 受賞素材を通してWell-beingを考える

STEP2と同じように「わたしたちのウェルビーイングカード」を用いたワークです。今回は、自分自身ではなく素材に当てはめて考えていきます。

受賞素材を題材に、どのような観点において「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」であるかを個人・グループで考えることで、素材を起点に生み出されるウェルビーイングの”WHEN””WHO””WHOM”の多様さを感じ、理解してもらうことを狙いとしています。

ワークショップを重ねる中で、「素材が生まれてから廃棄・リサイクルされるまでにどのようなウェルビーイングを生み出したのか」を意味する「マテリアルウェルビーイングジャーニー」という言葉も生み出されました。

STEP4 Well-beingな素材アイデアを考える

ワークショップの最後となるSTEP4は少し難易度が高く、参加した皆さんも苦戦したワークとなりました。

STEP2のワークで、グループで出し合ったウェルビーイングカードの束から2つ、選ばなかったカードの束から1つ。こうして選ばれたWell-beingの要因3つを生み出すような素材を考えます。

この時の考え方のコツは、STEP3で考えたことの逆を追っていくこと。「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」がなぜ「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」なのか。つまり、その素材を、誰が、誰に向けて、いつ、使うことで、どのようなWell-beingを生み出す要因となったのか。STEP3で考えたこの受賞素材を題材としたトレーニングで培った思考を遡って考えていくことで、オリジナルの「人の暮らしをWell-Beingにするマテリアル」を考えます。

素材メーカーやデザイナー、学生など様々な立場の方に参加いただいた今回のワークショップ。最初には、Well-beingとは何か、どのようなものなのかとメモしながらインプットしていた参加者が、STEPを経ていき、最終的には、土、ガラス、布、紙など、任意の素材を起点として、選ばれた3つのWell-beingの要因が生み出されるようにデザインし、新たな価値を生み出すことに挑戦しました。

ワークを終えた参加者からは、「製品開発にWell-beingの考え方を活かせそう」であったり、「素材そのものの見方が変わった/増えた」といった声が上がりました。

2時間と急ピッチで進むワークショップではあったものの、Well-beingに特化した、マテリアル・ドリブン・イノベーションの追体験ができたのではないでしょうか。

Well-beingにご興味のある方へ

MTRLでは、本イベントをはじめ様々なプロジェクトを行っています。

Well-beingや素材起点のイノベーションにご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。

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