伝統織物の可能性を広げる 「YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT」
プロジェクト事例 ― 与謝野町
伝統を「ひらく」
2つの共創の場から広がる、未来の丹後ちりめん
京都府北部にある与謝野町は、古くから丹後ちりめんをはじめとする織物産業で栄えた町。風土や分野、伝統と向き合いながら、従来の方法に捉われない織物産業の可能性を描くべく、与謝野町の方々や国内外のクリエイターと共に2段階に渡る活動を行いました。
第1フェーズは、共創活動として若手織物職人とクリエイターによるアイデアソンやプロトタイプ作成を実施。第2フェーズでは、第1フェーズでの取り組みを踏まえて、職人たち自らが自走する仕組みとして、県外の職人との交流メディア「ひらく織」を立ち上げました。
OUTPUTS
全国の職人と繋がるメディア「ひらく織」
クリエイターとの共創活動を通じて、与謝野町の職人が抱えている課題は全国の職人にも言えることということが分かってきました。であれば、自分達だけで抱えず、互いに知恵やアイディアを交換しあいながら、職人の方々自身が活動を広げていける仕組みが作れないか。
そこで立ち上げたのが、全国の織物産地の職人たちが交流できるプラットフォームとしての「ひらく織」です。ここでは、具体的な活動につなげるため、与謝野町の職人が探求したいことを可視化して全国の職人に呼びかけると共に、職人自らが負荷なく生の情報を発信していける仕組みを目指しました。
職人交流メディア「ひらく織」:http://yosano-branding.jp/opentextile/
PROCESS
地域外とのタッチポイントを増やす
従来の方法にとらわれない丹後ちりめんの可能性を広げるためにまず行ったことは、外の目を入れること。オブザーバーにファッションデザインの専門家である慶應義塾大学環境情報学部准教授の水野大二郎さんを招き、多様なクリエイターと共に与謝野の機場を訪問するツアーやMTRL KYOTOでのワークショップを実施しました。
多様なクリエイターを現地に派遣
プロダクトデザイナーの吉行良平さん、デザインリサーチャーの浅野翔さん、ファブディレクターの高松一理さんの3人と共に実際に織物が作られる場面を視察。実際に職人の方々に会い、織物が作られる工程を知ることで、丹後ちりめんの魅力を再確認し、課題をヒアリングしました。視察を踏まえて、クリエイターならではの発想で丹後ちりめんの新しい可能性について職人の方々とディスカッションしました。
共創をとおして「素材に向き合う」
2016年1月、MTRL KYOTOに集合した与謝野町の若手織物職人と町外の多様な同世代のクリエイターで混成チームを結成し、アイデアソンを行いました。テーマは「『織』の可能性を拡張するモノやコト」。職人とクリエイターの合同チームで試作を行い、ワークショップで作られたプロトタイプを元に、職人とクリエイターが約2ヶ月間の共創活動を行いました。参照:中間報告会のレポート
プロセスの情報発信で認知度を上げ、コミュニティを育てる
特設サイトやSNS、特別展示会「YOSANO OPEN ROOM」などを通して、プロセスをオープンに開示・共有・議論することで、多くの方に与謝野町に潜在する魅力とものづくりの楽しさを広く認知する活動を行いました。
職人が新たな可能性を探るプラットフォームの立ち上げ
与謝野町の職人が全国の職人と繋がり、知識の交換や共創の可能性を職人たち自身が自走しながら広げていくためのプラットフォームとして、2017年にWebメディア「ひらく織」を作成。立ち上げ以降、職人同士の交流は進み、全国の織物産地とネットワークが広がっています。
職人自らが自走できる仕組みとして立ち上げた「ひらく織」のウェブサイトは、職人の方々の課題を踏まえ、ワークショップを積み重ねながら作成しました。
Webサイト立ち上げから1年間で、職人自らが企画して全国6ヶ所の織物産地へ実際に訪問し、新しい関係を育てています。またその熱量を詳細なレポートで発信してさらにネットワークを強めています。これからどんな共創活動が広がっていくか、ますます楽しみです。
メンバーズボイス
2018年で4年目を迎えたYOSANO OPEN TEXTILE PROJECT。「10年後も織物産地であり続けるために、今何をすべきか」ということを考えた時、必要なのは短期的な成果(目に見えるモノ)ではなく、織物産地の担い手である若手事業者の皆さんの胸の内に秘める「本気の想い」に火をつけること。これこそが、プロジェクトのフェーズ1、2の様々な取り組みで目標に掲げたテーマでした。
ロフトワークの皆さんには、事業者との昼夜を分かたぬ議論や大雪の中での現地調査など、予定調和でないこのプロジェクトの礎をともに築いていただき、とても感謝しています。
事業者の皆さんは、この間、将来世代に産地をつないでいくために果たす役割を自身に問いかけ続け、プロジェクトを通して得た経験や視点をもとに、新たな挑戦をはじめる方も出てきています。そして、「ひらく織」を活用した産地交流も着実にその歩みを進めており、全国の織物産地のハブとなる媒体に育っていく予感がしています。
このプロジェクトの真の成果は10年後にたしかに見えているはずです。産地が「ひらかれていく」過程と、事業者の皆さんの活躍にぜひご注目ください。与謝野町商工振興課主任 松本 潤也
「完成品を作るのではなく、素材そのものに向き合う」「職人さんたちが楽しんで自走/自創できることが重要」フェーズ1、2を通して、通常の制作プロセスと一風変わったゴールを目指すところが、このプロジェクトのチャレンジポイントでした。振り返ってみればエキサイティングな時間だったな、という余韻があります。ひらく織での産地交流は着実に回を重ねられているのも驚きなのですが、職人さんだけではなく、機織りを学びたい若者が与謝野町を訪問してくれる出来事などもあり、このプロジェクトの力添えができたことをとても嬉しく思います。これからも応援しています!
クリエイティブディレクター 国広 信哉
プロジェクトのフェーズ2から携わった僕のミッションは、如何に短い期間で職人さんたちと「ひらきあえるか」。そのためにはまず自分から「ひらく」ことを特に意識しました。初日夜の懇親会で深夜まで一緒に飲んでいただけたことが何より嬉しかったです。
職人のみなさまの本音から生まれた「ひらく織」webサイトの公開後、他産地との交流の輪が広がり続け、福岡で活動している友人とも繋がったのを「ひらく織」の記事で見たときは、その活動範囲の広がりに本当に感動しました。これからも、ずっと注目していきます。クリエイティブディレクター 上ノ薗 正人