αGEL 触感の新しい評価基準とコミュニケーションツールをデザイン

プロジェクト事例 ― 株式会社タイカ

「触れる」という体験やコミュニケーションを通じた心地よさを探る

タイカの中心的商品および技術である、非常に柔らかいゲル状素材「αGEL」。その「αGEL」を取り扱う事業は、機能や性能を中心としたR&Dのみならず様々な挑戦を続けています。

タイカとロフトワークは、αGELを取り扱う事業領域において、衝撃吸収や防振、放熱といった従来の機能的価値にとどまらない感性価値(「触れる」という体験やコミュニケーションを通じた「心地よさ」の価値)の新しい指標を見出すためのプロジェクトをスタート。ゲルの新しい可能性や価値の再評価についてコラボレーションを進めています。

プロジェクト概要

支援内容
・リサーチ
・ワークショップ
・感性価値指標に基づくコミュニケーションツールデザイン(UX評価マップ)
・ゲルの触感を体感するためのツールキットデザイン

プロジェクト期間
・2018年10月〜2019年2月
・プロジェクト体制
・クライアント:株式会社タイカ http://taica.co.jp/
・プロデューサー:小原 和也、井田 幸希
・プロジェクトマネジメント:神野 真実
・クリエイティブディレクター:桑原 季
・触覚に関する研究者(外部メンバー):南澤 孝太(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 准教授)、金箱 淳一(産業技術大学院大学創造技術専攻助教)
・プロダクトデザイン:神原 秀夫(BARAKAN Design) http://www.barakan.jp/
・ビジュアルデザイン:浜名 信次(beach inc) http://beach-inc.com/

Background

1948年の創業以来約70年にわたり「技術開発型企業」として、多機能素材の開発に取り組んで来たタイカ。近年では、質の高い商品をこれまでとは違った分野でも開発していき「従来型メーカーからの脱却」をテーマとして掲げチャレンジを進めています。その変革の中で、社員ひとりひとりにもチャレンジすることを推奨していて、新規事業や商品アイデアの社内コンペも活発だといいます。今回のプロジェクトを担当したタイカの内田英之さん、三國学さんに背景や想いについて聞きました。

「全社的にチャレンジが推奨されていて、現場から新しいビジネスのタネが日々生まれている」

内田英之さん 多機能素材事業本部 αゲル営業部(写真左)/三國学さん 研究開発本部 研究開発室 機能製品開発グループ(写真右)

内田 三國さんは、社内のビジネスアイデアコンテストで優勝したことがあるんです。弊社はいま、全社的にチャレンジが推奨されていて、現場から新しいビジネスのタネが生まれています。

三國 ただ私のアイデアは、いざ事業化となると、やはりどれだけビジネスに貢献できるのか?という部分がなかなか難しくて。ただこのアイデアだけではなくて、αGELで新しい領域を切り開いてビジネスにしていきたい想いはありました。私は研究開発なので普段静岡にいますが、東京にいる内田とチームになって、2〜3年後を見据えて何か新しいことができないかと考えていたんです。

「αGELの触感を面白がってくれる人が非常に多くて、これを何かに使えないかと日頃から思っていたんです」

UX評価マップのプロトタイプ

内田 最初の商談では「カットサンプル」という、αGELの見本を実際に触りながらお話しをすることが多いんです。その中で、お客さんから「触っていて気持ちいいですね」という声をもらうことが多くて。触感を面白がってくれる人が非常に多いので、これを何かに使えないだろうかと日頃から思っていたんです。

三國 カットサンプルって、本当になんの変哲もないサンプル素材なんです。ただの素材の切れ端をお客さんに触ってもらっても、αGELの価値は相手に響かないなと実はずっと思っていました。

内田 そこで小原さんと相談していく中で「感性素材」としてαGELの価値を再定義して伝えるのはどうか?と話があって。私たちの事業領域は「多機能素材」です。普段αGELの数値で測れる「機能面」を伝えていくことが多かったんですが、これを感性の分野に広げていくのはとても面白い試みだと感じました。

「目指すのは、触感のスタンダードをつくること」

体感ツールキットのプロトタイプ

内田 ロフトワークの小原さんからの提案を自分なりに解釈して、社内でもディスカッションしていく過程で「触感のスタンダードをつくる」みたいな方向性が出てきて、とてもしっくりしました。触感の領域でタイカがそういう基準となるものをデザインしたいと考えて、今回UX評価マップと体感ツールキットを作っていきました。

三國 モノって数値を変えれば無限にバリュエーションを作れてしまうんです。例えばゲルの硬さを43から45に変えても、数値としては変わるんだけどそれってどんな意味があるんだっけ?世の中のためになっているの?という思いがありました。今回のプロジェクトはそんな研究者としてのジレンマみたいなものへの挑戦でもありました。

Outputs

UX評価マップ「HAPTICS OF WONDER」

ひとがからだ全体で感じる感覚「触覚(HAPTICS)」に着目して構成された、αGELのUX評価マップです。

タイカが開発する柔軟素材αGELの魅力を「機能面」だけではなく、触って感じる「感性面」から評価し、「SOFT↔HARD、STICKY↔SMOOTH」という軸上に配置し、多様な感触があることを提示しました。

また、大量のサンプルをワークショップで触り分け、特徴のある12種類のαGELを選択し、音韻と印象の関係を評価する研究手法を用いて、αGELに名前を名付けました。このマップの上にGELを配置し、今後新しいプロダクトやデザインに活用する際に、「どんな感触か」という視点から触り分け、デザインや設計に向けたインスピレーション源や、これまでなかった領域へのαGELの活用を想定しています。

体感ツールキット「αGEL 12触見本帖 vol.1」

12種類のαGELがパッケージ化されたサンプルキットです。αGELを活用してものづくりをしてみたい人が、まとまったパッケージとして扱うことができ、実際に触り分けることが可能です。

色鉛筆に12色の彩りがあるように、タイカの生み出す感触「12触」を触りわけ、そのグラデーションを実感することができます。また、αGELのUX評価マップ「HAPTICS OF WONDER」のマップと組み合わせ活用することで、ひとつひとつがどんな特徴をもったαGELなのかも理解できます。

Process

触感の指標を探るワークショップ

「αGEL 12触見本帖 vol.1」とUX評価マップ「HAPTICS OF WONDER」の制作のポイントとして、触感の指標を探るワークショップを中心にした設計を実施しました。「具体的に触りながら考える場」と「多様な参加者との検討の場」を設けることを目的としました。ワークショップ参加メンバーはタイカ社員(研究職、営業職)、触覚研究者、デザイナー、盲聾の方、コピーライター、などを中心に構成しました。

ワーク1:「粗 – 滑」「乾 – 湿」「硬 – 軟」の3つの軸が交差した「質感地図*」の上にゲルをマッピングする

・用意された31種類のゲル(見た目に惑わされないようにすべて黒色に統一)に触れ、質感地図*上に直感的にマッピングする
・マッピングが終わったら、任意のゲルの周囲にあるものと比較しながら、相対的に正しい配置となっているかを判断し全体に調整を加える
・プロット用シールを、質感地図上に置かれた透明シートの上に直接貼りつけ、参加者全体の総意をプロットしていく
・各チームによって作成された質感地図を統合し、指標となるゲルの選抜を行う

* 質感地図:日本語の触覚に関するオノマトペを42語集め、それぞれの語が持つイメージを実験によって調べ、イメージの近いオノマトペが近く配置されるように作られたもの

[参照] オノマトペを利用した触り心地の分類手法”早川智彦,松井茂,渡邊淳司 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 15(3), 487-490, 2010.

ワーク2:選ばれたゲルに対し、触り心地をイメージできる名称やそれに値するキーワードをつける

・個人ワークとし、メタファー(共有できそうな具体的なものや体験)を用いて名付ける
・チーム内で共有し、共感度の高かったものをベースにチームで名前をブラッシュアップする

ワークショップの結果とその後のステップ

それぞれに名付けたところ「タイトスムース」や「ウェットスムース」といった形容詞を中心とした名付けと、「ハードなワークアウト」や「レンチンしすぎたお餅」のようにシーンや状態を想起させる詩的な名付けの大きく2種類の傾向が見られました。

この結果を踏まえ、感性価値指標のコミュニケーションツールには、より客観的に評価できる形容詞的表現と、触った際のイメージを掻き立てる詩的な表現の両者を掲載。ワークショップ後、表現の適切性をあらゆる角度から検証するために「音感」のスタディを参照し、チームで発音を繰り返し検討しながら最終名称を決定しました。

[参照] 渡邊淳司, 加納有梨紗, 清水祐一郎, 坂本真樹, 「触感覚の快・不快とその手触りを表象する オノマトペの音韻の関係性」,『日本バーチャルリアリティ学会論文誌』16(3),2011.
Maki Sakamoto, Junji Watanabe. “Bouba/Kiki in Touch: Associations Between Tactile Perceptual Qualities and Japanese Phonemes”. Frontiers in Psychology,(9)295,2018.

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