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[Event Report]再生プラスチックの活用が当たり前になる未来を目指して「プラスチック・ナイト ~Thinking plastic waste for the Future~」MTRL FUTURE SESSION vol.7
素材起点のイノベーティブなプロジェクトを多く手掛けるMTRL(運営:株式会社ロフトワーク)が立ち上げた「プラスチックごみを楽しく分別しよう」にコミットメントするためのコミュニティ「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」。第三回目で初-名古屋開催となった今回は、「再生プラスチックを取り入れた製品開発」に焦点を当て、プラスチックと私たちの未来の関係性について考えました。
私たちの生活にとても身近で便利でありながらも、埋立地の減少や石油資源の枯渇・再利用化といった課題も多いプラスチックという素材。プラスチックの資源循環に、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。会場には登壇企業の製品やサンプルなどが数多く展示されており、プラスチックの資源循環のこれからに興味のある参加者のみなさんとさまざまな意見交換が行われていました。
今回のゲストは、ヤマハ発動機株式会社 生産技術本部 チーフストラテジーリード 原田久さんと、いその株式会社 第二営業部 伊勢和樹さんです。再生プラスチックを取り入れた製品開発に20年以上取り組み続けているヤマハ発動機と、1957年創業のプラスチックリサイクルのパイオニア企業であるいその。異なる立場から再生プラスチックと向き合う両社の取り組みを中心に、イベントの模様をお届けします。
イベントを実施したFabCafe Nagoyaでは、各社から再生プラスチック材料のサンプルや、それらから製造されている製品のブースも並びました。トークや知識にとどまらず、実物を見て手で触れるなど五感で伝える展示がトークエリアを囲み、参加者の関心を惹きつける空間となりました。
約30年前から再生プラスチック活用に取り組むヤマハ発動機のさらなる挑戦
まずは、ヤマハ発動機株式会社 生産技術本部 チーフストラテジーリードの原田久さんによるゲストセッションです。
モーターサイクルやスクーターをはじめ、ボートや漁船、自動車用エンジンなど、多岐にわたる商品を製造販売しているヤマハ発動機。老舗楽器メーカーであるヤマハから分社化して、1955年に創業された企業です。
「なぜ楽器メーカーがバイクをつくるのか?とよく聞かれる」という原田さんは、その理由を次のように明かしました。
「ピアノのフレームは鋳鉄でできているため、ピアノづくりには鋳造技術が重要です。その技術を活かして他にもおもしろいものがつくれないかということで、エンジンをつくるようになりました」。
そんなヤマハ発動機では、2018年に「ヤマハ発動機グループ環境計画2050」を策定。「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「ネイチャーポジティブ」を目指すべきゴールとして設定したうえで、CO2をはじめとした温室効果ガス(GHG)の排出削減について、「スコープ1:自社が直接排出するGHG」「スコープ2:自社が間接排出するGHG」「スコープ3:原材料仕入れや販売後などスコープ1・2以外で排出されるGHG」のそれぞれで高い目標を掲げています。
「スコープ1・2に関しては、若干のカーボンクレジットを購入することで、2035年には完全にオフセットする見込みが立っています。しかし、問題はスコープ3。我々の商品を使用いただく際に、“ガソリンを燃やして排出されるCO2をどうやって削減するか”が目下の課題です」。
2050年までに事業活動を含むサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを目指しているヤマハ発動機では、100%サステナブル材への切り替えに向けて、グリーン材の採用やリサイクル材の拡大などを推進しています。具体的には、「樹脂→アルミ→鉄鋼」の順で進めており、すでに使い始めているリサイクル材として、ヤマハ発動機が自社開発した「環境対応型リサイクルポリプロピレン材」を紹介した原田さん。
「実は30年ほど前からポリプロピレンの100%リサイクル材を使用していたのですが、昨今、欧州の規制がどんどん厳しくなるなかで、市中回収材ではなく、製造履歴をトレースでき、かつ環境負荷物質が混入する懸念のないPIR材(石油化学メーカーや成形メーカーの工程内で発生する工程端材)だけを用いたリサイクル材を新たに開発して、二輪車製品での使用を始めています」。
このようなリサイクル材の開発においては、「バージン材と同等の性能を求め続けると、おそらく破綻する」と警鐘を鳴らす原田さん。「使用する側(ヤマハ発動機のようなメーカー)と加工する側(原材料を混合して新しい素材をつくるコンパウンドメーカー)が互いに歩み寄りながら、最適解を模索することが大切だ」と言います。
また、プラスチックのリサイクル材を耐久消費財に適用する際の課題として、原田さんは次の4つを挙げました。
・どうやって使用済み商品を回収するか。
・紫外線や熱による物性の低下を、商品設計において、どう加味するか。
・市場で使用禁止物質の混入を防止するには、どうすれば良いか。
・リサイクル材を使った商品に対する消費者の価値観を、どう変えていくか。
「みなさんと一緒に、これらの課題を解決していきたい」と締めくくりました。
廃車から新しい自動車を生み出す「Car to Car」で未来の地球を守る
次に、いその株式会社 第二営業部 伊勢和樹さんによるセッションです。
「いその株式会社では、プラスチックのリサイクル材開発を通じて、自動車や家電、事務機器メーカーの持続可能な資源循環を実現しています」と語る伊勢さん。プラスチック回収から再生までの取り組みについて、事例を交えながら詳しく説明していただきました。
「再生プラスチックを製造する際、私たちはまず、履歴が明確な廃プラスチックを回収し、適切に選別します。そして、これらをベースにして、顧客のニーズに応じた特性を持つリサイクル材を設計・製造します。強化材や機能材、さらにはバージン樹脂を適宜添加することで、さまざまな用途に対応するエコプラスチックを生み出しています」と話す伊勢さん。
さらに、再生材のつくり方についても言及しました。「まず、回収した廃プラスチックを、小さなタンブラーという機械で、均一に混合します。その後、混合材料を試験機でテストし、顧客が求める物性を実現するために、どのような添加物を混ぜるかを、慎重に検討します。最終的に、大きなタンブラーで材料を攪拌し、大きなルーダーで造粒して、ペレットを製造します。これが、最終製品となるのです」。
伊勢さんは、具体的なリサイクル事例として、使用済み自動車から回収したプラスチックを、新しい自動車部品に再生する「Car to Car」の取り組みを紹介しました。
「廃車になった自動車部品を回収し、60%を車の内装品へ、40%をバンパーなどの外装品へとリサイクルしています。これにより、年間約7,000トンのリサイクルグレードを日本国内の自動車産業へ納入しています」。さらに今後は、この技術を建材などへも応用することで、カスケードリサイクルの拡大も見込んでいるそうです。
また、いそのでは、地域社会や大学との連携も重視していると言い、伊勢さんは福岡県大木町で行われた産学民連携のリサイクルプロジェクトを紹介しました。「このプロジェクトでは、市民参加型のワークショップを開催することで、市民主体でのプラスチックリサイクル社会の形成に向けた支援を行いました。また、私たちからも代替素材や対策の必要性についてメーカーへ提案するなど、地域全体でリサイクル意識を高めていけるよう、支援しています」と語りました。
最後に、今後の課題として、伊勢さんは次のように述べました。「再生材の需要は増え続けている一方、再生材を安定供給するためには、再生原材料のコスト削減と安定的な調達が課題となっています。そのために最も大切なのは、地域に根ざしたリサイクルプロセスの効率化です。地域の事業者同士が連携し、地産地消のリサイクルプロセスを構築することで、カーボンニュートラルを目指す取り組みが、より効果的に実現できると考えています」。
リサイクル材の使用がもっとポジティブに受け入れられる世界にしたい
続いては、ゲストのおふたりとロフトワーク長島によるクロストークです。
長島:かつて「リサイクル材の価値は、価格が安いことにある」と考えられていたように思うのですが、最近ではどうですか?
伊勢さん:たしかに昔は「リサイクル材を使ったほうがコストダウンにつながりますよ」とお客様にご案内していました。しかし、ここ数年、お客様のなかでリサイクル材に対する価値観の変化が起きているように感じています。「たとえ手間や時間、コストがかかったとしても、リサイクル材を使いこなさなければならない」と。そのため、お客様と私たちとの関係性も「売る/買う」の一方通行ではなく、「一緒に協力して良い材料をつくろう&使おう」というものに変わってきたように思いますね。
原田さん:私はメーカー側としてリサイクル材をつくっている立場だから、リサイクル材にはさまざまな価値があると思っていますが、社内の設計の人たちには、それがなかなか伝わらないんですよね。バージン材とリサイクル材って、見たり、触ったり、匂いを嗅いだりするだけでは、明確な違いがわからないから。「リサイクル材を使った商品を求めている人が、どれだけいるの?」と言われたら、返しようがない。もし消費者のみなさんが「リサイクル材を使っているから、この商品を選ぶ」という価値観に変われば、設計の人たちの考え方も変わってくるんでしょうけど。
長島:たしかに……。会場からも「リサイクル材を活用することによる価格アップを許容する消費者は、どれほどいるのでしょうか」という質問をいただいているのですが、いかがですか?
原田さん:今のところゼロじゃないですか?リサイクル材を使うことによってコストアップした分は、他のところでコストダウンしてカバーして、価格には転嫁しないというのが、今の一般的なやり方なので。
伊勢さん:欧州では規制を確実にクリアしている商品でなければ販売できないので、ある程度、消費者のなかでも許容されているのでしょうけど、日本国内は厳しいでしょうね。
長島:欧州の話に関連して、「リサイクル材を使用した商品に付けられる、エコマークのような認証制度はあるのでしょうか」という質問もいただきました。
伊勢さん:最近トレンドになっていて、欧州で積極的に取得されているものとしては「GRS(Global Recycle Standard)」がありますね。商品にラベルを貼るにはリサイクル材が50%以上含まれるなどの要件があります。日本でも政府がそうした認証制度を推奨するようになれば、いつか消費者の意識も変わる日がくるかもしれません。
長島:今の子どもたちは環境教育をしっかり受けていますので、日本でもこれから転換期が来るのではないかと思いますね。では最後に、おふたりからメッセージをお願いします。
原田さん:日本は資源がどこにもないので、あるものを使い倒して、買ってくる資源が減るような社会になると良いなと思いました。
伊勢さん:プラスチックは、すごく便利なものです。プラスチックがなくなったら、今の生活が立ち行かなくなるくらい、いろいろなところで使われています。この便利なものを今と同じか今以上に使っていける社会にするために、「ちゃんとリサイクルして使い続ければ良いんだよ」というメッセージを発信していけたらと考えています。
長島:ありがとうございました。
同じプラスチックのように見えて、バージン材とは異なる物性をもつ再生プラスチック。リサイクル材を活用するために生じる数々の課題を乗り越えるには、私たち一人ひとりが素材に目を向け、知るところから始めていく必要を感じました。普段から身の回りの生活用品やプラスチック製品に意識を持ち目を向け、これからのリサイクル材の活用につながるヒントを見つけていきたいですね。
みなさんも一緒に、プラスチックと上手な付き合い方ができる未来を築いていきましょう。「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」、次回の開催もどうぞお楽しみに!