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[Event Report] マテリアルの感性・インタラクション・自在化が生み出すイノベーション 〜 MTRL FUTURE SESSION vol.02 #HAPTIC DESIGN

イベント概要

多様な領域のフロントランナーとともに、最先端の事例や取り組みについて議論しながら、未来のライフスタイルやビジネスの新たな機会領域を探る「MTRL FUTURE SESSION」。第2回では、フィジカルなマテリアルに「感性」や「インタラクション」「自在化」といった要素が備わることで生まれる未来の当たり前を想像します。

イベント概要:MTRL FUTURE SESSION vol.02 #HAPTIC DESIGN 〜マテリアルの感性・インタラクション・自在化が生み出すイノベーション〜

セッション1:話題提供

「意味」の付与により
素材にどのような価値が生まれるのか

イベントの冒頭ではファシリテーターの株式会社ロフトワーク MTRLの柳原一也がイベントの企画意図を説明しました。

柳原は材料開発には①明確な社会的な要請に合わせて機能・性能を更新することを目的とした開発、②材料にそれまでなかった「新しい意味」を付与する開発があるのではないかと問いかけました。

そして、今回のゲストの皆さんは特に②を探求している方々で、素材が持つ意味に対してユニークなアプローチで向き合い、研究開発を進められていると紹介しました。


感性がひらく素材の可能性

株式会社タイカの内田英之氏が紹介したのは、同社が開発した柔らかい多機能素材「αGEL(アルファゲル)」。18mの高さから生卵を落としても割らずに受け止めることができる衝撃吸収性の他、防振や熱伝導などの機能を付与でき、ランニングシューズや腕時計、ペンのグリップなど、すでに私たちの生活のさまざまな場面で活躍している素材です。

これまではいかに顧客の要求に応えられるか、という基準で開発を重ねてきましたが、サンプルを触った人から口々に発せられる「気持ち良い」に注目。衝撃吸収や熱伝導だけではない、新たな可能性が潜んでいると考えました。αGELの最大の特徴は「直感的に感性に訴求できる点」であると捉え、「感性素材」として素材の可能性を拡張するプロジェクトが始動しました。

このプロジェクトで制作したのは「HAPTICS OF WONDER 12触αGEL見本帖」というサンプルキットです。色にカラーコード、音に音階があるように、柔らかさにも指標があるもののあまり知られていません。12種類の柔らかさのαGELにそれぞれ消しゴムや赤ちゃんの手、求肥など連想されるモチーフを充ててイラスト化。既存の指標による数値と照らし合わせて、感覚的にも論理的にも分かりやすくマッピングしました。

このマップとサンプルをパッケージ化することで、柔らかい素材を求めているデザイナーや開発者にαGELならではの体験と感性価値を共有しやすくなり、共創のアイデアを引き出すきっかけとなっています。社内外の反響も上々で、これまでとは違った領域のパートナーにもリーチし、新たなプロジェクトが起こりつつあるそうです。

モノの機能を自在に設計可能にする自在化材料開発

大嶋泰介氏がCEOを務めるNature Architects, Inc.は、構造物によって製品に機能を埋め込む技術に特化した企業です。たとえば部品を見直し、組み立て工程を削減することでゲームスティックの故障リスクを低減させる、というようなことができるのが同社の特徴です。

なぜ部品数を減らしたり組み立て工程を省くことができるのでしょうか。同社が推進しているのが「メタマテリアル」と呼ばれる機能が意図的に設計された構造です。金属や樹脂といった材料から人工的に設計された構造を組成することで、「軽いのに強い」「既存の材料以上の衝撃吸収性を持つ」など新たな特性を備えたへと進化させることができます。しかしあまりにも設計や製造が難解なため、広く普及するには至っていません。そこで同社では設計アルゴリズムをソフトウェア化、メタマテリアルの普及に向けた活動を始めました。

この動画は、デモンストレーションとしてメタマテリアルによって作られた人間の腕のモデルです。3Dプリンタで出力されており、骨の硬さや皮膚の弾力、関節も曲がるように再現されていますが部品の組み立ては一切ありません。

DFM(Direct Functional Modeling)

通常の設計ツールは形状しか設計することができませんが、このソフトでは物理的な要件を入力することで自動的に構造を生成して適切な部分に割り当て、3Dプリントに限らず実用的な出力形態に合わせて図面化します。メタマテリアルによる材料の拡張、機能の拡張がこのソフトと彼らの活動によって実用性を伴い始めています。

MTRL・HAPTIC DESIGNの事例紹介

このイベントの主催でもあり、「材料/テクノロジー/ものづくり」を起点にしたクリエイティブ拠点であるMTRLでは、どのような触覚デザインに取り組んでいるのでしょうか。FabCafe MTRLプロデューサーの「弁慶」こと小原和也が、HAPTIC DESIGN PROJECTを紹介しました。

2017年度に立ち上げ以来、JST ACCEL 身体性メディアプロジェクトが主体となり、株式会社ロフトワークの協力で企画・運営をしてきた「HAPTIC DESIGN PROJECT」は、触覚を通したデザインやエンジニアリング、体験について議論するコミュニティです。研究室にこもって掘り下げるのではなく、クリエイティブアワードやワークショップ、また今回のようなミートアップなど、オープンな共創コミュニティというアプローチで触覚デザインの新たな価値を追求しています。

触覚デザインと聞くとセンシングやコントロールが先行しがちですが、同プロジェクトでは質感、実感、情感を含むデザインに重きを置いています。その一環として取り組んだのが、先述した株式会社タイカとの「HAPTICS OF WONDER 12触αGEL見本帖」開発です。パレットや色鉛筆のイメージで、それぞれの違いや一つ一つの素材が再現する質感を感覚的にキャッチアップできるサンプルキットを作ることでコミュニケーションの活性化を図りました。

見本帖を制作したことにより、機能的価値ばかりにとらわれるのではなく意味的価値を創出することができ、またクライアントとの関係性も共創パートナーへと変化して、新たな事業価値を見出す転機となりました。

マテリアルが生み出すインタラクション

続いて「情報の実体化」をテーマに研究者、アーティストとして活躍する山岡潤一氏が登場。作品を通してマテリアルの自在性が切り拓く可能性を考えました。

高速に3Dの物体を作り出す試みとして開発された「Dynablock」は、磁石の入ったキューブが、データをもとに新たなオブジェクトを形成するというもの。出力に時間がかかるという3Dプリンタの課題を解決し得るアイデアです。磁石で接合しているため、容易にリセットできる点も特徴になっています。デジタルファブリケーションの高速化、再利用化は山岡氏の一つのテーマで、他にも真空成形技術を活用した「ProtoMold」などに取り組んでいます。

Dynablock

 

ProtoMold


金型を使わず高速で立体物を作る研究にも挑戦しています。熱可塑性のあるプラスチック板の間にマスキングテープを挟んでレーザーカッターで切り抜き、軟化させて風船のように膨らませると即席で立体物を作ることができます。冷えたプラスチックは固まり硬化しますが、温めることで再び軟化し元の厚さに戻すことも可能です。

BlowFab

軽量かつ強度のあるハニカム構造に電子回路を組み合わせることで、内容量を瞬時に計測できる折りたたみの試験管立てを作るアイデアも生まれています。ゆくゆくは設計、出力の段階からすべて自動化し、折りたためるデバイスを誰でも作れる未来を構想していると山岡氏は語りました。

FoldTronics

セッション2:ディスカッション

技術や意味を付与することでマテリアルの「制約を解放」する

後半は登壇者揃ってのクロストークを開催、各人のプレゼンテーションに触れながら共通項や気づきについて議論が行われました。モデレーターは南澤孝太氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)です。

彼らの取り組みは、マテリアルに対してどのような「意味」を与えているのでしょうか。ユーザーが触れるためのマテリアルに携わる内田氏は、マテリアルの持つ機能を機能と感じさせない「自然さ、自由さ」を解放できたのではないか、と見本帖の開発を振り返りました。構造を取り入れることで材料が持つ既存の意味や属性にとらわれない価値を生み出すという点では、大嶋氏が紹介したメタマテリアルへの取り組みにも共通する要素が感じられます。

また、大嶋氏の取り組みを、材料をコントロールし新たな価値を生む取り組みと表現したとき、「情報の実体化」というテーマに基づき、マテリアルの特性を活かして新たなプロダクトを生み出す山岡氏の研究は材料の隠れた価値を掘り起こす取り組みと言えるかもしれません。

こうして振り返ると、各人ともアプローチは異なるものの「同じ山を登っている」ような印象を感じさせる、と南澤氏。従来は、材料やマテリアルの制約の中で開発や研究が行われてきましたが、彼らの取り組みによってこれまで認識されてきた材料の特性という枠組みを拡張、解放することで、これまで不可能だったアイデアを実現させようとしている、という点では共通項が見出せそうです。

一方、HAPTIC DESIGNという大テーマに立ち返ると、体験する、触れるという行為に強い制約のある現在、また新しい常識が定義されるであろう今後の「アフターコロナ」と呼ばれる時代は大きな転機となり得るはずです。彼らはこの時代とどのように対峙していくのでしょうか。内田氏は、いずれ事態が収束したとしても触れることへの抵抗は残るだろうとした上で、コミュニケーションを始め人と人との接触が失われることでのロスは大きいと指摘。触れなければならない、安心して触れられる場面に必要なマテリアルの開発を今後の課題として掲げました。
ものづくりをする上で欠かせない素材ですが、同時にものづくりの限界を決めているのも素材です。ゲストの皆さんが開発されているようなユニークな素材が今後ますます広がり、コラボレーションやクリエーションが進むことで新たなイノベーションにつながっていく予感が感じられました。

オンラインでの開催となりましたが、マテリアルが新たな要素を獲得しイノベーションを起こす事例を多角的に学べる濃いイベントとなりました。登壇者およびモデレーターの皆様、ありがとうございました。

 

MTRLでは、触覚のデザイン(HAPTIC DESIGN)、素材・技術の用途開発などのご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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