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[Event Report] Material Meetup KYOTO vol.17「それで固めるって本当にサステナブル? 明日からの接着テクノロジー」
2022年8月18日(木)に開催されたMaterial Meetup KYOTO vol.17のテーマは 「それで固めるって本当にサステナブル? 明日からの接着テクノロジー」。
「サステナブル」や「持続可能性」などの言葉は、もはや聞かない日がないくらいに一般的になってきました。素材分野でも、サステナビリティを訴求する素材が多く見られます。
しかし違和感を感じるときもあります。たとえば、原材料にサステナビリティにこだわった素材を使っていても、くっつけたり固めたりするところで一般的な石油系接着剤を使ってしまえば、分解できず使用は一度きり。そんな素材、本当にサステナブルなのでしょうか?
製造・加工に欠かせない、ものとものをくっつけたり固めたりする技術、「接着」が、今回のミートアップのテーマです。
「接着」といっても幅広く、顔料を固定する建築塗料用天然油を扱う老舗の油屋、土砂を固めて舗装にする天然セメント系材料など複数の環境配慮材料を扱うメーカー、そして牛乳や石膏ボードなど身近な廃材を固め美しい素材に再生する素材デザイナーなど、多彩なプレゼンターにご登壇いただきました。
さまざまな視点から見た「接着」を知り、プレゼンターと参加者で活発な交流が行われたイベントの様子をレポートします。
▼開催概要:Material Meetup KYOTO vol.17「それで固めるって本当にサステナブル? 明日からの接着テクノロジー」
https://mtrl.com/event/kyoto/220818_mmk17
『老舗油家の昔と今 〜お灯明から自然塗装油まで〜』 山中油店 淺原孝
山中油店は創業約200年。京都でも数少ない、創業当初の建物を使っている老舗です。
油はかつて、欠かすことのできないインフラでした。「油断大敵」という言葉があります。油を切らしてしまうと、夜に灯りをともすことができず、真っ暗になってしまいます。それを恐れた「油断大敵」という言葉が、今でも残っているのです。
油は灯りに使われるだけではありません。建物の仕上げにも使われてきました。
えごま油や桐油は「乾性油」という種類で、空気に触れると化学反応し、硬い膜になります。柱などにえごま油や桐油を塗って仕上げることで、防水ができるのです。しかも分子のサイズが小さいために湿気は通します。山中油店の建物は200年たっても朽ちることなく、きれいなままです。
ペンキではそうはいきません。湿気を逃さないために柱が腐ったり、ペンキそのものが剥げ落ちたりします。現代、ほとんどの商品に設計寿命や使用期限があります。期限前に買い換えて、要らなくなったものは捨てるのが当たり前の考え方になってしまっています。
しかし昔の発想は違います。半永久的に建物を使い続けることが前提になっているのです。
山中油店では、京町家のリノベーションも行っています。ただ古いものを守るだけでなく、現代の価値観にあわせて心が休まる空間をつくることに取り組んでいます。たとえばシックハウスなど問題が顕在化してきている現代だからこそ、自然塗料で仕上げられたほっとする空間の価値に注目されているといいます。
『ZEROカーボNソイル 環境を良くする素材の開発』HALVOホールディングス 永原一佳
HALVOホールディングスの永原さんは、実演実験しながら製品を紹介してくださいました。
まず水浄化剤「きよまる君」。上の写真の泥水に、硬貨の半分くらいの小さい粒一つ入れて振ると、どんどん汚れが固まっていきます。汚れが沈んだ残りは、下の写真のように澄んだ水になっていました。
この原材料は、火山灰。HALVOホールディングスの創業の地である鹿児島では、土砂災害の原因になったりする火山灰は厄介者でした。しかし火山灰があるから地下水が美味しくなるのです。この火山灰を使って、水を浄化する技術を開発しました。
そして天然舗装材「ZEROカーボNソイル」は、上述の「きよまる君」という火山灰からできた凝集剤と、海水からとれるにがりで、土砂を固めます。水をかけるとCO2を吸収しながら反応し、駐車場にも使えるほどの強度がある舗装になります。厄介者を原材料とし、CO2を硬化反応時に吸収し、さらに土の色のままなのでヒートアイランド現象も防止し、使い終わった後はそのまま土に還る。一石二鳥どころか四鳥が狙える材料です。舗装という一見不変に見える素材をCO2吸収材にする方法を見つけたことが評価され、Material Driven Innovation Award 2022のファイナリストにも輝きました。
粉砕した竹を混合した「ブルーカーボNソイル」も新規開発しています。海中で藻が育ちやすくなる天然土系系素材で、水中からも環境を改善していきます。
永原さんは、『特別なものを作っているわけではない』と言います。『ものすごくアナログで、ごく自然に、ただ沈めておくだけ、ただそこに敷いておくだけ、ただ持っているだけで水がきれいになるという商品を作る、でもですね、なんかワクワクする、こういうものをこれからも作っていこうと思っています』と抱負を語ってくださいました。
『ゴミ箱が存在しなくなるような未来をめざす』On-Co、上回転研究所、村上結輝
村上さんは「素材デザイナー」。廃材を再生した美しい素材を通して、見る人が自分でも廃材で何かできないか考えたりし、アップサイクルを自分ごとにするきっかけを作っています。
村上さんが大事にしているのは、天然由来の素材で、最後には土に帰せること。
「バナナレザー」は、バナナの皮からできた、100%植物由来の皮素材です。
きっかけはコロナだったそうです。当時大学生だった村上さんは、授業がオンラインになり自宅で長い時間を過ごすことになりました。その中で、自分の出していたごみに向き合うことになり、こんなにも大量にプラスチックごみを出しているのかと気づきました。
村上さんの財布は「バナナレザー」製の2代目。1代目はコンポストに入れて土に帰しました。『自分で使っているものを土に返す体験まで消費者が体験して、いろんな気づきを得てもらうことで、生活を変えるきっかけになる素材になれば』と村上さんは言います。
村上さんの開発した「カフェオレベース」は、廃棄される牛乳からできた接着剤でコーヒーかすを固めたもの。実は、家庭にあるような機器で製造可能です。
村上さんは「マイクロファクトリー構想」を抱いています。それぞれのカフェで発生するコーヒーかすを「カフェオレベース」を作ることができたら、カフェはごみを出す場所でなく、素材を作り出すファクトリーになります。
そしてカフェは日常に広がる場所です。カフェという身近な場所で、訪れた人が廃棄に向きあえると良いのではと考えているのです。
「リセッコ」は、建材として使われる石膏ボードを再生した内装材。いま、数百m2規模の生産の体制を整えています。
村上さんは、こうした活動の結果として、アップサイクルなんて言葉がなくなったり、ごみという概念や、ごみ箱が存在しなくなったるする、そんな未来を目指しています。
クロストーク
最後は、本日の登壇者が一堂に会するクロストークです。
くっつけたり固めたりする「接着」に関係しながら、それぞれ異なる立場から挑戦をしていた3人の登壇者とディスカッションしました。
たとえば時間軸に関しての議論が行われました。
淺原さんは、過去からの歴史を振り返ると、昔からずっと続いていたものが途切れたと語ります。
建築用天然油も、戦後ペンキに代替され、ほとんど使われなくなりました。使われなくなった結果、知っている人も少なく、知っても使い方がわからないという分断が生じているそうです。しかしいま、化学物質過敏症の方が増えるなど現代だからこそのニーズが生まれ、建築用天然油で仕上げたいという事例が増えはじめています。分断を、もう一度繋いでいきたいと言います。
永原さんは現在こそ、次の世代に悪いことを残したくないと語ります。
たとえば温暖化は確実に次の世代を襲います。またコンクリートのなかには有害な焼却灰を混ぜたものもあり、風化したらどうなるのかと疑問を提示します。間違いが起きないのは、天然由来で、土に還るもの。
次の世代に繋げるためには、いま人間の考えられる、やれることをやっていくしかないと言います。
村上さんは未来の世代として、自分ごととして考え、実践していくと語ります。
原材料を天然素材にこだわるなかで、プラスチックを使わない生活を実際にしたそうです。その中で、プラスチックの良さ、便利さを実感し、人間側が不便を受け入れることが大事ではないかと気づきました。
誰かがするのではなく、自分が主体的に取り組むことで、楽しみながらもアップサイクルを当たり前のことにしていきたいと言います。
ほかにも、未来を描く一方で現実のビジネスと結びつける葛藤など、白熱した議論が行われました。
参加者からは、接着するだけなら効率的で便利な接着剤は存在するが、サステナビリティと結びつけて未来を考えることで、分離や分解など接着の後のことまで視界が広がるとの意見が挙げられました。
大盛り上がりの交流タイム
接着剤は、くっつけたり固めたりすることで機能を発揮します。人も同じ。人と人が交流することで、新しい組み合わせや、プロジェクトが発生します。
今回のMaterial Meetup KYOTOは、2年ぶりにオフライン会場も開設し、対面での交流タイムをとることができました。トーク終了後も熱気が冷める気配がなく、参加者のみなさんがコミュニケーションをとり、「こんなことできるんじゃないか」と発想を分かち合い、コラボレーションの種が生まれていました。
MTRLは、持続可能な未来の実現に向けて、イベント・ワークショップをはじめとした、さまざまな取り組みを行なっています。
当日の様子は動画でもご覧いただけます。
企業が取り組むサステナブルを後しする、グローバル・アワード「crQlr Awards 2022」スタート
現在、「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)2022」のアイデア・プロジェクト募集がスタートしています。応募受付期間は、2022年9月1日(木)から10月14日(金)まで。
2回目の開催となる今回も、「直線型ではなく循環型の評価を行う」 「名声ではなく、行動のためのアワード」「グローバル視点を獲得できる」の3つの指標を掲げ、国内外の第一線で活躍する審査員ともに循環型経済の実現を目指す企業や人を応援し、その実現を模索します。
ぜひ、企業で取り組まれているサーキュラーなアイデア・プロジェクトをお寄せください。皆さまのご参加をお待ちしています。
Material Meetup とは
Material Meetup は、「素材」をテーマに、ものづくりに携わるメーカー、職人、クリエイターが集まるミートアップ。
- 新しい領域でのニーズや可能性を探している、「素材を開発する」人
- オンリーワンの加工技術をもつ、「素材を加工する」人
- 持続可能な社会を目指して、「素材を研究する」人
- 機能や質感、意匠性など、複合的なデザインを行ううえで様々なマテリアルを求めている、「素材からデザインする」人
…そんな人々が「デザインとテクノロジー」そして「社会とマテリアル」の観点から、業界の垣根を超えてオープンに交流し、新たなプロジェクトの発火点をつくりだす機会を継続的に開催しています。
カタログスペックだけではわからない素材の特性や魅力を知り、その素材が活用されうる新たな場面(シーン)を皆で考える。「素材」を核に、領域横断のコラボレーションやプロジェクトの種が同時多発する場。それが Material Meetup です。
2018年のスタート以降、東京・京都の各拠点ごとに、それぞれ異なるテーマを設け継続開催しています。
■ Material Meetup 過去開催情報:https://mtrl.com/projects/material-meetup/