• Event Report

[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.12「骨・角に魅せられて」

本記事は、2022年10月26日に開催されたMaterial Meetup TOKYO vol.12「骨・角に魅せられて」のレポートです。(text : 吉澤 瑠美)

2022年10月26日(水)、MTRLが企画・運営を行う素材に着目したミートアップ「Material Meetup TOKYO」がコロナ禍を経て2年ぶりに開催されました。

vol.12のテーマは「骨・角に魅せられて」。古代には生活に欠かせない道具として使われていた骨や角ですが、その一方で信仰や儀式に使われたり、近年ではファッションに取り入れられたりもしています。また、強さや凶暴さを感じる人やグロテスクさを感じる人も少なくないでしょう。人類の暮らしや文化・文明と関係が深く、太古の昔から密接に関わり続けてきた骨・角。これらは「ものづくり」において人々にどのようなインスピレーションを与え、どのように創造性を加速させるのでしょうか。

今回は、ファッションデザインやアパレルシーンでのバックグラウンドを持つロフトワーク/MTRLのクリエイティブディレクター片平 圭がオーガナイザーを担当。イラストレーター・画家として活動する傍ら恐竜や人の骨格標本をモチーフとしたウェアラブルな作品を手掛けている下田昌克さんと、「博物館はもっと面白い」をビジョンに掲げ、骨格標本の魅力を世の中に発信している「路上博物館」の館長・代表理事である森健人さんを迎えてクロストークを開催しました。


今回のゲスト
絵かき・イラストレーター 下田 昌克さん(左)
路上博物館 館長 森 健人さん(右)

▼開催概要:Material Meetup TOKYO vol.12「骨・角に魅せられて」
https://mtrl.com/tokyo/event/201211_material-meetup-tokyo-vol-12

博物館はもっと面白い!骨に魅せられた研究者


学生時代にはコスプレに熱中していた森さんは、コスチュームのひとつとして豚のマスクを作る際、森さんは「豚のことを知らないと良いものはつくれない」と考えました。その後、解剖学の道へと足を踏み入れ、2015年に東京大学大学院博士課程を修了しました。

修了後は国立科学博物館(科博)に就職。あるとき、廃駅を利用した展示「旧博物館動物園駅特別展 アナウサギを追いかけて」の展示の一部を手がけました。その特別展では駅の廃止と同時期に死んでしまったパンダ、歓歓(ホアンホアン)の頭骨を展示するとともに、触れるレプリカも展示していました。触れられる展示であったものの、「触っていいですよ」と声を掛けないと、ほとんどの来場者は自ら触ろうとはしませんでした。。

そこで、別の展示では展示物をショーケースに収めず天井から吊るしたところ、手を伸ばし触っていく来場者がぐんと増えました。「ゆらゆら揺れる不完全さ、揺れても元の位置に戻る気楽さが良かったのでは」と森さんは振り返ります。

科博と聞くと上野の立派な建物と展示を連想する人が多いと思いますが、茨城県つくば市には筑波研究施設と呼ばれる研究所と標本収蔵庫を備えた施設があります。収蔵庫には膨大な量の資料や標本が収められており、研究者は収蔵品に触れることもできます。これが大きなポイントで、森さんは「目で見るだけが観察ではない」と言います。「直に触れると情報量が違う。いくら目で見てわかったつもりになっていても視覚に騙されていることが多い。手で触れること、肌に感じて形を捉えることの大切さ、面白さを私は伝えたいんです」(森さん)。

森さんがヒントを得たのは東京大学総合研究博物館の「モバイルミュージアム」というプロジェクトでした。展示物に触れる以前に、モチベーションのある人しか博物館を訪れないという課題に対して、森さんはより身近なところに博物館を持ち出そうと考えたのです。こうして2018年5月、上野公園で開催した路上博物館では1日に200人もの人が骨に触る経験をしました。

森さんは「博物館を図書館のような存在にしたい」と語ります。自ら「図書」を手に取り、読む事ができ、探せるだけでなく、司書に相談することもできるのが図書館です。しかし、博物館は「博物」に触れることも、目当てのものを探すこともできません。この現状を変えるため、森さんは標本の3Dモデルを公開しレプリカを作って誰でも触れるようにする活動を進めています。「触れる楽しさを知ると本物に触りたくなるはず。その楽しさが世間にもっと広まれば、博物館も変わらざるを得なくなるのでは」と森さん。路上博物館の革命は始まったばかりです。

森さんはMaterial Meetup TOKYO vol.10にも登壇されています。興味のある方はぜひ前回のレポートもご覧ください。
[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.10「バイオミメティクス」レポート | MTRL by FabCafe – Innovation platform for materials and creators.

二次元では体験できない興奮に突き動かされてつくられたヘッドピース

絵描きである下田さんが恐竜の骨をかたどった被り物を作り始めたのは、博物館での体験がきっかけでした。素晴らしい展示を観た下田さんは、その感動を持ち帰ろうとミュージアムショップを訪れたものの、心惹かれる商品に出会えず落胆したそうです。そこで博物館で観た標本を再現しようと考え、レプリカの自作を始めました。装着する目的で作ったわけではありませんでしたが、ふと頭蓋骨のレプリカを被ってみたところ、「二次元では体験できない興奮」に包まれ、しばらくは仕事も放り出して創作に没頭したといいます。

ヘッドピースを作り始めて11年。「いまだに作り方がわからない」と言いつつも、下田さんの作品は世界中で脚光を浴びています。

下田さんのヘッドピースは若くしてこの世を去った稀代のファッション・デザイナー、ヴァージル・アブローの最後のファッションショーでも使われました。下田さんのInstagramにヴァージル本人からDMが届いたことを発端に、ラフスケッチや写真の上に線を描き込んだものを交わしながら作り上げたと当時を振り返ります。その他、コム・デ・ギャルソンのショーでも採用されるなど、下田さんの作品はファッション業界の最前線でも活躍しています。

中には恐竜や動物ではなく怪物・SFといった実在しないものをテーマにした作品もありますが、まずはイメージをスケッチに起こすのが絵描きを本業とする下田さんの手法です。横顔を平面で描き、立体になるように徐々に要素を足していきます。

「なぜこんな形をしているのだろう、と考えながら描いていく。生き様が見えてくるとグッと来ます」と下田さんは語ります。オーガナイザーの片平も「絵画のバックボーンがあるので、質感の違いなど細部へのこだわりが強く感じられる。生き物らしさ、生々しさが表現されている」と下田さんの作品の魅力を語りました。

クロストーク:「骨・角」に魅せられて

ユニークな活動を展開する森さん、下田さんの話にオーディエンスは興味津々。後半は、片平が質問を投げかける形でクロストークを行いました。

まず気になるのは、今回のテーマにもある「骨・角」に二人が魅せられたきっかけです。「昔からエイリアンが好きで生物に興味を持った」という森さんの転機は、プレゼンにもあったコスプレとの出会い。コスプレをするようになり、生物を形作る骨についても研究を始めたのだそうです。

一方、下田さんは骨にまつわる記憶を遡ると松本零士作品や「タイムボカン」シリーズなど、TVアニメに描かれるガイコツが好きだったことに行き着くといいます。たしかに、「ガイコツ・ドクロ」と呼ばれる骨のモチーフは漫画や図案のいちアイテムとして頻繁に登場しますね。

森さんは「生物のパーツは一つの形が複数の機能を担うことが多く、一見するとわからないがよく考えると合理的なものが多い。そのグロテスクだが不自然ではない部分に惹かれる」と分析しました。

質問は会場に集まった参加者からも寄せられました。「一番好きな骨の部位は?」という質問に対し、学生時代にラッコの股関節を研究していた森さんは「骨盤と大腿骨が関節する部分の、ソケット状になっているところが好き」とマニアックな回答。触発されるように下田さんも「頭蓋骨が好き。頭の骨には表情があるんです」とさらにマニアックな回答を被せます。アニメなどでもガイコツが笑っているように描かれることがありますが、下田さんが肉食獣の頭骨を作るときにはその動物が叫んでいる顔をイメージしながら作るのだそうです。

参加者の注目は二人の作品にも寄せられました。「森さんが作る3Dプリントの骨は質感も再現されているのか」という質問もありましたが、現在は形状の再現に重点を置いているとのことでした。森さんは「情報を削ぎ落として作るのが3Dプリントのレプリカ。本物には勝てない部分がある」と補足しつつ、3Dプリントのフィラメント素材に繊維を練り込んだものが登場していることを紹介。「骨粉入りのフィラメントが登場すれば質感も本物に近づけられるようになるかも」と素材の進化に期待を寄せました。

会場ではプレゼンテーションにも登場した二人の作品の一部を展示。参加者は間近で見たり手で触れたりしながら、骨への関心をいっそう深めていました。

Material Meetup は、「素材」をテーマに、ものづくりに携わるメーカー、職人、クリエイターが集まるミートアップ。

  • 新しい領域でのニーズや可能性を探している、「素材を開発する」人
  • オンリーワンの加工技術をもつ、「素材を加工する」人
  • 持続可能な社会を目指して、「素材を研究する」人
  • 機能や質感、意匠性など、複合的なデザインを行ううえで様々なマテリアルを求めている、「素材からデザインする」人

…そんな人々が「デザインとテクノロジー」そして「社会とマテリアル」の観点から、業界の垣根を超えてオープンに交流し、新たなプロジェクトの発火点をつくりだす機会を継続的に開催しています。

カタログスペックだけではわからない素材の特性や魅力を知り、その素材が活用されうる新たな場面(シーン)を皆で考える。「素材」を核に、領域横断のコラボレーションやプロジェクトの種が同時多発する場。それが Material Meetup です。

2018年のスタート以降、東京・京都の各拠点ごとに、それぞれ異なるテーマを設け継続開催しています。

■ Material Meetup 過去開催情報:https://mtrl.com/projects/material-meetup/

最新の記事一覧