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[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.10「バイオミメティクス」レポート


MTRLが企画・運営を行なっている素材に着目したミートアップ「Material Meetup TOKYO」。2020年11月26日(木)に開催したvol. 10のテーマは「バイオミメティクス(生物模倣技術)」です。MTRLディレクターの柳原一也とBioLab ラボマネージャーの細谷祥央がオーガナイザーを務めました。

バイオミメティクスとは、数十億年にわたり進化を重ねてきた生物に着想を得て、彼らの形態、色彩、機能、行動、戦略を人間社会に応用する試みのこと。実際、蓮の葉の構造にならったフッ素コーティング不要の超撥水技術や、ヤモリの指先の構造を利用した接着剤不要の接着技術は、私たちの暮らしの中でも実用化されています。

今回は「BioClub」との共同企画として、生物の面白さと奥深さに魅了された研究者・アーティストを迎え、ディスカッションを通してバイオミメティクスの可能性を探ります。現代社会の課題を解決し、持続可能な技術体系を生み出す鍵は自然界にあるのかもしれません。

「BioClub」は、さまざまな分野においてバイオサイエンスに関心を持つ人々に対し、ネットワーク形成やディスカッションの機会、インスピレーションを生み出す場を提供するプラットフォームです。FabCafe MTRLに併設する、誰でも使用可能なオープン・ウェットラボ「BioLab」を拠点に活動しています。
http://bioclub.org/

イベント概要:Material Meetup TOKYO vol.10「バイオミメティクス」
https://fabcafe.com/tokyo/events/material-meetup-tokyo-vol-10

『環世界のとびら 〜新しい自然の見方をさがして〜』
人間・環境学 キュレーター 釜屋 憲彦氏

すべての生物は、それぞれ独自の主観的な知覚世界を持っていると考えられています。それが「環世界」です。釜屋氏はこの概念を提唱したユクスキュルの著書『生物から見た世界』(岩波書店)に衝撃を受けて以来、環世界をテーマに活動している研究者です。

たとえばセンチコガネは、巣穴から出て餌(動物のフン)を手に入れると、餌をかき集め後退しながら巣穴に戻る習性があります。しかし餌を巣穴に持ち帰るところで振動を与えると、餌を放り出し巣穴に向き直って帰ります。センチコガネは、巣穴を単なる寝床や産卵の場と捉えるだけでなく、身の危険を感じた際に逃げ込む「安全基地」として認識していることが窺えます。
生物の環世界について研究する一方で、人が他の生物の環世界を想像したり、真似ることの効果についても調べています。釜屋氏の言うところの「溶け入る観察(環世界の身体的翻訳)」です。釜屋氏は「生物を観察し、真似ることによって、介して私たちの無意識下に隠れているある知覚的・認知的な変数の存在に気づくことができるのではないか」と考えています。例えば、ヤドカリを用いて、以下のような実験を試みています。役者がヤドカリとかかわり合いながら(例:手にのせる、進行方向に障害物を置く)、ヤドカリの行動をじっと観察し、「ヤドカリ感」を身体的に獲得します。その後、ヤドカリを観察した部屋で、役者がヤドカリになりきって過ごす様子を観察・インタビューしました。すると、椅子をはじめ、部屋に置かれていたモノの意味(トーン)が観察の前後で変わっていたのです。つまり、ヤドカリのような身体の動きを真似たことで、部屋の感じ方、部屋とのかかわり方が役者の中で変わったということを示唆しています。

生物多様性とは、生きものの種の多様さ、複雑な生態系に存在する全ての生きもののいのちのつながりの豊かさのことを指します。それは、それぞれの生物の独立した環世界同士が調和している様です。それら一つ一つの環世界に目を向けることは、他者への興味関心を呼び起こし、また世界を寛容に捉えるきっかけになるかもしれません。

『生命と機械が織りなす世界』
アーティスト/ディレクター/デザイナー Dorita氏

ここで、アーティストとして活動するDorita氏による2つの作品をご紹介しましょう。

佐々木有美氏(六都多摩科学館 サイエンスコミュニケーター)との共同制作による「Bug’s Beat」は、虫の足音を振動と音で体感する作品です。普段聞き取ることのできない虫の足音を指向性スピーカーで拡張し、振動とともに体感するというものです。

生きている虫を見ながら音や振動を体感すると、自分や虫の大きさが変わったような錯覚を感じます。虫が苦手だった人がこの作品を体験したことで感情に変化が生じ「恐怖心が和らいで愛着が持てた」という声もあったそうです。

もう一つの作品は、ロボティクスなどに使われる人工筋肉を植物に装着する「The power of muscle with plants. もし植物に筋肉があったなら。」です。チャールズ・ダーウィンが『植物の運動力』に著したとおり、動かないものと思われがちな植物も実際には動いています。光のほうを向く屈光性をはじめ、種子を飛ばしたり、獲物を捕らえたりと、人間が感知できる速さの動きを見せる植物は意外と多く存在します。彼らに人工筋肉を装着することによって自分たち人間がロボティクスで何を得ようとしているのか、その絵用としている力は本当に必要なのか、改めて考えてみるという興味深い試みです。

氏はMTRLとの共同企画で「生命と機械の学校」というプログラムも開催。東京大学の講師を迎え人工筋肉について学ぶワークショップや、生物学者やエンジニアなどが集い、ロボットとの共生やしっぽの機能や役割について語るトークショーはいずれも大盛況で、研究者ではない人々からも多くの注目を集めました。

路上博物館 館長
代表理事 森 健人氏

博物館はもっと面白い、をビジョンに掲げ活動する「一般社団法人 路上博物館」。3Dプリンタを使った標本のレプリカを作って外に繰り出すことで博物館との接点を生み出す活動をしています。

館長の森氏はいわゆるコスプレイヤーで、より本格的なコスプレをするには造形のために骨格の構造や自然物の観察がしたいと考えていました。その結果、森氏は骨格の研究をするために大学院へ進学しましたが、すべてのクリエイターがものづくりのために博士課程に進むことは現実的ではない、というのが氏の結論でした。

「求める資料に出会える博物館を作りたい」、その発想の原点は東京大学総合研究博物館の提唱するモバイルミュージアムにありました。標本を博物館の外に出すことでよりオープンでカジュアルな博物館の在り方を模索する中、路上博物館をスタートさせたのは2018年。サイエンスの閉鎖的な印象を払拭するため白衣に対をなす黒衣をトレードマークに、また展示の場でも気軽に触れられるよう標本を吊るし「揺れる展示」にするなど、従来のイメージを覆す博物館づくりに取り組んでいます。

「博物館には標本と向き合うための障壁が多い」と森氏は訴えます。図書館のように自分からアクセスし、自由にリファレンスワークができる博物館を目指し、標本の3Dデータを活用してますます面白い未来の博物館を創造します。

クロストーク

最後に、登壇者3名が顔を合わせてクロストークを実施。互いの活動に触れつつ、バイオミメティクスと社会の関わりについて議論を繰り広げました。

「バイオミメティクス」という言葉の堅苦しさにとらわれがち、と切り出したのは森氏。「人間の営みは生物の模倣によって育まれてきたはず」とシンプルな発想に立ち返ることを提案しました。釜屋氏も、カナダ北部の先住民族であるイヌイットがホッキョクグマがアザラシを狩る様子を真似て、アザラシ漁に活かしたとされる説を挙げ、「模倣することは理解すること」とこれまでも人間が生物に学び成長を遂げてきたことを補足しました。

続けて釜屋氏は、イイヅカミミズが葉を認識し巣穴に引き込む習性を紹介。脳のような複雑な組織を持たないミミズが葉の形状を把握し器用に葉を引き込むのは、ミミズが「より効率的なプログラムで」形を身体的に判別しているためではないかと指摘しました。まったく新しい人工知能を一から開発しなくても、生物模倣から驚くべき技術や機能が生み出せるかもしれません。

ドリタ氏はバイオミメティクスに関連し、この20、30年で提唱され始めている「バイオミミクリー」の概念を紹介。科学技術に紐付くバイオミメティクスは電気ありきのものが多い点を課題として指摘。自然界のように、少量のエネルギー消費で循環を生み出すシステムが実現できれば、社会問題が解決できるのではないかと話しました。「昆虫や植物は省エネルギーのシステムの中で、人類よりずっと長い年月を生きてきました。そこにヒントを得ることには希望を感じます」(ドリタ氏)。

オンラインでこの議論を見守ってきた視聴者の方々からも質問が寄せられました。バイオミミクリーより新しい概念として近年提唱されている「バイオインスパイアード」以降、次の概念、用語は生物分野に現れてきているのかという質問に対し、「既存の概念だけでは今の課題に立ち向かえないから新しい概念が出てきた。新しい言葉が生まれるのは新たな問題に立ち向かうためなのではないか」とドリタ氏は回答しました。

続けて森氏は「問題意識を持つ人が課題解決のために新しい概念を生み出しているように感じる。生物に携わる人々は生物の奥深さに魅了されていることが多いので、課題解決というアプローチはむしろ生物以外の分野から生じているのでは」と生物研究の魅力と注目度の高さを絡めて発言しました。

ミートアップの随所で表れた「役に立つか立たないかよりも、まずはただ楽しめばいい。そうすれば見えてくるものがある」という言葉が印象的でした。自然界に目を向け、さまざまな生物に関心を寄せることが現代社会に気付きを与え、ひいては課題解決のヒントに結びつくのかもしれません。

Material Meetup TOKYOは、今後も開催予定です。開催が決まり次第、FabCafe Tokyo公式サイトにてお知らせしますのでご興味ある方はぜひお気軽にご参加ください。