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[Event Report]ものとの付き合い方を考える——「ものを長く使い続ける? 〜修理やものを使い続けることで実現するこれからのユーザー体験〜」イベントレポート

古くなった家電は「買い替える」ことが当たり前になってしまっています。しかし、持続可能な社会の実現が叫ばれる今、身近にある家電との向き合い方を改めて考え直す必要があるのではないでしょうか。そのような問いのもと、これからの家電のあり方・関係性を探るために、本プロジェクトは立ち上がりました。

FabCafe Nagoyaでは、2日間にわたるイベントを開催。Day1では「かでん保健室」と題し、家電の修理相談およびペイントワークショップを行い、Day2ではものを「使い続ける」ことにまつわる様々なアプローチに取り組んでいるゲストとともに、「これからの暮らしにおけるものとの向き合い方」についてトークセッションを行いました。

本稿では、Day2のトークセッションの模様をお届けします。

登壇者のご紹介

まずは、日頃からものを使い続けることに対して、さまざまなアプローチで取り組むゲストの3名によるプレゼンテーションの内容をご紹介します。

ブランドの垣根を超えた6社合同のリペアイベント「DO REPAIRS」発起人
パタゴニア日本支社サーキュラリティ部門ディレクター 平田健夫さん

パタゴニア日本支社サーキュラリティ部門ディレクター 平田健夫さん

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッション・ステートメントに掲げ、昨年創業50年を迎えた「パタゴニア」という老舗アウトドアブランドを営んでいます。

「ビジネスのために環境活動をするのではなく、環境を守ることこそが私たちの究極の目的であり、そのためにできることをやっていこうという想いで仕事をしている」と語る平田さん。

パタゴニアでは「修理して長く使う文化」を提案するために、通常のリペアサービスと並行して、「Worn Wear Tour」を実施しています。このツアーは、廃材を再利用してつくられたリペアトラック「つぎはぎ」に、多数の生地や糸、パーツ、2台のミシンを載せて、パタゴニアのリペアスタッフが全国各地を訪れ、ブランド問わず洋服や鞄などの修理を行うイベントです。

「なぜものを長く使うことが大切なのか。使い続ける人の心の豊かさにつながることはもちろんのこと、環境負荷を下げられる効果があるからです。衣類の寿命が9ヶ月延びれば、環境負荷を20〜30%低減できると言われています」(平田さん)

この「Worn Wear Tour」の発展版として実施したのが、「DO REPAIRS」というリペアイベントです。その最大の特徴は、ファッションの発信地であり消費のメッカとも言える渋谷・原宿エリアで、ブランドの垣根を越えて、ブランドミックスで協力しながら、「専門スタッフによる修理サービス」「自身で修理体験ワークショップ」「プロのメンテナンスアドバイス」をテーマにしたブース運営を行うこと。第2回の開催となった2023年の「DO REPAIRS」には、全11ブランドが参加しました。

2回目のDO REPAIRS、人気アウトドアブランドが集結。 画像引用元:https://www.gore-tex.com/jp/articles/maintenance/do_repairs

「『ものを買ってもらうこと』を競合ブランドと肩を並べて仲良くやるのは難しいけれど、『ものをなおして使い続ける喜びや価値を伝えること』であれば、ブランドが手を携えながら取り組めるのではないか」という発想で、平田さんは動き出したと言います。

11ものブランドが共同して、垣根を超えてやることで、それぞれのブランドの事情からの行き違いなどもあったが、何度も何度もミーティングを重ねて、地球環境への思いやりそして、心の豊かさを提供していきたいというステートメントの部分がブレないように、考えて実践しました。

「もちろん大変なことはたくさんあるものの、こうして『ものを大切に使い続ける』『循環を楽しむ』といったカルチャーが根付いていけば、社会はゆっくりでも良い方向に変化していくのではないかと信じています」(平田さん)

地域に根ざしたまちの工作室「西千葉工作室」主催
株式会社マイキー ディレクター 西千葉工作室・HELLO GARDEN 代表 西山芽衣さん

株式会社マイキー ディレクター 西千葉工作室・HELLO GARDEN 代表 西山芽衣さん

千葉市稲毛区を拠点に、地域やそこにある人々の暮らしをより良くするプロジェクトをデザイン・実践する株式会社マイキー。そんな同社が手がける「西千葉工作室」は、木工・洋裁・電子工作に使用する道具や、3Dプリンタやレーザー加工機といったデジタルファブリケーションを備えるまちの工作室です。ここでは生活者が自ら「つくる」「なおす」「つくりかえる」を楽しみながら、暮らしをアップデートしていると言います。

「ここに来る人たちのゴールは、単なるものづくりではありません。自分自身のやりたいことや手に入れたい暮らしのために、“つくる”という手段を求めて来ています」(西山さん)

「西千葉工作室」では、廃盤になったカメラのレンズキャップをなくした人が、自分の名前入りのキャップをつくったり、マルシェに出店する人が、看板やオリジナルのクッキー型をつくったり。学生や主婦、リタイアしたエンジニアやデザイナーなど、さまざまなバックグラウンドを持つ26名のスタッフに相談しながら、思い思いの「つくる」「なおす」「つくりかえる」を実践することができます。

西千葉工作室での家電をばらすワークショップの様子 画像引用元:https://nishichibakosakushitsu.com/

こうした場を提供する以外にも、「壊れたらすぐ捨てるのではなく、なおして使い続けるという選択肢がある」ことを伝えるために、「家電をなおす会・ばらす会」「なんちゃって金継ぎ」「染め直し」などのワークショップも実施。「ものづくりが身近にあることで、ものとの付き合い方が大きく変わる可能性がある」と語る西山さん。消費一辺倒な暮らしに慣れきっていると、“工夫する”“試行錯誤する”といったクリエイティビティを発揮する機会は減ってしまいがちですが、自らの手で自分の暮らしを理想のものに変えていく発想を持つことで、社会に対して興味・関心を持つことにもつながるのだと言います。

また、「社会は私たち一人ひとりの暮らしでできています。ものづくりを通じて、誰かに助けてもらったり、誰かを助けたりすることが、新しい人と人の関係性・環境と人の関係性・地域と人の関係性を変えていく可能性がある。居場所づくりや自己肯定感の醸成などウェルビーイングにつながっていることを実感している」と語りました。

未来起点のプロダクト開発「ラムダッシュ パームイン」デザイナー
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター デザイナー 別所 潮さん

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター デザイナー 別所 潮さん

シェーバーといえば、「男性が使う道具」や「大人のたしなみ」といったイメージから、メカめかしいデザインが思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、昨今ではジェンダーレスの価値観が定着し、男性に男性性を求める風潮は減る一方、ものを長く大切に使うエシカルな意識は高まっています。

「それなのに、なぜシェーバーにだけ、ステレオタイプな男らしさや多機能至上主義のような価値観が残っているのだろうか。世の中とのギャップを埋めていきたい」と考えた別所さんは、新しいシェーバーの開発に着手しました。

シェーバーをつくり続けて68年になるパナソニック。その技術はモーターや刃に凝縮されていることから、シェーバーの機能として本当に必要なヘッドだけを残すことにしたと言います。

別所さんが開発に携わり、デザインしたラムダッシュパームイン(写真左 )画像引用元:https://makenew.panasonic.jp/magazine/articles/063/

「手のひらに収まる骨格にすることで、手の一部のように思い通りに動かせて、愛着が湧きやすくなる。機械任せではなく、自分の肌と対話するような新しいシェービング体験を提供できると考えました。また、取っ手をなくした引き算のデザインは、無駄がなくシンプルで、サスティナブルかつタイムレス。5年くらいは変えなくても良いデザインを目指しています」(別所さん)

そのこだわりは素材にも及びます。今回採用されたのは、海水から抽出したミネラル成分から生まれた三井化学の「NAGORI®️」。陶器のような質感と熱伝導性をあわせ持つのが特徴で、「この素材の表情を活かしながら、唯一無二の価値を届けたい」と研究を重ねた結果、「ひとつとして同じ模様ができない」製造プロセスに辿り着いたと言います。

最後に別所さんは、パナソニックのデザイナーと技術者がサーキュラーエコノミーを考える活動に取り組んでいるとして、その一環として2023年10月に京都の建仁寺で開かれた「→使い続ける展」を紹介しました。

「これからの時代のプロダクト開発には、『創造力をかき立てる余白を残す』ことが大切だと考えています。製品開発の過程で環境に配慮するのは、もはや当たり前。そのうえで、長く使い続けることを前提として、製品をモジュール化するなど、メーカーもユーザーも第2の使い道を模索できるような、余白を残した製品をつくっていきたいです」(別所さん)

ものとの付き合い方を考える

続いて、プレゼンテーションの中で気になった点について、ゲストのみなさんが語り合いました。

対面だから伝わるリペアの価値

平田さん:西山さんの「社会は私たち一人ひとりの暮らしでできている」という言葉がとても印象的でした。西千葉工作室に来られた方の印象的なエピソードがあれば聞いてみたいです。

西山さん:私たちは苦なく成功させることは目指していなくて、「自分の力で手に入れた」という達成感を持って帰ってもらいたいと思っているんですね。なので一人ひとりの方が思い出深くはあるのですが、なかでも記憶に残っているのは近所に住む中学生の男の子です。

彼は「卓球部で強くなるために、球が出てくるマシンが欲しいけれど、あまりにも高くてお小遣いでは買えないから、自分でつくれませんか?」と訪ねてくれたんです。そこでうちのスタッフがサポートしながら、お小遣いでも買える素材でどうしたらつくれるかを一緒に考えて、何日かかけてマシンをつくりました。それで練習した結果、彼は大会で勝つことができたそうです。

こんなふうに、みんな切実な願いを持っているので、その人自身のエピソードに触れられることが私たちのやりがいになっています。

平田さん:素晴らしい。きっとその子の人生にも大きな影響を与えているんでしょうね。

西山さん:私たちは場があるので、利用者さんが駆け込んでくるのを待っていることが多いのですが、平田さんのお話を聞いて、「ものを手入れしながら長く使おうよ」という意識を持ってもらうには、自分たちから出ていくのも大切だなと感じました。

平田さん:ありがとうございます。私たちパタゴニアとして、日本支社でも30年くらい前からリペアサービスを続けているのですが、ツアーでまわり始めたのは2019年からなんですね。地道な活動ではあるのですが、外に出ていくことで、イベントを知らずに、たまたま通りかかった方にも、考えるきっかけや体験を提供できる良さがあると思います。

対面なので相談しながら、カスタマイズしてなおせるのが良い。オリジナリティを出せるので、本当に喜んでいただけます。修理って、普段はなかなか日の目を浴びることはないのですが、そうやって目の前で喜んでもらえると、リペアスタッフも自分たちのやっていることの意義を実感できますし、やりがいや生きがいにつながっていると思います。

「安全性担保問題」にどう向き合うか

別所さん:「家電をなおす会・ばらす会」をされている西山さんに伺いたいのですが、メーカーに対して「こんなふうにつくってくれたらいいのにな」とか、「こんなシステムがあったらいいのにな」といったご要望はありますか?

西山さん:「安全性担保問題」と私は呼んでいるのですが、家電には機能性に紐づく安全性があるので、素人がどこまで手を入れていいのか、その範囲を判断するのが、すごく難しいんです。それは、「つくる」「なおす」「つくりかえる」場を提供している立場として、どこまで安全性を担保する必要があるかも含めてですね。

そのあたりをメーカー側で明確にしてもらえると、ありがたいなと思いますね。あとは、パーツだけでも手に入るようになるとうれしいです。製造が終了しても「このパーツさえあればなおせるのに」というものがあるので。

別所さん:そうですよね。どうしても私たちメーカーは100点のものをつくりたがるのですが、それがお客様の自由さを奪っているというか、リペアするときの障壁になっているよね、という話は社内でもよくしているんです。余白を残したプロダクト開発に一歩でも近づいていけたらと思っています。

平田さん:「安全性担保問題」は、私たちも痛感しています。「DO REPAIRS」でも、修理したものをどこまで製品保証するのかなど、ブランドごとにさまざまな基準があって。

西山さん:ものを提供する側がどこまで自分たちのリスクヘッジをするのか、ユーザー側がどこまで提供者に責任を求めるのか、その線引きが難しいですよね。ユーザー側がものを長く使うために、ある程度の不具合は許容するくらいの意識を持てるようになるといいのかもしれません。

別所さん:今回おふたりの話を聞いて、生活者が受動的に消費するだけではなく、“能動的に生産する”トレンドに変わってきているのかなと感じました。「自分なりに使いこなす」とか「自分で使い方を考える」といったニーズに応えられるようなアイテムをつくっていきたいです。

ゲストのみなさんから、ものを「使い続ける」ためのヒントをたくさんいただけたのではないでしょうか。今回のイベントを第一歩として、ロフトワークのMTRLでは、みなさんと一緒にリペアのムーブメントを起こしていけたらと考えています。

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