- Project Report
アイデア創発とプロトタイピングで国産材の可能性を開拓・更新 WOOD CHANGE CHALLENGE
◎ 本プロジェクトは、MTRLを運営する株式会社ロフトワークがプロデュース・ディレクションを手掛けています。
Outline
2020年林野庁補助事業の一環として、全国木材組合連合会(以下、全木連)の後援により、国産材の新たな需要創出・用途拡大に向けて、従来とは異なる形式でのコンペティションを、ロフトワークが主催しました。
プロジェクトチームは、プロジェクト全体を「WOOD CHANGE CHALLENGE」と題し、その中心プログラムとしてアイデア公募「WOOD CHANGE AWARD」を開催しました。本アワードは、オンライン公募プラットフォーム「AWRD(アワード)」を通じて実施され、以下の点を達成することを目標としました。
- 国産材の強み・特徴の認知度の向上
- 特にこれまでに関係性のなかった新しいクリエイター向けに、木材・国産材の魅力を認知させる
- 国産材の可能性が更新・拡張される(新しいマーケット展開ができる)
さらに、新しいアイデアをより市場展開に近づけるための検証プログラムとして「WOOD CHANGE CAMP」、アワードのインプットとPRを兼ねた「WOOD CHANGE Meetup」「WOOD CHANGE Exhibition」も同時に実施。複数のプログラムを通して、統合的なアプローチから国産材の新たなマーケット展開をより現実的なものとしました。
プロジェクト概要
- プロジェクト期間:2020年9月〜2021年3月
- 体制:
- クライアント:一般社団法人 全国木材組合連合会
- プロジェクトマネージャー:北島 識子
- PMO:原 亮介
- クリエイティブディレクター:冨田 真衣子 林 剛弘 小檜山 諒 細谷 祥央
- 動画撮影・編集:黒沼 雄太
- プロデューサー:井上 龍貴(以上、株式会社ロフトワーク)
- 企画・ツアー実施:岩岡 孝太郎 松本 剛 志田 岳弥 井上 彩(株式会社飛騨の森でクマは踊る)
- キャンプチームメンタリング:小野 直紀(『広告』編集長/博報堂monom代表/YOY主宰)元木大輔(建築家/DDAA/DDAA LAB代表)
- キャンプチームディレクション:浅岡 秀亮 門井 慈子 黒田 晃佑(飛騨の森でクマは踊る)
- 企画・イベント・展示実施:金岡 大樹 藤田 健介 ケルシー・スチュワート 木下 浩佑 Kalaya Kovidisith 吉岡 直希 斎藤 健太郎(FabCafe)
執筆:後閑裕太朗(loftwork.com編集部)
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
Process
国産材のイメージを変えるためのアワード設計
日本は世界でも有数の森林国ですが、木材輸入の自由化以降、低価格な外国産木材の需要が高まり、国産材の使用率は急速に減少していました。近年、これは回復傾向にあるものの、林野庁の発表によると、2019年の国産材と輸入材を併せた総需要量のうち、国産材の供給・利用量は約38%に留まっています。
林野庁の指針では、林業・木材産業における「伐って、使って、植えて、育てる」継続的なサイクルに向けて、2025年までにこの割合を50%まで向上させることを目標としています。これまでに、建築や木工製品など、専門的なアプローチにおいて国産材の価値を再考し活用を促進する取り組みは行われてきました。しかし、国産材の価値を抜本的に“チェンジ(変換・転換・更新・拡張)”する施策は、あまり例を見ません。
そこで、本プロジェクトでは国産材のイメージを変える、用途を拡大するという目標のもと、国内外より未発表の作品やプロトタイプ、コンセプトスケッチやサービスまで幅広くアイデアを募集するクリエイティブアワード、「WOOD CHANGE AWARD」を開催しました。
林野庁が推進する「WOOD CHANGE*」から派生し、多様な領域のクリエイターに向けて国産材へのまなざしを変えるというメッセージを込めた「Would Change(きっと変えられる)」をアワードのコンセプトとしました。
- WOOD CHANGE(木質化)
身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造化・木質化するなど、木の利用を通じて持続可能な社会へチェンジする行動のこと。
本アワードでは、応募されるアイデアが既存の木質化・木材利用のイメージに縛られないよう、応募要項で「アウトプットされるサービスやプロダクトは有形無形を問わない」というルールを設定しました。結果として、分野を超えたクリエイターたちから、プロダクトのアイデアスケッチからパフォーマンスまで、多様なアイデアが集まりました。
また審査員には建築家だけでなく、アートディレクターやプロダクトデザイナーを起用。審査基準に「意外性」や「拡張性」を設けるなど、従来の建築コンペティションとは異なる評価基準での審査としました。
国産材の価値転換を「作りながら」考えるキャンプイベント
アワードと並走して実施した「WOOD CHANGE CAMP」は、少人数のクリエイターを対象に、オンラインでのインプット&アイディエーションと奥多摩での見学ツアーを実施しながら、アイデアのプロトタイプを製作するプログラムです。
製作にあたって、まず「メンター」+「『飛騨の森で熊は踊る』クリエイティブディレクター」+「公募クリエイター」でチームを結成し、国産材の現場の課題感のインプット、アイデアのブラッシュアップなどを行いました。
https://hidakuma.com/blog/20210621_wood_change/
キャンプ期間中、参加チームの一部は飛騨を訪れ、プロダクト制作を行いました。 木材のコーディネートと制作のサポートを行ったヒダクマによる滞在記録レポートです。
PRとインスピレーションを目的とした関連イベントの開催
アワードの告知とクリエイターたちへのインスピレーションを目的として、オンライントークイベント「WOOD CHANGE Meetup」と、木材を使ったユニークなサンプル作品の展示イベント「WOOD CHANGE Exhibition」を開催しました。
エキシビジョンは東京・京都・名古屋・バンコクのFabCafeで開催され、不要となった木材の木粉を用いたケーキや、木材の変形を決まった形にデザインする技術の紹介映像など、木材のイメージを刷新する作品が並びました。また、各地域ごとに特色ある作品や、現地で製作されたものも併せて展示されました。
これらのイベントを通して、ローカルなクリエイターコミュニティにアプローチし、普段木材に触れない異業種のクリエイターたちが本アワードの存在を知るきっかけとなりました。
展示作品
なお、バンコクではトークイベントだけでなく、アイデアソンも実施。さらに、VRでのオンライン展示を行うなど、意欲的な展示表現を目指しました。
WOULD CHANGE CHALLENGE Ideathon at FabCafe Bangkok
would change online exhibition
https://gallery.styly.cc/scene/54fe92a2-fa9e-4580-ad87-5183f2f116aa
Outputs
VI策定
- PRツール制作(一部)
- モーショングラフィック
トロフィーの制作(株式会社DDAA/ヒダクマとの共同製作)
展示什器(株式会社DDAAとの共同製作)
アワード受賞作品
CAMP製作作品
Outcom
アワードの受賞作品やキャンプで生まれたプロトタイプは、着実に次の動きに繋がっています。
AWARDでブロンズ賞を獲得した「戻り苗」は、その後クラウドファンディングで目標達成、さらには企画団体であるソマノベースが法人化するなど、プロジェクトの実現に向けた動きが始まっています。
また、CAMP参加作品である「ForestBank™️」が素材として使用されるプロジェクトの開始や、「Forest crayon」が民放メディアに取り上げられるなど、それぞれ新しい展開を見せています。
https://fabcafe.com/jp/events/global/210924_talk-forestbank/
また、FabCafe Nagoyaで、「ForestBank™️」制作チームによるオンライントークイベントも開催されました。
Member
メンバーズボイス
“先人たちが長い時間をかけて育み、今も多くの方が長期的なスパンで改善に取り組まれている、国産材の課題に取り組む事。
半年という短期間の中で、私達が出来る事は、クリエイターの「作品」だけではなく、「目のつけどころ」と森・森林資源・国産材の価値をかけ合わせ、小さなプロジェクトの種を撒くことなのではないか、と仮説を立てる所から、プロジェクトの設計が始まりました。様々な行政、自治体、企業、クリエイターのみなさんの、熱い思いと創意工夫に、日々触れることが出来る、刺激的なプロジェクトに参加させていただけたこと、関わっていただいた皆様に感謝しています。”
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 北島 識子
“本件はロフトワークのリソースやアセットをフル動員して、向かい合ったPJだったと思います。クライアントの全木連からの依頼は国産材の新たな需要創出・用途拡大に寄与するコンペディションの依頼でしたが、「なぜ」そうする必要があり、そのためにどんな行動を応募者に起こしてもらいたいのか?という「そもそも」の部分に立ち帰りプロジェクトの概要の設計、それぞれのワーキンググループの組成ということを考えていきました。
特にPJの出発点となるコンセプト設計では、LW×FabCafe×ヒダクマの3社のメンバーがそれぞれの得意/特異な領域を掛け合わせながら、コアとなるコンセプトを導き出したことは、ロフトワークにしかできないことだったんじゃないかと思っています。
また、こういった全社でのチャレンジできる機会を作っていきたいです。”
株式会社ロフトワーク プロデューサー 井上 龍貴