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ウェアラブルデバイスとマテリアルが出会う時、どんな未来が開けるのか Material Meetup in 香港 [イベントレポート]

Covid-19や気候変動、急速に変化する世界で、テクノロジーと私たちの関係を改めて見直していかなければなりません。その流れの中で、エクササイズから買い物まで、人間の活動をサポートする応用分野として広がっているのが、「ウェアラブルテクノロジー」です。
今回のMaterial Meetup Hong Kongでは、ロフトワークとFabCafe Globalが、香港のThe Mills Fabricaと協力して、日本、シンガポール、香港からウェアラブルテクノロジーの先駆者たちをゲストとして招へい。彼らは日本、シンガポール、香港の国境を越えて、ファッションとテクノロジーが交わる議論の場で、アイデアを共有しました。
ウェアラブルデバイス、あるいは「着るテクノロジー」が、どのようにイノベーションを起こし、私たちの身体や世界を変えていくのか、イベント当日のレポートをお伝えします。

執筆(原文):JOANNA LEE
  訳:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)

会場では「Magarimono」による3Dプリントの靴を展示。来場者が間近で見ることができました。

Material Meetupは、今回初めて香港で開催。このイベントは、オンライン配信と2021年10月7日に香港の「The Mills Fabrica」で開催されました。The Mills Fabrica*は、地元の「テックスタイル」(テクノロジーとライフスタイル)のイノベーションを育成し、ウェアラブルや素材の創造、さらには生化学の分野のサポートを行っています。

*Fabricaは、Nan Fung Groupが2018年に設立した活性化プロジェクト「The Mills」のインキュベーション・イノベーションの部門です。詳細はこちら

The Mills Fabricaで開催されたMaterial Meetup HKイベントの登壇者とファシリテーターたち

コロナ後の世界で高まる、「触覚」体験の価値

花光宣尚氏と慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科Embodied Media Projectによる、カスタマイズ可能な全身用触覚インターフェース「Synesthesia Wear」

ハプティックサイエンティスト、Enhance Experience Inc./Synesthesia Labのテックリードであり、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の博士課程に在籍する花光宣尚氏は、ハプティック技術が今後どのように社会に浸透していくのか、をテーマに講演を行いました。

ハプティック技術とは、人間の触覚で「体験するもの」を対象とします。単に物理的な刺激だけでなく、ハプティックのデザインは、触ることで生まれる感情もその対象としているのです。花光氏は、携帯電話のバイブレーションなど、ハプティック技術の応用はすでにいたるところで見られますが、学問領域では、視覚や聴覚に比べて触覚の理解が進んでいないと指摘します。

花光氏が開発に参加した「Synesthesia Wear」は、衣服全体にバイブレーターを装着したウェアラブルデバイスで、仮想空間上の物体に手で触れる感覚を体験したり、身体の動きを感知して二次元のコミュニケーションを取ったりすることができます。

花光氏は、コロナ禍では私たちの触覚がこれまで以上に重要になっていると言います。ソーシャルディスタンスを取る必要性、あるいはロックダウンによって、「Skin hunger(触れ合うことへの飢え)」ともいえる現象が発生し、体と体の触れ合いの重要性が再認識されているのです。

ファッション業界における「無駄」をなくす

Magarimonoの靴

繊維の廃棄物は毎年9,200万トンも発生していると言われており、ファッションは環境に悪影響を及ぼすものとして認識されつつあります。フットウェアブランドの「Magarimono(マガリモノ)」やデニムブランドの「Unspun」のようなテックスタイルのイノベーターたちは、最新のテクノロジーを駆使して、サステナブルな活動を先導しています。

日本発のフットウェアブランド「Magarimono」は、伝統的なハンドメイド技術とテクノロジー、特に3Dプリンティングを組み合わせています。

 

マガリモノの創業者兼CEOの津曲 文登氏が紹介したのが、3つのパーツで構成されるマガリモノの靴。彼によれば、同社のミッションの大きな部分を占めるのが、制作過程での廃棄物を最小限に抑えることだといいます。通常のスニーカーは、数多くの部品を組み合わせて作られているため、どうしても廃棄物が発生してしまいます。しかし、マガリモノは、3Dプリンターを使って、スニーカーの部品をたったの3つに集約しています。

また、未来のスニーカーを作るために、マガリモノは通常の大量生産のルートを使わず、自社で生産することを選択したと言います。注文を受けてから生産することで、在庫をほとんど持たずに済むため、サステナブルでリスクの少ない生産体制を実現しています。

このモデルは、フットウェアだけでなく、さまざまなファッション製品にも応用できると津曲氏は考えおり「私たちがここで実現しようとしていることは、いわば『製品の未来を作る』ことです」と語りました。

 

UnspunのCEOであるWalden Lamは、会場から、ファッションのサステナビリティについて語りました。
Magarimonoと同様に、デニムアパレルブランドのUnspunも、ファッションのサプライチェーンの常識と負のサイクルを打ち破ろうとしています。

ラム氏は、「アパレルは多くの問題を抱えています」「そして気候変動は、私たちが向き合わなけてばならない大きな課題の一つです」と語ります。

彼は、業界における製品の産出量の過剰さを指摘し、100枚の衣服を生産するうち、15~20枚が埋め立てられていることを挙げました。

「私たちが世界に向けて問いとして投げかけているのは、『もし一枚一枚がオンデマンドで生産されていたら?』ということです」。UnspunはMagarimonoと同様、在庫ゼロのモデルで運営されています。

 

ファッション業界が混乱している中、新しいデニムアパレルブランド「Unspun」が新たな解決策を打ち出しています。

Unspunのジーンズは、ボディスキャナーを使って採寸した後、デジタルでデザインし、消費者一人ひとりに合わせて仕立てるフルカスタマイズジーンズです。ラム氏によると、Unspunでは生産工程に3Dウィービングも取り入れており、3Dスキャンと組み合わせることで、異なる織り構造など、より興味深い結果を得ることができます。

これからやってくる、「未来のトレンド」への適応

Lumos社のヘルメットは、内蔵されたライトでサイクリストの路上での安全を確保します。 気候変動が私たちの生産と消費のあり方を変えつつあるとすれば、コロナウイルスもまた、私たちの習慣を根本的に変えています。

Lumos Helmetの共同設立者兼CEOのEu-wen Ding氏によると、彼が会社を設立したときは、自転車への関心はそれほど高くなかったと言います。しかし、コロナウイルスによって、世界各地で「大規模な自転車ブーム」が起こり、ディン氏は通常の2倍から3倍も注文が入ったそうです。

 

また、彼はモビリティ分野のシフトチェンジについても述べました。Lumos Helmetは、ライトを内蔵した自転車用ヘルメットを製造しており、道路上のサイクリストを明るく照らします。Slate誌で「自転車通勤者が必要とするヘルメット」と評されたLumosヘルメットは、ターンシグナルとブレーキランプが内蔵されており、コンパニオンアプリも用意されています。

ディン氏は、Lumos Helmetが6年前に机上のアイデアとして始まって以来、モビリティは大きく変化してきたと述べています。E-BIKEをはじめとする数多くの新製品が登場し、テクノロジーのアップデートによって道路状況がより安全になり、その結果、より多くの人々が自転車で通勤するという考えを持つようになりました。

このようなトレンドの変化は、時代の流れの速さだけでなく、新しいニーズに対応するためのイノベーションの重要性を示しています。参加者からLumosヘルメットの製品ライフサイクルの終了について質問されたディン氏は、EOL製品は多くの企業にとって困難な問題であり、特にLumosのような企業にとっては、生分解性とヘルメットの耐久性が正反対のように見えることを指摘しました。

「生分解性とヘルメットの耐久性は相反するものです。多くの企業がグリーンヘルメットを作っており、我々もそれに参加したいと思っています。」

 

質疑応答では、業界の大きな課題について登壇者が意見を述べました。

また、他のクリエイターたちも、メーカーにとって深刻な問題となっている製品の長寿命化や使用済み製品の処理について、それぞれの会社やプロジェクトがどのように取り組んでいるかを語りました。

The Mills Fabricaのマギー・ルックが進行役を務めるQ&Aコーナーでは、来場者からクリエイターへの質問が相次ぎ、サステイナブルであると同時にインパクトのある製品づくりをいかに実現するか?が大きな話題となりました。

ラム氏は、持続可能性と消費の間には「本質的な緊張」があることを認めました。しかし、消費者を持続可能性に貢献する活動に引き込んでいくために、イノベーティブな製品が役立つという点では、登壇者たちの意見は一致しています。

「そういう時に、まさにThe Millsのような会社の出番ですね」とディン氏は語り、製品の可能性を信じてくれる投資家や後援者、ネットワークからのサポートも、成功には欠かせないと強調しました。

 

The Mills Fabricaの製品展示エリアでのネットワーキングセッション

FabCafe Globalについて

FabCafeは、MITの異端児ニール・ガーシェンフェルドが提唱した「Fab」革命にインスパイアされた、未来の製品、サービス、体験を創造することに特化した「Fab」イノベーションラボのシリーズです。ここでは、メーカー愛好家、企業、一般の人々が、ファッションからバイオまで幅広い分野のデジタルファブリケーションツールや体験にアクセスできます。2012年に東京で設立されたFabCafeのグローバルネットワークは、現在、バンコク、バルセロナ、香港など、世界11カ所でクリエイティブなコミュニティを提供し、育成しています。FabCafe Globalニュースレターのご登録はこちらから。