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マッシュルームレザーから考える – 生産することで環境を”良く”するプロダクトとは? インドネシア Mycotech Labに学ぶ循環型エコシステム

クアラルンプールから京都へ。ヴィーガンレザーから考える未来のものづくり。

世界的にサステナビリティが叫ばれている中、環境負荷の低い新素材として注目されているヴィーガンレザー。これまで開発されてきた多くのヴィーガンレザーが、素材の接着剤に化学素材を使用している中、インドネシアのバイオスタートアップMycotech Labは、キノコの菌糸を接着剤に活用することで、農業廃棄物など、植物の繊維を原材料に用いたヴィーガンレザーを開発しました。

2020年7月、30年後のサステナブルな社会を作るための活動「FabFuture」の一環で開催したトークイベントにFabCafe Kuala LumpurがMycotech Labをゲストとして招いたことがきっかけとなり、2020年12月〜1月に渡ってFabCafe Kyotoでマッシュルームレザーとプロダクトの展示が開催されました。2021年1月15日には、Material Meetup KYOTO vol.15「サスティナブル素材最前線:マッシュルームレザーに触れてみる」と題して、イベントを開催。ゲストはMycotech Lab共同代表のRonaldiaz Hartantyoさんと、京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labでバイオマテリアルの研究に取り組む津田和俊さん。この記事では、そのイベントでディスカッションされた内容をレポートします。

なお、イベントの動画もアーカイブ配信していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

イベント/展示の企画者で、聞き手をつとめた木下(左上)、KYOTO Design Labでバイオマテリアルを研究する津田さん(右上)、Mycotech Lab共同代表のRonaldiazさん(中央)。

関連プロジェクト:FabFuture(FabCafe Kuala Lumpur)

2050年までに世界人口が100億人に達すると予想される中、自立した未来のためのソリューションを探求し、デザインし、革新することを目的として、マレーシアのFabCafe Kuala Lumpurが取り組んでいるプロジェクト「FabFuture」。バイオマテリアルとしてココナッツの殻と茶葉からプラスチックの代替品として活用できるような素材を生成する実験を現在進めたり、新しい都市農業技術、今後の廃棄物管理技術、エネルギーと水供給システムのイノベーションなどにも取り組んでいます。

この企画の中で、クアラルンプールチームがスポットを当てたのが、「菌糸体」でした。農業廃棄問題のソリューションとして、また、革製品の代替をはじめとし、強くて軽い新たな素材構造の可能性を伝えるため、Mycotech Labをゲストに迎えてFab Meetup KLを実施しました。

レザーのようなMyleaとレンガのようなBiobo

はじめは「growbox」というキノコを作るキットを作ることからスタートしたというMycotech Lab。その後、テンペというインドネシアの大豆発酵食品からインスピレーションを得て、キノコの菌糸で繊維を固めてレンガのような建材を作ることに成功。そして、キノコの菌糸を活用したヴィーガンレザー「Mylea」を開発し、インドネシアで地元の農場と連携して、マッシュルームレザーの工場を運営し、地元のコミュニティとの連携により、地域に雇用も生み出しています。今では、インドネシアのファッションデザイナーなどとコラボレーションして、さまざまなプロダクトに展開しています。

 

初めてランウェイに登場したマッシュルームレザーとのこと

「Biobo」は内装・インテリアに使用できるボード状のマッシュルーム素材
地元の農場と連携して、マッシュルームレザーの工場を運営。地元のコミュニティとの連携により、地域に雇用も生み出している

農業や林業を繋げる仕組み作りを。

マッシュルームレザーを開発する中で注目したのが、牛の飼育・生産による環境負荷の大きさだったというRonaldiazさん。ヴィーガンレザーの「Mylea」は、単に動物性の原料を使用しないというだけでなく、環境に負荷を与えない製造プロセスを実現しています。

津田さんは、ヴィーガンレザーを作ることだけでなく、その仕組みづくりの大切さにも言及しました。Mycotech Labが開発するヴィーガンレザーは、小麦ふすまのような、農業で出た廃棄物や林業によって得られる樹皮を菌糸で繋げることで生成されています。Mycotech Labのような活動に取り組んでいくためには、農業や林業との連携についても同時に考えていく必要があるし、それぞれの生産と廃棄のプロセスを繋げる仕組み作りが必要だと指摘しました。

これはヴィーガンレザーに限ったことではありません。自分たちのステークホルダーを社会レベルに広げて生産/消費/廃棄のデザインをしていくことは、これからあらゆるものづくりにおいて必要な視点です。ただその時に、たとえば現在の日本の農業と工業の活動が関わり合っていないように、各々の生産活動が分断された現在の産業構造の中で、いかに相互の活動をシームレスに繋げるのかが大きなチャレンジポイントとなってきそうです。

分業によって見えなくなった構造を理解するために、FABがある

これまでの工業製品が、長持ちするものを、大量に、同じ品質で、低コストで生産することを美徳だと思われているなかで、これからサステナブルな工業製品を開発していくにあたり、その使用期限をどう考えていけばいいのでしょうか。同時に、「捨て方」があまり考えられてこなかった中で、どのように価値基準の優先度を決めていけばいいのでしょうか?

津田さんは、そうしたモノのライフサイクルを知るためにこそ、FabやMakeといったアプローチが有効なのではないかと話しました。産業の分業化が進んだことによって、私たちは部分的にしかモノに関われなくなっています。自分たち自身で生産から廃棄までの流れに関わってみることで、たとえば、どういう素材をつくって、どういう風に使って、最終的にどうやって分解するのか、そして、それらの活動にどんな責任が伴うのか、ということを知ることができるのではないかと指摘しました。

Fabやメイカーズムーブメントという言葉は、「自分のものを自分で作る」という、あくまで個人の創作活動という限定的な意味で捉えられることも多かったですが、生産活動の持続可能性における重要なアプローチとしてあらためて位置付けることで、これからの産業において大切なポイントが見えてきます

近代社会において効率化と分業化が進んだことで、大量生産と安定供給がもたらされてきました。しかし同時に、分業化でそれぞれのプロセスが高度に専門化していくことで、プロセスのどこかで問題が起きた時に、補完しあったり柔軟に変えていったりするのが難しくなってしまったことも事実です。デジタル技術の活用とオープンなデータ/知識/手段の共有によってあらゆる市民が自ら作る力を持つことで、これまでの工業においてはコストや規格等の理由によって切り捨てられてきたようなアイデアや実験が、個人レベルでもチャレンジできるようになります。また、それらがオープンに共有されていくことが、ものづくりのプロセスにおける課題や困難を解決するための突破口になるかもしれません。

 

Mycotech Labの展示にて、Myleaを熱心に観察する津田さん(右)。津田さんは、2020年から京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labで微生物や菌類の力を活用して素材を開発する活動をしている。

「評価軸」とエビデンスは、実践しながら自ら作る。

世界中で、SDGsやカーボンゼロなど、サステナブルな社会に向けた取り組みが行われる中、各国で行われているのが規制やルールづくりです。しかし、同時に、強制的なルールや評価軸がトップダウンで規定されることで、その基準をいかにクリアするかということにとらわれてしまい、本質的にサステナブルな生産活動が実践できているかどうかということとは離れているように見えることもあります。

その点において、Mycotech Labが実践しているのは、自ら評価軸を提示するということ。彼らは、スタートアップとして、常に実験・検証しながら、自分たちでその有効性をエビデンスとしてを示すことで、自ら評価される場を作り出しています。

牛皮を生成するための環境負荷を測定したり、ビジネスに関わる地域の雇用環境など、様々な評価軸を提示するMycotech Lab。特に後者は、これまで自然と接続するコミュニティデザインにも関わってきた建築家としてのRonaldiazさんの視点や価値観も反映されているように見える。

自ら評価軸を提示するためには、スモールスタートで取り組む必要があります。評価軸を与えられるのを待つのではなく、評価軸を提示する。それは、自分たちが目指すビジョンや価値を言語化し、数値化することでもあるのでしょう。

資源を循環させる仕組みをつくる

ディスカッションの最後に津田さんは「人間本位で考え、搾取するのではなく、共生することが大切。いくらサステナブルな素材だからといって、たくさん作ったら意味がありません。必要なだけ作って戻していくということが大切だと思います」と語りました。トークの中で何度も「微生物や菌の力を借りる」という表現をしていた津田さん。一方で、「”廃棄”はしない。生産のプロセスで環境を良くしていくことが大切」と語ったRonaldiazさん。2人に共通するのは、利用するのではない、資源を循環させる新しい生産の形。これは、これまで廃棄されていたものを資源と捉え、廃棄物を出さずに循環させるという、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実践しているとも言い換えられるでしょう。

資源が限られているのはもちろんですが、同時に、世界中で社会や経済の当たり前が日々変化している現代において、一方向的な大量生産の考え方では対応できないことがあまりに増えています。今だからこそ、世界中の知識を共有しながら、柔軟な生産と消費の仕組みを作っていきたいものです。

関連リンク:『サーキュラーエコノミーマップ』公開中

ゴム・エラストマー製品メーカーのパイオニアで創業110年を超えるバンドー化学株式会社。中長期視点の新規事業を生み出すため、社外のチームを交えた共創手法を用いての事業探索に取り組みました。このプロジェクトで生まれた『サーキュラーエコノミーマップ』が一般公開中。ぜひダウンロードしてご覧ください。

>> サーキュラーエコノミーマップをダウンロード

関連イベント:「国産木材」からサステナビリティを考える

サステナビリティと一言にいっても、さまざまなプロセスや視点があります。1月26日(火)に開催するオンライントークイベント『Material Meetup vol.16』のテーマは、ずばり国産木材。

国産材の価値は、個々の材質やコストのみならず、山林を「育てる」ことや、木を使ってつくられたものを「使う」こと、あるいはいちど役目を終えた道具を「直す」こと、そして技術や文化を「継承する」ことなど、様々な行為との連続的・循環的な関係性のなかにおいてデザインされうるものではないでしょうか。森づくりと工芸をつなげて循環する仕組みを作る一般社団法人パースペクティブの松山幸子さん・堤卓也さん、数寄屋大工としての経験をベースに、木材の表情を生かした空間を作る建築家の佐野文彦さんなど、それぞれに「木」に深く関わりながら活動するゲストを迎えてのディスカッションが、「木を使うこと」に対する新たな気づきを得られるはずです。

【オンライン開催】Material Meetup KYOTO vol.16「 “サーキュラー” 視点で再発見する、国産木材のメリット」 – feat. WOOD CHANGE EXHIBITION in Kyoto

国産材について「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の視点から新しい価値・魅力を探るトークイベント。(*本ミートアップは、1/15〜1/30の期間にFabCafe Kyotoで開催中の展示企画 『WOOD CHANGE Exhibition in Kyoto -木への視点とイメージを変えるアイデア-』 との連動イベントとして開催します。)

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