• Event Report

2020年代を、私たちはどう生きるか?「OMRON Human Renaissance vol.1」(前編)

人と機械の「融和」が生み出す技術開発に取り組むオムロン。オムロン創業者・立石一真氏らが1970年の国際未来学会で発表した「SINIC理論」をヒントに、2020年代をどう生きるのかを多様な側面から議論するオンラインイベント 「OMRON Human Renaissance」が開催されました。有識者や次世代クリエイターをゲストに招き、人間らしさの復興、21世紀のルネッサンスを考えるイベントシリーズのレポートの前編です。

今回は、株式会社インフォバーン代表取締役CVOの小林弘人氏、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所代表取締役社長の中間真一氏を登壇者としてお招きし、メディアアーティストの市原えつこ氏、オムロンサイニックエックス株式会社代表取締役社長の諏訪正樹氏をゲストに、「これからの社会論」をテーマに議論をしました。

インスピレーショントーク:これからの未来に対する仮説

イベントの冒頭では、ワイアード、ギズモード・ジャパンなどを立ち上げ、国内外でデジタル・コミュニケーションの支援などを行う小林弘人氏に、潮流が変わりつつある現在とこれからの社会についてお話いただきました。

GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)以降の新たな胎動

「21世紀を迎えて、既に21年が経過しました。しかし、革新的なテクノロジーが普及した現代といえど、産業革命以降の枠組みがそのまま残った社会を私たちは生きている。これを、そろそろ終わらせる時期にきているのではないかと思っています」と小林氏は問いかけます。

例として小林氏は、インターネット及びテクノロジーによるGAFA以降の潮流として、分散型テクノロジーというキーワードをあげます。

「EUでは、一般データ保護規則であるGDPR、それに続くCCPAが施行されるなど、個人情報運用に対する規制とポータビリティに、真剣に取り組みはじめています」と小林氏。

「今ヨーロッパなどで起こっているのは、限られた企業が一極集中でデータを抱えることへのアンチテーゼです。ブロックチェーンなどを取り入れ、改ざん不可で情報を分散化できる、Web3.0への移行が行われています。」

小林氏は、自分でデータの決定権を持つ分散型の自己主権型ID(SSID)についても紹介します。国によっては、ブロックチェーンを使用した運用・実装が進んでおり、企業の手に委ねることなく個人で情報を管理する事例が増えてきました。

新たな搾取構造から、より自律協働的なコーポラティズムへ

分散化することにより、一部のメガ企業による搾取構造も、防ぐことができます。

「UberやAirbnbなどのマッチングサービスは、シェアを謳いつつも責任はとらないし、組合もない。これはマッチングサービスであって、シェアリング・エコノミーではありません。これは、新たな搾取構造です」と小林氏。ここで新しく登場しているのは、協同組合的な性質を持つプラットフォーム・コーポラティズム。地域で運営し、利益は地域に還元する「Fairbnb」など、さまざまな分野で浸透しつつつある考え方です。


また、現在は、線形経済から循環型経済(サーキュラー・エコノミー)や再生型社会への移行期でもあると小林氏は説明します。

「『修理する権利』はもちろん、サステナブルを意識して資材の調達先を決定するエシカルサプライチェーンなど、多くの国で環境に配慮した経済活動への投資が始まっています。」

「お金ではない新しい資本」へ転換

続けて小林氏は、これからは「工業の地産地消」も進んでいくだろうと予測します。無人運転バス開発を行うアメリカのベンチャー「Local Motors」は、80%以上の部品を現地で3Dプリントで出力し、マイクロファクトリで現地の人を雇用することで、工業の地産地消モデルを立ち上げています。

小林氏が、このように世界中で起きている事例から革命の兆しを感じているのは、「お金ではない新しい資本」へ転換です。それは、人々のイマジネーションに基づいた創造性資本であり、地域の文化を取り入れた地域資本、そして、コラボレーションによる関係性資本でもあります。多極分散、中央集権型と共存する新しいレイヤー構造など、より柔軟で自由な取り組みが世界で行われていると、小林氏はトークを締め括りました。

トーク:今、改めて注目されるSINIC理論

必要なのは未来予言ではなく、理論に基づいた正確な予測

小林さんのトークに続いて、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所代表取締役社長中間真一氏が、SINIC理論についての解説を行いました。

SINIC理論とは、1970年の大阪博覧会の際、オムロンの創業者・立石一真氏を中心とした研究者たちが発表した理論です。高い精度で未来を予測するための理論であり、現在の情報化社会もこの理論で既に予想されていたと言います。

「SINIC理論が現在また現実味を帯びている」と話す中間氏は、この理論を、いかに今の文脈において活用していくか、参加者に呼びかけます。「創業者・立石一真は、『経営とは未来を考えること』と話しました。だからこそ、予言ではなく理論が必要だったのではと思っています。」

SINIC理論は、技術、科学、社会が相互に影響を与え関わり合う、螺旋構造となっています。「科学が技術に種を与える。技術が社会を革新する。社会が技術に必要性を与え、技術は科学に刺激を与える。これが螺旋状に回りながら進化していきます」と中間氏。未来のあるべき姿を考える人文哲学的思考と、数学的なシミュレーションの2つの軸を通して、精度の高い未来予測を導き出されます。この流れを生み出すエンジンは、人間の進歩志向です。

SINIC理論の螺旋構造のなかでは、社会の価値観は「モノ中心/心中心」「個人中心/集団中心」という対極軸を、交互に往復しながら変化を続けています。

「原始社会から自律社会までの1周期を経て社会は変化します。1周回るたび、社会は一段階進化する構造となっています。」

原始社会から自律社会までの間には、経済力(1人あたりのGNP)を基準に、10つの社会区分・社会発展段階が規範的に設定されています。


このSINIC理論に基づくと、現在は工業社会からの価値観から変化し、パラダイム・シフトの時期である「最適化社会」にきていると中間氏は説明します。「社会発展ステージに到達する、ゴール手前の社会を私たちは生きています。」

「最適化社会」とは、ここでは「2度目のルネッサンス」ともいえる、社会の大転換期です。1度目のルネッサンスでは、農業社会から工業化社会への転換が行われました。これは、ペストが蔓延した時期とも重なります。疫病の克服から、人間社会は近代科学、芸術の開花を経て工業化社会へ移行しました。

「現在は、経済格差や気候変動といった工業社会における負の遺産の課題解決と、ブロックチェーンやシェアリングエコノミー、SDGsなど、新しい社会(自律社会)への移行を目前にした最適化社会」と中間氏。「ここでは、一人ひとりの社会への価値観との変化と、行動を伴った真の変容が必要になります。」

セカンド・ルネッサンスを加速させるには、進歩指向的意欲をリブートさせる必要があります。そのためには、4つ目の軸としてアートの力が必要だと、中間氏はこれからの展望を語りました。

パネルディスカッション:これからの人間のあるべき姿

パネルディスカッションでは、オムロンサイニックエックス株式会社代表取締役社長の諏訪正樹氏と、メディアアーティストの市原えつこ氏をゲストにお迎えし、SINIC理論をベースとしたこれからの人間社会について、議論がなされました。

ディスカッションポイント1 ハイパー原始社会への移行

モデレーターを務める小原はまず、仮想通貨奉納祭など、伝承や民間信仰と新しいデジタル技術をつなげる活動を行う市原氏が描く未来について、質問を投げかけました。

「近代社会は人間中心的で、生産性や効率の追求に重きがおかれていました。今後は、技術発展の先に人類が自由になり、人間としての新しい生き方や自己実現が大切になる。そういう意味で、『ハイパー原始社会』がやってくるだろう直感があります」と市原氏は話します。「これは今まで、理論的裏付けがない直感だったのですが、SINIC理論の裏付けがあることが分かり嬉しく思いました。」

2033年頃には、原始社会から続く人間社会の成熟(自律社会)が一周し、「自然社会」という、新たな進化が始動する、とSINIC理論は予測しています。

ディスカッションポイント2 人間と機械の融合

また、「精神生体技術」や「超心理技術」など、精神性と新技術の合体という考えにも、市原氏は興味を示しました。SINIC理論では、人間と機械の融合についても言及があります。

諏訪氏は、「これからは、人類が人類以外の知性と初めて生きていく時代です」と話します。人間が生み出した機械は、今や人間にとっても得体の知れないものに発展しつつあり、両者の関係のなかでこれからテクノロジーのあり方は変化していきます。

「人と機械は、別々に存在するのではなく、融合していくと考えています。それは人間の弱体化につながりますが、ここをどう捉えていくのかが、これからの社会を考えるヒントになりそうです。」

「人との共生から、人から機械への融合へ」という考えは面白いと、市原氏も共感を示します。死者とテクノロジーを介して話すというアイデアを欧米メディアで発表した際、驚かれたり気味悪がられたというエピソードを、市原氏は紹介します。「西洋社会のなかでは、テクノロジーはあくまで合理的な使われ方をするものと捉えられています。だからこそ、この作品は驚かれたのではないかと思います。しかし、ものに対して魂が宿っている、機械にも心がある、という感覚は、日本人にとってはすんなり理解できるものなのではないかと思っていて。この価値観は、日本特有の精神性として意識すべきだと思いました。」

中間氏はこれらの議論を受けて、こう話します。「最後のカーブを回ってゴールにいきつくには、現在は人間が弱体化しています。ここで必要なのは、アートスピリットです。精神生態技術のような、自律の後押しになるような技術も必要になります。」

まとめ:非効率さが人間らしさ。人間にできるのは、意味を与えること

これからの時代は、人間はどうあるべきなのでしょうか。

小林氏は、テクノロジーの発展はコストを減らし、人間に余剰時間を与えてくれたと話します。ただ、その余剰時間で何をしているかというと、実は非効率的な使い方をしているのではないか、と小林氏。「人間の精神性は、この非効率性だと思うんです。全く非効率で、計算できないのが、人間らしさ。ここはAIが予想できないことです。」

一方で、人間にできるのは、「意味を与えること」だと小林氏。「よく、『これに意味はあるの?』と聞かれることがあるのですが、そこに意味を見つけるのが人間の仕事であり、これはAIができないことです。ここで必要なのは、好奇心と想像(イマジネーション)であり、これがなければ、人間はAIと一緒です。」

市原氏は、「近代から始まる資本主義のなかで、人間こうあるべきという規範がありすぎるように思います。人間が我々が思っているほど規律的でも合理的でもない、奇妙な生き物だということを、改めてみんな認識しておくべき」だと、小林氏の意見に賛成します。

世界がまだ近代の枠組みのまま行われている、最適化社会。この先にある新しい枠組みを、どう構想できるのか。ここでは、小林氏のいう創造性資本や関係性資本など、お金ではない人間の知恵による価値創造がキーになりそうです。

SINIC理論を使いこなしながら、人間にしかできないことをポジティブに捉え、未来を開拓する視点を得られたイベントとなりました。

イベントのご様子は、FabCafeのYoutubeチャンネルでご覧いただけます。