現場でのテストと、フィードバック
カードケースの鋭利な角が気になるので、レーザーカッターで丸く加工し他のものを制作。これをプロトタイプとして、依頼主のクリニックの元で試着会を行いました。
現場の方からは、「クリアファイルの即席版だと思っていたので、予想以上に綺麗で嬉しいです!」と喜んでいただけました。
ただ実際に装着して動いていただくと、課題点がいくつかでてきました。そもそも医療現場の方々はかなり動くので、ずり落ちるのを避けるためにゴムバンドをつけるのですが、ゴムをある程度きつく縛らないとずれてきてしまう。そのため、おでこに当てるよりも少し頭の上に載せるような付け方の方が楽ということがわかりました。ですが、そうするとフレームが想定よりも斜め上の角度になるので、シールドと顔の距離が大きく空いてしまいます。加えて、フェイスシールドの位置全体が上に上がるので、顎の下まで十分にカバーされないことがわかりました。
要改善、という事で一度回収しFabCafe Tokyoに戻ります。
フレーム部分はそのままで、シールド部分の加工方法を変えることで、改良しようということになりました。中央の穴の位置をそのままで、左右の穴を少し上にずらすことで、シールドが顔に向かって水平に落ちるように改良。また、顎の下までシールドがカバーしていることが分かりやすいように、形状に少し改良を加えました。
最終的には、上記のようなデータでレーザーカットしフェイスシールドが完成しました。
完成!出来上がりはこちら
使用した物品のリンク
1.バイザー装着部
PLA樹脂フィラメント(BCN3D 2.85mm)
https://www.bcn3d.com/product/pla-bcn3d-filaments/
2.バイザー
再生PET40%材質のハードタイプカードケースhttps://www.askul.co.jp/p/856565/
3Dモデル作成
道用 大介 / 神奈川大学・FabLab Hiratsuka
https://github.com/doyodoyo/facesheild/blob/master/ver2_small/README.md
医療機関へ提供するときに注意するべきこと
ということで、なんとか完成まで到達したのですが、「えーいっ!」と郵送するわけにもいきません。製作者である僕がウイルスを保有している可能性は0とは断言できず、制作物をそのまま渡してしまうと、付着したウイルスも一緒にフェイスシールドと共に届けてしまう可能性があります。
フレーム部分は次亜塩素酸の消毒液に漬け、水で軽く流し、ドライヤーで乾燥させます。また、シールド部分はアルコール清拭後に水拭きし、乾燥したものをポリ袋に包装しました。
医療現場に物資を届ける際に、私たち作り手は「つくる」事だけを考えるDIY的な感覚だけでは足りないと考えます。「はかる」「わたす」といった検品・消毒の作業や、「つかう」方法などもしっかりと責任を持って伝える必要があります。
もの作りと安全性に関しての情報は医療現場とものづくり現場をつなぐための情報発信サイトFab Safe Hubにまとまっていますので、そちらもご覧ください。
完成品をお届けしてきました
このような工程を経て、ご依頼をいただいた病院の院長先生にお渡ししました。
今回お問い合わせをいただいたのは整形外科を専門とするクリニックですが、水曜午後と第2・第4土曜午前のみ内科の診療も行っています。特徴的なのは、ミャンマー、ネパール、カンボジア、ベトナム、タイなどの外国人スタッフを中心に多言語対応をしている点。診察には医療通訳が立ち会い、時間帯によっては患者さんの7割が外国の方ということもあるとのことです。コロナ禍の不安ななか異国で過ごす外国籍の患者さんが多いこともあり、患者さんはもちろん、クリニックスタッフの皆さんにも安心して安定した医療を提供したいという院長の思いから今回の問い合わせにいたったそうです。
お届けした時はちょうどスタッフミーティングの真っ最中。コロナウイルス対策に関して日々状況が逼迫する医療現場の緊張感を垣間みました。フェイスシールドをお届けした際には、スタッフ皆さんに喜んで頂き、院長先生には「院内できる限りの対策をうっています。このフェイスシールドを頂けてさらに安心しました。」とまでおっしゃってくださいました。喜びの表情の中に少し安堵の色が伺え、今回病院の取り組みに関わることが出来て本当に良かったと改めて実感しました。
実際に防護服をきてフェイスシールドを装着している様子。喜びと共にどこか安堵したようなスタッフの皆さんの表情が印象的でした。
院内のいたるところに多言語対応の案内。
問い合わせをいただいてからフェイスシールドを納品するまで、実質一週間ほどの出来事でした。今まで様々な「ものづくり」に携わってきたFabCafeとして、こういった医療機関の前線で働く人たちのサポートが出来たことはとても名誉ある事です。
その上で強く感じるのは、今回のプロジェクトにおいて、求められる「ものづくり」というのは、DIYのような趣味の延長ではないという事。特に医療現場というシリアスな場におけりるものづくりでは、必要な知識も態度も大きく違う事を改めて実感しました。
FabCafe Tokyoでは現在「How to make it Safe -誰かのためのものづくり」というタイトルでメディカルデザインエンジニアとして活躍する吉岡純希さんを中心に、医療とFabをつなぐための情報共有やディスカッションの場を提供するオンラインイベントを行っています。興味のある方は是非、イベントレポートなどをご覧ください。また、現在お困りの事がある医療関係者の方々も、是非お気軽に問い合わせくださいませ。
編集後期
フェイスシールドを届けに現場に伺った際に、様々な感謝の言葉をいただきとても嬉しかったのですが。院長さんの「落ち着いたら、FabCafeにご飯食べに行きますね。」という言葉が、非常に嬉しかったです。「受け取りました、ありがとう。」ではなくて、「ありがとう、また会いましょう。」と言われた気がして、とてもジーンときました。1日でも早く事態が収束するように、出来る事をやっていこうと思います。
FabCafe Tokyo 野村でした。