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[Event Report]私たちはこんなにもプラスチックのことを知らない |プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜イベントレポート
2023年10月25日、第1回となるイベント「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜プラスチックゴミの分別のデザインから私たちとごみの関係を考える」を開催しました。イベントの第1部では、出展各社のプラスチック資源にまつわる取り組みやプロジェクト、プロトタイプをご紹介する内覧会を行い、第2部では、トークイベントと懇親会を実施しました。
本稿では、第2部のトークイベントの模様をお届けします。
今回のイベントにご登壇いただいたゲストは、2名。脱プラならぬ“改プラ”を提唱し、素材の素材まで考える「BePLAYER®」と「RePLAYER®」というバイオマスとリサイクルのコミュニケーションブランドを運営・推進する三井化学株式会社の松永有理さん。そして日常的なゴミの分別を極端に推し進めると、それはある種のアーカイブになり情報になるという考え方から、東京ビエンナーレ2023にて「超分別ゴミ箱 2023 プロジェクト」を展示中でいらっしゃるアーティストの藤幡正樹さんです。
「クイズ!プラスチック資源箱」プラスチック分別への意識を楽しく高めよう
みなさんは普段、プラスチック資源をどのように利用し、処分していますか?
まずイントロダクションとして、「クイズ!プラスチック資源箱」を制作・ディレクションした、バイスMTRLマネージャーの長島、エンジニアの土屋からのセッションです。MTRLでは、「プラスチックの使用後のデザイン」という問いに向き合うなかで、きれいなプラスチック資源を分別して捨てると、プラスチックの分別方法や社会的な課題に関するクイズが出現される「クイズ!プラスチック資源箱」を制作しました。イベントでは体験型展示として、さまざまな参加者の方に体験していただきました。
ディレクションを担当した長島からは「『分別して捨てる』という行為をきっかけに出題されるクイズを通して、ゲーム感覚で分別ルールを楽しく学び、プラスチック分別への意識を高めてもらいたい」という想いでつくったものです。
「ごみを捨てる・分別するときに、新たなインタラクションや体験があれば、私たちの関わり方が変わるのではないか、「資源を分ける」という行動が自然と促されるようになるのではないか、と考えました。」と制作に至った背景を説明しました。
ソフトウェア・プログラムを担当したロフトワークの土屋は、完成形に至るまでの試行錯誤を明かし、「『サウンドエフェクトで周囲の注目を集めて周りの人も巻き込めるように』『とにかく回答してもらうことを重視して回答時間を短めに』『飽きないよう20種類の設問とTipsを用意』といった工夫を凝らした」と語りました。
「クイズ!プラスチック資源箱」は、リサイクル可能な素材であるダンボールでできています。複雑で精度の高い折り込みの実現に協力してくれたのは、愛知県瀬戸市でダンボールの製造・販売を手がける株式会社マルイチです。イベントでは同社の営業部 寺田寛史 さんも登壇。「展示会で『クイズ!プラスチック資源箱』を設置したら、体験したみなさんの正答率がすごく低かった。それだけプラスチックの分別方法を知らないということだと思う。この体験を通じて知識が広まっていくと思うので、企画は大成功だと感じています」。
プラスチックを“素”から変えてバイオサーキュラーな未来を創ろう
続いて、三井化学の松永さんによるゲストセッションです。
「三井化学では、“脱プラ”ではなく“改プラ”というメッセージを掲げ、プラスチックを“素”から変えていく取り組みを始めている」と語る松永さんは、プラスチックができるまでの過程をわかりやすく解説。
従来、石油由来のナフサ(粗製ガソリン)と呼ばれる炭化水素を原料に作られていたところから、再生可能な炭化水素である「バイオマスナフサ」に変えることで、プラスチック製品が廃棄されるまでのライフサイクルにおけるCO2を大幅に削減できるそう。実際、プラスチックのストローから紙のストローに変えているところがありますが、LCA(ライフサイクルアセスメント)で見ると、“環境負荷は紙のストローのほうが約5倍悪化する”というデータもあると言います。
「“脱プラ”と言われるようになって、プラスチックを消費すること自体に罪悪感を覚えるようになってしまった。廃食用油のようにサーキュラーな素材を原料にしたプラスチックを提供することで、消費の罪悪感を払拭し、人々の消費行動を肯定していきたいと考えています」(松永さん)
そしてもうひとつのアプローチが、リサイクルです。具体的には、廃プラスチックを集めて分解し、リサイクル炭化水素を原料にしたプラスチックをつくることで、ケミカルリサイクルによる循環を生み出すのです。
このようにバイオマスとリサイクルによって、プラスチックを“素”から変えることで、「①石油品とまったく同等のものがつくれる②いろいろな種類のバイオマス・リサイクル品を生み出すことができる(2023年10月現在で40種類以上)③素材変更によるお客様の追加投資が不要」という3つの大きなメリットがあるそうです。
「日本政府のプラスチック資源循環戦略では『バイオマスプラスチックを2030年までに200万トンにする』という大きな目標が掲げられているが、日本で使用されているプラスチックが1,000万トンあるうち、バイオマスプラスチックはまだ10万トンにも達していない。それは、従来のバイオマスプラスチックのつくり方では、化学式が変わってしまうため、さまざまな不都合が起きていたから。しかし、我々のやり方なら化学式が変わらないため、今あるものをそのままバイオマス化することができる。これからもバイオマスとリサイクルの両輪で、バイオサーキュラーな世界観をつくっていきたいと考えています」(松永さん)
「超分別ゴミ箱2023」で考える、私たちの生活とプラスチック問題
次は、アーティスト 藤幡さんのゲストセッションをご紹介します。
メディア・アートの先駆者として世界的に活動されてきた藤幡さんは、慶應義塾大学SFC藤幡正樹研究室の学生とともに「超分別ゴミ箱」を1995年に制作。日本には「燃えるごみ」と「燃えないごみ」の2種類しかなかった時代に98種類に分類することで、「日常的なゴミの分別を極端に推し進めたらどうなるのだろうか」という問いを投げかけました。
そんな「超分別ゴミ箱」の進化版として制作されたのが、東京ビエンナーレ2023で公開された「超分別ゴミ箱2023」です。本作では、プラスチック素材に着目し、藤幡さんらコア・メンバーと、東京都立工芸高等学校の学生とご家族、パートナー企業等を中心とする参加者が、ワークショップや展示を通じて表現活動を行なったものです。
このアイデアのもとになったのは、当時、研究生だった長峰宏治さんのある気づきでした。「東京に住んでいた時は、庭掃除で出てきた『枯葉・切り落とした枝・枯れた根』などは、わざわざ袋に詰め込んで捨てる“ゴミ”だった。しかし、田舎に移り住むと、裏の雑木林に放り込むだけでよく、ゴミにはならない。この違いは何なのか」。
思考の結果、導き出したのが、以下の図です。
「要するに、人間が関わらない限り、ゴミという概念はない。自然の中では、すべてが再利用されて、もとに戻るようにできているから。さらに、『きれいだから家に飾ろう』と石ころをひとつ家に持ち帰ったら、“a stone”が“the stone”になる。これも極めて人間的な美的感性。しかし、こうして人間によって価値が付与されたものも、いずれゴミになるというわけです」(藤幡さん)
こうした考え方が背景となって生まれた「超分別ゴミ箱2023」では、コンビニ型の超分別ゴミ箱をつくり、来場者にプラスチックの分別をしてもらいました。また、「ラブ=プラスチック・ワークショップ」として、参加した約40家庭の家にある使用済みプラスチックを毎日集めてもらい、現代の生活とプラスチックの関係を浮き彫りにしました。そして、集めたゴミを分別してみると、タッパーの容器はPP(ポリプロピレン)でフタはPE(ポリエチレン)など、プラスチックと一口に言っても、さまざまな種類があることを知ったと言います。
「僕たちはプラスチックのことを知らなさすぎる」と語る藤幡さんは、集まったプラスチックゴミの量を確認し、素材の特性について勉強し、集めたプラスチックの記録を作り、最後は、それらを溶着させたモニュメント作品として後世に残していきたいと考えているそうです。
「僕たちがやっているのは貝塚づくり。貝塚を見れば原始人が何を食べていたのかがわかるように、プラスチックを通じて2023年の生活をピン留めしていきたい。そうすれば、50年後、100年後に、僕らの作品を見て『水をペットボトルに入れていた時代なんてあったのか!』と驚く時代が来るかもしれないでしょう?
それと同時に、ゴミと言われていたモノの価値を0に戻す作業でもある。お金まみれの世界ではなく、『美しいものに心が動く』というアートが持つ本来のパワーに立ち返り、未来の人たちが少しでもより良い人生を送れるような世界をつくっていきたい」(藤幡さん)
プラスチックのことをもっと知ろう
続いて、 松永さん、藤幡さん、ロフトワーク 小原の3名によるクロストークです。会場からの質問も多く寄せられ、熱のこもったやり取りが展開されました。
小原:みなさんからいただいた質問をご紹介しますね。「『ラブ=プラスチック・ワークショップ』で集めたプラスチックは、各家庭で洗浄されているものですか?」
藤幡さん:はい。できる限り洗ってもらって。オイルはなかなか取れないんですよね。おもしろかったのは、メロンのゼリー。めちゃくちゃきれいに洗っているのに、オーブンで熱を加えると、ものすごいメロンの匂いがするんです。
松永さん:プラスチックの隙間に香料の成分が入っているから、そうなるでしょうね。
藤幡さん:ほとんどのプラスチック製品は引っ張ることで強度を出しているので、それらは熱を加えると縮みます。特にお団子やお惣菜を入れているポリスチレンは、熱を加えると縮んですごくきれいな一枚の板になるんですよ。
松永さん:リサイクルの工程でも、圧縮してインゴッドにするので、わかります。PSは、光沢がめちゃくちゃきれいですよね。
プラ同士を融着させるためにオーブンで熱を加えていると、PSは110度あたり、PPは170度あたりで激変する。といったように、あらゆるプラスチックの素材の違いを体験的に得ているという藤幡さん。
我々も驚くほどの知識量で、三井化学の松永さんとのお話を展開していきます。続いての話題は、プラスチックを語るには欠かせないリサイクルについて。
小原:「ケミカルリサイクルにすると、逆に環境負荷が高まったり、コストアップにつながったりすることは、ないんですか?」
松永さん:うちの試算では、バイオマスで汎用プラスチックにする場合は約60%のCO2削減になりますが、ケミカルリサイクルだと50%くらいの削減率になります。バイオマスより削減効果は低いけれど、半分くらいは減らせます。
藤幡さん:ケミカルリサイクルでも電力は必要なんですか?
松永さん:必要です。ケミカルリサイクルには、いろいろなアプローチがありますが、いずれにせよエネルギーを使いますので。それでも原油を採掘してプラスチックをつくるよりは少なくて済みますが。ただし、純粋なモノづくりのところだけを切り取ると、増えるケースもあります。まだリサイクルの計算方法が確立されていないので、スコープをどこからどこまでに設定するかによりますが、確実に言えるのは、「社会全体で考えれば、必ず良い方向に向かう」ということですね。
小原:「プラスチックのリサイクルを進めるには、企業が足並みを揃えて同じ絵を描くことが大事だと思うのですが、どうすれば足並みを揃えられるのでしょうか?」
藤幡さん:ペットボトルはかなりうまくいった事例ですよね。他のものは、なぜそうできなかったのかを知りたい。
松永さん:日本では、ペットボトルは「無色にしなければならない」といったルールが決まっているから、質の良い原料が集まって、リサイクル率が非常に高くなっているんです。そうした形でわかりやすいルールをつくって回収できると良いですよね。でも日本のプラスチックのリサイクルマークは「PET」と「プラ」だけになっちゃったじゃないですか。
藤幡さん:そうなんです。着物だと絹だとかレーヨンだとか素材まで気にするのに、なぜプラスチックはひとまとめにしてしまうのか。PPとかPEとかちゃんと書いてくれればいいのに。無印良品で「ポリプロピレン ペンケース」っていうのを見つけて、おもしろい会社だなと思いました。「クイズ!プラスチック資源箱」を見て思ったのが、プラスチック製品をかざすと「これはPPだよ」と教えてくれて、PPの箱に捨てられるようなゴミ箱があるといいですよね。
松永さん:それつくってみましょうよ。
藤幡さん:野球場でビールを飲み終わったカップをちゃんと捨ててくれない問題があったときに、対戦チームごとにゴミ箱を用意して、「次戦で勝つと思うチームのゴミ箱にゴミを捨ててもらう」という仕掛けを作ったら改善できたそうなんです。そういったナッジ理論を活用したり、アフォーダンスまで設計したりすれば、ゴミ箱はもっと良くなると思っているので、デザイナーにはもっとがんばってもらいたいですね。
今回のイベントを通じて、プラスチックごみに関する私たちの関心の低さが浮き彫りになったのではないでしょうか。
約100年前に生まれ、素材の歴史としてはまだまだ浅いプラスチック。環境に悪いというレッテルを貼るのは簡単ですが、プラスチックによってもたらされた便利さを手放すことは、容易なことではありません。プラスチックごみの分別に関する知識を増やすなど、プラスチックと私たちの生活との関係を見直すことで、ただ捨てて終わる、だけではない、新しい未来が拓けると信じています。
「プラスチックごみを楽しく分別しよう」にコミットメントするためのコミュニティ「プラスチック・ナイト 〜Thinking plastic waste for the Future〜」、次回の開催に向けて、MTRLからもさらなるプロトタイプを鋭意制作中です! また、今回とは異なるアプローチでのゲストもお招き予定です。プラスチック・ナイト今後の展開をお楽しみに。