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イベントレポート:MTRL FUTURE SESSION vol.03 やわらかいロボットが生み出す人間との共生


材料や技術の意味のイノベーション「MATERIAL DRIVEN INNOVATION」を探求する「MTRL」がお送りする未来洞察イベント「MTRL FUTURE SESSION」。第3弾となる「MTRL FUTURE SESSION vol.03」が、「やわらかいロボットが生み出す人間との共生」をテーマに2021年04月12日に開催されました。

これまで一般的に「硬い」イメージがあった機械やロボット。一方で、人に寄り添う「柔らかさ」をまとったソフトロボティクスの開発に、近年注目が集まっています。ソフトロボティクスの発展により何が可能になり、人間と機械の関係はどう変化するのでしょうか?この分野のフロントランナー達を招き、ソフトロボティクスがもたらす新しい産業の可能性について議論した当日の様子をレポートします。

第1部:ソフトロボティクスの産業化に向けて

セッション1:ゴム素材開発の知見を生かした”人と協働する”ソフトロボティクス開発

イベントの先陣を切ったのは、株式会社ブリヂストン探索事業開発第1部門 部門長の音山哲一氏です。1931年創業のブリヂストンは、ゴム素材を活用したタイヤ事業で人々の移動を支えてきました。現在、モノを創って売るコア事業に加え、成長事業としてタイヤ使用時に価値提供するソリューション事業、そしてブリヂストンのコアコンピタンスが活き、既存事業とのシナジーがある新しい領域を共創・オープンイノベーションを前提とした探索事業として取り組んでいます。

同社は現在、ゴム素材の研究開発の知見を活かし、ゴムチューブとそれを囲む高強度繊維から構成される「ラバーアクチュエーター」の開発を行っており、探索事業として新しくソフトロボティクス事業へのチャレンジを発表したばかりです。

「今までロボットいえば、パワー、スピード、正確性を追求して単純作業を行い、生産性のためだけに動いてきました。これは、変化の多い時代に際して融通の効かないアプローチです。現代は、人と協働できるソフトロボティクスの時代に到来したのではないかと思っています」と音山氏は話します。

ソフトロボティクスを可能にするには、柔らかい身体と動き、そしてその柔らかい動きを制御するセンサーが必要です。ゴムの技術を持っているブリヂストンは、ロボットの柔らかい動きを支えるラバーアクチュエーターをはじめとするコア技術で柔らかいロボットの社会実装に挑戦します。

「ブリヂストンは人が基盤となった企業です」と音山氏は続けます。「私たちは、探索事業=挑戦をベースに新たなことをゼロイチでやっていく必要があります。そして、この探索事業は自分たちだけではなく、共創で行っていきたい。ぜひ皆さんとコラボレーションの可能性を議論したいです。」

セッション2:Transcending Bodies – 肉体を超える身体

続いて、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の南澤孝太氏が登壇し、「肉体を超える身体」という切り口からお話頂きました。

デザイン、テクノロジー、ビジネスなど、さまざまな分野を横断しながら社会にインパクトを起こすための研究を行う慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科。人間の身体が技術と組み合わさってどのように進化していくか、「触覚や身体性」をテーマに研究を重ねてきた南澤氏は現在、「身体的経験を共有・創造・拡張する身体性メディアの創出」をテーマに活動しています。

技術により人間の身体を新しい概念で作れるのでは、という考えから、オンライン上でお互いを触り合える技術や、バーチャル上の出来事を感覚的に体験できる技術、人間に新しいパーツをつける実験やそれを活用したスポーツなど、人間の能力を拡張させるような事例をご紹介頂きました。

ここで南澤氏が紹介するのは、「Transcending Bodies – 肉体を超える身体」という概念です。「この考えの基盤になっているのが、『Telexistence』と言う1980年代に生まれた研究です」と南澤氏。「ロボットと人の動きを同期させる技術で、ロボットが聞いたもの、触れたものを人に伝えることができ、まるでロボットが人間自身の身体に同期したような感覚が生まれる技術です」と説明します。インターネット越しに別の場所でロボットを操作し、その感覚を全て体験できると、頭は自分、体はロボットというように、自分の分身ができる感覚が生まれます。「遠くに自分の存在を届ける技術としての『Tele(=遠く、遠隔の)existance(=存在)』という概念です。」

現在は、身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発に力を入れているという南澤氏。「誰もが自由にデザインできるもう一つの身体を手に入れ、自分の能力を最大限に発揮し、障害や年齢、得意不得意を問わず、自由に活動できるようになる未来社会を描いています」とトークを締めくくりました。

対談:ソフトロボティクスの産業化戦略

音山氏と南澤氏のトークを受けた対談では、新たに株式会社ブリヂストンソフトロボティクス事業開発第1推進課の山口真広氏を迎え、ソフトロボティクスの産業化戦略について議論がなされました。

ソフトロボティクスの「ソフト」が、ただ柔らかいことを意味するわけではないというモデレーター・小原の問いかけに対し、「ハードではなく人々の暮らしに寄り添う必要がある」と音山氏は回答します。人々に寄り添う、という考えは、ブリヂストンが共創を始めようとしたきっかけにもなりました。「原点は、人々により良い暮らしを提供すること」と音山氏。「そのために、自分たちだけでやって遅いのであれば、皆と一緒に早く良いものを世の中に出していきたい」と意気込みを語ります。

 

さまざまな組織と協業しながら研究を進めてきた南澤氏は、共創に関し、「ターゲットユーザーと、アカデミア、技術を持っている会社など、さまざまな組織と協業が必要」と話します。「大学だけでは机上の空論になってしまうため、現場に入り込んでいくことが大切です。プロトタイプを人々に使ってもらい、彼らがそれをどう使うか、感じるかを観察します。そこで得られたもの汲み取り、次のプロセスに活かすことが大切です。」

山口氏は、この意見に賛同し「答えは現場にある」ことを強調します。「真白なつなぎを準備をし、外で真黒になって帰ってくるタイヤ事業の顧客密着のイメージ。オンラインで物事が完結する時代になってしまったが、積極的に外に出ていきたいです。」

また、「従来、ロボットは人の外にある存在として捉えられてきました」と南澤氏。「私たちはここをもっとシームレスに、グラデーションのように考えていきたい。境界線が曖昧になった時に、我々がロボットの身体を使ってなにか活動したり、今まで自分ではあり得なかった経験や技術の取得ができる。人間とロボットの境界領域も、これからの研究領域として面白いですね。」

第2部 ソフトロボティクスの技術的ポテンシャル

セッション1:これからのロボットに必要な柔らかさとは?

第2部ではまず、東京大学大学院情報理工学系研究科講師の新山龍馬氏をお招きし、ソフトロボティクスが注目される背景と事例についてお話し頂きました。

「今まで人間にしかできなかったこと、ロボットにしかできなかったこと、それぞれを協働で行うことで生産性を上げることが、人間とロボットの共創に繋がります」と新山氏。ロボットは人間の仕事を奪うという価値観から脱却し、「人間の能力を拡張してくれる道具」としてロボットを捉えることを提唱します。

ソフトロボティクスが現在注目される理由のひとつに、それを可能にする技術の成熟があります。「今までは金属が中心でしたが、現在は異種の材料を複合的に組み合わせるなど、新しい設計思想でさまざまなメカニズムの製作が可能になりました。ここには、デジタルファブリケーションの存在もあります」と新山氏は説明します。

ソフトロボティクスは、柔らかい材料に特有の形態と機能を積極的に利用したロボットシステムを扱う学問分野です。「柔らかいだけが価値ではなく、むしろロボットの可能性を拡張することが大切」だと新山氏は話します。変形する能力、硬さが変わるメカニズム、自己修復機能がある材料、生分解性材料が使われているものなど、今までは耐久性が大切だったロボットのあり方は変化しつつあります。また、柔らかさは親しみやすさなど心理的なものにも繋がります。

「社会実装に向けた動きも活発になった今、ソフトロボティクスの活躍できる時代が到来したのではないでしょうか。」と新山氏は述べました。

セッション2:ラバーアクチュエーター技術の可能性

続いて、株式会社ブリヂストンソフトロボティクス事業開発第2推進課 研究主幹の大野信吾氏が、ラバーアクチュエーター技術の紹介を行いました。

「ブリヂストンの技術が詰まったラバーアクチュエータ―は、圧力をかけることで縮み、あたかも人の筋肉のような動きをつくれます」と大野氏は説明します。

ゴムチューブの周りにスリーブと呼ばれる繊維を編み込み、両端を封止して中に圧力をかけるラバーアクチュエーターは、金属に比べて極めて軽く柔軟でありつつも、強い力を出す為に、軽量高出力、高い耐衝撃性、柔軟性といった特徴をもちます。

「重さとしては200gないほどの軽いアクチュエーターです。ただ、圧力をかければ大きな力が働き、スリーブの編角を調整することで収縮率も変更可能です。軽量高出力であるだけでなく、耐衝撃性もあり、柔らかい=壊れやすいという固定概念を打ち消してくれました。」

組み立て方次第でさまざまな動きを表現可能で、精密な力制御と広い出力範囲、実用性の高さが自慢のラバーアクチュエーター。湾曲動作も可能で幅広い力範囲で使用できるため、人間の指のような動作をさせるなど、さまざまな活用シーンに合わせて研究が進んでいます。

クロストーク:ソフトロボティクスで生み出す「やわらかな世界」に向けて

イベントの最後となるクロストークでは、全登壇者が参加し、ソフトロボティクスのこれからの可能性を議論しました。


まず新山氏は、「動きのしなやかさ、速さだけではなく、適材適所でスピードが異なる技術が求められます」と話します。「ボールを投げるなど、今までは早く動かす工夫を実験してきましたが、スピードの遅い技術も面白いはずです。太陽の動きに合わせた動きなど、遅さを活かした工夫もできるのではないでしょうか?」

山口氏は、壊れない前提のものづくりから、循環型のデザインへシフトするという考え方に興味を示します。「果たすべき役割が劣化と共に失われていくのは、ネガティブなだけではないはずです。そもそものロボットのイメージが硬いので、土に還っていく、それを循環させていく、というポジティブな捉え方が面白いですね。」

農業や海洋調査に活用されるロボットなどは、一定期間で土に還る素材を使用することで、有害物質を避けた安全なオペレーションが可能になると新山氏は話します。

また、技術開発だけではなく、倫理観や考え方に関する議論もなされました。

南澤氏は、「結局どこで使うのか?を考えることが重要です」と話します。「技術はあくまでも選択肢です。誰にどう使ってもらえたら彼らが幸せになるのか、を考える必要があります。だからこそ、卓上ではなく現場で実際のユーザーからフィードバックをもらうことが重要です。」

「もう一つ、新しい技術に対する社会システムも大切です」と南澤氏は続けます。「公共の場に新しい技術が出ていく時に、社会的ルールや人々のコンセンサスが必要になります。これも並行して作っていく必要がありますね。」

共創に必要なのは、技術のスペックよりも、一緒に何かやろうというマインドセットです。この共創は、人間同士だけでなく、人間とロボットの間にもあてはまるでしょう。「人間だけでなくロボットと一緒に社会課題の課題をしていきたい」と話す山口氏は、完璧を求めすぎず、多くの人とオープンにコラボレーションしていきたいとこれからの展望を語りました。

 

当日のイベントアーカイブを公開いたしました。全編をご覧になりたい方はぜひご視聴ください。