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[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.17「身体性と拡張 -肉体や生活に馴染むテクノロジーを考える-」

本記事は、2023年11月24日に開催されたMaterial Meetup TOKYO vol.17「身体性と拡張 -肉体や生活に馴染むテクノロジーを考える-」のレポートです。(text : 関本 武晃)

身体とテクノロジーの”間”

文明の発展とともに、私達の身体はテクノロジーにより「拡張」を続けてきました。たとえば、自転車は足を拡張し、双眼鏡やカメラは目の機能を拡張しています。他にも、車やパソコン、コントローラー、ウェアラブルデバイス、スマートフォンなど、私達の身体を拡張する技術は、あらゆる形で生活の中に溶け込んでいます。2023年11月24日に開催したMTRL Meetup TOKYO vol.17では「身体性と拡張」をテーマに、様々なアプローチで日々「身体」に向き合うゲストの方々とともに、肉体や生活に馴染むテクノロジーのあり方を考えました。
イベントでは、身体そのものでありながら、身体の奥にもあるような理解や感覚を身体性と呼びながら、プレゼンテーションや議論によってそのあり方と、拡張について考えていきます。

今回のゲスト
株式会社commissure, CTO 堀江 新さん
東京理科大学, 助教 佐々木 智也さん
肉体屋/ダンサー/振付家/どうぶつ体操主宰 わな猟師 のばなしコンさん

直感を超えた直覚的な理解と間身体性のテクノロジー

触覚技術を社会実装する株式会社commissureのCTOで、様々な対象を有機的に繋ぐシステムやインターフェイスを開発している堀江 新さんは、自身のテーマとしている「直覚」という概念から、身体性を通じた理解の共有についてのプレゼンテーションを行いました。
直覚とは、自己の身体理解の水準で物事を理解することだと堀江さんは言います。
言葉を使った説明や注意深い観察からの理解を”解釈による理解”、スマートフォンの操作に代表されるような、説明書がなくても使い方がわかるような理解を”直感的な理解”としたときに、その先にある、自分の身体の水準で対象を理解する理解の形が”直覚的な理解”だそうです。例えば、自分の手先や指先がどこにあるかなど、普段は考えることはないが、意識した瞬間にはすでに知っているような状態です。

株式会社commissure, CTO 堀江 新さん

では、こうした直覚的な理解を、自身の身体以外にも拡張していくためにはどのように考えればよいのでしょうか。
堀江さんは、「身」という漢字の成り立ちや「人間」という単語から、そもそも身体は一個体を指すことが自明ではないと考えるようになり、そのときに”間身体性”という概念と出会ったと話します。

イベント当日には、この間身体性をデジタルとアナログの間でも実現できるようなシステムなど、複数のデモを体験することができました。

同じ場に共存しなくとも、デジタルに受けた身体的な刺激をを共有するためのデモデバイス「seeling is feeling」を説明する堀江さん

堀江さんがCTOとして所属する株式会社commissureでは、複数の人が感覚の場を共有して合意を取ることによって成立するこの間身体性をシステムやインターフェイスによって実現することで、自分の身体の水準で対象を理解する”直覚技術”を研究開発しており、目的の対象をまるで自分の身体のように理解を可能にすることを目指しています。

拡張身体部位のある生活

東京理科大学, 助教 佐々木 智也さん

VRやロボットを使って身体を増やす研究をしている東京理科大学の佐々木智也さんは、メディアアーティストのステラークによる「Third Hand」から着想を得た「MetaLimbs(メタリム)」を始め、3つの研究プロジェクトから身体拡張の活用について紹介しました。

佐々木さんが修士から博士課程まで取り組んだ「MetLlimb」は四肢の変容を意味する名前のウェアラブルロボット。

「MetaLimbs」は足で操作を行う第三、第四の腕のウェアラブルロボットで、名前は変容を意味するMetamorphoseと四肢を意味するLimbsからつけられました。
佐々木さんは、「MetaLimbs」の説明の中で、心理学や認知科学の分野における自分の身体に関する認知について触れます。「身体所有感」と「運動主体感」です。
「身体所有感」とは、「自分の身体が自分のものである」という感覚で、一般的には視覚と触覚の同期が継続的に繰り返されていることによって生み出されます。これを用いた代表的な錯覚が、ラバーハンドイリュージョン(※)です。
「運動主体感」は、「この行為を起こしているのがまさに自分である」という感覚で、ゲームの操作などがその例として挙げられます。
※自分の一方の手を隠して、ゴム製の手が見えるようにしておき、その「偽の手」に触覚刺激を与えると、自分の手を触られているように感じる現象

海外でデモを行った際に、体験者が、「MetaLimbs」で持ったコップを、口元に持っていくように動かしたことを振り返り、佐々木さんは「性別や言語を問わず、身体感覚の変容が見られたことが興味深かった」と語りました。

続けて、「身体部位をどのように使用できるのか?」という問いから、着脱可能な手に関するプロジェクトを紹介します。

TOMURA

「TOMURA」は手首と5本指のある、人の手に近いロボットハンドです。巻きつけるようにして腕や脚に取り付けることが手の存在から、手が置かれる文脈に合わせて、あるときは道具、あるときは身体など、意味合いが変化することが発見できたそうです。プロジェクトでは「design space」として、外部化された手との関わり方について体系的にまとめられています。

最後に、人間に装着する形ではなく、非接触の腕として、人間と座標を共有する拡張身体「Human Coincident Robot」を紹介します。

Human Coincident Robot

このロボットは人が内側を歩ける構造になっており、使用するユーザーが瞬時に入れ替わることができたり、独自のカスタマイズができたりなど、自由な身体拡張の活用と展開が考えられます。
身体がインテリアのように当然に外部化されていて、服を脱ぐより前に身体を取り替えるような未来も近いのかもしれません。

身体を肉体として探求する

3人目のゲストは、ダンサーとして肉体そのものの探求をされている”肉体屋”の、のばなしコンさん。
これまでの工学的な視点とは打って変わって、まさに身体的なセッションを行ったコンさんのプレゼンテーションは、参加者の視点に豊かな幅をもたらしました。

のばなしコンさん

コンさんのお話は、ダンサーとしての活動とそのテーマの紹介から始まります。
虫の生態を元にした「integration」。ゆっくりと複数人が絡み合いながら、人の上に乗った人が演技をしたり、下から人を操作する群舞で、人間が人間ではないような状態を生み出します。

integration

ソロ作品として、足を手のように扱って手と足がわからなくなるような動きや、体を流体のように見せるメソッドを用いた普段の人間の動きとは外れたような表現を通して、”現象になる”ようなダンスを紹介いただきました。また、コンさんが講師として行うワークショップでは、音や身体を使って、生物の根源的な動きを模倣するようにして、参加者に身体操作の自由度を伝えています。

最後に、会場でのデモンストレーションでプレゼンテーションは締めくくられました。これまでのプレゼンテーションから「ねじる」というワードを抜き出して、坐骨を意識した円の動きや首の皮をねじる動きなどを参加者、登壇者全員で体験します。
会場が一体となって同じ動きを共有することで、これまでのセッションの中で出てきた学術的な用語を身体的に体感するような感覚になり、言葉で語るよりも大きな示唆をもたらしました。

肉体や生活に馴染むテクノロジーを考える

後半は今回のオーガナイザーでもある関本(筆者)がモデレーターとなって1時間に渡るクロストークを展開。
身体性とは何か、肉体や生活に馴染む身体拡張の在り方はどのようなものか、3名のそれぞれの視点から、考えを深めていきました。

オーガナイザー:株式会社ロフトワーク MTRL 関本 武晃(筆者)

身体性は、動くことと動かすことの間にある体のモードなのではないか。そう考えさせられたのは、コンさんのダンスにおける思考について伺った際の回答。
テクノロジーの視点から身体性を取り扱う研究者のお二人とは対象的に、肉体のみでパフォーマンスを行っているコンさんは、身体操作を行うときに何を考えているのか伺いました。
コンさんは「基本的には、物理的な自然さに身を任せている。」と答え、また、「環境と体のモードの組み合わせ」からパフォーマンスを組み立てているそう。会場を広く使って、少し動きを再現しながら説明していただきました。

これまでのプレゼンテーションも振り返りながら、身体性の定義が大まかに見えてきます。

会場の空間を活用しながら芋虫や猿を模した動きを見せるコンさん

話は展開して、身体性から”間身体性”の話に。「integration」で身体を委ねあいながら二人が一匹の虫のように見えるような動きを挙げて、堀江さんは、「(コンさんのダンスパフォーマンスにおいては、)共通の目的を設定しながら、リーダーとフォロワーの関係がどんどん入れ替わるのだと思う。この入れ替わりの循環が起きた時に一つのシステムとして働くのではないか」と推察します。対して佐々木さんは「もしロボットと人間とで今のようなことを行う場合、それを実現するためには、力の交換だけではない交換が必要。それがエンジニアリングに落とせるとすごく良い」と興味を示しました。

また、身体とテクノロジーとの間で同じような循環があるのではないか、として「MetaLimbs」におけるロボットアームとの握手が話題にあがると、佐々木さんは「セルフタッチによって自分の身体であると感じるということはある。ロボットが自分の皮膚に触れていること、ロボットアームを介して触覚をフィードバックすることによって、二人の身体共有で起きた循環が身体とロボットハンドとの間で起きているということはありえそう」とコメント。さらに、堀江さんは「第三者的に見て手同士のインタラクションに見えるということが手の形をしていることの良いところだと思う」と述べ、肉体や生活に馴染む身体拡張の在り方について大きな示唆を受けることができました。

身体拡張とは、ロボットを含めた多種間との身体性の交換であり、一心同体ではなく、いわば多心同体と言えるようなインターフェイスこそが、肉体や生活に馴染むテクノロジーなのかもしれません。

会場では佐々木さん、堀江さんのプロジェクトデモの他、慶應大学メディアデザイン研究科の脇坂崇平さんにご用意いただいたデモが体験でき、トークセッション終了後も賑わいを見せていました。
専門的な用語や抽象的な話題を、デモンストレーションを通して体感するような、不思議な感覚も得られたミートアップとなりました。

Material Meetup は、「素材」をテーマに、ものづくりに携わるメーカー、職人、クリエイターが集まるミートアップ。

新しい領域でのニーズや可能性を探している、「素材を開発する」人
オンリーワンの加工技術をもつ、「素材を加工する」人
持続可能な社会を目指して、「素材を研究する」人
機能や質感、意匠性など、複合的なデザインを行ううえで様々なマテリアルを求めている、「素材からデザインする」人
…そんな人々が「デザインとテクノロジー」そして「社会とマテリアル」の観点から、業界の垣根を超えてオープンに交流し、新たなプロジェクトの発火点をつくりだす機会を継続的に開催しています。

カタログスペックだけではわからない素材の特性や魅力を知り、その素材が活用されうる新たな場面(シーン)を皆で考える。「素材」を核に、領域横断のコラボレーションやプロジェクトの種が同時多発する場。それが Material Meetup です。

2018年のスタート以降、東京・京都の各拠点ごとに、それぞれ異なるテーマを設け継続開催しています。

■ Material Meetup 過去開催情報:https://mtrl.com/projects/material-meetup/

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