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[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.14「言葉から成り立つ 新しい写真のゆくえ」

本記事は、2023年7月28日に開催されたMaterial Meetup TOKYO vol.14「言葉から成り立つ 新しい写真のゆくえ」のレポートです。(text : 吉澤 瑠美)

写真はどこまで「写真」か?現実と虚構の間のあそびが広げる可能性

画像生成AIはこの数年で急速に精度が向上しています。

先日は、AIによって生成された画像が写真コンテストに入賞してしまうというニュースも話題になりました。技術の進化によって現実と虚構の境目が曖昧になりつつある現在の状況を、クリエイターはどのように捉えているのでしょうか?

2023年7月28日に開催したMTRL Meetup TOKYO vol.14では「フォトグラフィー×AI」をテーマに掲げ、3組のクリエイターを迎えてディスカッションを行いました。


今回のゲスト
写真家・小説家|清水 裕貴さん
アーティストユニット|赤羽 佑樹さん、新見 知哉さん(※展示のみ参加)
情報科学芸術大学院大学 博士後期課程 / コニカミノルタ株式会社 /TAKT PROJECT株式会社|神谷 泰史さん

▼開催概要:Material Meetup TOKYO vol.14「言葉から成り立つ 新しい写真のゆくえ」
https://mtrl.com/tokyo/event/230728_material-meetup-tokyo-vol-14

「写真で撮れないもの」を言葉で補完し、現実を超越した表現を目指す

清水さんは写真家、小説家として活動しています。AIを使って制作しているわけではありませんが、清水さんの写真作品は言葉と組み合わさることでその真価を発揮します。最初にモチーフを設定し、それについて文献を漁ったりゆかりのある人にインタビューを行ったりしながら、感じ取った光や空気感を写真に収め、言葉や文章とともに発表するという手法で独創的な作品を生み出しています。

このような形で作品を作るようになったのは2011年頃からのこと。街を散策しながら写真を撮っているうち、物語のようなものが浮かぶようになったのだそうです。やがて、言葉に対する意識が徐々に「写真で撮れないもの」へシフトする中、表現への関心が高まって小説を書き始めたといいます。2018年には新潮社「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を受賞し小説家デビュー。言葉による表現活動も軸足の一つとなりました。

「何かをインプットした際、単発的なイメージというより連続したシーンのようなものが思い浮かぶ」と語る清水さん。それを表現するための手法が現在の写真+テキストであるとし、組み合わせることによって実在の風景を超越した表現を可能にしています。

視覚と認識のズレ、その狭間に見える不思議な世界

アーティストユニットとして連名の作品を発表している赤羽さんと新見さんですが、普段はそれぞれ写真家、映像クリエイターとして個々に活動しています。二人が扱うのは画像生成AIを使った作品制作。画像から画像を生成するAIを使って出力した素材をコラージュして作品にしています。

 

二人の作品は一見すると、この物体が何なのか分からないこともしばしばあります。しかし「それこそが作品の狙い」であると赤羽さん。画像生成AIを活用して実際の視覚情報と認識のズレ、見ることや認識することにフォーカスして作品化するのが二人の作品の特徴です。実験的になんとなく始めた活動が、今では作品として進化しています。

 

FabCafeでのイベント出演に際し、二人はUVプリンタとレーザーカッターを利用して質感を変容させる試みに挑戦しました。毛玉に陶器のような質感を与えたり、風船の表面に石の質感を表現したり、そこには見る者の認識を翻弄するような不思議な世界が広がっています。それこそが二人の思惑であり、例えるなら「ボールでもあり、りんごでもある」ような認識の揺らぎを追求することに面白みを感じるのだと赤羽さんは語りました。

Material Meetup TOKYO vol.14 EXHIBITIONのために制作された作品「Neural Dreamscapes」

photo by Takuya Yamauchi

共創の可能性を広げる「バウンダリーオブジェクト」

神谷さんはコニカミノルタでイノベーションを生むためのプロセス開発に取り組む傍ら、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)ではアートの考え方をビジネスに取り入れる研究を行っています。

新しい価値を生み出すため多くの企業がイノベーション活動に取り組んでいますが、立場の違いによって意見の衝突がしばしば起こります。そこで神谷さんは「バウンダリーオブジェクト」という先行研究に注目しています。多様な人がそれぞれ別の目的を持って関わり合う際、プロトタイプなど何らかのメディア(バウンダリーメディア)が介在し間を取り持つことで協力体制を築きやすくなるという考え方です。神谷さんは事例を挙げながら「メディアはただ情報を伝達するだけでなく、メディアを通して受け手が新たな解釈や新しい情報を生成する効果も持つ」とイノベーションにおける可能性を示唆します。

コニカミノルタでは、祖業である写真を素材に未来を考える「f∞ studio program(フー・スタジオ・プログラム)」というオープンプロジェクトを行っています。「現代は人類史の上で最も写真が多い時代ではないか」と神谷さん。写真というメディアを中心に人が集まり未来を模索する、というこの取り組みもバウンダリーオブジェクトが機能している一例と言えるのかもしれません。

AIによる解釈に場内騒然?画像生成AIを使ってイメージを出力してみよう

今回のMeetupでは、テーマになぞらえて画像生成AIを使ったデモンストレーションに挑戦。登壇者が用意した75ワード程度のプロンプト(指示)によって新たな画像が生成される様子を全員で見守りました。

3組ともなかなか思い通りの画像が生成されず悪戦苦闘。AIがインプットしている画像に引っ張られて偏ったイメージが出力される傾向が強いようです。神谷さんは「未来」をプロンプトに組み込んでも過去の画像に基づいた画像しか生成できない矛盾に興味深く注目。作品制作にもAIを活用している赤羽さんは「意図したものが一発で出ることも、うまくいかず一日中AIと格闘することもある」とAIが生み出す偶然性を解説しました。

AIの生成する作品は「写真」と言えるのか?写真と技術をめぐるクロストーク

後半は今回のオーガナイザーでもある三浦 永(ロフトワーク)がモデレーターとなってクロストークを展開。3組の考えや活動を掘り下げました。

三浦がこのテーマを掲げて最初に考えたのは「生成AIの登場によって写真やアートの存在が危うくなっているのではないか」という懸念だったといいます。しかし赤羽さんは「写真には広告もあれば記録もある。何を撮るか、何を表現したいかのほうが重要で、生成AIをツールとして使うことはあまり影響がないと感じている」と前向きな回答を返しました。清水さんも「作品制作においてはCGや合成もすでに取り入れられている」と同調し、「むしろ商業カメラマンのほうが立場を脅かされそう」とコメントしました。

商業カメラマンに発注する側となり得る神谷さんも「都度外注しなくても高品質のビジュアルが気軽に手に入る」とポジティブな側面を示す一方、「AIサービスを提供する側になった場合、企業倫理が問われる」と指摘しました。

 

また、「写真という表現方法が他の表現方法に取って替わられるとき、写真の役割はどのような言語・手段に置き換えられるか」という問いから、「写真とは何か」という根源的な問いへと話題が展開します。赤羽さんは「新しい技術が全部『写真』という言葉に集約されている。写真という言葉に置き換わるものはないと思うし、それだけ写真の定義は難しい」と回答。

一方で清水さんは「写真そっくりの写実的な作品でもCGだったらそれは絵。AIで生成したアートも絵なのでは」と問題を投げかけます。神谷さんは「写真は歴史上一番テクノロジーの影響を受けてきたメディアだから議論の対象になりやすい。何でも写真だと言えてしまうが最終的には自分がどう捉えるか」と語り、結論を各々に委ねる形でクロストークを締めくくりました。

Material Meetup は、「素材」をテーマに、ものづくりに携わるメーカー、職人、クリエイターが集まるミートアップ。

  • 新しい領域でのニーズや可能性を探している、「素材を開発する」人
  • オンリーワンの加工技術をもつ、「素材を加工する」人
  • 持続可能な社会を目指して、「素材を研究する」人
  • 機能や質感、意匠性など、複合的なデザインを行ううえで様々なマテリアルを求めている、「素材からデザインする」人

…そんな人々が「デザインとテクノロジー」そして「社会とマテリアル」の観点から、業界の垣根を超えてオープンに交流し、新たなプロジェクトの発火点をつくりだす機会を継続的に開催しています。

カタログスペックだけではわからない素材の特性や魅力を知り、その素材が活用されうる新たな場面(シーン)を皆で考える。「素材」を核に、領域横断のコラボレーションやプロジェクトの種が同時多発する場。それが Material Meetup です。

2018年のスタート以降、東京・京都の各拠点ごとに、それぞれ異なるテーマを設け継続開催しています。

■ Material Meetup 過去開催情報:https://mtrl.com/projects/material-meetup/

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