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[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.11「Well-being を実現するSleeptech」レポート


MTRLが企画・運営を行なっている素材に着目したミートアップ「Material Meetup TOKYO」。2020年を締めくくる12月11日(金)vol. 11では「Well-being を実現するSleeptech」をテーマに開催しました。

オーガナイザーである柳原から今回のイベントでディスカッションしたい内容に関しての紹介からスタートしました。
私たちの生活意識や企業の開発目標に根付いてきたSDGs。その中には「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」という項目があります。私たちの「健康と福祉」を考える上で、人生の3分の1を占めると言われている「睡眠」は、切っても切り離せない関係にあると言えます。
忙しい毎日を送る私たちが「健康と福祉」を実現するためには、睡眠の質や環境を整えることが非常に重要です。Well-beingを実現するために、私たちは睡眠環境をどのようにデザインすることができるか、多彩なゲストを招いて議論します。

睡眠環境のデザインで実現される「Well-being」とは?
MTRL プロデューサー 小原 和也 (弁慶)

Well-beingは、対応する日本語がまだ確立されていない新しい概念で、直訳すると「良い在り方、良い状態」となります。病気や怪我など、私たちは悪い状態や課題には容易に気がつく一方で、自分が満たされているか、良い状態にあるかどうかということにはなかなか気づくことができません。
MTRLの運営元であるFabCafeは、良い状態をデザインするためのアプローチを考える企業向けコミュニティ「Well-Being道場」をMTRL プロデューサー小原 和也 (弁慶)が中心となり発足しました。

Well-beingを捉えるにあたり、これまでは健康状態をより良く保つ「医学的側面」と、その時々の気分の良し悪しや快不快によって判断される「快楽主義的側面」で語られることがほとんどでした。しかし現在は「持続的側面」のWell-beingに注目が集まっています。心身の潜在能力を引き出し、活き活きした状態を保つことがWell-beingである、という考えです。
ウェルビーイングに関しての紹介やワークショップを実施するためのPDFを公開しているので、関心のある方はぜひご覧ください。
http://wellbeing-technology.jp/

『老舗寝具メーカーがデザインする未来の睡眠』
西川株式会社 営業企画統括部 マーケティング担当 折笠 舞氏

昨今、日本人の睡眠不足は社会問題化しており、2017年には「睡眠負債」が流行語大賞にノミネートされました。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で睡眠時間はワースト1、睡眠不足による経済損失額は年間約15兆円といわれ、日本経済にとっても深刻な問題です。

 

そこで寝具メーカーの老舗、西川株式会社は1984年に日本睡眠科学研究所を設立。「良い眠り」を科学的に研究し、商品開発につなげています。代表的な商品がマットレスを主軸とした寝具シリーズ「AiR[エアー]」です。身体にかかる圧力を点で分散させる特殊立体構造のマットレスは、良好な寝姿勢を維持し、質の高い睡眠をサポートします。
一方で、眠りに課題意識を持っていない人にはアプローチが難しいことも事実です。そこで西川は「寝具のIoT化」を始めています。2020年3月にパナソニックと共同開発し発売した「快眠環境サポートサービス」はその一例。専用のセンサー内蔵型マットレスで眠ると、自動的に睡眠時間や眠りの深さなどが計測されます。この計測データと家電が連携し、温度や光を制御することでベストな寝室環境を作るのです。日常生活のモニタリングから改善ポイントを洗い出し、環境を起点に睡眠の質を高めていくという発想です。

少子高齢化、医療費の増大、そして昨今のパンデミック。私たちの健康を脅かす課題は尽きません。折笠氏は「自分の健康を自分で守り、整えるために、暮らしと健康を構成する寝具を見直してほしい」と語り、プレゼンテーションを締めくくりました。

『より良い睡眠のための入浴環境のデザイン』
株式会社バスクリン 製品開発部 石澤 太市氏

長い間、入浴は疲労回復を促し心身をリラックスさせるものと考えられてきました。人々の生活リズムを調査したところ、7割以上の人が入浴後2時間以上経過してから眠りについていることが判明。株式会社バスクリンは、眠りにつくまでの生活リズムと入浴が心身に与える影響を調査し、入浴と睡眠の関係を検証しました。
調査によると、冷え性を自覚する人の約80%が「入浴すると寝付きが良い」と回答しています。一般的には末梢から体温が下降し眠りに入りますが、手足が既に冷えている冷え性の人は体温が下降せず眠りにつきにくい傾向にあります。そこで就寝前に入浴した場合と、シャワーのみの場合、入浴しない場合における睡眠中の自律神経の活動を比較しました。その結果、入浴後に就寝することで身体活動を活発化させる交感神経が抑制されることがわかりました。

「暑い夏場の入浴はシャワーで済ませる」という方は少なくありません。しかしその一方で、「疲れを取りたい」「免疫力をつけたい」などの理由から浴槽浴を選ぶ人がここ5年ほど増加傾向にあります。夏場のシャワー浴と浴槽浴とでは睡眠の質に違いがあるのでしょうか。シャワー浴後に眠った場合と浴槽浴後に眠った場合では、浴槽浴を行った人のほうが中途覚醒時間が減り、睡眠効率が高まることがわかりました。
疲労回復、リフレッシュという観点ではどうでしょう。強化合宿中のレスリング選手に協力を仰ぎ、浴槽浴とシャワー浴とで体感値を比較したところ、浴槽浴では疲労回復感が連日維持されたものの、シャワー浴では徐々に疲労が蓄積していることがうかがえます。リフレッシュ感も、シャワー浴より浴槽浴のほうが高い水準を維持しました。
3つの事例から浮かび上がったのは、入浴と良質な睡眠との結びつきです。石澤氏はこれを「入浴が体温変化とリラックスをもたらしたためではないか」と解説しました。安定したコンディションや健康に結びつく、良質な睡眠を得るためのヒントとなりそうです。

『あらゆるハードルを下げた睡眠の新習慣~睡眠サポート食「にゅ~みん」~』
カルビー株式会社 Calbee Future Labo クリエイティブディレクター 山邊 昌太郎氏

カルビー株式会社の新規事業開発チームCalbee Future Laboが消費者の声をもとに開発した「にゅ〜みん」は、カルビー初の睡眠をサポートする機能性表示食品です。睡眠の質を高める自然由来の成分・クロセチンを配合し、水なしで食べられるフィルム型になっているのが特徴です。
枕が変わっただけで眠れなくなるという人がいるほど、睡眠はナーバスな問題です。業界内ではこれまでにも課題解決のために様々な商品開発が行われてきましたが、「睡眠サプリは異物感がある」「睡眠薬はネガティブな印象を受ける」「水で飲むと夜中のお手洗いが心配」などいくつもの心理的障壁が解決の妨げになっていました。

新商品なら効果、効能を一番に訴求したくなるところですが、「にゅ〜みん」は消費者のハードルを下げることにフォーカス。水を飲む必要がない分トイレの心配が解消される「食べるフィルム」仕様や、異物感を覚えないほどの薄さなど、眠りにつく直前にも食べやすいことを主軸に発信しました。
Calbee Future Labo立ち上げ当初からの信条は「味に逃げるな」。おいしいものを作るのが食品メーカーですが、逆に言えば、おいしさは誰もが追求するものとも言えます。食品以外の土俵でも戦える食品を作ることが、今求められる商品開発なのかもしれません。
「にゅ〜みん」は応援購入サイト「Makuake」にも出品。発売から2日で目標金額を達成し、300%近い達成率でプロジェクトを終了しました。2021年1月からは一般販売も始まり、新しい睡眠サポートの形として普及することが期待されます。

クロストーク

最後は登壇者全員でクロストークを開催。それぞれの専門分野から睡眠に対する知見と思いを共有しました。
本イベントのオーガナイザーである小原(弁慶)は、「気分良く眠れる日もあれば、いくら寝ても疲れが取れない日もある。良い睡眠という学術的定義はある?」と素朴な疑問を投げかけます。
折笠氏は、決まった定義はないこと、睡眠には年齢や個人差があることを前提とした上で、「大まかに言うと「ぐっすり眠ってすっきり目覚める」のが良い睡眠。入眠時間が短いこと、中途覚醒がないこと、すっきり目覚めることを指標にしています」と日本睡眠科学研究所としての見解を紹介しました。
今回のプレゼンテーションの中では、食品メーカーであるカルビーがあえて機能性に特化した商品開発を行ったことも印象的でした。「顧客志向を考えて声を拾った結果、たまたまお菓子じゃなかった」とプロジェクトの始まりを振り返る山邊氏。「当たり前」の行為を否定するという考えがあったため、早い段階からシートという形態が構想にあったそうです。
やがて話題はWell-beingに展開。Well-beingを活かした商品・サービス開発について各社の取り組みを伺いました。バスクリンからは、職場のWell-being向上を考えた企業向けサービス「オフィスきき湯」が紹介され、疲れた時に栄養ドリンクを渡すことはさらに働くことを促すようでリフレッシュとは逆効果になるのではと指摘。入浴剤を渡すことが休息を促すメッセージになり、コミュニケーションツールとしても役立つと提案しました。

西川では、社内の福利厚生として2年前から設けられている仮眠室「ちょっと寝ルーム」を紹介。傾きの付いたベッドが並び、照明がフェードアウトして15分経つと音と光で起こされるプログラムになっています。短い仮眠はパワーナップと呼ばれ、生産性向上につながると注目を集めています。「ちょっと寝ルーム」はすでに様々な企業への提案・導入が実現しており、社員の生産性向上だけでなく、睡眠をきっかけに社員のエンゲージメントを高める取り組みにもなっていきそうです。
カルビーは、今回プレゼンテーションのあったCalbee Future Labo自体がまさにWell-beingに対する提案を手掛けています。おいしさが一番の価値であることには変わりありませんが、味覚以外に嗅覚、聴覚、触覚など五感をフル活用した商品開発が人々の生活をより豊かにするとしています。山邊氏は「人々にとっての喜びをもっと広く定義していいのでは」とコメント。Well-beingの考え方とリンクする発言に全員が深く頷き、クロストークは終演しました。

かつて私たちの社会でも「寝る間を惜しんで」活動することが良しとされてきましたが、睡眠を疎かにすると思うようにパフォーマンスが発揮できないと人々が気付き始めた現代では年々眠りに強く意識が向けられていることを感じます。睡眠による疲労回復が生活リズムを整え、健康維持や日中のパフォーマンスを高めることにつながります。Well-beingを向上するためにも、いま一度睡眠を見直してみてはいかがでしょうか。

Material Meetup TOKYOは、今後も開催予定です。開催が決まり次第、FabCafe Tokyo公式サイトにてお知らせしますのでご興味ある方はぜひお気軽にご参加ください。

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