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[Event Report] Material Meetup TOKYO vol.9「ウェアラブルデバイスとマテリアル」レポート

FabCafe Tokyoを会場に開催されている、「素材」をテーマにしたミートアップ「Material Meetup TOKYO」。毎月スピーカーを囲んで多くの参加者で賑わう名物イベントでしたが、新型コロナウイルスの影響などにより、半年以上もの間、開催を見送ってきました。

しかし2020年8月5日(水)、満を持してオンラインイベントとして再開。自宅で過ごす時間が増え、身につけるものや健康管理に改めて目を向ける人が増えた現状において、「ウェアラブルデバイスとマテリアル」というテーマは、図らずもタイムリーなものとして参加者の興味を惹きつけました。

特に、デバイスやマテリアルの高性能化と軽量化が進み、自由度が加速度的に高まっています。記憶媒体に関する事例を見ると、1950年代には5MBのハードディスクを大人数名がかりで運ぶような状況でしたが、現代ではその約6400倍にあたる32GBの記憶容量のスマートウォッチを腕に装着することが可能となりました。センサーやアクチュエータの高性能化・軽量化を続けており、これからウェアラブルデバイスはどのような進化を遂げるのでしょうか。

 

イベント概要:Material Meetup TOKYO vol.9「ウェアラブルデバイスとマテリアル」
https://fabcafe.com/tokyo/events/material-meetup-tokyo-vol-9

『分野横断型のコラボレーションにより生まれた Synesthesia Wear』
帝人株式会社 山田順子氏

ポリエステル繊維をはじめとしたマテリアル事業から医療機器などのヘルスケア事業まで手掛ける帝人株式会社二次元通信ハプティクススーツ「Synesthesia Wear(シナスタジア・ウェア)」を開発しています。Synesthesia Wearは、ウェア全体に振動子が付けられており、着るだけで仮想空間の物体に手で触れたような感覚が体験できたり、身体の動きを感知して二次元通信で送受信できたりするというウェアラブルデバイスです。

同社では、篠田裕之教授(東京大学)考案の「二次元通信」という技術を約20年間にわたり研究しています。二次元通信とは、1点から電波を入力するとシート全体に電波が広がり、シートの上に通信環境を生み出すことができるという技術。ケーブル通信よりも位置自由度が高く、無線通信よりも混線のリスクが低いという特徴から、これまでにも製品化され、安定したWi-Fi環境の構築やオフィスの在席管理、流通などの場での商品管理に貢献してきました。

帝人は二次元通信技術を活用すべく、銀メッキの導電繊維とポリエステルの絶縁繊維を織り交ぜた通信シートを開発。布全体を伝送路としているため、個別の配線を行わなくても給電と通信を行うことができます。これにより、日常の衣服により近いウェアラブルデバイスが開発できるようになりました。

現在は一方向での通信のみができる状態ですが、すでに現在双方向の通信ができるプロトタイプを開発中とのこと。衣服としてのデザイン性なども向上し、今まで以上に生活に根ざしたウェアラブルデバイスとなることが期待されます。

『Mixed RealityにRealityをPlusするハプティクス技術』
株式会社ホロラボ 前本知志氏

MixedReality(xR)の先駆者として活躍する株式会社ホロラボは、仮想現実と現実の境目をなくすような触覚体験を開発提供しています。昨年には以前のMaterial Meetup TOKYOにも登壇いただいた豊田合成のe-Rubberを駆使して触覚フィードバックシステムを開発、今年開催されたCES 2020にて「そこにないもの」の感触や風圧を感じる体験を提供し、注目を集めました。

構想2か月、開発1か月という超集中プロジェクトでしたがその反響は大きく、ヘッドマウントディスプレイで知られるMagic Leap社のCEOからも高い評価を得ました。

ハプティクス技術については、実にさまざまな研究や実験が行われており、知見も蓄積されてきたと言えるでしょう。しかし、実用するためには高価なデバイスが必要というハードルがあり、一般社会に広く普及するにはまだ課題が残されています。

ただその一方で、昨今のコロナ禍により「触りたくても触れない」という状況が世界的に発生しています。離れていても、また衛生上触れないものでも、xRでは非接触で感触を共有することができます。ハプティクス技術がこの現状を打破する鍵になるかもしれません。

『次世代のフットウェアにおけるクラフトマンシップとは』
MAGARIMONO 津曲文登氏

「STEP DIFFERENCE 異端が未来のスタンダードとなる」をコンセプトに活動するフットウェアブランド「MAGARIMONO(マガリモノ)」。彼らは、ハンドメイドの技術をテクノロジーでアップデートすることに挑戦しています。

特徴は、靴を構成するほぼすべてのパーツが3Dプリント出力されていること。通常、靴は工場で製造される事が多いですが、3Dプリンタで出力することによって、生産ロットや在庫、製造ラインの初期コストなどを気にする必要がなくなりました。

それだけではありません。これまで、汚れたり破損した靴はメンテナンスをする必要がありましたが、その汚損状況を製品データに反映することで、すべてのユーザーがより履きやすい快適な靴を手に入れることができます。いわば、ユーザーがみんなで製品やブランドを育てていくという新しい関わり方が生まれつつあります。

彼らが大切にしている理念は「クリエイティブとテクノロジーの高度な融合」。ものづくりに必要なのはデザイナーや職人だけではなく、エンジニアやリサーチャーの役割も今後重要になってくるでしょう。ものづくりの組織=「メゾン」を育てて、新たな価値や表現を生み出していくことを目指している、ということでした。

クロストーク

最後に、登壇者3名とFabCafeメンバーによるクロストークです。身につけるものとテクノロジーの融合、というアプローチの中でもそれぞれ違った挑戦をしていたお三方にディスカッションをしていただきました。

まずは、今回のテーマになぞらえて。素材の進化によって、ウェアラブルデバイスは今後どのような変化を辿っていくのでしょうか。まさに帝人のSynesthesia Wearがその代表的な例ですが、加えて津曲氏はリーバイス社とグーグル社のコラボ例を挙げ、「生地そのものにセンサーが入ったジャケットをリーバイスも発表している。素材が変わればコミュニケーションのあり方も変わりそう」と、ウェアラブルデバイスがより生活やコミュニケーションと密接な関係性を築く未来を提示しました。

しかし一方で、前本氏のセッションでも触れられたように、ウェアラブルデバイスを身近なものとして捉えている人はまだまだ少ないのが現状です。より幅広い層に普及させるため、乗り越えるべき課題として「現状のデバイスは高価で大きなものが多い。ヘッドセットなどの場合、かぶるという行為に抵抗を感じる人も少なくない」と前本氏は指摘。「メガネのように小さく軽く、生活の中で使いやすい物へと変わっていけば」と話しました。

また山田氏は、家族とのエピソードを交え「身につけるものは好みが分かれる。まずは刺さるユーザーにアプローチしていくのが良いのでは。特に若い世代は、新しいものに抵抗がなく、良いものを積極的に受け入れる人が多いので、子供や学生をターゲットにしたサービスを考えてみるのも一つの手段」と提案しました。

ヘルスケア領域での可能性やSDGsとの連携などにも触れつつ、三者三様の視点から興味深い意見が飛び交う中で今回のイベントは幕を下ろしました。

オンラインでの開催についても今後改善を重ねながら継続していきたいと考えています。次回以降の開催予定もMTRL・FabCafeサイトやSNSにてお知らせしてまいりますので、ご興味のある方はぜひお気軽にご参加ください。

Material Meetup TOKYOは、今後も開催予定です。開催が決まり次第、FabCafe Tokyo公式サイトにてお知らせしますのでご興味ある方はぜひお気軽にご参加ください。

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