- Project Report
プロジェクト事例 ― DESIGN WEEK KYOTOクラフトソン
事業化を目指し、自走するチームを作るには? スタートアップ創出を目指したオンラインワークを振り返る
◎ 本プロジェクトは、MTRLを運営する株式会社ロフトワークがプロデュース・ディレクションを手がけた事例です。
Outline
現代の課題は複雑化が進み、個々人が持つ知識やアイデアでは解決が難しくなっています。これを解決するために注目されているのが「ダイバーシティ」です。実現できれば、異なる背景を持つ人々の「視点」や「経験」を生かし、新たな解決法が模索できます。
様々な意見を掛け合わせ、イノベーションを起こすために全国でワークショップやハッカソンが行われていますが、立場や業界を超えた共創は困難なものです。当事者意識を育むことに苦戦して、活動が停滞してしまったケースも多いと思います。
京都の地場産業を盛り上げ、街をよりクリエイティブかつ持続的にしていくために活動を続けている「DESIGN WEEK KYOTO(以下、DWK)」も同様の課題に悩んでいました。当事者意識を育み、持続可能な活動を行うためにはどうすれば良いのか。2020年8月に行われた「クラフトソン(クラフト+ハッカソン)」からそのヒントを探ります。
執筆:鈴木 雅矩
自走するチームとビジネスモデルを生み出す、エコシステムをデザイン
DESIGN WEEK KYOTO は多様な交流を通じて京都の地場産業を盛り上げ、街をクリエイティブかつ持続的にしていくために生まれた一般社団法人です。活動の一環としてクラフトソンが開催され、参加者と共にプロダクト開発を行ってきました。
2020年にはロフトワークが企画と運営に加わり、プロジェクトの方向性を変えて「地場産業を活かしたビジネスモデルの開発」を目指します。コンセプトは「バグズ・イン・ザ・ライフ」。ひとつひとつ異なる自然素材と向き合い、「勘」や「感性」を伴った手しごとを行うクラフトを「バグを内包する存在」と捉えました。突然変異を引き起こし、技術や文化を発展させてきた「バグ(=欠陥、不具合)」をどのように生活の中に取り戻すのか? そんな視点から、工芸や地場産業の可能性をアップデートするサービスを考えます。
8月29・30日に行われたワークショップで地場産業を活かすビジネスプランを練り、2021年2月には投資家等や地元企業へ向けてプレゼンテーションを予定。支援を募りながら、文化的ベンチャーを育むエコシステムをつくります。
Interview
登場する人
キーワードは“自分ごと化”。単発で終わらないワークショップを目指した
DWKが活動を始めたのは2016年。地場産業の経営サポートや海外進出の支援、文化交流イベント等を行っていた北林さんが「多様な交流を通じて京都の街を盛り上げたい」と考えて事務局を立ち上げました。
京都には長い歴史に育まれた地場産業が根付いていますが、工芸品を使う人が減り、継承者不足が重なって廃業する工房が増えています。また、多様な人がいるのに横の交流が盛んではありませんでした。北林さんはこの状況を変えるために「誰もが京都のものづくりの世界に触れ、交流できる機会をつくろう」と考えました。
DWK 北林さん(以下北林さん):職人さんのなかには、偶然この世界と出会った人も多いんです。付き合った人の実家が伝統工芸を営んでいたり、たまたま工房を見学したら引き込まれてしまったり。ものづくりの現場はとても面白味があるので、接点をつくれば地場産業の魅力に気づいてもらえると考えていました。
立ち上げ後のDWKは、例年2月に人々が地場産業と交流するためのイベントを開催。京都府内の工房や工場が公開され、トークイベントやワークショップ、展示など様々な催しが行われます。クラフトソンは毎年夏に行われ、京都の地場産業を活かしたプロダクトを送り出してきました。活動は今年で4回目になりましたが、北林さんは運営上の課題を感じていたそうです。
北林さん:過去のクラフトソンは活動を持続させることに課題がありました。広くアイデアを集め、クラウドファンディングを通してテストマーケティングも行っていましたが、参加者の熱を維持すること、そしてプロダクト以上の画期的なビジネスを生み出すことが難しかったんです。今までの成果に手応えを感じる一方で、新たな一手が必要だと考えていました。
この悩みを日頃から聞いていたのがロフトワーク の木下です。北林さんと木下は、共に地場産業コミュニティに関わる仲。ロフトワークは2015年12月、「FabCafe Kyoto」を京都に開設。オープン当初から、クリエイターや職人、研究者など、ものづくりに携わる人々の交流が生まれる場づくりを行い、DWKとも継続的にコラボレーションしています。
北林さん:「ものづくり」という共通項があったので、私たちもFabCafe をイベント会場として利用させてもらい、木下さんには過去のクラフトソンで審査員もお願いしていました。地場産業の課題を議論するなかで、「新たな仕組みを考えたいですね」と話していたんです。そこでクラフトソンを進化させるため、ロフトワークに協力をお願いしました。
堤:プロジェクトはヒアリングから始まりましたが、そのなかで北林さんの話にうんうんと頷いてしまいました。「関係者の熱が冷めてしまう」「当事者意識を生み出せない」という課題は、ディレクターとして関わった他のプロジェクトでもよく耳にしていたんです。
新規事業やハッカソンにありがちな課題を解決し、進化させるためにはどうすればいいのか。堤は、持続するプロジェクトには「“自分ごと”として捉えている担当者がいた」と話します。
堤:「これから立ち上げるサービスや、つくるプロダクトを実際に自分たちで使いますか?」と問われて、「はい」と言えるかどうかがとても大切だと感じていて。担当者が「このプロジェクトは僕たちの暮らしを豊かにするかもしれない。だからなんとしても実現したい」と考えていれば、ビジョンに熱意がこもり、周囲の人を巻き込めます。
北林さん:堤さんの話を聞いて、ブラッシュアップの糸口はそこにあると感じました。地場産業の課題を“自分ごと”として捉えてくれる人が現れれば、地場産業の活性化に関わってくれるはず。そして、その活動を支える経済的な基盤やエコシステムも必要です。クラフトソンを進化させるために、今年度は「地場産業の自分ごと化」と「ビジネスモデルの創出」をテーマにしました。
ロフトワークはワークショップの企画・設計のほか、PRと運営を、DWK事務局はワークショップ後の事業化コーディネートを担当し、それぞれの強みを活かしたクラフトソンの設計が始まりました。
コンセプトは「バグ」。ユニークなキーワードが参加者を後押しした
「持続可能な産業をつくるために、どのようなワークショップが必要か?」と議論を重ね、導き出されたコンセプトが「バグズ・イン・ザ・ライフ」です。これには「技術や文化を発展させてきたバグ(=欠陥、不具合)を生活の中に取り戻そう」という意図が込められています。
堤:ひとことで「工芸」と言っても定義は様々ですし、それ単体では業界に関わりがない人には取っ付きづらい。だから興味の入り口として、自分たち自身も地場産業を身近なものとして面白がれるコンセプトが必要だったんです。そうしてミーティングを重ねるうちに、メンバーがポロッと「バグがいいのでは」と言い出しました。
北林さん:ブレストに参加していた僕も面白いコンセプトだと思いましたし、今年は新しいアイデアを集めるために参加者の層を変えてみたかった。ユニークなコンセプトはその目的にうってつけでした。
実際に参加者を募ってみると、クリエイターや職人をはじめ、学生や会社員など、例年とは異なるコミュニティから30名の参加者が集まりました。
堤:例年と異なる層にアプローチできたのは、コンセプトの力が大きかったと思います。今まで「なんとなく地場産業に興味がある」くらいに感じていた人達が、「このコンセプトなら参加してみたい!」と思ってくれた。DWKとロフトワーク がタッグを組んだことも良い効果を生みました。それぞれが培ってきた異なるコミュニティにアクセスできたので、参加者の多様化につながったと思います。