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『How to Make it Safe -誰かのためのものづくり- #1: フェイスシールド編』レポート

医療の現場でも新型コロナウイルスへの感染リスクと不安の声が高まっています。個人でものづくりに取り組むメイカーたちがさまざまな防護具の製造に動き始める一方、実際に医療の現場に届けるためのノウハウはいまだ十分とは言えません。善意による「誰かのためのものづくり」が人を傷つけないために、私たちは何を考えるべきなのでしょうか。

本イベントは、メディカルデザインエンジニアとして活躍する吉岡純希さんを中心に、医療とFabをつなぐための情報共有やディスカッションを通じて互いの理解を深める試みです。

医療現場に物資を届ける際の課題

物資が不足している医療の現場にものを届けるため、考慮すべきこととは一体何でしょうか?

吉岡さんがデジタルファブリケーションの世界に足を踏み入れたのは、いわば「メイカー=ユーザー」だった頃のこと。「Do It Yourself」というフレーズのもと、自分の思い描いたものが三次元で生み出されることを個々で楽しむ時代でした。

やがてメイカーとユーザーという2つの属性が分離し始め、家族や友人のためにものを作るケースが散見されるようになりました。そして現状はさらに複雑化しています。メイカーとユーザーの間にオーダーをする人が別に介在し、メイカーは誰がそのプロダクトを受け取るのか見えない状態でものを作らざるを得ない状況に立たされています。

ものづくりに伴う責任

現在の日本の法規上(製造者責任法)、3Dプリントによるプロダクトの責任は作った人に委ねられています。

ファブ社会推進戦略

3Dプリントで作られる製品は一品一様のものが多く、また素材の種類や制作環境によってアウトプットが左右されるため、品質の担保が難しいのが実際のところ。第三者が正しい用法で安全にプロダクトを使用するため、メイカーが目の届かない相手にものを作ったり販売したりする場合は、観察責任、説明責任が求められます。

また、人工呼吸器からフェイスシールドまでひとくくりに「医療機器」と認識されがちですが、厳密には網羅している法律や管轄が異なります。

治療の中で使用するものは医療機器に分類されますが、今回の「フェイスシールド」は雑品に分類されます。医療の現場に関わるものを製造、販売する際には、日本産業規格(JIS)で調べたり、都道府県の薬務主管局に問い合わせたりして分類を確認し、法律を参照しながら製造する必要があります。

感染にまつわる基礎知識

ウイルスから身を守るためには、スタンダードプリコーション(標準予防策)を習得することも大切です。たとえば正しい手の洗い方、正しいマスクの仕方などがそれに該当します。いくら性能の高いマスクを持っていても、付け方や取り外し方がずさんでは身を守ることにはなりません。

感染が成立するのは感染源(ウイルス)、感受性宿主(人)、感染経路(接触、飛沫)の3つの要素が揃った場合とされており、この3つの結びつきをどこかで断ち切れば感染は防ぐことができます。ものづくりの上でも、日頃の振る舞いにおいても、「そのアクションは何への対応策なのか」を意識することが感染の拡大防止に一層の効果をもたらすのではないでしょうか。

また、「洗浄」「消毒」「滅菌」という言葉が示す状態も理解しておく必要があるでしょう。「洗浄」は、付着しているものを洗い流すこと。「消毒」は、ターゲットとするある菌を倒すこと。「滅菌」は種別を問わずすべての菌を倒すことを示します。新型コロナウイルスに関しては、一般的な滅菌方法として知られる「高圧蒸気滅菌」や「エチレンオキサイドガス滅菌」、そして「煮沸消毒」や「次亜塩素酸ナトリウム」による消毒、手指の消毒には「消毒用エタノール」も効果があるとされています。

3Dプリント品の消毒・滅菌

医療の現場での使用を考えると、メイカーはターゲットとするウイルスに効果的な消毒、滅菌ができる素材を選ぶこと、またどの消毒・滅菌方法に対応しているかをユーザーへ明確に伝えることも意識しておく必要がありそうです。

フェイスシールドの需要と供給、そしてFab Safe Hub

フェイスシールドの機能はあくまで「飛沫が直接付着することを減らす」ことであり、「感染を予防する」ことではありません。それでも患者が増え続ける医療現場では日に日に需要が高まっており、ディスポーザブルなものを消毒して使い回さなければならないほど物資が不足している状況にあるようです。

一方、どこでどれだけの物資が不足しているのか、どうすれば安全に届けられるのかという情報がメイカー側に伝わっておらず、動くに動けない状況もあります。とりわけフェイスシールドに関して言えば、新型コロナウイルスの直接的な対処に追われる医療従事者だけでなく、歯科衛生士や手話通訳士、美容師など、広い領域にわたってニーズが高まっているという声も聞きます。

そこで吉岡さんは情報を集約し、整理して安全に提供するための「Fab Safe Hub」を立ち上げました。3Dプリンタなどを駆使して身近な人を助けるためのものづくり、そして金型などを作り大規模生産・流通で社会を支えるものづくりの2つのレイヤーがよりスムーズに動けるよう、情報のオープンソース化を始めています。

現在は3Dデータを公開・共有する動きが徐々に広まりつつありますが、第三者が安全かつ効果的に使用するためのパッケージを共有するというのがFab Safe Hubの方針です。取扱説明書や手順書、検品書などのテンプレートを公開し、作り手の負担を最小限にし余計な手間を省きながら正しい情報をユーザーまで伝達する動きを促す考えです。

今後の情報はSNSなどでご確認ください。

質疑応答

Q: フェイスシールドはすでに医療現場への提供が行われているのでしょうか?

A: すでに顔の見える関係性がある方々と連携して、フェイスシールドを提供すると同時に検証の場としてフィードバックを受け、バージョンアップに活かしています。

 

Q: 「エアロゾル感染のリスクが高い作業では、フルフェイスタイプや袋状のものを使う」という意見もありますが、どう考えていますか?

A: フルフェイスのほうがカバー率は高いですが、フェイスシールドとして現時点で確実に提供可能なのはオープンタイプになると思います。もので解決できる機能を提示しながら供給し、ユーザーに判断を委ねられるようにすることが現実的だと考えています。

 

Q: 抗菌フィラメントの使用に効果は期待できるでしょうか?

A: 一定の効果があるのかもしれませんが、積層痕への対処なども考えると消毒は不可欠だと思います。標準予防策の観点からも、素材だけに期待を寄せるのは現実的ではなさそうですね。加えて、医療現場では抗菌という言葉は非常に曖昧なため「洗浄・消毒・滅菌」という用語を用います。

 

Q: この新型コロナウイルス対策以外でも、ものづくりが医療に携われる余地はありますか?

A: 現場の声を聞いていると、フェイスシールドの供給が安定した後もガウンなど次のニーズが表出することが予想されます。また、これまでFabと医療のコラボレーションの仕方が分からずに実現できていなかった例も多々ありそうです。Fabの強みは、既存のプロダクトで解決しきれなかった個別の課題にスピード感をもって応えるという点で、今回のコロナウイルス対策を経て医療のいちパートナーとして共存していく可能性は十分にあるのではないでしょうか。

 

 

直前の告知にもかかわらず、当日は100名近くの方々がオンラインで参加。ものづくりに携わる方を中心に、医療従事者や学生など、幅広い層の方々が集まり活発なディスカッションが行われました。

次回は4月23日(木)19時より、同じくオンラインで開催します。情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授の小林茂さんをゲストに迎え、自作マスクをテーマにディスカッションしますので、興味のある方はぜひご参加ください。

https://fabcafe.com/tokyo/events/04232020_HowToMakeItSafe02

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