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ヒダクマ × MTRL Business Meetup CAMP 2024 ふりかえりレポート(前編)

みなさん、こんにちは。
ロフトワークMTRL事業部、クリエイティブディレクターの三浦です。

ロフトワークでは例年の恒例社内行事である『合宿』が行われていることをみなさんはご存知でしょうか。

今年度は各事業部でそれぞれ合宿を行うこととなり、私たちMTRL事業部は関連企業である『株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称「ヒダクマ」)』との合同合宿を、7月11-12日の1泊2日でヒダクマの所在地である岐阜県飛騨市古川町にて行いました。
MTRLとヒダクマ、それぞれのリソースをフル活用した新事業とは?という観点で企画検討を行うことを目的に、木材の流通について見て回ったり、飛騨の森や川を練り歩いたりと実際に飛騨を体感しながら、様々なユニークな企画を生み出しました。

(ちなみに、2023年度はロフトワーク全社メンバーで長野県は上田市へ訪問し、「FabCafe Uedaをつくるなら、どんな場所にする?」というテーマで企画制作・プレゼン大会を実施しました。)

今回の記事では、そんな合同合宿に参加したMTRLメンバーの「飛騨の土地で得られた気づき」をポイントに、振り返りレポートを前後編に分けてお送りします。
初めて飛騨に訪れたメンバーの気づきや、何度も足を運んでいるメンバーならではの視点をぜひお楽しみください。

MTRLクリエイティブディレクター|柳原一也

最近、ヒダクマのメンバーで森のクリエイティブディレクターである黒田くんに東京の自宅で使用するダイニングテーブルをつくってもらいました。

飛騨のナラとクリの木を合わせて4名が向かい合って座れるくらいの大きさの一枚板です。

使い始めて4ヶ月ほど、徐々に色味が馴染んできて、家族で食卓を囲んだり、リモートワーク時には作業デスクにしたりと生活に欠かせないものとなっています。

 

今回の飛騨への合宿ではその黒田くんにヒダクマが持つ社有林に他のMTRLのメンバーとともに初めて連れて行ってもらいました。

雨が降る中、車が悲鳴をあげそうなでこぼこな道を走り、道中に転がる両手で抱えないと動かせない落石を除けたり、ニホンジカの親子に出会ったりと、あっという間に一行は社有林の奥地へ。

車を止め、様々な樹種が自生する斜面をよろけながら登り、道中採取したクロモジでつくったお茶をすする。本当の手つかずの自然に触れた体験でした。

 

他にも製材所で木が加工され、人が使いやすい材料へと変わっていく工程や出荷を待つ木材がうず高く積み上げられている様子を見学させてもらいました。

 

今回の合宿では「木本来のあるがままの姿」「木が人のために木材へと変化する過程」をこれでもかというくらいの現場を通して体感できました。

飛騨の森、飛騨で木と向き合う人々とのふれあいから、家で使っているダイニングテーブルがどんなふうに飛騨の森から東京に住む自分の元へとつながってきたのかの「途中」に想像を巡らすきっかけとなりました。

飛騨の魅力に触れ、これまでよりもさらに自宅の飛騨産のダイニングテーブルを大切に使っていきたいと思うそんな合宿だったと思います。

 

MTRLに所属する自分としては、今回の合宿でヒダクマはMTRLにとって「手触り感のある素材」の存在に立ち返らせてくれるとても重要な存在だと再認識できたと感じています。

MTRL、ヒダクマそれぞれの強みを生かした二者ならではの取り組みを今後も行っていきたいと思います。

MTRLクリエイティブディレクター|川口一真

《合宿で得られた気づきと学び》

1日目のツアーにて、ヒダクマが飛騨古川全体をフィールドとして、ビジネスを行っていること、具体的にどんな人たちとどんなことをやっているのかを知ることが出来たのは、個人的にとてもよかったです。正直、ヒダクマが実際に何をやっているのか詳細には知らなかったので、初めて実際に現地を訪れて、体感することで、ヒダクマの取り組みを学ぶことができる貴重な機会になったと思います。

 

また2日目のフィールドワークでは、広葉樹の森を見学しに行き、森の成り立ち、木々が生態系や環境に合わせた成長をしていることなど、様々な要素が絡み合って自然が形成されているということを改めて実感したとともに、昨今話題となっているネイチャーポジティブなどの実現はやはり複雑な課題であるなと考えさせられました。同時に、ヒダクマが何年にもわたって広葉樹の森の取り組みを行い続けていることに、リスペクトを感じました。

《検討した事業内容の振り返りや、今後の展望について》

僕のチームでは、ヒダクマとアカデミアを掛け合わせ、そこからプロジェクト創出までを行うプランを考えました。

ヒダクマを実践のフィールドとし、シーズンごとに大学を呼び込み、さらに、企業なども巻き込み産学連携のイベントや合宿プログラムを設計する。そこでの実践を研究論文にしてもらい、そのポートフォリオを作成していき、ヒダクマの実績として蓄積させる。最終的には、その実践や実績を通して企業とのプロジェクトや事業が生まれる流れを作ることができないか。


実際にヒダクマはこれまでに産学連携のプログラムを手掛けてきた実績も多く、今あるリソースやナレッジを活かせるという点で大いに実現可能性はあるのではないかと思いました。

MTRLプロデューサー|金徳済

《合宿で得られた気づきと学び》

今回の飛騨合宿では、多くの新しい発見と学びが得られました。私はこれまでに3回以上飛騨を訪れ、製材所の見学も何度か経験していますが、改めて観察や質問をすることで新たな発見がありました。同じ場所を複数回フィールドワークする意義を強く実感しました。

 

例えば、現在の木材出荷基準となる含水量に達するためには人工乾燥が必要とされていますが、人工乾燥技術がなかった時代にはどうしていたのかと製材所の人に尋ねたところ、昔の住宅は今ほど気密性が高くなく、空調もなかったため、室内環境が外気と近く、急激な温度や湿度変化がなかったことから、現代の高い基準で乾燥させる必要がなかったと教えていただきました。住宅事情や設備の変化に伴い、木材に求められる品質基準も変わってきたのだと理解しました。

 

また、選択式のフィールドワークで川を訪れ、水と森と人、上流と下流と生態系の関係について学ぶコースを選びました。人類が砂防や護岸整備を行うことで、砂が下流に流れなくなったり、魚が遡上できなくなったりする現象を実際に目にし、その影響の大きさを実感しました。

 

護岸などは人々の生命や権利を守る側面がありますが、一方で生態系に多大な影響を与えるということは理解に難くなかったのですが、削れていく/流れていく砂が少なくなることで下流の富山のビーチがなくなっていく、賛否両論ある琵琶湖から仕入れた稚鮎の放流も放流しないはしないで苔を食べる存在がいなくなって生態系バランスが崩れるおそれがある、琵琶湖の鮎は好戦的で友釣りに向くので釣人のニーズも高いが人間の残酷さ/悪趣味が出ているとも言える、など想像が及んでいなかった/全然知らなかったことを志田さんから教えてもらえました。また、漁協の会長が魚や虫の産卵/成長のために人力で川にくぼみや石のたまり場を日々個人的につくっているが、増水ですべて流されるのが日常茶飯事、もはやそれも趣味・禅の域に達しているという話を聞きました。人の営みとは?本当の意味で人や生物が豊かになるとはどういうことか?といった問いや誰も答えは知らないという複雑さ、ジレンマ、奥深さを実感する機会になりました。

 

さらに、川の生態調査体験を通じて、防砂で失われる魚や虫の居場所を人工的に作った川の水を観察し、多くの生物が存在することを確認しました。書籍、人の話、映像などよりこのような実体験が生物多様性について一番考えるきっかけになるということと、限られた範囲ではあるものの人の手で川の豊かさを保とうとしている地元の方々の活動意義を感じる機会になりました。

《検討した事業内容の振り返りや、今後の展望について》

ヒダクマとの合同合宿を通じて、自然と向き合いながら働く人々と都市部での仕事の違いを体感しました。ロフトワークが労働集約型から脱却するための議論が社内で繰り返されており、自社プロダクトやサービスを売るモデルの実現可能性についても考えました。

今回のMTRLとヒダクマの合同合宿では、新しい営業スタイルや部門を確立する必要がなく、現実的に収入の見込みを立てやすい案を検討しました。企画内容、価格設定、ロジスティクスなどは更に詰めていく必要がありますが、同じワークショップに参加したメンバーや他の関係者と共に実現できればと考えています。他の参加者からも「ぜひこのサービスを実現して欲しい」というコメントが多く寄せられたことも手応えとして感じました。

MTRLテクニカルディレクター|土屋慧太郎

《合宿で得られた気づきと学び》

製材所の樹種の木たちが並ぶ仕分け場所でお話を聞き、広葉樹を切り出す森を歩いて、ヒダクマからの帰り際にデジ継を受取って眺めたときに、「あの切られた木たちみたいに並んでたものが、マテリアルになって加工したら、こうなったんだ」と、言葉や仕組みとしてはわかっていたようなことが改めて体感・直感できたのが良かった。特に、手に持てるサイズの眼の前にあるタンジブルなものが、どんなところからやってきて、こんな背景があって〜ということを時間と実際の体験を通して知る経験のすばらしさ・価値に気づきました。

また、普段中々入ることが無い森林でその専門家から説明を聞きながらいろんな視線と空気を吸収したのは、本質的な拡張現実としてもリッチな体験でした。

《検討した事業内容の振り返りや、今後の展望について》

(勝手に読み取った役割だが)ものづくりの人間として、議論できた部分と深堀りできなかった部分もあったと思います。もちろんチームでの議論に組み込まれた部分はあったのですが、なにを・どのように・だれとつくっていくか、やどんな面白いものが作れるかを具体的に深堀りできたら良かったと思いました。

他のグループのプランにも共通する点でもあるが、「関係人口」を増やしていくという視点のアイデアを聞くことができて(自分がいつも周りや関係者のことなんかあんまり考えていないだけかもしれませんが)マーケットや発展性・多様性をベースに事業を考えること(当たり前かもしれないですが)の大切さを理解しました。一方で、個人的には、関係人口の中でも「タニマチ」の役割を果たす人がどうすれば集まるか見つけ出せるかが設計できるとよりビジネスプランとしての確度を上げられるのではないかとも考える機会になりました。

バイスMTRLマネージャー|長島絵未

ヒダクマとわたしたちMTRLの魅力と人・リソースを掛け合わせて、どんな面白い事業ができるか。今回のこの企画はいままでわたしが飛騨に訪れた目的とは大きく異なるものでした。

 

もちろんクライアントのみなさまと巡り、観察し議論する飛騨のフィールドワークもかけがえのないものですが、今回の合宿企画を通してなにより嬉しかったのは、MTRLメンバーに飛騨の魅力とポテンシャルを感じ取ってもらえたことです。

ともに事業を走ってくれているMTRLメンバーも増え、様々な観点からまた飛騨を見つめ直せたのもよい時間でした。

 

合宿では、目標であったヒダクマとMTRLの強みをかけ合わせた事業の種がつくれたことももちろんですが、自分にはない視点や言語化できていなかった飛騨の魅力で事業アイデアが生まれていたことに感動しました。

そのアイデアを自分がつくれなかったことに悔しさを覚えたほどです。笑

 

フィールドワークでは、普段案件では立ち入ることが難しかった、ヒダクマが飛騨市からいただいた「社有林」を「冒険」しました。笑

土砂降りでぬかるむ山の中。山道のインディージョンズのような車の揺れ。いまにもパンクしそうなタイヤ。痛くなるおしり。道中で出会ったニホンジカの親子。

滑落したら確実に危険であるとわかる足元の視界。雨音が木々を揺らす音。レインコートを雨が穿つ振れ。

ノコギリを持って木を手繰り寄せ、枝を切ったときの触感。採取したクロモジの枝で沸かして雨に打たれながら味わったクロモジ茶。

いまでも鮮明に思い出せるくらい、久しぶりに山を味わった体験でした。

 

この素晴らしい体験の伝播と、生まれた事業の種を糧を前に前に推し進める役回りとして。

残る2024年、動いていきたいと思います。

<エピローグ>

それぞれの視点から覗いた飛騨合宿の様子はいかがでしたでしょうか。

森林や川などの自然に入るツアーの際は、あいにくの雨天ではありましたが、ガイドをしてくれたヒダクマメンバーがみな口を揃えて、「雨の森・川もいいもんだよ」と言っていたのが、個人的にとても印象的でした。その場に住んでいるからこその味わい方を教えてもらったように思い、普段コンクリートジャングルで過ごすMTRLのメンバーにもさまざまに響いたのではないかと思います。

後編もお楽しみに!

(MTRLクリエイティブディレクター 三浦永)

 

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