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[Event Report]街の緑、食品ざんさ……都市の「分解」を可視化する。 「分解可能性都市」展示レポート
2024年8月27日〜9月13日に、ロフトワークとFabCafeの共同企画展示「分解可能性都市 ー自然と共生する未来の都市生活考」を開催しました。
「分解」を切り口に、既存の都市システムやライフスタイルに選択肢を増やす、デザインのヒントを探索するという試みです。「生産」と「消費」の出発点に、「分解(※)」があるのではないか。その都市のシステムやライフスタイルを見つめ直せないだろうか。そんな問いに満ちた展示をレポートします。
※自然界では、生き物は「生産者」「消費者」「分解者」の3つに分類される。菌や微生物といった「分解者」は、植物や動物を食べ物にして、植物の光合成に必要な二酸化炭素と水と無機栄養塩に換える。
執筆:笹川ねこ
撮影:川島彩水
映像 撮影 編集:桑原正
渋谷の道玄坂をのぼった先にあるFabCafe Tokyo。
夏の終わり、まだまだ強い日差しが差し込むこのカフェの通りを歩けば、大きな窓に手で描かれた白い文字が目に入る。
「食べることはとってもいそがしい。
あなたは、食べものといっしょに
思い出も食べているあなたは、たくさんの人との
つながりを食べている微生物たちは、
わたしたちをむさぼるように食べている」
歴史学者の藤原辰史さんの『月刊 たくさんのふしぎ 食べる』(福音館書店)の言葉が並ぶ。本書は、子どもも大人も「食べる」を通じて、人とのつながりや歴史、他の生き物との関わりを考えることができる、食をめぐる壮大な児童書だ。
これは、8月27日〜9月13日まで開催された「分解可能性都市 ―自然と共生する都市生活考―」の展示のワンシーンである。
無機質な壁に現れた、熊笹と菌糸だるま
FabCafe Tokyoの扉を開けると、左側の壁一面に笹の葉が広がっていた。
この「熊笹の壁」は、茅葺き・榑葺を手がける職人 / 表現集団の「土還(TSUCHI NI KAERU)」が岐阜県の飛騨に自生する熊笹を土ごと運び込んだアートワーク。無機質な壁に「どこでもドア」が立ち現れて飛騨の自然とつながったようだ。
その下に佇むのは、菌糸のだるま「MycoDaruma」。
都市部の微生物多様性を高める事業を展開する株式会社BIOTAが、伝統工芸である高崎のだるまを生かして、菌類であるキノコの力で生分解性の高いアートを創作。数ヶ月の短時間で土に還る「分解」の様子を、視覚で捉えることができるという。
直線的な建物が立ち並び、あらゆる道にアスファルトが敷き詰められ、土を感じる機会が少ない都市において、「熊笹の壁」と「MycoDaruma」の展示は、自然界の曲線やゆらぎを思い出させてくれた。
街の緑をコミュニティが「手入れ」する
扉の右側には、地域の緑をオープンなコミュニティ主導で植え育てる「シモキタ園藝部」の展示。
小田急線の東北沢駅から世田谷代田駅の間に1.7キロに渡って広がる「下北線路街」エリアの緑地で、植物と人と街の新しい関係をつくるこの取り組みには、子どもから大人まで、地域内外から参加できるという。
公共エリアの管理を業者に委託するのではなく、コミュニティに委任することで、植物の「手入れ」をそれぞれが自律的・創造的に担い、学ぶことができる。シモキタ産のはちみつやハーブも商品化されている。
街の緑を「手入れ」することで、自分たちが思い描く環境を、仲間と一緒につくることができる。園芸は、都市における人と自然をつなぐ橋渡しになるのだと感じられた。
人も森や大地に還る「循環葬」
その横には、遺骨を寺院の所有する森に直接埋葬する、at FOREST株式会社の「循環葬 RETURN TO NATURE」の展示。
年間死亡者数が150万人を超える「多死時代」を迎えた日本において、土壌の専門家の監修のもと、遺骨を粉末にして土中に埋め、私たち人間が森林保全に貢献する新しい埋葬サービスだ。
私たち人間もまた自然の一部として分解され、森や大地に還っていく。家族や縁のある人も、終生に渡ってこの地を訪れ、森林浴をしながら故人を偲ぶことができるという。
高齢化、単身世帯の増加……。家族のかたちが大きく変わりゆくなかで、従来の風習に囚われず、死や弔いといった「いのちのデザイン」もまた、循環や分解とともにあるかたちに変わっていく。そんな未来に、安らかな希望が感じられた。
食品ざんさ、テクノロジーで新素材に
次に現れたのは、食品ざんさから生まれた新素材のボトルたち。フタを開けると、タマネギやにんじん、ごぼうなどのうまみがつまった香りがふわっと広がる。
日本では、産地の規格外の作物や食品工場から出る食品ざんさは年間2000万トンにおよぶ。
ASTRA FOOD PLAN株式会社は、水分を含み嫌みやすい野菜ざんさをわずか5〜10秒で高速に乾燥させ、殺菌し、高栄養でおいしい新素材に生まれ変わらせる「加熱蒸煎機」を開発。大手加熱蒸煎パウダー「ぐるりこ®︎」として食材化している。
同社は、大手牛丼チェーン「吉野家」で廃棄されていた野菜ざんさからタマネギパウダーを開発したり、ベーカリーチェーン「ポンパドウル」による製品化する共同プロジェクトを実現している。
テクノロジーによって工業的な「分解」が実現可能になれば、食品産業やシステムも変わりうるのだと気づかされた。また、伝統ある産業においても、スタートアップは、会社と会社をつなぐ分解者のような存在になりうるのだと感じた。
スケートボードの新しい作り方
ふと顔を上げれば、FabCafe Bangkokの「Waste Surfer」というプロジェクトから生まれた一風変わったスケートボードも目に入る。コーヒーかすや海綿、電子機器廃棄物などをアップサイクル素材にして、3Dプリンタなどを活用した新製法で作られたスケートボードだという。
コロナ禍、タイでは「密」を避けるレジャーとしてスケートボードが人気になり、スケートボードの価格が高騰。FabCafe Bangkokでは、ただ「買う」だけでなく、いまある素材を生かし、新しい製法で「スケートボードも自分で「作る」という選択肢を提示。
廃材を分解し、アップサイクル素材にして、新たなものを「作る」。日本だけでなく、世界にも分解可能性都市のヒントとなる取り組みが生まれていた。
端材を材料に変え、新たな物語を作る
さらに奥に進むと、端材の用途開拓、およびプロトタイプ・プロダクト制作の事例が展示されていた。
パナソニックホールディングス株式会社は、キッチンカウンターの天板を製造する際に端材となる「人造大理石」の特徴を生かしてつなぎ合わせて加工して扱いやすい部材を開発。現在は高級感あるダイニングテーブルとして、ダイニングやオフィスなど様々なシーンで活用されているという。
MTRL(マテリアル)」が伴走して、メーカーの端材をもとに、次なる材料とプロダクトを開発し、その新たな価値と物語を、共感するユーザーに届ける。大手企業による分解と創造の試みも「分解可能性都市」の推進には欠かせないだろう。
また、映像で紹介されていた「森の端オフィス」は、株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)が、広葉樹の活用・循環を促進するための新拠点だ。
地域産の広葉樹は、険しい地形や積雪の影響で細く曲がっていて安定共有が難しく、家具メーカーの多くは海外輸入材に頼っているのだという。
「建材に向いているのは針葉樹で、広葉樹は曲がっていて使えない」という建築業界の常識を見つめ直し、広葉樹の短い部材を組み合わせたトラス構造を採用。丸太も家具用材と同じ厚みで製材し、分解すれば家具用材としても再利用できるそうだ。
「壊す」が前提だった建築において、地域資源を利活用と徹底的に向き合ったら、「分解可能」な建築と再利用法が生まれてきた。
奥のモニターには、都市システムの現状をシステム思考のフレームワークの人流である「ループ図」使って可視化したモーションムービー「分解と都市のループ図」が流れていた。
「合意形成困難」「効率化のため行政による管理」「業者がゴミとして処理」「固い土で固める」「生物が減っていく」……。分解の視点がないまま最適化により一元管理される巨大なシステムが浮かび上がる。
これからの都市システムは、一人ひとりの行動や地域の自然をもとに、小さな地域ごとに自治できる余白のデザインが必要なのだろう。都市の分解は「解(ほど)く」ことから始まるのかもしれない。
「分解可能性」によって、都市のシステムはどう解かれ、どんなつながりが生まれるのか。「分解可能性都市」の展示には、分解の担い手たちによる未来へのヒントが詰まっていた。
展示概要
主催:株式会社ロフトワーク、FabCafe Tokyo
企画:岩沢エリ
企画監修/展示・映像ディレクション:いわさわたかし・いわさわひとし(岩沢兄弟)
空間装飾:藤原タクマ(土還)
モーション制作:堀川淳一郎
テキスト:岩沢エリ、MAO、小原和也
グラフィックコミュニケーション:高橋ナオヤ、ユンボム
参加・協力企業/団体(順不同):
at Forest株式会社、一般社団法人シモキタ園藝部、ASTRA FOOD PLAN株式会社、株式会社BIOTA、株式会社飛騨の森でクマは踊る、株式会社福音館書店、MTRL(運営:株式会社ロフトワーク)、FabCafe bangkok、LAYOUT.net
Special Thanks
藤原辰史(京都大学)、三島由樹(株式会社FOLK)、棚橋弘季、金岡大輝