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1000年の絹糸のたどった黄金の道。西陣 岡本を訪ねる。

2017年10月31日、西陣にある、岡本さんを訪問しました。
ヴィラ九条山に滞在するアーティスト、ロールリーヌ・ガリオさんと、スタッフの小寺さんと一緒です。

ロールリーヌさんはフランスで活躍するデザイナー。そのデザイン方法はiPadに指でペイントするというもの。
作品は各国の工場で布として織られており、織物(と日本の工芸物。特に縄文土器など)に並々ならぬ関心をお持ちです。
ロールリーヌ

岡本さんはMTRL KYOTOのイベントに登壇いただいたことや、マテリアルとして諸々展示させていただいたりと様々ご一緒いただいていますが、訪問をしたのはこの日初めて。
お坊さんの袈裟や仏教行事に用いられる金襴を作り続けてきた技術を用い、新しい図面などをどんどん作っては活躍の場を広げておられます。

お邪魔して早速いろいろな反物を見せていただきます。
色味や模様が実に多種多様。
特に金襴、とよばれるだけあって金色の大胆な使い方は圧巻といわざるを得ません。
「でも、金色、見慣れすぎてしもて、だんだん何が派手で何が地味か解らなくなってくる」と岡本さん。

ロールリーヌさんも色を用いるデザイナーとして同感のようで、しきりとうなずいておられました。

見せていただいた布の中には、いかにも現代のデザインとわかる、モチーフに西洋由来の動植物が描き出されているものもありますが、中には「それは伝統模様」といわれておどろくものも。
連続模様のデザインは古くて新しい、といったところでしょうか。
また、西陣織は光のあたる角度によって色が変わって見えるものもあり、現代人がみても実に新鮮。
昔のデザイナーの仕事と西陣の技術の融合、すごいです。

「緑の糸だけで100色以上」とみせていただいた糸の山を見ても、色味がとてもゆたかなことが解ります。

とはいえ、色の選択肢が多すぎるのも考え物で、織り上がったあとにちょっと色が薄いなあ、と言われることもあるとか。
デジタル作業と違って糸や手間がすべて無駄になります。
大損害だ……。聞いているだけでめまいがしてしまいますね。

本金を使った布の端の始末。
糸切りばさみで少しずつカット。
「これは本金なので、捨てずに売ります。売り先は溶かしてまた金にするみたい」とのこと。
貴重品ですからね……。

工場の中。
今日はたまたま織っている職人さんはいらっしゃいませんでしたが、織機を見せてもらいました。
織り上がった布を送るための滑車と重石の入った竹かご。この竹かごにしても、壊れたらもう代わりがないといいます。
「高いのはいくらでもあるんやけど、ちょうどいい手頃なものがなくて」。確かに、そうかもしれません。

天井まで縦横にいろんな織機のパーツが伸びており、50年くらいこのままの風景だそうです。
「建物がふるいなあ、と思ってもこれ全部ださんと修繕もできん」。
「出すときは、引っ越すときやな」と笑っておられました。

棚の上には織りのパターンの入ったパンチングカード(紋紙)。

今でこそフロッピーディスク(!)になったからよかったものの、紋紙の貯蔵のためだけの家を二軒もってらした織り屋さんもあったとか。
紙だけに保存も大変ですし、図書館のように系統だって管理しないと探すのも大変そうですね。
このフロッピーディスクも最近のお子さんは見たこともない人も多いもの。
現物を見て「保存のアイコンを3Dプリントしたんだね」と子供がコメントしたというのが笑い話になっている位です。
実際、ディスクが手に入らなくて困ることも多いそうです。
「USBの機械にしてるところもあるんやけど、その機械も一個一個が高いから……」。
そうですね、1000年の歴史を持つ西陣織の歴史を考えると、コンピュータの記憶媒体の変化はまさに瞬きするくらいのスピードで入れ替わっていると感じることでしょう。

織機についても、専門の職人さんはすでに専業ではなく、大工の傍ら作っている、というくらい道具自体が絶滅危惧。
「ある程度自分たちで直せるし、組み立てや解体くらいはできる」とのこと。
以前別の場所でも聞いたのですが、構造自体が目に見える機構であれば壊れた時にも直せるけれど、基盤だったりプログラミングだったりが入る「コンピュータ」になってしまうと、壊れたときに直せないと。結局、単純構造の方が長い目で見て長く生き延びたりするという局面も多いようです。

西陣織は金糸の折り込みが入る「金襴」が特徴。金糸が浮かないように押さえる糸を、なるべく金色に抵触しない色の細い糸で織り込む工程もあるのだとか。
それがこの朱色の糸。糸だけ単独で見るととても細くて驚きます。
(紺と朱色は明け方の海みたいでとても美しいですね)

実際に織り上がった金襴を拡大表示してみると、白や金の糸を細い朱色の糸が押さえている事が解ります。

「一本だけ糸が切れてしもたところを、手で寄せて調整してますの」といわれてマジマジ拡大してみても、見えるか見えないかというレベル。
これが職人の世界です。

「薄暗いお堂の中で、これが極楽、救いの世界だと説くための布だから、とてもきれいで美しいものとして進化してきた」。
それが、金襴。
タテ糸10000本。ヨコ糸は実にその6倍の糸を用いて作る、西陣織。

お蚕さんが糸を紡ぎ、製糸し(もう野麦峠のイメージしかありませんが……)、糸を染め、それを整形し、金糸が作られ、それを織る。
もちろん、織るための織機を作る職人さんも、杼(ひ)だけを作る職人さんもいるとか。
途方もない背景と、多くの人の力を集結して作られた極楽の風景。それを作るために進化し続けてきた、西陣織。
岡本さんたちの手で生み出されたこれらの布は、今や海を越え北欧やNYでドレスなどになって舞台などで活躍もしています。

実は金糸を作る会社も、日本には京都にしかないそう。
まだまだ知らないこと多すぎます。

工場を見学させていただいた後、余っている糸を束で頂いてきました。
「こうやって握ったときにキュッキュと鳴くのが絹の特徴や」。触ってみると感動的なまでの触感です。

MTRL KYOTOにて、岡本さんのところの西陣織と一緒に展示しております。

金襴を見てみたい、という方。是非一度MTRL KYOTOにお運びください。
1000年の歴史を持ち、恐ろしく手間暇と技術の粋を込められた布とともに、お待ちしております。

すごいものを見せていただきました。岡本さん、本当にありがとうございました。

工房見学、その後……

工房を訪問した後日、MTRL KYOTOにて打ち合わせを行うお二人のお姿が。
なにかコラボレーションが生まれるのでしょうか……?
またのお越しをお待ちしております!

(text:MTRL KYOTO 田根 佐和子)


LAURELINE GALLIOT(ロールリーヌ・ガリオ)

1986年生まれ デザイナー
ロールリーヌ・ガリオは、工業デザインにおいて、新しいメディアを用いて仕事をし、中でも、バーチャル・デザインを具体的なオブジェに転換するため、3Dプリンターを使用。
ティーポットや花瓶など、実用品の« Contour et masse (仮訳・輪郭と塊)» コレクションは、ポンピードゥーセンターで展示されました。
職人仕事と新しいテクノロジーをどのようにミックスするかと言うことに関心を持つロールリーヌは、アメリカのディズニーリサーチピッツバーグ研究所から依頼を受け、2012年にコラボレーションが実現しました。
その後、ポンピドゥー・センターでは、子供のためのインタラクティブな対話型ツアーを考案。
現在、2017年ミラノサローネで紹介した、イタリアNODUS Rug社で制作された最新作、TUFTYのテキスタイルコレクションをはじめ、テキスタイルや敷物作品にまで、コレクションを展開しています。
http://www.laurelinegalliot.com/

Villa Kujoyama(ヴィラ九条山)

フランスがアジアで保有する、唯一のアーティスト・イン・レジデンス。
毎年2ヶ月から6ヶ月の滞在期間で、芸術創作活動のあらゆる分野から、フランス人と日本人レジデント約15名を受け入れています。
公式サイト:http://www.villakujoyama.jp/ja/

10月初旬のニュイ・ブランシュの際にヴィラ九条山のクリエイターの展示をMTRL KYOTOにて行うなどのコラボレーションを行っている。

岡本織物株式会社

京都西陣で4代にわたって西陣織手機を織ってきた織物会社。現在伝統工芸士が3名在籍し、技術を生かした新たなデザインや商品開発の傍ら、サイトなどで製造風景の紹介なども頻繁に行っている。
公式サイト:http://okamotoorimono.com

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