- Event Report
書家 上田普 × はがせる塗料「マスキングカラー」公開制作レポート
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クリエイター meets マテリアル
2016年6月、MTRL KYOTOでは、書家 上田普(うえたひろし)さんによる公開制作が実施されました。メインとなるテーマは、「クリエイターが素材と向き合い、新しい表現の可能性を探る」こと。
今回の公開制作では、MTRLでも素材として常設している、はがせる塗料「マスキングカラー」を題材に、MTRL KYOTOのコンセプトや環境も取り込んだ表現に挑戦。また、素材だけでなく、制作過程ではデジタル工作機器のレーザーカッターもツールとして活用されることとなりました。
完成した作品は、2016年8月後半まで引き続きMTRL KYOTO 1Fラウンジにてご覧いただくことができます。庭に面する窓に書かれた/描かれた作品は、陽光きらめく午前中から闇に溶ける夜まで、時間の経過とともに表情を変えていきます。ぜひご高覧ください。
クリエイタープロフィール
上田 普 (ウエタヒロシ)
1974年淡路島生。5歳より母親の元で書を学ぶ。四国大学書道コース卒。中国に留学後、北米に渡り、個展やサザビーズNY等に出品。より日本的な美意識を求めて2002年制作の場を京都に移す。以後、線と空間にこだわった書の作品は、時には立体、時にはアクアリウムでと自由な素材で表現を模索し続ける。2005年京都市美術協会より新鋭美術作家に選出。関西を中心に韓国、豪州、ブリガリア、英国等のアートイベントに参加。近年は泉鏡花作、中川学絵の絵本「龍潭譚」、同じく「絵本化鳥」の題字、男前豆腐店、叶匠壽庵、NMB48等のパッケージロゴ、監修等を行う。四国大学書道文化学科非常勤講師
タイトルと制作コンセプト
「ことのは(言葉)」
ひらがなはそれだけでは意味の持たない表音文字。 それらが集まり形成する事によって言葉に成り意味を持つ。 どんな言葉を紡ぎだし伝え、今を表現するのか。 それを木をモチーフにビジュアル化し表現します。 個々が繋がり新しいモノを生み出していくクリエイティブ。 MTRLのコアコンセプトとも通底する表現です。
制作プロセスと、今回生まれた新しい表現
MTRL KYOTOを媒介にした「書 x マスキングカラー x レーザーカッター」という出会いによって、新たな表現の可能性が生まれました。
(1) レーザーカッターによる、筆文字の複製型の作成
上田さんがあらかじめ筆で紙に書いた文字をスキャンし、レーザーカッターで加工できるデータとして複製。
レーザーカッターは、線幅の極めて小さいレーザー光でカットできるため、筆ならではの輪郭線のニュアンスや複雑な形状が失われることなく忠実に再現されます。
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(2) 型を使用したマスキングカラーの表現
フィルムや紙をレーザーカッターで切り抜いた型を用いて、ガラス面やアクリル板にシルクスクリーンのように文字を刷ります。マスキングカラーの「貼って剥がせる」という特性を利用し、あらかじめ刷っておいた文字を、好きな場所に貼りつけながら画面を構成していきます。
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また、この工程によって、フィルムや紙と同じ均一な厚みでマスキングカラーを塗ることに成功。塗料とチューブ形状の特性上、手作業でマスキングカラーを用いた描画では塗料部分がもこもこと盛り上がることが多いのですが(それも素材の魅力のひとつでもありますが)、「厚みを抑えフラットにコントロールする」ことが可能になりました。同時に、版画のように「手作業ならではの線の動き・勢い」も表現され、独特の風合いを見せています。
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(3) ガラスの外の景色と光と取り込む
作品は、MTRL KYOTOの裏庭に面したガラス窓をキャンバスとして作成されています。後ろに見える草木の成長や、刻一刻と傾きを変える日の光、あるいは雨、さらには夜の闇… 時間や天候を取り込んで、常に異なる表情を見せます。光を透過させ、また、厚みや質量を感じさせないことによって生まれる遠近感や浮遊感は、普通のガラス用塗料やカッティングシートではできないマスキングカラーならではのもの。
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