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シルバーに輝くニッポンの伝統焼き物- 瓦をみつめるアーティストの旅

MTRL KYOTOには様々なマテリアルが展示されていますが、訪れるお客様によって、興味を持たれるものや観点は様々です。
去年、ヴィラ九条山とのコラボレーションでニュイ・ブランシュ KYOTOの一会場として参加をしたMTRL KYOTO
そのときにMTRL KYOTOにて作品を展示していた、ヴィラ九条山滞在中のフランス人アーティスト、バティスト・イモネさんとヴァンサン・ジュソームさんが興味を持ったのは、淡路島の瓦でした。

アーティスト紹介

BAPTISTE YMONET & VINCENT JOUSSEAUME (バティスト・イモネとヴァンサン・ジュソーム)

造形芸術を学んだ後、 2007年に、2人で《ATELIER POLYHEDRE(多面体工房)》を設立。
造形芸術と装飾芸術が交差する地点において、陶芸による職人的かつ実験的なアプローチを提案。素材の特性、オブジェの機能性や展示空間との関係に関心をもっている。

ATELIER POLYHEDRE(多面体工房) official website
ヴィラ九条山 紹介ページ

vk-Baptiste Ymonet & Vincent Jousseaume©BAPTISTE YMONET & VINCENT JOUSSEAUME

日本で暮らしていると何気なく見逃しがちな「瓦」。その生産地はどこで、どういう歴史をたどっているのか。
意外と知らない方も多いのではないでしょうか。
MTRL KYOTOにあるのは淡路島の瓦。いぶし銀の色合いが特徴の日本三大瓦の一つです。


ご自身、陶磁器の作品を創られるバティストさんとヴァンサンさんは瓦の詳細を知るため淡路島を巡ることになりました。
今回、MTRL KYOTOからは同行はしていないのですが、写真をいただきましたので、お二人の行程を元に、淡路の瓦を紹介するレポートをお送りします。

1500年の歴史を持つ瓦の島

日本神話では「国生みの土地」ともされる淡路島は、古来よりずっと瓦を作り続けてきた土地です。
その歴史は約1500年。大化の改新の頃からと考えるとその長さがうかがえます。
日本の風土に合わせ、高温低温に強く、長持ちし、堅牢である、という瓦本来の特徴に加え、淡路の瓦は特になめらかな美しさが特徴とされ、京都の寺社仏閣などの屋根にもたくさん用いられています。

淡路瓦/Awaji Gawara

西暦600年頃から日本の瓦産業の一柱として屋根瓦を作り続けてきた日本三大瓦の一つ。特に銀色に焼き上がる「燻瓦」が特徴とされる。

いぶし瓦は、焼成の最終工程で炭化水素を含むガスを接融させて、表面に炭素を主成分とする炭素膜を形成し、その後、炭素膜の燃焼がないように窯を密閉して冷却することによって、いぶしの銀色を出します。
渋い銀色の光沢は、日本の風土の中で長い間に築かれた伝統があり、日本建築に重厚な味わい深い印象をあたえます。
また、主張しすぎず、流行に流されず、四季折々の自然の彩りを自らの姿に映しだします。
– 株式会社マルアサ「燻瓦」についての説明より

淡路瓦の詳しい製法はこちらよりご覧いただけます。

また、阪神淡路大震災のお膝元でもある淡路島。当時、倒壊した家屋からなだれ落ちた瓦も割れ、がれきの山になった映像も記憶に残っています。

あのとき家が潰れたのは瓦が重いからやないか、とか、瓦が割れたら危ないんやないか、ってずいぶんとたたかれた。
とはいえ、台風に耐えるためにはある程度の重みが必要だったり、室内の熱調整や湿度調整のために考えても瓦屋根は優れた生活の知恵の結晶。かえなあかんところは変え、のこさなあかんところは残す。
– マルアサ 道上浩行氏

あの震災以来、淡路の職人たちは震度7の地震でも割れない瓦を開発しました。問題があればそれを解消するよう自らが変わる。長い歴史の中でもずっと進化をし続けています

お二人を今回案内してくれたのは株式会社マルアサの道上さん。
御自身の会社では内装用の「内粧瓦」や屋根ではなく塀などの上を飾る小瓦などを制作されています。
淡路島を巡ると集落みんな瓦職人、というような場所もあるほど。
同じ名字の人もたくさんいて、みんな得意とする瓦の種類は違うとのことで、御自身以外の工場もご案内いただきました。


マルアサの道上さんによるご案内

まずは産業文化センターに向かいます。元組合長の登里さんから、瓦の歴史についてや、特にいぶし銀の製法について聞く二人に対して、丁寧に英語でご説明いただきました。
銀色は他の陶器ではあまり見ない特徴。どういう製法で色を出しているかなど、製法に関する具体的なの質問が飛び出します。
また、淡路瓦の特徴でもある、装飾瓦の形状や意味などについても矢継ぎ早の質問が。なぜしゃちほこが屋根にのっているのか、日本人でも、深く考えてみた事がない人も多いのではないでしょうか。

産業文化センターの後、製造の現場に。


産業文化センターでは元組合長の登里さんによるご案内


新崎製瓦所さんにて製造の過程を見学

職人さんが粘土で成形をしている様を見学します。
まず粘土をこねてなめらかにし、型にはめて成形し、そのあと職人が形を整え、焼成する。それが瓦の製法です。

季節や天気によって、水加減、温度加減、成形のタイミングなど繊細な調整が必要です。
少しでもうまくいかないと細かなヒビが入ってしまい、出荷できなくなるため、さじ加減には職人の手が必須です。


一口に瓦といっても様々な形状のものが


新春の縁起物である干支瓦の制作がちょうど佳境


製造の様を見守ります

そもそも製造するものの形状も千差万別。
一件の瓦屋根の家に何種類の瓦のパーツが用いられているか、数えたことはありませんが、改めて考えてみるとかなりの種類と数に上ることが解ります。
また対象の建造物によって大きさも違ったり、飾り瓦など型で製造するものが難しいものも。職人の腕が光ります。

この生の粘土が、焼成すると銀色に。


焼成前の粘土。職人の手を経てバリやゆがみが取り除かれてから、窯へ


一度の焼成できれいに銀色に

土を採掘する現場へ。
二人とも土には興味津々です。
実はこの粘土、年々採掘量が減っているとのこと。いつの日か、淡路の土で創る瓦はなくなってしまうかもしれません。

淡路島には島の至る所に瓦で創ったオブジェが何気ない様子でおいてあります。
お二人は興味深げに観察されてました。


大量の瓦でできたオブジェ


人と並ぶとその大きさが解ります


釉薬をつけると色瓦の製造ももちろん可能

さて、工場の見学を一通りして、変わったものを見に行きます。
なんと、瓦の試割りが体験できる施設があります。
割る瓦も選べ、空手着まで借りて体験が可能。
フランス人に空手といっても通じるの? 
……とも一瞬思えなくもないですが、空手の競技人口は一説には世界では6000万人に上ると言われ、特にフランスは警官が持っているのがトンファーという空手の道具というくらい、盛んな国でもあります。
どうでしょう、突然空手といわれても、表情をみるに、お二人とも割と違和感なく受け入れているように見えます。


有限会社谷池健司製瓦所では瓦の試割りが可能


硬度別の様々な瓦

瓦を重ねて、ドン! Woooo! まさかお二人も日本に来てこんな経験をすることになるとは思ってなかったのではないでしょうか。
硬度を変えて試割り用の瓦が何種類も製品化されている、これも製品性能をしっかりコントロールしているということですから、すごいことですね。

さて、最後に、瓦をなんと鉄板の代わりに焼き肉のプレートとして使っているお店で、耐熱度合いをチェック。
そもそも淡路瓦は1000℃前後で焼成するため、焼き肉のために火にかけるくらいはなんともないはずですが……お味の方は?

……よい笑顔をいただきました。おいしかったようです。

このような流れでお二人の淡路島の瓦の旅は終了しました。

割と日本ならではの(空手など……)思いもかけない出会いとなり、瓦にも親しむことができたのではないでしょうか。
案内いただいた道上さん、受け入れてくださった工場の皆様、どうもありがとうございました!
本レポートを執筆している今、お二人は既に国に戻られていますが、いつの日か、淡路の土をつかった、いぶし銀の作品がフランスでお目見えすることもあるかもしれません。
そのときはまたレポートしたいと思います!


その後、淡路島の地方紙『かわら版』にお二人の来訪が載ったそうです。
アートと産業の交流がこうした形できちんと周知されると、次回以降の交流や新たな創作の架け橋となっていきそうですね。

淡路島地方紙『かわら版』2017年12月21日発行 No50に掲載

(text:MTRL KYOTO 田根 佐和子)


Villa Kujoyama(ヴィラ九条山)

フランスがアジアで保有する、唯一のアーティスト・イン・レジデンス。
毎年2ヶ月から6ヶ月の滞在期間で、芸術創作活動のあらゆる分野から、フランス人と日本人レジデント約15名を受け入れています。
公式サイト:http://www.villakujoyama.jp/ja/

10月初旬のニュイ・ブランシュの際にヴィラ九条山のアーティストの展示をMTRL KYOTOにて行うなどのコラボレーションを行った。