• COLUMN / INTERVIEW

【Dive into Material #2】オンリーワンで持続可能。セメントの質感をいかす無垢素材「SOLIDO」が照らす、経年変化の美。

「素材」を深掘りする連載インタビュー『Dive into Material』

『Dive into Material』は、未知の素材を求めるクリエイターのみなさんを対象に、MTRLがさまざまな素材(マテリアル)を取材しその魅力や「使い方のTips」をお伝えするインタビューシリーズです。

Dive into Material #2

MTRL KYOTOではさまざまな素材の展示やワークショップを通して、素材メーカーとクリエイターの方々をつなぐ活動をしています。その中で、「展示してあるサンプル素材をどのように使えるのかもっと知りたい」という声を多数いただいたことから、「Dive into Material」をスタートする運びになりました。

連載第2回目となる今回取り上げる素材は、セメントの質感を活かした建築素材「SOLIDO(ソリド)」。
もともと外内壁用に作られた建材ですが、一枚として同じものがない無垢の素材であることが支持されSNSを中心にじわじわと人気が拡大。ユーザーさんの解釈によって、キッチンの側板や棚の天板、コースターやトレーなど様々な用途に使われています。

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▲左:茶葉や雑貨のトレーとして/右:室内サインとして

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▲[参考写真] 左:typeF coffee 内装使用事例/中央:typeM LAP 鉄黒 外装使用事例/右:キッチン側板使用事例

この自然な風合いはどのように生み出されているのでしょうか?

MTRL KYOTOの木下浩佑が、「SOLIDO」の製造・販売会社であるケイミュー株式会社デザイナーの堀正文さんと広報の太田恵子さんにお話を聞きました。

セメント本来の風合いを活かしたオンリーワン素材

ーー堀さんに初めてお会いしたのは、第1回で取り上げた立体造形素材「ジェスモナイト」のワークショップでしたね。それをきっかけにセメント本来の風合いをいかした「SOLIDO」を知って。商品自体のおもしろさに加え、環境に配慮したものづくりをされているところに関心を持ち、今回お声がけさせていただきました。

堀さん:ありがとうございます。今日はよろしくお願いします!

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▲左:MTRL KYOTO木下、中央:ケイミュー堀さん、右:ケイミュー太田さん

ーー早速ですが、「SOLIDO」はセメント素材独自の風合いを大事にされていますよね。一般的に外壁には、表層のテクスチャーや色を自然素材に模したサイディングボードが用いられます。その流れに逆行するような商品を開発されたのはなぜでしょうか?

堀さん:「サイディングが日本の景観を壊している」とある建築家から言われたからです。

ケイミューは長年、サイディングボードや屋根材の化粧コートの製造・販売をしてきました。リアルフェイクの製品は、自然素材のように時間の経過とともに美しく朽ち、風合いや意匠性を高めるものではありません。しかし僕たちは自然建材を模した材料を外壁や屋根に張ることがデザインだと考えていたんです。

でもその建築家は「サイディングボードの裏を出して、セメントはこちらが本当の表情でしょ」と。

僕たちはその言葉を真に受けて、何かを模すのではなくセメント本来の表情そのままで勝負しようと決めました。

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ーーそれで本当に開発してしまうのがすごいですね。「SOLIDO」には”typeF” と “typeM” がありますが、これらの違いは何でしょうか?

堀さん:typeFは455mm×3030mmの大きさで、厚さが15mm。店舗の内装ボードとして使われることが多いです。

一方、typeMはLAPが5.2mm、FLATが6mmと薄いにも関わらず硬いのが特徴です。もともと屋根瓦として開発された商品なので、職人さんが屋根の上に登ってもひび割れしない強度で作りました。typeMには色味が2種類があり、鉄黒顔料を入れた黒っぽいものと、セメントの色そのままのものがあります。

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▲typeF coffee

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▲typeM 左:セメント/右:鉄黒

ーーどちらのタイプも風合いが均一ではなく、”いい感じ”に手仕事感がありますね。

堀さん:ありがとうございます。表層に塗装しないので、表面と小口が同じ仕上がりになるのも「SOLIDO」の特徴の一つです。
ダイヤモンドカッターで切ると切り口はツルツルになりますし、シングルカッター(ストレート瓦をカットする大きなハサミ)で切断すると手で割ったような自然な仕上がりになります。

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▲左:ダイヤモンドカッターで切断した断面/右:シングルカッターで切断した断面

ーーセメントって人工物のように思われる方もいらっしゃいますが、そもそも天然素材ですよね。これまで均一であることだけが大事にされてきた素材で、ムラや歪みをあえて出すのは勇気がいったのではと思います。「SOLIDO」はどのような製造工程で作られているのでしょうか?

太田さん:基本的な原料はセメントとパルプと水です。そこにポリプロピレンなど繊維を補強するための原料が何種類か含まれています。それらを混ぜて、オートクレープ窯で高温高圧養生したものが「SOLIDO」です。

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▲「SOLIDO typeF coffee」の原料。S材とは不良品を粉砕したもの。セメントの粒度を高めて、強度を増すために入れる。

ーー風合いはどのように表現されているのですか?

堀さん:窯で焼くと、素材から出た水蒸気が表面に浮き上がるんですけど、その時にしろちゃけることで雨だれのような表情が出ます。それが不均一に出るので、一枚一枚違う表情に仕上がり、新築でも何年も風化したような表情が出せるんです。なので工業化された自然製品という解釈がぴったりかと思います。

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▲[参考写真] SOLIDOの製造過程

リサイクル率60%。環境負荷を軽減した持続可能な産業に

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ーー近年、国連が提示したSDGs(持続可能な開発目標)の考えが広まってきています。「SOLIDO」は循環型の製造方法を採用し、持続可能素材として打ち出されていますよね。

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▲循環型の製造サイクルによって、環境負荷を軽減している

堀さん:「SOLIDO」の原料に占めるリサイクル率は60%。火力発電所で発生した石炭灰や古紙を再生した木質繊維など、多岐にわたる産業廃棄物を使用しています。

太田さん:廃材の再利用はもともと他の商品でも取り組んでいることではあります。しかし時代の流れとして、産業廃棄物を減らしたいという企業ニーズがあり、「SOLIDO」では特に重点的に取り組んでいるんです。

堀さん:typeFの中にはtypeF coffeeという商品もあるのですが、これはコーヒーショップから出るコーヒー豆の廃材をセメントの表層に混ぜ込んでいます。実際に廃材を提供していただいているコーヒーショップの内装材としても使われています。クールなセメントの表情がウォームなものになり、木質系や暖色系のライトとも調和しやすくなりますね。

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▲コーヒー豆の廃材を混ぜ込んだtypeF coffeeは、セメントの中に茶色いつぶつぶが見える

ーーコーヒー豆の廃材を混ぜ込むという発想はおもしろいですね!

堀さん:コーヒー豆を混ぜこむ作業は、花咲か爺さんのように工場の職人さんが手で撒いているんです。初めはムラがありましたが、熟練して今は”いい感じ”に撒けるようになりました。

他にも粉砕された石や籾殻などを混ぜ込んだタイプのものを、実験的に作ってモニターしています。

ーー様々な産業廃棄物を混ぜることで、ストーリー性ある建材を生み出せるのは魅力的です。

堀さん:籾殻を混ぜ込んだタイプは、お米が特産品である地方が都市にアンテナショップを出す際に利用したいとの要望から、実験的に製作しました。その土地の廃材を店舗の壁面に使うことは、オリジナリティの一つになります。

そこにある必然性や店主の意図を反映させたいと考えた時に、「SOLIDO」が場や資源の循環サイクルに接続する役割を担えるのではと期待しています。

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あえて解釈の余白を残す仕掛け

ーーあとですね、堀さんにぜひお伺いしたな思っていることがもう一つあって。それは堀さんが「SOLIDO」のPRにあたってデザイナーとして大事にされていることなんです。「SOLIDO」の世界観を見ると、ディティールへのこだわりを感じていて。

堀さん:大事にしていること。そうですね、「SOLIDO」でいうと設計士さんの解釈の余白を持たせていることです。参考にしたのは狩野永徳の松林図屏風で、あれは何も書かれていないところに気配があって雰囲気を感じますよね。
「SOLIDO」も「このセメントはどうやって解釈したらいいんだろう」と思ってもらうことで、コミュニケーションの始まりになるかなと。だからカタログも展示会もあえて社名を前に出さずに、なんか “いい感じ” と思ってもらえる余白を残しています。

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▲「SOLIDO」と建築照明のコラボレーションカタログ。従来のものよりコンセプチュアルなところが特徴的。

ーーすごくかっこいい!読み物として引き込まれます。その一方で、メーカーのカタログとしてはコンセプチュアルすぎるところはありますよね。

太田さん:そうですね。会社としても新しい試みです。

ーーでもすごく本質的な取り組みだと思います。スペックなどの基本情報は従来のカタログで伝えて、「SOLIDO」の概念的なところは写真や文章などクリエーションの力で伝えていく。建築業界の中でも、こうしたアプローチは珍しいのではないでしょうか?

堀さん:見たことないですね。一般的にカタログは製品を売るために作るのですが、売るよりも概念を共有するために作りました。

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堀さん:「SOLIDO」は “製品” としてのイメージを限定するものではなく、 “素材” だということを伝えたくてWEBやカタログのコミュニケーションの考えも、受け手側に解釈の余地を残してきました。
今やっているコラボレーションの事例は、その次の段階としての実験的な取り組みです。私たちも作り手として設計者などのクリエイターと共創していきたいということを伝えたくて、主観的ではありますが、私たちが素材を見て美しいと感じる瞬間や、伝えかたへのこだわりを具現化したカタログを作成しました。

ーー建築写真は部屋全体を奥行き広く見せないといけないので、陰影による素材の粒立ちを目にすることはあまりありません。だからこそ「SOLIDO」の魅せ方に惹かれるものがあるんですね。

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“いい感じ”を支える技術と経験

ーーここまでテクスチャーやコンセプトなどの話をメインに聞かせていただきました。その一方で、工業化された自然製品として安定した品質を保つのに苦労されているんじゃないかなと思いました。実際、職人さんはどのような反応だったのでしょうか?

太田さん:おっしゃる通り、開発初期はかなりの苦労がありました。今までムラなく同じ製品を作ることを正解にしてきた会社なので、「ムラがあるのが良い」「一個一個、表情が違うのが良い」とお伝えしても、戸惑う製造現場の社員がが多かったですね。

私たちも最初は「どれも良いよ」と受け入れていたんですけど、しろっちゃけ過ぎてしまうもや、黒過ぎるものも出てきて。商品としてあまりに差があるのは避けたいねという話になったんです。

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太田さん:“いい感じ” にすると口で言うのは簡単ですが、どれくらいだったら “いい” のか基準が難しくて。試行錯誤するうちに、“いい感じ” にするには多少手をかけることが必要だとわかり、商品としてのレベル感を守れるようになりましたね。

ーー手をかけるとは具体的にどういうことなのでしょうか?もともと外装メーカーとして持たれていた職人技なのか、それともデザイナーから見てビジュアルがありかなしかの判断なのか。

太田さん:そこに関しては、今までの経験値ですね。原料の配合や比率など数値化できるところはして、工場の職人さんたちに調整してもらっています。実験する中で何が色に影響を与えるのかとか、この数値を変えれたら表面の白さに影響するんじゃないかとか、一つずつ解明していったんです。

堀さん:真っ白けになったり、ムラがばらついたりということも乗り越えて今があります。何度も実験して、工程を見直したからこそ商品として「SOLIDO」の “いい感じ” は保たれているんです。

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ーーなるほど。「自然物がいいよね」、「ムラや歪みがいいよね」って価値観は誰でも共感できます。だけど結果いいものができている状態ってほったらかしではなくて、そこに向けた試行錯誤が必ずあるじゃないですか。きちんとデザインしないと質が悪いものになったり、やろうとしていることが透けて見えたり。
「SOLIDO」はそこが絶妙だし、他社が真似しようとしても簡単にはできないところなのかなと思います。“いい感じ” に見えるためには、色々なナレッジが詰まっていることを実感しました。

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ーー色々とお話を聞いて、想像以上にコラボレーションの幅が広がりそうだなと感じています。美術館や茶室、スタジオなどとの相性も良さそうですし、これからどんな使い方をされていくのかとても楽しみです。最後に、「SOLIDO」の今後の展開についてお聞かせいただけますか?

太田さん:今は代理店販売のみですが、SNSを見た個人ユーザーさんから「どこで買えますか?」という問い合わせをいただくようになりました。現時点で小売の機能を持っていないので、すぐ対応できないのが心苦しいのですが……。個人ユーザーさんが直接手に取れる機会も増やしていけるといいですね。

また海外の商流もあるので、北米やアジア、ロシアなどにも展開していけたら。

堀さん:サイディングボードのような建材は、時間が経つたびどんどん価値が下がっていきます。しかし「SOLIDO」が提案するのは経年変化の美しさです。
時間が経ったものほどその価値を認められることや、使ってくださる企業のストーリー性に接続することで付加価値がつくことがあるかもしれません。そうしたことも楽しみながら、僕たちの価値観に共鳴してくださる設計者さんと一緒に「SOLIDO」の価値を深めながら広めていきたいと思います。

(記事:北川 由依 / Photo:木村 華子 *注:[参考写真]表記の写真のみ、ケイミュー株式会社よりご提供いただいたもの

*「SOLIDO」のサンプルをMTRL KYOTOに設置しています。
*「SOLIDO」のカタログはWEBからもご覧になれます!
>>> typeM
>>> typeF

話し手

堀正文(ケイミュー株式会社 商品企画部 デザイングループ)
太田恵子(ケイミュー株式会社 戦略企画室 戦略企画グループ)

▪️ ケイミュー株式会社 
▪️ SOLIDO official website

インタビュアー

木下 浩佑(MTRL KYOTO・FabCafe Kyoto マネージャー)
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京都のカフェ「neutron」・東京のアートギャラリー「neutron tokyo」にマネージャーとして勤務したのち、廃校活用施設「IID 世田谷ものづくり学校」ではクリエイターのワークショップや展示、企業や学校・自治体とのコラボレーション、Fabスペースの立ち上げなど館内企画を担当。2015年より株式会社ロフトワークにジョインし、クリエイティブラウンジ「MTRL KYOTO」では立ち上げフェーズから継続して店舗サービスのマネジメントと企画に携わる。2017年6月には、MTRL KYOTO 1階に「FabCafe Kyoto」をオープン。地域や専門領域を超えて交流や創発を促す”媒介”であることをモットーに活動中。
https://mtrl.com/kyoto/
https://fabcafe.com/kyoto/

編集後記(MTRL KYOTO 木下)
『Dive into Material』第2回、いかがでしたでしょうか。私たちの身の回りで当たり前のようにたくさん使われている素材、セメント。SOLIDOに出会って、自分がセメントに対して抱いていた「機能性とコストに優れたとても便利な汎用素材であるけれども、”均一化”の代名詞のようで、どこか味気ないもの」という固定観念が誤りだったことに気づかされました。そもそも天然素材を原料としており、再生可能で、また製造過程をうまくデザインすることで素材がもつ独特の質感を活かすこともできる。そんな「量産可能な工業製品」と「オンリーワンの佇まい」両方の要素を備えるSOLIDOは、本来の用途である「建築材料」の枠を超えて、骨董ファンやライフスタイルにこだわりのあるDIY好きの方からも注目されているそうです。経年変化や不均一さに美を見出す目利きたちからも愛される「新素材」の姿に、機能・コストとはまた異なる評価軸として「グッド・エイジング(経年良化)」の可能性を感じました。