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東レ Ultrasuede®と考える ーバイオフィリア・マテリアルの現在地レポート vol.1

東レ株式会社はFabCafeと共催でオンラインイベント「東レ Ultrasuede®と考える ーバイオフィリア・マテリアルの現在地」を開催。7月20日にはFabCafe Tokyo、7月28日にはFabCafe Nagoyaと会場を移しながら、多彩なゲストとトークセッションを展開しました。本記事では、DIC Asia Color Trend Book 編集長の周 昕さん、建築家の元木 大輔さんをゲストに迎え、東レ株式会社 ウルトラスエード事業部の塚本 陽人担当課長とともに、アジアの自然観が多分に表れたデザイントレンドと、素材の感触や質感が持つクリエイティビティについて深堀するクロストークの様子をお伝えします。
(*本記事はFabCafe Webサイトより転載しています。転載元はこちら

人間中心主義的な環境問題への解決策として、またWell-beingに向けたソリューションとして「バイオフィリア*」という考え方への関心が高まっています。特に、自然を取り入れた空間デザイン(バイオフィリックデザイン)におけるさまざまな知見から、人々の幸福感を向上させるための手段として、建築環境と自然とのつながりの重要性が徐々に明らかとなってきました。

そこで、東レ株式会社はFabCafeと共催でオンラインイベント「東レ Ultrasuede®と考える ーバイオフィリア・マテリアルの現在地」を開催。7月20日にはFabCafe Tokyo、7月28日にはFabCafe Nagoyaと会場を移しながら、多彩なゲストとトークセッションを展開しました。

Vol.1では、DIC Asia Color Trend Book 編集長の周 昕さん、建築家の元木 大輔さんをゲストに迎え、東レ株式会社 ウルトラスエード事業部の塚本 陽人担当課長とともに、アジアの自然観が多分に表れたデザイントレンドと、素材の感触や質感が持つクリエイティビティについて深堀するクロストークを行いました。

◎ イベントのアーカイブ動画はこちらから視聴いただけます。

*バイオフィリア(Biophilia)

人類を自然の一部として捉え、自然に触れたり自然を感じたりすることで幸せを感じるという考え方やその感性。人には自然とのつながりを求める本能的欲求があると考える。生命、生物、自然を意味する「バイオ(bio)」と愛好、趣味を意味する「フィリア(philia)」を掛け合わせた造語で、1984年にアメリカの生物研究者、エドワード・オズボーン・ウィルソンによって提唱された。

[登壇者]
周 昕(しゅう・しん)  DIC Asia Color Trend Book 編集長
元木 大輔(もとぎ・だいすけ)  DDAA / DDAA LAB 代表、建築家
塚本 陽人(つかもと・あきひと) 東レ株式会社 ウルトラスエード事業部 ウルトラスエード課 担当課長
武田 真梨子(たけだ・まりこ)  FabCafe Tokyo Creative director

イベントは、前半で各登壇者の事例を紹介するプレゼンテーション、後半はプレゼンテーションを発展させたクロストークという2部構成で、進行しました。

イベントタイトルにもあるUltrasuede®は、やわらかな風合いと手ざわり、高度な品質でお客様のユーザー体験をアップグレードし、ユーザーのクリエイションの可能性を広げる高感度・高機能素材です。また、植物由来の再生資源を粗原料の一部に使用したスエード調人工皮革として、2015年に世界で初めて商業生産を開始しました。

近年は、伝統や文化的な原体験に回帰する流れも相まって、廃材を再利用したものづくりや環境負荷の低減を意識した取り組みが世界的に注目されています。現在、最新版のTrend Bookを制作中という周 昕さんが感じている、アジアのデザイントレンドの潮流からクロストークは始まりました。

機能性を重視する「裏方としての素材」から感性に訴える「表現手法としての素材」へ

​​武田:今回のTrend Bookをまとめている中で、周さんが突出して面白いと思ったデザインやアートがあればご紹介いただけますか。

周:今、面白いと感じているのは、分野を超えたコラボレーションが盛んになっていることや、アートとデザインの境目が密接になってきたことです。これまで非日常的な立場にあったアートが、より日常生活に下りてきたと言えるでしょうか。アーティスト/デザイナーという括りにとらわれない、アーティストによるプロダクトや、デザイナーによるアートが非常に増えてきました。

また、東レさんの事例もそうですが、素材から発信するアートというものが最近はとても興味深いです。今まで中間材料としてしか見られなかったり、機能性にばかり注目されていた素材が、今では主役になり、人間の感覚をくすぐるような表現をするというか、より感性に訴える存在になってきているように思います。そういう大きな傾向は少し前から感じていたのですが、今年は目に見えて増えてきています。

武田:感性を表現するかたちとして、素材が出てきた、ということですね。

周:そうです。今まではデザインの力を使って訴えかけていたのに対し、最近はプロダクトの背景、ストーリー性を含めて感性に訴えかけるものになっています。そういう表現に、クリエイターだけでなく一般の消費者も敏感になってきているのを感じます。

武田:「感性を刺激する」というのは、バイオフィリア・マテリアルを語る上でもポイントの一つになるかもしれませんね。

その点で、元木さんは非常に感性を刺激するプロダクトデザインや空間デザインをされています。元木さんが手掛けられた「HIROPPA」のプロダクトや空間設計も、これまでにないアプローチになっていて面白いですよね。

元木:陶芸の街として有名な長崎県の波佐見町にある「マルヒロ」という波佐見焼の陶磁器メーカーと一緒に作った公園が「HIROPPA」です。彼らがなぜ公園を作ろうとしたかというと、波佐見町は人口の約3割が焼き物産業に従事しているのですが、身近すぎて焼き物に興味がない人も多いそうですなんです。「買わなくても町内でもらえるからわざわざ買う必要もない」って。

武田:当たり前になってくると、興味がなくなってしまうのでしょうか。

元木:焼き物のお店を作っても来るのは県外・市外から来るマルヒロのファンや焼き物のファンが多く、もう少し地元に貢献できる場所を作った方が、地場産業の後継者不足や高齢化問題が解消できるのではないかということで、公園を作らないかというオファーを頂きました。そこで「よし、公園だ」と考える発想がすごいですよね。

視点を変え、ごみや廃材から新たな価値を引き出す「リフレーミング」

元木:この公園では、廃品の陶器を細かく砕き、砂状にしてビーチにしたり、天然芝の上に人工芝で作ったクッションを置いたりしています。人工芝には水抜きのための穴がたくさん開いているので、雨が降った直後でもすぐ使えるんです。人工芝はもともと芝の代替品として開発されたものですが、天然が良い、人工が悪いということではなく、「人工芝だからできるデザインとは何か」ということを第一に考えて作りました。

武田:元木さんの事務所の前にもこの人工芝のクッションが置いてありますよね。とてもふかふかした質感で、いいなと思っていました。こういった素材を目の前に置いたり、実際に触れたりすると感性が刺激されますね。東レのUltrasuede®も、表現したいいろいろなタイプの質感を生み出せるという点からも、とてもクリエイティブだなと感じます。

塚本:我々の素材は、同じ人工皮革でも質感のバリエーションがいろいろ出せるというのが特徴の一つです。今の元木さんのお話もそうで、ある素材は一見すると単なるフェイクだけど、別の角度から見たら他にない機能があるというように、物の見方や考え方を変えて新しい価値を見出すという動きが最近は気になっています。

これは現場の若い担当のアイデアから生まれたのですが、素材を染めた際に出る廃液を使って別の素材を染めてみるという新しい考え方で作られた素材があります。廃液で染めてみると意外といい色に染まるというのは、見方を変えるだけでも新しいアプローチになるという好例ですね。

武田:見方を変えるというアプローチは非常に面白いですし、我々が想像する以上の発見を生み出す可能性を秘めていますね。

元木さんの著書『工夫の連続』を拝読したのですが、この本でも「視点を変える、いろいろな角度から切り取って組み合わせを考える」ということが書かれています。見方を変えることは本当に面白いですよね。

元木:見方を変える、視点をずらすことを「リフレーミング」と言います。心理学から派生した考え方で認識の仕方を変えるだけで、今まで目の前にあったものが全く違う意味を持ち始めるということです。

リフレーミングのひとつの良い点は、コストがかからないことです。それを提示するためのクリエイティブにはコストがかかりますが、考え方や捉え方が変わっているだけで、その物自体は何も変わっていないので、すごく安上がりなのが良いですよね。

しかも、今は物が有り余っています。ゴミはたくさんあるし、毎日フードロスも行われている。その状態がスタートラインなので、既にあるものをいかに手を加えず、さらに良くしていくかという視点は大切なんじゃないかと思って書いた本です。

私たちの空間と自然をつなぐバイオフィリア・マテリアル

武田:この本では、「モダニズムとポスト・モダニズム」という話題が出てきます。世の中では大量生産で合理的に作られた製品が一般的になっていますが、土地土地に合った文化や思想を、マテリアルを通じて表現していくことができるのではないかと思いました。そういう意味で、マテリアルは私たちの空間と自然をつないでくれるインターフェース的な役割を今後担っていくのかもしれません。

塚本:コロナを機に人々の考え方が大幅にリセットされたことで、「実はアジアの自然との関わり方は理にかなっている」と欧米の方々が感化されるような流れもあり得るのではないでしょうか。

周:コロナで一番変化を感じたというか、人々の意識が高まったと感じるのはその点です。例えば東南アジアに行くと水草が大量に生えている、あるいはバナナの葉の成長がとにかく早い。そのような、伐採して捨てるはずだった素材を利用して素材開発する動きが増えています。地域ごとの特性を持った廃材が再利用されているというのが面白いです。

武田:最近は環境に負荷をかけない行動が注目されてきていますし、世界中でサステナビリティに対する取り組みへの意識が高まっていますが、もう一歩先の視点として、「私たちは自然とどう付き合っていきたいのか」「自然にどう還っていくのか」という東洋的な思想のアプローチが徐々に増えているように思います。プロダクトを発表するときにも、マテリアルを通して「私たちはこう考えている、こうありたい」というコンセプトを発信することができると思うのですが、そういったアプローチは、今回のTrend Bookにもありますか?

周:むしろそればかりです。今、Trend Bookの新刊を作っていても、洗練されたサステナブル素材が大幅に増えたと感じています。従来は、ファッションや自動車業界の大手企業が「100%植物由来」ということにそこまで本気で向き合うことはなくて、しっかりとした、高級感のある素材が重視されるイメージが強かったんです。しかし、そうしたバイオフィリアな取り組みに大手が乗り出せば、産業そのものを変えてしまうほどの大きな影響力があると思います。そのような大きな流れの予感は今も垣間見えますし、消費者のマインドもどんどん変わっていくであろうことを強く感じます。

アジアの庭園や住まい、畑のデザインにはたくさんの先人の知恵、ヒントが込められています。東南アジアの竹の建築を見ても、自然の空気を取り入れてクーラーいらずの空間を作るのに長けている建築がたくさんあります。自然物を生かした知恵を産業に接続できれば、地球の環境を私たちの手で修復していく、守っていくという点で大きく一歩踏み出せるのではないかと思います。

自然素材の使い方に改めて人々が意識を向けて、さらに大きなブランド、大きな素材メーカーが、自然の再利用に乗り出すと大きな影響を与えるのではないでしょうか。

塚本:東レの場合、植物由来原料のポリエステルを製造する際には、基本的に遺伝子組み換えをしていないもの、かつ食べられない部分のものというように、素材を厳選して使用しています。そのような問題は地域、宗教によってネガティブに捉える方も多いので、サステナブルという意識だけでなく、なるべくグローバルに、より多くの方に届けるために、もう少し先の考え方も持っておく必要性を感じているところです。

バイオフィリア・マテリアルが五感を刺激し、私たちの心を豊かにする

武田:最後に、クロストークの感想を一言ずつ頂ければと思います。塚本さん、いかがですか。

塚本:お二人とお話できて、素材の生かし方について、今まであった考え方や捉え方の見直しができて、とても勉強になりました。

周:このところずっとオンラインが続いていたので、このような対面の感覚や声のトーンに触れるのは久しぶりでした。お話を通じて、自分だけでは想像できないような世界を見せていただき、大変刺激になりました。

武田:元木さんからも一言頂いていいですか。

元木:まさに同じようなお話ですが、この2年、物理的な接触が封じられていた分、触り心地やフィジカルな良さというものを改めて実感しますよね。どんなにバーチャルが発達したとしても、ここに身体があること自体は変わりません。この基本的なことを改めて大切にするきっかけができて良かったと思いました。

武田:ありがとうございます。お二人から、そして塚本さんからお話を伺いながら感じたことは、これからのバイオフィリア・マテリアルは自然に負荷をかけないことも大事ですが、私たちが潜在的に持っている五感を刺激し、それによって私たちの心も豊かになるというものなのかなと思いました。

また、このようにさまざまな世界、さまざまな形式、文化、思想を巧みに表現してくれるものが、バイオフィリア・マテリアルになるのではないかと思います。本日はありがとうございました。

Vol. 1を通じて、伝統や社会的背景に基づくサステナブルな発想が産業に変化をもたらそうとしていること、それは環境負荷低減という観点だけでなく、私たちの感性を刺激するものとして求められ始めていることが見えてきました。Vol. 2では、名古屋工業大学大学院の北川 啓介教授、STUDIO BYCOLORの秋山 かおりさんを迎え、ものづくり的な視点からバイオフィリア・マテリアルを考えます。

■ 東レ Ultrasuede®と考える ーバイオフィリア・マテリアルの現在地レポート vol.2はこちらからご覧ください。

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