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LIXIL人間科学研究所の木と金属を掛け合わせた実験的なテーブルを制作

暮らしのモノから感じる感性を見るためのテーブル製作

住宅設備大手の株式会社LIXILのTechnology Research本部 人間科学研究所のチームが進める、ヒトとモノとのインタラクションの研究。その一環で、同チームは人が暮らしの中で使うモノから感じる感性を見ることを目的としたテーブルをヒダクマにオーダー。ロフトワークがプロデュースを担当し、製作をヒダクマと金属作家の上田剛さん、飛騨の家具職人・堅田恒季さんとの協働で行いました。
家具としての機能性や美しさを兼ね備えながら、様々な異素材を掛け合わせて製作した実験的なテーブルをご紹介します。

※本記事は、MTRLを運営する株式会社ロフトワークの関連会社、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」のウェブサイトにて公開されている事例記事の転載です。
https://hidakuma.com/blog/20200525_lixil_table/

※本記事は、MTRLを運営する株式会社ロフトワークの関連会社、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」のウェブサイトにて公開されている事例記事の転載です。
https://hidakuma.com/blog/

【プロジェクト概要】

  • 支援内容
    テーブル2種の製作
    要件整理・企画提案
  • 期間
    2020年2月〜2020年3月
  • 体制
    クライアント:株式会社LIXIL Technology Research本部 人間科学研究所

    プロデュース:小原和也・松本遼・金子由(ロフトワーク)
    家具設計・家具製作ディレクション:岩岡孝太郎・門井慈子・飯山晃代(ヒダクマ)
    鋳金製作:上田剛
    家具設計・家具製作ディレクション:飯山晃代・黒田晃佑 (ヒダクマ)
    天板製作:堅田恒季(飛騨職人生活)

Outputs

テーブルはいずれも様々な人が実験で出入りする研究スペース(実験室)に設置されました。製作した2種類のテーブルには、人とモノとの触れ合いを想定した工夫が散りばめられています。

ホシクズテーブル

多様な木と小さな星屑のような金属の表情豊かなテーブルです。
6樹種の小径の広葉樹を接ぎ合わせて作った天板には、金属作家の上田さんが作った4種類の釘のような小さな金属棒材が打ち込んであります。様々な素材はそれぞれの個性を発揮しながらも全体として調和しています。

<仕様>
樹種:クリ・ミズメ・キハダ・カエデ・ナラ・ウダイカンバ
釘のような金属棒材:SUS(ステンレス鋼材)・真鍮・銅・ブロンズ
サイズ:W900×D900×H730 (mm)
仕上げ:オイル塗装
脚:スチールにウレタン吹き付け塗装

LIXIL鎹(かすがい)ローテーブル

割れを防ぐためにも使用される鎹(かすがい)に遊び心を加えた一枚板のテーブルです。鎹(かすがい)とは、ふたつの材木をつなぎとめるために打ち込む、コの字型の釘のこと。天板としてあえて選んだ少し割れたサクラの一枚板の割れ目に、上田さんがブロンズで製作した”LIXIL”の文字をかたどったオリジナル鎹を取り付けています。
テーブルの耳はそのままにすることで、有機的なフォルムの中に、鎹の直線が映えて上質な印象を与えます。仕上げには設置するスペースの色調に合わせて、ブラックに近い色味のオイル塗装を施しました。これにより空間に馴染むだけでなく、木と鎹のコントラストが明確になり、各素材の存在感が引き立つテーブルとなっています。

<仕様>
樹種:サクラ
鎹:ブロンズ
サイズ:W1200×D470×H370 (mm)
仕上げ:オイル塗装
脚:スチールにウレタン吹き付け塗装

Process

異素材の組み合わせ実験から、素材同士の相性を見る

「広葉樹と金属がそれぞれが主張し合うのではなく、互いのポテンシャルを引き出し合いながらも、掛け合わさった一体感を大切にしたテーブルをつくろう。」富山県高岡市にある上田さんの工房兼ご自宅で行った初回の打ち合わせで、プランの方針が決まりました。


素材の掛け合わせによる見え方が樹種や金属質の違いでどのように変わるのか。木に真鍮と銅を打ち込み相性を見ていきます。

真鍮(金色)と銅(ピンク色)を打ち込んだ木
銅を酸化させて緑青(ろくしょう)というサビが発生する途中段階のもの

上の2枚の写真は、サンプルとして真鍮と銅の金属棒材を木に打ち付け、観察したものです。
木に金属を打ち込むと、金属に当たる光でキラッと主張するものの、金属が表出している面積の小ささが程よく、柔らかい木の表情に包まれた小さくて硬質な物質が繊細に見えます。みずみずしさがあってとてもチャーミングな印象です。
銅を酸化させて生成される緑青(ろくしょう)色の錆びの表情もチェックしました。写真では緑青が発生する途中段階ですが、黒みが強まった銅はまるで木の節のよう。変化していくとどんどん木に馴染んでいきそうな気がします。木と金属、お互い無垢の状態で組み合わさると、想像したよりも自然で柔らかい表情が生まれました。

変化の差を観察できるように、関係性の数を作る

飛騨にある多様な樹種の広葉樹を活かして、複数の木と複数の金属の掛け合わせの実験場のような天板を作ることにしました。

(図) 掛け合わせの線の数が多いほど表情の違いや発見が生じる

樹種はクリ・ミズメ・キハダ・カエデ・ナラ・ウダイカンバ、金属はブロンズ・真鍮・銅・ステンレスを用い、色味や質感が異なる合計9種類の要素が構成するテーブルを考えました。天板として統一感を強めるために、形状は木=ボーダー、金属=ドットという2要素に絞りシンプルなデザインを目指しました

ブロンズ・真鍮・銅・ステンレスの打ち込みサンプル
打ち込み前の金棒

金属のサイズや形状の検証では、それぞれ切削性や熱伝導率が異なり研磨の摩擦によって金属周辺の木が焦げてしまうことがあるので、テストを行いながら最適な形を探りました。そのサイズに合わせヒダクマは3Dソフトを使って金属の個数と配置を検証。同時に上田さんは900mm角のテーブルに打ち込むための200個以上のオリジナルの釘のような金属棒材を製作しました。

木の職人と金属作家との協働で生まれた、木と金属の融合

位置出しをした後、下穴をあけて金棒を打ち込んでいく

 

 

天板に金物を打ち込んでいるタイミングで、広葉樹の剥ぎ合わせ天板を製作してくれた家具職人の堅田さんが覗きに来てくれました。今回使用した広葉樹の性質や特徴、木材加工の道具についてアドバイスをもらいながら製作を進めて行きます

作業する堅田さん(左)と上田さん(右)
左:カエデ、右:ナラ。カエデは散孔材で道管が細く硬質。金物の打ち込みの際には吸着する様な心地良さがある。キハダは環孔材で道管が太く柔らかい。
木漏れ日がかかるテーブル

樹種や金属の種類ごとに全て硬さが異なり、掛け合わせる素材数が多いからこそ、ひとつの工程においてひとつのやり方ではスムーズに進みません。各素材の特徴の理解を深めながら、素材同士の相性を発見していきました。
4種の金属が全て埋まった天板は、光の当たると金棒が星屑のように繊細な表情を見せてくれます。反対に影が当たるとコントラストが逆転し、木の色味を引き立たせます。

木の動く場所を、見せ場にする

木は伐られた後も、細胞が収縮・膨張しています。その過程で細胞から水分が抜け、割れや反りなど、木が動くことは当たり前の現象であり、木の力強さを感じさせるチャームポイントです。

オリジナル鎹を打ち込む様子

割れが大きく進みすぎないように、ちぎりや鎹(かすがい)を入れる木の動きに合わせた手法があります。ローテーブルの製作では、割れを「防ぐ」処理として使用される鎹の形状に遊び心を加え、”L””I””X”の形の鎹を製作。鎹自体を「魅せる」ことで、割れという通常家具などでは製品として用いられないネガティブな要素をポジティブに変えるデザインとしました。

上田さんによる”LIXIL”の文字を鋳造したオリジナル鎹は割れに合わせ、リズムをつけながら配置していきます。

無垢のサクラ材
オイル塗装したサクラ材

無垢のサクラ材はピンク色の表情が柔らかく、鎹のブロンズ色とも相性が良いです。最終的に設置空間の内装がウォールナット色が基調とされていたことから、それに合わせてブラックに近い色味のオイル塗装を行いました。木と鎹のコントラストが増し、無塗装と比較してヴィンテージ感が強まります。塗料も顔料式のものではなく、サクラ材の表情が見えるように浸透式の物を使いました。

木と金属、互いのポテンシャルを掛け合わせることで、2つの天板に独自の特徴が加わり、日々の使用を通じて、人とモノとの関係づくりに期待できるテーブルが完成しました。

Members

株式会社LIXIL, Technology Research本部
小林 秀平|Shuhei Kobayashi

人間情報科学研究所
1987年京都生まれ。立命館大学大学院修了。2011年株式会社LIXILに入社。ヒトとモノのインタラクションを切り口に住宅設備・建材の顧客価値向上をめざし、研究に取り組んでいる。

株式会社ロフトワーク / MTRL プロデューサー
小原 和也

2015年ロフトワークに入社。材料基軸のイノベーションを実現するプラットフォーム「MTRL」の立上げメンバーとして運営に関わる。現在はプロデューサーとして、材料開発、製造業向け企画、プロジェクト、新規事業の創出に携わる。モットーは 「人生はミスマッチ」。編著に『ファッションは更新できるのか?会議 人と服と社会のプロセス・イノベーションを夢想する』(フィルムアート社、2015)がある。あだ名は弁慶。
https://loftwork.com/jp/people/kazuya_ohara

株式会社ロフトワーク, MTRL リードディレクター
松本 遼

京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科卒。在学中からデザイナーとして活動し、2007年にはUNIQLO CREATIVE AWARD 佐藤可士和賞を受賞。卒業後デザイン事務所勤務を経てフリーランスとなり、京都福寿園の広告制作や、10万筆の署名を集めたLet’s Dance署名推進委員会の広報戦略に参画する。
2017年ロフトワーク入社。意匠としてのデザインだけでなく、プロジェクトの上流からより深くクリエイティブプロジェクトに関わることを目指す。

株式会社ロフトワーク, クリエイティブディレクター
金子 由|Yui Kaneko

日本大学芸術学部写真学科卒業後、都内スタジオでのスタジオマン勤務を経てフリーのフォトグラファーに。自分の作品が広告や雑誌となり世に出た時、写真とデザイン相互関係の重要性を痛感したため、並行してグラフィックデザインを学ぶ。自身の経験を生かし、ロフトワークに入社後はクライアントとクリエイター両者を理解し、適材適所に采配を振れるようなディレクターを目指している。現在もフォトグラファー、映画のスチール、デザイナーとして活動中。趣味は人が寝ているときにみる「夢」の話を聞くこととバレエ鑑賞。

金属作家
上田 剛|Tsuyoshi Ueda

1986年奈良県生まれ。2010年金沢美術工芸大学工芸科卒業。2012年東京藝術大学美術工芸科修了。2019- 金沢美術工芸大学工芸科 非常勤講師。

株式会社飛騨の森でクマは踊る, 森のクリエイティブディレクター
門井 慈子

東京藝術大学 美術研究科先端芸術表現専攻修了。
空間デザイン会社にてイベント装飾や店舗内装の空間デザイン・コミュニケーション設計を複数経験。
人と森の関係性という、時間軸の長いコミュニケーションやそこに生じるコミュニティ創り・価値創造に心を惹かれ、2020年「クマが喜んで踊り出すくらい豊かな森」を目指すヒダクマに入社。クマと一緒に踊るのが夢。

Member’s Voice

LIXILでは研究のために社内スタジオを持っており、その中で素材のもつ感性的な研究を目的に多くの人が触れるテーブルを制作しました。以前プロジェクトでお世話になっていたヒダクマさんに制作をお願いすることになり、素材と人のインタラクションをテーマにオーダーさせて頂きました。一度プロジェクトをご一緒させて頂いたこともあって気兼ねなく色々と注文しましたが、全て受け止めて頂き最終的には遊び心溢れる素敵な机に仕上げて頂き、一同感謝しております。アイデアスケッチや試作検討中のサンプル、制作過程も共有して頂くことで現場に足を運ぶことはできませんでしたが勝手に制作メンバーに加われた気分でした。今後、様々な視点で人と物のインタラクションを研究を進めて行きます。

株式会社LIXIL
Technology Research本部
人間情報科学研究所
小林 秀平

研究プロジェクトでは、モノ(素材)と人のインタラクションにおける価値形成パターンや素材の変化そのものの価値を探求していますが、サンプルでの検証にとどまっていたところを、人が具体的に使う製品としてかたちにできたことは、大きな一歩でした。また今回は、モクだけでなく上田さんが扱う金属素材も加えることができたことで、ヒダクマが探求している木と人のインタラクションの可能性に、異なるアプローチが加わったことで、これからが楽しみになる出来事を増やせたことも、うれしく思います。

株式会社ロフトワーク
FabCafe MTRL プロデューサー
小原 和也

当初は素材を探る、プロダクトの考え方を探るプロジェクトとしてスタートした試みが、ひとつ高いクオリティで「モノ」になったことに達成感を感じています。
このプロダクトには、考え方から一緒にプロジェクトを作ってきたヒダクマ・上田剛氏と話していたちょっとしたアイデアやひらめきが盛り込まれ、単なる発注ではなく共に考え育てた価値が、強く発揮されていると思います。

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
松本 遼

本プロジェクトにおいてテーブルを制作する上で、木と金属がどのような関係性を持ち、どのように作用し合うのかを探るという観点からスタートしました。
木に対する金属の関係の在り方を考えたとき、釘や鎹といった古来より使用されてきた金具としての形態が自然と想起されます。木はその柔軟さをもって緩やかな動きを見せ、金属はその強硬さをもって木を留める。木と金属の関係が、金具としての「機能」と「意匠」という役割を分けて考えられないほど、一体として馴染んでいる例も見て取れます。木の有機的な偶発性(歪みや割れ)と金具の機能としての必然性は、時に相互に作用しあって、思いもよらない形を生み出します。
今回のテーブル制作では、金具としての「機能」と「意匠」という役割を解体して再構築し、木と金属の関係の可能性を探るということを試みました。木、金属ともにこのテーブルが人にどんな感性を与えるのか楽しみです。

金属作家
上田 剛

堅田さんと上田さん、お二人のトライアルのスピードがとても早く、短期間の制作日数の中クオリティの高いテーブルを完成させることができました。
FabCafe Hidaの中庭で堅田さんと上田さんが木の特徴やそれに合わせた加工方法・道具の調整など、その場で新しいやり方や道具を試行錯誤していくライブ感はとても頼もしかったです。今回のテーブルだけでは無く、継続してこういった実験的なものづくりにチャレンジしていきたい思いました。
金属金棒が打たれ、表情が豊かになるにつれ、中庭を訪れる人々が天板を自然に撫でていく光景が印象的でした。
木はノコギリ、金槌、ドリル、カンナ、様々な金属による加工を施します。木家具は木だけでは出来上がらない。制作過程では近しい関係性にある2つの素材が、完成段階でも共存している新しい佇まいを提示できました。これからLIXILの研究所で多くの人に使っていただけることをとてもうれしく思います。

ヒダクマ 森のクリエイティブディレクター
門井 慈子

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