ミラノ・デザインウィーク出展プロデュース
プロジェクト事例 ― 東洋アルミニウム株式会社
光を反射し虹色にきらめくメタリック顔料クロマシャイン®︎、ミラノ・デザインウィークへ初出展
大阪に本社を構える東洋アルミニウム株式会社は、日本のメタリック色の車の塗装の約70%、海外でも約50%のシェアを誇り、そのほかにもヨーグルトなどの食品パッケージのアルミニウム蓋を手がける、アルミニウム製品のトップ企業です。
今回、メタリック顔料「クロマシャイン®︎」を世界に発信し、素材の可能性を広げるため、2018年4月に開催されたミラノ・デザインウィーク(※)へブースを出展しました。ロフトワークのMTRLチームは展示の企画・設計・制作で支援しました。
- プロジェクト体制
クライアント:東洋アルミニウム株式会社
プロデューサー:井田 幸希
プロジェクトマネージメント:寺井 翔茉
プランニング・ディレクション:MTRLチーム - クリエイティブチーム
インスタレーションブースデザイン:古市 淑乃
制作パートナー:京染工房 中秀、株式会社TANK
※ ミラノ・デザインウィークとは?
毎年4月にイタリアのミラノで開催される国際家具見本市「ミラノ・サローネ国際家具見本市」と同時期に開催される展示。ミラノ市内各所でさまざまな企業やデザイナーによる展示が行われ、世界中からクリエイターが集まる。 東洋アルミニウム株式会社は、ミラノ・デザインウィークの中でももっとも大きな会場の一つSuperstudio Piùで開催されたMaterial Village 2018での展示を行いました。
OUTPUTS
PROCESS
「機能」ではなく「デザイン」をアピールしたい
東洋アルミニウム株式会社は機能性メタリック顔料では市場で大きなシェアを占めているものの、意匠性の点ではあまりアピールできていないという課題がありました。
一方、今回出展したクロマシャイン®︎は意匠性が特色のアルミニウム顔料です。既存の機能性を求められる業界とは異なった訴求の仕方で魅力を伝える必要がありました。そこで、世界中の目利きが集まるミラノという場で、「機能」ではなく「デザイン」に訴求することで、自社にしかできない顔料をアピールしたいという要望をいただきました。
素材の特長を最大限に生かす方法とは
クロマシャイン®︎とは、フレーク状のアルミニウムを基材に、その表層をシリカで多い、さらに銀でメッキした顔料です。銀メッキ層とアルミニウム表面の反射光の光路差により強い干渉色が得られ、色素顔料を含んでいないにもかかわらず鮮やかに発色し、反射光による輝きを放ちます。この干渉色の美しさを引き出し、ブースを訪れた人たちに色の移ろいを体感してもらうため、表現方法だけでなく顔料の塗り方までを考案しました。
魅力を「体感」するインスタレーションの実現
わたしたちは建築家の古市淑乃さんをチームに迎えて展示を企画・プロデュースしました。素材の魅力を最大限に引き出すためにはどんな方法がありえるか、試作を繰り返しながらあらゆる可能性を検討しました。最終的にポイントとなったのは、素材を見るだけではなく「体感」するインスタレーション。暖簾という形状や日本の伝統模様の縞を用いることで、日本発の素材であることを表現すると共に、中をくぐることにより素材の特色である干渉色を最大限に体感できる展示を実現しました。
メンバーズボイス
ミラノの太陽光の下で見るクロマシャイン®︎の輝きは、事前に想像していた以上に美しく、多くの人たちを引き付ける、とてもよい展示ブースになりました。会期中は朝から晩までたくさんの人が訪れてくれました。クローズ5分前でも続々と人が入ってきてくれて休む暇もなく、うれしい悲鳴でしたね。
日本ではターゲットにする業界を定めて製品を売り込みに行きますが、ミラノでは、日頃はなかなか会えないような業界のデザイナーとの接点がたくさんできました。中には、展示していたファブリックを事務所に飾りたいから送ってくれないかと言ってくるデザイナーがいたり。このような国際的な展示会に出ると自分たちの考えを超える意外性のある人やアイディアに出会え、可能性が広がることが体感できました。MTRLさんのデザインが大きく貢献してくれましたので感謝しています。
東洋アルミニウム株式会社 パウダー・ペースト事業本部 グローバルマーケティング部 インキグループリーダー
鈴木 承平
クロマシャイン®︎の特徴はその干渉色の美しさですが、最も惹かれたのは、その色が光の波長色そのものである、というところでした。この色に囲われ、色の移り変わりを眺めることで、光の色を体感するような展示ができるのではないかと考えました。
クロマシャイン®︎は顔料なので塗装や印刷などの多様な可能性が考えられましたが、サンプルなどを見ているとどうしても動かして干渉色を眺めたくなってしまう感覚がありました。そこで、布に定着させることで、同一平面でありながら布の揺らぎ方によって多様な色に変化する様子が見えるほか、暖簾のように人がくぐり抜けながら鑑賞する空間構成とすることで、鑑賞者がクロマシャイン®︎に触れ、動かすことを誘導し、よりリアルに光の色を体感できるように設計しました。
古市淑乃建築事務所
古市 淑乃
クロマシャイン®︎を初めて見たときの驚きが忘れられません。色素を含んでいないにも関わらず、様々な色合いのバリエーションがあり、また光の当たる角度を少し変えるだけで全く異なる色合いに変化する。この驚きをストレートに表現したいと思いました。とはいえ、通常は車体やコスメに使われている素材のため、「布へ等間隔に塗る」という加工方法は東洋アルミニウム様でも行われたことがなかったため、製造加工方法をプロジェクトメンバー自ら手探りで試作しながら開発する必要がありました。
同時に海外輸送の際の破損や現地施工、耐久性や安全性なども考慮する必要があり、常に臨機応変な判断とスピード感を求められるエキサイティングなプロジェクトでありました。クライアント / クリエイター / ロフトワーク、それぞれが持つネットワークとスキルを活かし、これらの壁を乗り越えるチームとして協働できたことが何よりも嬉しいことです。
クロマシャイン®︎は今後、MTRL TOKYO / KYOTOでの取り扱いも予定しています。ぜひ直接お手にとって不思議な輝きを体験してみてください。クリエイティブディレクター
寺井 翔茉
今回の展示では、既存のクロマシャイン®︎のアクリリック顔料は使わず、クロマシャイン®︎特有の干渉色の美しさを最大限に引き出すための塗り方から考えていきました。しかし、美しさを引き出す塗り方が定まっても、その方法で塗ることや、その方法で塗ったテープを布に均等に貼ることの難易度が高い。何度も壁にぶち当たりながら試作を繰り返し、日本の職人や業者の技術力にも支えられて空間を完成することができました。
また、時差や情報精度の感覚の違いなどにより、展示直前までイタリアの事務局とのやりとりを密に行う必要がありました。そういった連絡や書類対応と制作部分で、うまくクライアントとも連携しながら良いチームワークで進められたと思います。ミラノ・デザインウィーク中のミラノは市内中がまさにデザインの祭典で、ものすごい人の量と熱量でした。ブースには朝から晩までひっきりなしに人が訪れ、思いがけない出会いや今後のビジネスに繋がりそうな話も生まれました。今回、展示をお手伝いさせていただき現地の反応を肌で感じたことで、改めて国際展示会に出ることの意味や可能性を感じています。
プロデューサー
井田 幸希