“フィジカルなメディア” としてのCDパッケージ制作

Shirine.jp × FabCafe Kyoto & MTRL

プロジェクト概要

1997年から活動を続け、京都ローカルの音楽シーンを牽引してきた電子音楽レーベル 『Shrine.jp』とMTRLがコラボレーションを行いました。

Shrine.jpからリリースされる数量限定発売のCDのパッケージを制作するにあたり、音源の世界観やアーティストのバックグラウンドに即した素材、およびその加工方法やしつらえを、MTRLがディレクションしました。

ダウンロードやストリーミングで音楽を配信することが主流となった現代における「手に取ることのできるフィジカルなメディア」としてのCDやレコードの存在・役割を再考し、マテリアルに新たな文脈を接続することを試みています。

CDは2019年秋発売予定。販売開始後、MTRL KYOTO(FabCafe Kyoto)にも設置します。

メンバー
・Shirine.jp
・Masahiko Takeda (アーティスト)
・木下浩佑 (MTRL / FabCafe Kyoto ディレクター)

MTRLディレクター実施内容
・マテリアル選定
・プロダクト設計
・試作・制作プランニング
・レーザー加工オペレーション設計

期間
・2019年

コラボレーション第1弾アーティスト『Masahiko Takeda』

コラボレーション第1弾作品では、黒い西陣織「大樋の黒共」のデッドストック生地をメインの素材として使用しています。この織物には、黒一色のなかに文様や意匠、質感、光沢感の表現が施されており、もともとは喪服などに用いられてきました。

Shrine.jp より音源を発売するアーティストのMasahiko Takeda さんのご実家で家業として製造されていたもので、2019年秋にリリースされる新譜『Mitate』の世界観とアーティスト本人のバックグラウンドを繋げる媒体として、今回、CDジャケットとして再生されることになりました。

素材 : 「大樋の黒共」

創業年不明。
大樋吉次郎により明治時代には家内工業として織屋を初めており、力士のまわしなど当時より高品質な織物を製造。戦後、吉次郎の後継である大樋茂夫が、当時需要の高かった喪服用の黒共に注力し、黒共専門の織屋として西陣生地の製造を行う。

黒共は、喪服用の黒帯として女性の必需品であり、嫁入り道具としての文化を纏っていた。
機械化が進むなか、手作業での工程を残すことで品質を守る。上質な黒帯「大樋の黒共」として名が通り、外井、丸居、増織、岡慶などの問屋に卸す。和装文化の衰退とともに黒共の需要も低下、平成4年に工場を畳む。

西陣織
証紙No.828
(株)大樋

アルバム : 『Mitate』

Mitate – Masahiko Takeda (SRCD080)

アンビエント、エレクトロニカ、エクスペリメンタル、ミュージックコンクレート、ミニマル、ダンスミュージックの領域を自由に横断する電子音楽家、武田真彦。
京都を拠点に日本の実験電子音楽を牽引する音楽レーベル [shrine.jp] からリリースされる新しいアルバム「Mitate」は、彼がコンテンポラリーダンサー、ファッションブランド、文筆家、現代アート作家、ミュージシャンなどとコラボレーションし発表した作品のアーカイブが収録されている。
「制作の多くの時間を調査、ヒアリング、インタビューなどコンセプト設計に費やした」という今回のアルバムは、全体を通じてシンプルな電子音と環境音で構成されている。それぞれの音に対し有機的に機能性を持たせることで、音楽性とドキュメンタリー性の共存が表現されている。

01 Expectation _ for BIEST Exhibition & Performance
02 Turquoise _ composed by Antti Hevosmaa & Masahiko Takeda
03 For Senchado _ performed with Simon Erin & Fumi Takenouchi
04 IMAGES DU FUTUR _ written by Théo Casciani, designed by Cléo Verstrepen
05 Pipeorgan Soundscape _ featuring Vesa Hoikka
06 Soundscape for ‘War Song and Love Song’ _ for Yuju Chen Exhibition

produce : Masahiko Takeda / textile : Shigeo Oohi, Yasuko Oohi / picture : Genta Hisada / artwork direction : Kosuke Kinoshita / support : Masayuki Nii / mastering : Ken’ichi Itoi / manufacturing : MTRL KYOTO

shrine.jpより、2019秋発売

>>> 視聴する

レーザーカッターを活用した試作と適量量産

制作にあたっては、下記の点を重視しました。

▼ 『Mitate』ジャケット制作のポイント

  • いかにも “和風” な仕上がりはにしない
  • かつ、生地の質感や元の意匠をデザインに生かす
  • プロダクトとして必要な数量を量産できるよう設計する
  • 量産品でありながら、ひとつひとつが唯一無二の個性をもつ
  • 「CDを出し入れする」という機能に見合った素材の組み合わせを選ぶ

そこで採用したのが、織物の生地だけでつくるのではなく、別のマテリアルと組み合わせるという方針。紙素材で外形をつくり、そこに生地を挟み込む手法をとりました。

いくつかの紙を試すなかでたどり着いたのが、「文庫紙(たとう紙)」。着物や帯を包み保管するために用いられている紙で、容易に入手することができます。衣類の出し入れを伴うためのものなのでパッケージとしての耐久性も高く、たびたび手に取るCDジャケットにも好相性。

アルバムタイトルにも含まれる「Mitate(=見立て)」ということばからもインスピレーションを受けながら、「帯や着物を包むための紙で織物の生地を包み、そして人にとっての着物のようにCDが生地を身にまとう」というコンセプトをかたちにしていきました。

試作および量産には、FabCafe Kyotoに常設しているデジタル工作機器のレーザーカッターを使用しています。ジャケットの展開図をデータ化し、折り目や切り口のエッジを損なわないように切り出し、組み立て可能な設計としました。また、ジャケット背面へのクレジット記載も、印刷ではなくレーザーによる彫刻で細かな文字やロゴを表現しています。

PARTNERS

サウンドアーティスト
武田 真彦 | Masahiko Takeda

京都を拠点に活動するサウンドアーティスト。
同志社大学商学部卒業、Central Saint Martins Couture Tailoring修了。
2019年、shrine.jp(京都)よりフルアルバム「Mitate」を、2020年、Muzan Editions(奈良)よりKazuomi Eshimaとのアルバム「Inheritance for Soundscape」をリリース。
現在は、メディアラボレーベル Laatry にてKazuomi Eshimaとともに、インスタレーション作品「CYCLEE」など、祖父が紡いだ京都西陣織の黒共を用いた作品制作や、京都の伝統工芸を用いた制作をしている。

shrine.jp

shrine.jpは、京都在住の電子音楽家 糸魚健一によるエレクトロニック・エクスペリメンタル・レーベルである。

1997年に音楽への可能性への探究心を表現する為に発足された。

これまでデザインとプロダクトを利用したメディア実験ともとれるリリースを繰り返してきている。

また、ダンスミュージックに特化するサブレーベルMYTHがある。

shrine.jpが社、形あるもの、すなわちコンテンツ(内容)を主体し、MYTHは話=コンテクスト(文脈)あるいはコンジャクチャ(推測)を示す。

http://shrine.jp