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「日常をハックしてグルーヴを生み出す」プロトタイピング。おおしまたくろう 滞在制作レポート

MTRL KYOTOより

本記事は、2018年2月末から3月末にかけてMTRL KYOTOで滞在制作を行なったアーティスト おおしまたくろう さんによる制作レポートです。
(*クリエイター本人によるブログより転載しています。)

約1ヶ月間の滞在を通じて、新しい作品のアイデアをプロトタイピングしながら展開。デジタルファブリケーションなども用いて、「作る→見せる→考える」というサイクルを短期的に実践する場所として、MTRL KYOTOでの制作活動を行いました。

制作〜発表のプロセスを追体験できるボリュームのあるテキスト、ぜひじっくりご覧ください。

クリエイタープロフィール

おおしまたくろう

「PLAY A DAY」をテーマに、日常の道具を改変した楽器の制作と、それらを組み合わせた少し不思議なパフォーマンスを行う。音楽や楽器の名を借りた遊びやユーモアによって社会の不寛容へのマッサージを試みる。
http://oshimatakuro.tumblr.com/

■ PLAY A DAYとは?
私はこれまでPLAY A DAYという活動を通して、世の中でアタリマエから排除された・見過ごされた「ノイズ」を、ユーモアによって音楽的な魅力に翻訳してきました。この活動の背景には、現代社会の不寛容さと自身が抱える吃音症が関わっています。吃音症とは、発声の際に舌が動かず言葉が流暢に話せないという言語障害の一種であり、私が最も身近に感じる「ノイズ」です。PLAY A DAYの活動は、社会の合理性や常識から排除されるノイズを再評価することで、他者への寛容さを取り戻すと同時に、作家自身へのケアを目指します。

■ 今回の制作テーマ
「車のウィンカーを用いたグルーヴの探求」
音楽においてグルーヴ(Groove)とは明確な定義が難しい言葉である。そこで私は辞書的な言葉の定義からではなく、身近な体験から「グルーヴとは何か?」を考えることにした。そして、私が身近に感じるグルーヴとして「交差点で右折を待つ、車のウィンカーの明滅のズレ」という現象を思いついた。
私は機械が生み出す無機質な反復にどうしてグルーヴを感じるのだろうか?今回のレジデンスで制作した作品を介して、みんなと「グルーヴとは何か?」を考えてみたい。

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完成作品

00_NB-606

テーマ : 「車のウィンカーを用いたグルーヴの探求」
作品タイトル : NB-606

Report 1. 準備編

はじめまして、おおしまたくろうです。僕は京都精華大学で助手として勤務する傍で、身近な道具や現象を改変した自作楽器・装置を制作する「PLAY A DAY」と称した作家活動をしています。2月23日から3月28日の約1ヶ月にかけてマテリアル京都に滞在して、新作のプロトタイプを制作したので、その滞在レポートをお届けします。

制作のきっかけ(1月16日〜24日)

今回の滞在制作では、車のウィンカーに使われるリレーという電子部品を使って、複雑なリズムを刻む楽器・音響装置を作りました。今回の制作の動機として、1)これまでパフォーマンスを中心に活動を展開してきたので、ギャラリーなどで展示できる形態の作品を作りたいと思ったこと、2)学生さんが卒業制作として「グルーヴをモチーフとした楽曲」を作りたいと相談されたことがあります。

音楽における「グルーヴ(Groove)」とは、言葉で定義することが難しい言葉です。ノリのいい感じ、踊れる雰囲気、明るい印象…。日本文化の「わびさび」のように、言葉で定義したとしてもどこか言葉からこぼれ落ちてしまう印象があります。

そこで僕は自分が身近に感じるグルーヴを作品として作ることにしました。僕が身近に感じるグルーヴ、それは「車のウィンカーのズレ」です。ウィンカーの明滅のタイミングは車の機種や電球の寿命で微妙に異なります。交差点で右折を待つ車の列を見ていると、ウィンカーの明滅が同期していたのに段々とズレていって裏拍になったりします。それぞれの車は反復的に明滅しているだけなのに、それらが組み合わさると無限にも思える複雑なリズムパターンが生まれる。これが僕の思う「グルーヴ感」でした。

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▲初期の構想ノート(1月16日)

シミュレーション(1月24日〜2月1日)

車のウィンカーのズレがグルーヴになる。この単なる思いつき(ジャストアイデア)が本当に作品の体験として成立するのかを確認するためにシミュレーションを行いました。シミュレーションにはヴィジュアルデザインに使用されるプログラム言語のProcessingを使いました。一定のタイミングに合わせて車のイラストのライトが明滅し、ウィンカーの音が鳴ります。


▲4台の車によるタイムシーケンスを考慮したシミュレーション映像

これまでの制作ではあまりプログラミングを使わなかったのですが、今年から社会人になり、机に向かって制作できる時間が減ってしまったので、通勤の電車の中でも作業できるプログラミングでプロトタイピングしようと思い、今回の制作のために勉強しました。Processingの勉強にあたっては『Processingをはじめよう 第2版』を参考にしました。
シミュレーションの結果、それぞれのウィンカーの明滅のズレから生じるグルーヴを確認できたので、シミュレーション映像を持ってマテリアル京都(MTRL KYOTO)に相談したところ、今回の滞在制作が決まりました。

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▲ビジュアルやタイムシーケンスの設定(1月24日、30日)

ダーティプロトタイピング(2月21日〜22日)

滞在制作にあたって3Dプリンターでの出力や電子回路の組み立てなど、地味な絵面の作業が多くなると思ったので、早めに周囲と作品のアウトプットを共有するために段ボールでのモックアップを制作しました。これはダーティープロトタイピングと呼ばれる手法で、実際に動作するわけではありませんが、作品のサイズや鑑賞者の見る視点などを検証するのに用います。このモックアップがあったおかげで、現場のスタッフさんや見学者の方と作品の最終形を共有でき、具体的な議論やアドバイスがいただけたと思います。

05_段ボールプロトタイプ
▲段ボールで制作したプロトタイプ

06_他の利用者と談話
▲段ボールのプロトタイプでアイデアを説明する様子

当初の計画では3Dプリンターで車の模型を出力してシリコン型を作り、「ジェスモナイト」という水溶性の樹脂で車を複製しようと思いました。ジェスモナイトはレジンのような臭いもなく、乾燥すると陶器のような高級感ある仕上がりになるので、今回使ってみたい素材のひとつです。
また車の土台にあたる部分はウィンカーの音を共鳴させるパーツとなっており、「飛騨の木材」など様々な木材をレーザーカッターで切り出して試作することで、音の響き方をいろいろと試せるのではないか、と思いました。



Report 2. 制作編

2月末から大学が春休みに入ったので、本格的に滞在制作を開始しました。自宅の電子部品や工作機器をマテリアル京都に置かせてもらって作業しました。ここからは各作業に分けて詳しく説明していきます。

電子回路のテスト

まずは電子回路の設計についてです。車のウィンカーは、1)リレーという電子部品と2)明滅のタイミングを決める部品で構成されます。リレーには電気の流れを自動で切り替える役割(スイッチング)があり、ウィンカーが明滅するときのカチッカチッという音は、リレーが動作する時にスイッチ内部の金属板が接触して生じる音です。
このような金属板を接触させてスイッチングを行うリレーを「メカニカルリレー(有接点リレー)」と呼び、アメリカの発明家ジョセフ・ヘンリー(1797~1878)がリレーを発明してから長らくはリレーの基本的な構造でした。しかし、近年の車のウィンカーには電子的にスイッチングを行う「電子リレー(無接点リレー)」が主流になっており、寿命やメンテナンスの面で不利なメカニカルリレーはウィンカーに使用されなくなっています。今回制作する作品では、あえて電子リレーでなくデッドメディアとなりつつあるメカニカルリレーを使用しました。
また回路の設計には『Make; Electronics 作ってわかる電気と電子回路の基礎』を参考に、コンデンサーと抵抗のみでリレーの明滅をコントロールしようとしました。できるだけアナログな電子部品と単純な回路でウィンカーの明滅が実現すれば面白いと思ったからです。


▲コンデンサーと抵抗による回路実験の失敗の様子(2月22日)

ただ残念ながら、先の動画のようにコンデンサーと抵抗のみの簡単な回路で安定したウィンカーの明滅を実現できず、結局市販されているウィンカーを分解して内部のタイマー回路を流用する方針に変更することになりました。可変抵抗を回すことで明滅の速度を調整することができる仕様になりました。


▲市販ウィンカーの動作確認(2月28日)

ウィンカーでのLEDの明滅を成功させたところで、段ボールのプロトタイプに実際にウィンカーやフロントライトのLEDを取り付け、より最終形に近い形のプロトタイプを制作しました。これで基本的な電子回路の実験は完了です。

07_作業風景
▲段ボールプロトタイプに電装している時の作業机


▲段ボールプロトタイプにLEDとウィンカーの回路を実装


ボディの設計

ここまで段ボールでプロトタイプを制作していましたが展示に用いるには耐久性に難があるため、ここからは3Dプリンターを用いて樹脂材料で車のボディを制作します。段ボールも素材として味わいがあって良いのですが、自身の経験から段ボールに萌えるのは大人が多く、子供たちは外装がしっかりパッケージされた方を好む印象です。どちらが良いという話ではないですが、段ボールで作るという態度自体が今回の作品の体験にはあまり寄与しないと思いますし、せっかくマテリアル京都で制作するのだからデジタル工作機器を使ってみたい、という思いもありました。

ボディの設計にあたっては、最初にスタイロフォームで曲線的なデザインの模型を作りました。段ボールでプロトタイプを作った時には、作りやすさとサイズ感を優先しており、角のアール感やルーフのパース感などは無視して作っていたので、スタイロフォームで作る際には、実際にどの位置にアール加工を施すのか、パース感は適切か、などを検討しながら作りました。スタイロフォームで曲線的な造形モデルを作るアイデアは『Prototyping Lab 「作りながら考える」ためのArduino実践レシピ』の第1版で紹介されている手法です。

08_スタイロフォーム
▲スタイロフォームで立体的な造形を確認する(3月4日)

車のデザインに関して、当初はリアル路線で検討していましたが、実車をモデルにすることで発生するデザインの権利問題や車のリアルさが、作品の体験の邪魔になると考え、むしろ「車っぽいデザイン」で留めるアイデアに落ち着きました。

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▲初期のデザイン案は実車がモデルだった(2月6日)

10_丸いボディ
▲曲線的なデザインになった車(3月4日)

スタイロフォームで切り出したモデルが納得のできる形状になったら、実際のモデルを測定して方眼紙に図面を描きおこします。方眼紙に描いた図面を頼りに3Dプリンターで出力するための3DCADデータ(STLデータ)を作成します。
CADデータの作成にはFusion 360を使用しました。車の内部にLEDを仕込んで配線を土台へと通すので、窓ガラスの透明パーツで内部が見えたり、車のボディと土台の間に隙間があると配線隠しが面倒です。そこで車の窓ガラスは凹形状で表現し、タイヤはボディの側面に取り付けることで配線が見えないように工夫しました。実際の車ではありえない形状ですが、おもちゃっぽい外見が逆に作品の見立てを強調しているように思います。

11_CADのモデル
▲設計したCADデータ(3月4日)


3Dプリンターでの出力と研磨

制作したCADデータを3Dプリンターで出力しました。はじめに完成品の1/5サイズの小さなモデルを出力しました。3Dプリンターは樹脂を積層して形状を作るため、大きなモデルより小さなモデルの方が構造的に弱くなるので、はじめは小さなモデルで出力して耐久性のチェックします。ちなみに3Dプリンターで出力する材料としてABSとPLAと呼ばれる2種類の樹脂があります。それぞれ特徴があり、ABSは頑丈なので実際に触るものや負荷がかかるものに適していますが加工中に反りやすいというデメリットがあります。今回作るボディではABSのような丈夫さは必要なく、むしろ反りにくく造形の正確さに優れたPLAを使用しました。

12_小さなモデルで出力
▲1/5サイズの小さなモデルで出力した(3月5日)

3Dプリンターの出力には時間がかかるのですが、設計したボディを一度に出力すると予想される作業時間が11時間となってしまいマテリアル京都の営業時間ギリギリになってしまうため、今回はボディを3分割して出力しました。3分割に分けて出力しても1つのパーツに6時間程度かかってしまいますが、3Dプリンターの出力も必ず成功するわけではないのでリスクを回避する意味でもパーツを分割しての出力は有効だったと思います。


▲3Dプリンターでの作業の様子(3月7日)

3Dプリンターから出力したボディは積層痕が残っているので、ラッカーパテを塗ってから紙やすりで削ることで積層痕を埋めました。鑑賞の妨げにならない程度までボディの表面を整えるには、パテ埋めとやすりがけがそれぞれ3回ずつ必要でした。

13_1段階目
▲出力したばかりのボディは積層痕が残っている

14_2段階目
▲ボディの表面をラッカーパテで埋める

15_3段階目
▲パテ埋め3回、やすりがけ2回したボディ

16_4段階目
▲パテ埋め3回、サーフェイサー2回、やすりがけ4回したボディ

3Dプリンターで作ったボディからシリコン型を取ってジェスモナイトを流し込む予定だったので、ジェスモナイトの販売店の型に使い方をレクチャーしてもらいました。ジェスモナイトは2つの白色の無機溶剤を混ぜることで効果が始まり、一晩で固まるので部屋の中でも安全に作業できます。滞在先のマテリアル京都はカフェとしても経営しているため、基本的に有機溶剤のような臭いのきついものはNGなのですが、ジェスモナイトはマテリアル京都でも使用できる流し込み造形の樹脂です。ジェスモナイトの基本色は白色ですが、溶剤を混ぜる際に着色料や金属粉を加えることで様々な色やテクスチャを与えることができます。

17_ジェスモナイトのレクチャー
▲ジェスモナイトのレクチャーの様子(3月8日)

ただ予想以上にボディを型取るのための表面仕上げが大変だったことと、シリコン型からの型抜きを想定してボディを設計していなかったため、今回はジェスモナイトは使わない方針に変更して、車のボディ4台分を全て3Dプリンターで出力することになりました。そのため今回の滞在制作では、4台分のボディを3Dプリンターで出力して積層痕を処理する作業にかなりの時間を費やしました。
パテ埋め作業は地味な上に乾燥に時間がかかるので、最初はイライラしながら作っていましたが、3台目の積層痕を消す作業のあたりで、この作業がとても精神的な作業に感じられました。作品の体験の邪魔になるものは排除しなければなりません。3Dプリンターの積層痕は作品の体験の妨げになるため、可能な限りパテ埋めで消す必要があります。パテ埋めしたボディを紙ヤスリで削るたびに作品の完成に近づいていることを実感して「ああグルーヴの神に近づいているなぁ」と思うのでした。

18_パテ埋め1

19_パテ埋め2
▲積層痕を消す作業(パテ埋め、やすりがけ)の様子


塗装作業

表面処理を終えたボディはサーフェイサーを吹いてカラー塗装の段階に入ります。マテリアル京都には常設された塗装ブースがないので中庭を塗装場所として借りました。日によっては1階でイベントがあるときなどは、2階のテラスにビニール袋を敷いて作業しました。塗装作業が始まる頃には滞在制作の残り期間も1週間ほどになっていたので、夜も作業するために自転車のライトを設置して作業しました。ただカラーの塗装はちゃんと昼間の明るさの中で作業した方が傷や塗り残しを発見したりできるので、夜の塗装作業はあまり効率的とは言えませんでした。

20_中庭の塗装ブース
▲中庭の塗装ブース

ボディの色は4台の車が並んだ時に左から赤、橙、黄、白の順番になるようにしました。今回の作品がリズムやビート、グルーヴに関わる装置なので、Roland社の伝説的なリズムマシンTR-808のキーの色をイメージしました。あとは作品の体験が耳を傾けてじっくり待つハードコアな体験なので、せめて作品の印象だけでもポップするために明るいカラーを選択しました。作品の門戸は広く、体験は深くですね。

21_乾燥待ち
▲カラー塗装されたボディ


土台パーツの制作

土台パーツは電子回路や音を反響させるための部品で飛騨の木材などで試作する予定でしたが、レーザーカッターで加工できる厚さに制限があるため薄い木材として市販のシナベニア合板を使いました。レーザーカッターで箱物を作る際には、木材の縁を凹凸に切り出して組み立てる方法が一般的なのですが、最近ではフリーで公開されているソフトウェアを使えば、箱のサイズや切り出す板の厚みなどの条件を与えるだけでレーザーカッターで箱物のデータを自動的に作成してくれます。

22_土台の仕組み
▲土台パーツのアイデアスケッチ(3月2日)

23_レーザーカットした土台
▲レーザーカッターで切り出した木材(3月12日)

土台パーツの正面には装飾として横向きの長穴加工を施し、ウィンカーの音が抜けるようにしました。これはラジカセのデザインなどを参考に音の出る部分を強調するアイデアです。
また正面にはPLAY A DAYのロゴマークを入れるために白いアクリル材からレーザーカッターで切り出しました。ロゴマークのイメージはギターアンプなどに楽器メーカーのロゴが貼り付いてるのを参考にしました。切り出したロゴの縁はマスキングゾルでコーティングして黒色に塗装した後、やすりで削ることで背景の黒地は残ったまま白い文字が浮かびあがります。

24_ロゴマーク
▲ロゴマークの塗装作業


制御回路の制作

今回の作品では1台ずつの車は明滅するだけの簡単なリレー回路を仕込み、それぞれの起動のタイミングをArduinoで管理することで体験のタイムシーケンスを設計しました。具体的には『Prototyping Lab 「作りながら考える」ためのArduino実践レシピ』の22章「AC100V機器のオンオフをコントロールしたい」を参考にしました。
滞在終了後は作品をマテリアル京都で展示していただけるとの話を聞いていたので、スタッフさんが混乱しないように起動・撤収はシンプルに電源スイッチをON/OFFするだけで良いように工夫しました。

25_全体のシステム
▲全体システムのアイデアスケッチ

26_制御回路
▲制御回路はタッパに入れた

作品のタイムシーケンスに関しては、最初は一度の体験を3分くらいに設定していましたが、マテリアル京都のスタッフの方たちに体験していただき「体験が長い」とのアドバイスをいただいたので、タイムシーケンスを2分くらいに変更しました。「インスタ映え」や「バズる」などの近年の勢いや感情を重視するような評価の台頭に疑問を持ち、もっと我慢強くじっくり耳を傾けないと味わえないような作品のあり方を志して、今回の作品もぱっと見の第一印象はポップでも実際の体験の難易度は高めになるように設定しました。ただ、難易度が上がりすぎると多くの人に届かなくなるので、さじ加減が難しく、僕はいつも他人に感想を求めてチューニングするようにしています。特に作品を展示するマテリアル京都は作品を鑑賞するマインドの人ばかりが来る場所ではないため、体験のエッセンスだけでも味わう設計でも良いかなと割り切りました。展示する場所が変われば再びタイムシーケンスをチューニングし直すと思いますが、マテリアル京都では1〜2分くらいが鑑賞者の足を止められるギリギリの長さではないかと思います。


組み立て作業

ボディ、土台パーツ、回路が出来上がったので、最後にこれらを組み合わせて完成させました。結局、組み立て作業は滞在制作の成果発表のプレゼン当日まで行われ、最後までドタバタでしたがなんとか発表までに完成しました。なんか作業の進め方が学生時代と変わってないな〜と実感してヘコみました。
ボディにLEDを仕込む際に工夫した点として、LEDの表面を紙ヤスリで削って曇り加工にすることでLEDの光を面発光にしました。作品では車同士が隣り合うため、無加工のLEDのままだと車の側面に取り付けたLEDの光が隣の車に直接当たってしまいます。そこでLEDを面発光にすることで光が強く当たらないようにしました。
また土台パーツにウィンカーを取り付ける際に、取り付ける位置や向きを変えることでウィンカーの動作音が少し変化させています。4台の車から鳴るウィンカーの音はそれぞれ変えた方が、音が混ざり合って生まれるグルーヴを体験しやすいからです。
また作品の体験の開始のタイミングは作品の横に設置した赤いスタートボタンを押すことで開始します。スタートボタンのケースもレーザーカッターで加工しました。

Report 3. 発表編

約1ヶ月におよぶ滞在制作の成果を発表する場がマテリアル京都で定期的に開催される発表会「Fab Meetup Kyoto vol.24」でした。毎回いろんなジャンルの方が登壇されるイベントで、僕も実際に制作した作品を展示して作品のテーマや制作の苦労ポイントをプレゼンしました。

展示

3mほどの長さの机の上に作品を並べ、その横には作品の完成に至るまでのプロトタイプを資料として置きました。僕は作品の仕上がりよりもプロセスを重視したいので、できる限り活動のアーカイヴを保存し、自分がどんな思考や実践を経て作品に至ったかを見えるようにしたい欲求があります。こうした作品資料はギャラリー展示では邪魔かもしれませんが、今回のような滞在制作においては過程の変化などが見えると意義あるものだったか俯瞰できると思います。
印象的だった反応として、プレゼンの準備をしていて作品から少し離れていた時に、お客さんが作品に近寄りスタートスイッチを押したのですが「じっくり見なきゃいけない作品は苦手だな」と言ってすぐに立ち去ってしまいました。とても残念な反応でしたが、自分が問題視している「バズる」とか「インスタ映え」といったリアクティヴな価値観が正義とされている現状を打ち砕くには、まだまだ高い壁があるんだなぁと改めて感じました。

27_展示の様子
▲展示の様子


プレゼンテーション

プレゼンではあまり資料を十分に用意できていなかったので出たとこ勝負で臨みました。もともと話すことが得意ではないので映像や写真の資料を多く用意して、僕が喋らなくても大体の流れがわかるようにしました。作品のコンセプト自体がシンプルでわかりやすいものなので、お客さんの反応も悪くなく、僕が何をしたいかが伝わっていたようなので良かったです。プレゼンが苦手な僕の中では良いプレゼンだったと言えるのではないでしょうか(自問)

28_プレゼンの様子
▲緊張で前を見て話せていないプレゼンの様子


交流

登壇者のプレゼンが終わった後はお客さんと交流の時間が設けられています。地味な作品ですが、作品のコンセプトはしっかり伝わっていたようなので良かったです。
お客さんからのアドバイスとして一番多かったのは「車ごとにウィンカーの機種を変えてみてはどうか」ということでした。今回はウィンカーの取り付け位置で音を少し変化させているとはいえ、ウィンカー自体を全く別物に変えてしまえば更なる音の変化を期待できるかもしれません。あとは「車を交換式にする」というもので、土台に乗っている車ごと交換してウィンカーを交換すれば自分好みの音を楽しむインテリアになるかもしれません。他には「おもちゃっぽくするより高級路線にいってほしい」「街の他のLEDの明滅もグルーヴになりそう」など色んなアドバイスをいただきました。
個人的にアドバイスをもらう時に大事にしていることとして、一人の人しか言わない特異なアドバイスより他の大勢の人も言っていたアドバイスにも注目します。大勢の人が指摘するポイントにはある種のベタさ(≒ポピュラーさ)が付き纏います。このベタさに乗っかるか、ベタさを裏切るかは作家の指向性だと思いますが、何がベタなのかは理解しておくと大勢に共感されながらも違和感を含んだ表現が可能になるのではないかなと思います。今後も作品の敷居の低さと体験の深さを追求していきたいです。

29_交流の様子
▲交流の様子

まとめ


感想と反省

感想として、大学院を卒業後は自宅のアパートに閉じこもって作品制作することが多かったので、久しぶりに制作プロセスから他人の意見を聞きながら作業できたのは楽しかったです。作家さんにはいろんなタイプがいますが、僕は他人の意見に左右されながら作るのが基本的なスタイルなのでマテリアル京都のようなオープンな作業場は居心地が良かったです。
3Dプリンターに関しては簡単に複雑な造形物が作れる一方で、出力にかかる時間の長さや積層痕を消す大変さを身をもって理解したので、作品の最終完成品をつくる用途よりもプロトタイプの道具として割り切って使う方が無難かもしれません。一方で滞在制作の後半では3Dプリンターと友達になれたような感じで、出力されたモノを見て「そろそろメンテナンスが必要だな」とわかるようになっていました。また積層痕を消す作業も、最初の1台目は4日ほどかかっていた作業が3・4台目では2日ほどで済むようになり、自分のスキルが上昇していることにも気づきました。
こうした経験からデジタル工作機器の使い方に関して、機械だけで全ての作業を賄おうとするのでなく、素材の特性や人間の手わざと組み合わせて機械と人間、デジタルとアナログのお互いの得意なことは何であるかを理解して作業を割り振るべきでしょう。

反省点としては、当初考えていたジェスモナイトや飛騨の木材といった新素材を使う計画はどれも実現しなかった点が挙げられます。これは今回の作品の最終形のイメージが最初から決定していたので、イメージから外れて素材と一から対話する余白がなかったためだと思います。つまりアイデアが先にあって素材はその後にあったため、アイデアを優先した結果、今回は新素材は使いませんでした。次作を構想する際は素材をお題にアイデアを考えるような発想で考えてみても良いかなと思います。

グルーヴとは何だったのか

結局、グルーヴとは何だったのだろうか。今回の滞在制作に際してわかりやすいテーマが必要だと考え「車のウィンカーを用いたグルーヴの探求」と題しましたが、探求という言葉は大抵ゴールがないので便利な言葉としてついつい使ってしまいます。なので「グルーヴとは何か」と問われたら「わからない」と答えることもできますが、それではあまりにも味気ないので制作を通して考えたことをまとめてみます。

音楽作品の中で最初にグルーヴらしきものを意識したのがミニマル・ミュージックの第一人者のひとりであるスティーヴ・ライヒの『Come Out』(1966)という作品です。この作品は黒人暴動の犯人の疑いをかけられた青年の弁明の言葉をテープで録音し、音源の断片を反復的に再生して少しずつズラしながら重ねることで、政治的な意味の強い言葉をただの音響のうねりに変化させます。僕はこの作品の後半部分を聴いている時に「なんか踊れるな〜」とひらめき、反復的な音とその差異から生まれるグルーヴらしきものを意識しました。

ライヒの次に作家として海外でも活躍しているDJのAOKI takamasa(青木孝允)に注目しました。青木さんは京都精華大学でも非常勤講師として教鞭を執っておられ、ポピュラーミュージシャンとしての活動は一言で言えばミニマルなエレクトロダンスミュージックという印象です。少ない音数の電子音をコントロールしながら、いつまでも聴いていられる音楽は、よく聴くと複雑に変化し続けていることに気づきます。青木さんの活動や制作態度を知るうえでCINRA.NETの良いインタビューがありました
このインタビューの中で印象的だったことは、青木さんもライヒの影響に言及されていることと、自身のことをミュージシャンだとは思っておらず、ただ現象を提示しているだけだと話している点です。青木さんはライヒについてフラクタルと関連させて言及していますが、反復と差異から生じるグルーヴ(らしきもの)にはシンプルな音の要素が生み出す無限とも思える展開の複雑性が隠されているように思います。
また青木さん自身は音の現象を提示しているだけなのになぜ踊れるのかについて、聴者のバイオリズムに注目されています。音は究極的にはただの空気の振動であり、どの空気の振動から音という意味を見出すのは聴者の文化的な背景が関わっていると思います。また音の羅列をなぜ音楽と思えるのかは、聴者が音の反復と差異の経験から音のまとまりを認知するからだと思います。どの空気の振動を音のシグナルとみなすか、さらには音のまとまりを音楽とみなすか、これらの判断は聴者に託されており、何がグルーヴであるかは生理的な反応や社会的な背景とは切り離して語れないでしょう。つまり、何にグルーヴを感じるかは一義的に定まるものではなく、各個人によって異なるということです。

ただミニマル・ミュージックをフラクタルに結びつけて語ることも特別新しいことではないので、今回の作品制作の意義を考えると、今まで音楽や美術の専門領域で培われた難しそうな理論を一般の方でもわかるように翻訳して表現した、という位置付けが良いかもしれません。これまで敷居が高く参加者が少なかった分野への架け橋になる、そんな意義のある作品になったのではないでしょうか。
この作品を体験した人が、街でウィンカーの明滅のズレを見かけた時に「おっ、グルーヴだ!」と思ってもらえれば作品の狙いは成功したと思います。そして、今回の作品のようにもっと多くの多様な立場の人が自分の感じるグルーヴを表現するようになれば、その表現の総体が「グルーヴとは何か」の答えではないでしょうか。

みなさんはどんなものにグルーヴを感じますか?

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*MTRL KYOTOのクリエイターインレジデンスでは、下記のようなモチベーションに溢れるクリエイターの皆さんを随時受け入れています。

・もののデザインや表現、素材について、新たなアプローチを探している
・伝統/先端の領域を横断して、今までになかったものを創り出したい
・京都に短期間滞在して、制作しながらクライアント提案やフィールドワーク、現地のクリエイター、職人との交流も行いたい
・自宅やいつものオフィスやアトリエからちょっと離れて、 “サードプレイス” 的な場所でワークしてみたい
・身近にレーザーカッターや3Dプリンターなどの工作機械がある環境で制作に打ち込みたい
  …etc,etc.

個人でなく、チームでの滞在制作も歓迎です。詳細は下記よりご覧ください。
http://mtrl.com/projects/creater-in-residence/