Column

2017.7.16

【開催レポート】ワークショップ「未知の味にことばを与える – 日本酒の『美味しい』を再発見する」

FabCafe Kyoto編集部

世に出る前の「試験酒」と向き合った一週間。

2017年6月30日・7月7日の二日間にわたって、MTRL KYOTOではワークショップ「未知の味にことばを与える – 日本酒の『美味しい』を再発見する」が開催されました。

滋賀県高島市で酒造りを続ける「萩乃露」福井弥平商店の代表 福井毅さんと、デザイナーにしてソムリエという異色の活動を行うHulynique Design 九里法生さんをナビゲーターに迎えて実施された本ワークショップの目的は、「開発中の新しい日本酒のプロトタイプと向き合い、この酒が活きる場面とそれを伝える表現について考える」こと。

当日は、日本酒を飲む体験をアップデートすべく「重さを感じない、漆だけでできた酒器」を開発した漆職人さん、クリエイティブなメニューやお酒にまつわる体験をプロデュースするドリンクディレクター、料理人の方、普段は製品開発に携わる方、「日本酒は飲めないけれど、”未知の味について表現する”ことに興味があって」という方など、10名の参加者さんと一緒に、お酒を実際に飲み、アイデアや体験をシェアしながら、まだ名前もないこの日本酒の未来について考え、同時に「試作品を完成させ世の中に出す、そのプロセスを追体験する」時間となりました。

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イベント概要

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企画主旨

株式会社福井弥平商店が260年以上にわたり近江高島で造り続ける日本酒、「萩乃露」。高島の豊かな自然や里山で育まれた良質な米、やわらかな水など地元の恵みを大切にして醸された酒には、全国的にたくさんの熱狂的なファンがいます。

地域性や歴史を大切にしながらも常に「旨いを目指し挑戦を続ける」萩乃露は、新製品開発にも積極的に取り組まれています。今回のワークショップで題材となるのは、開発過程で生まれた「一段仕込みの酒」試作第1号。通常ではあまり用いられない製法を試したところ、一般的に流通しているものにはない味の日本酒が生まれました。

株式会社福井弥平商店 代表取締役社長の福井さん曰く、「既存の基準だと “美味しくない”味…でも、なにか可能性を感じる味」。
イノベーションのためには「既存の文脈の外に価値をつくる」ことが重要です。この、まだ名もなき日本酒も、いま当たり前だと思っている文脈の枠から離れて見ることで、その魅力が発見できるかもしれません。本イベントは、この「既存の枠の外の味」を体験し、向き合い、その魅力を表現する「共通言語」を考える全2回のワークショップです。

ナビゲーター

福井 毅(福井弥平商店)

清酒 萩乃露 醸造元 代表取締役社長。情景の見える酒造りをめざし、日本酒の多様な喜びや驚きを飲み手に提供。地域に根差した酒造りに取り組んでいる。
www.haginotsuyu.co.jp


九里 法生(Hulynique Design)

クリエイティブディレクター、グラフィックデザイナー、JSA 認定ソムリエ。
様々なデザインや商品・サービス開発を手掛ける。台風被害から生まれた日本酒「雨垂れ石を穿つ」の開発をきっかけに萩乃露のブランディングにも関わる。

www.hulynique.com

DAY1 : 「出会う」

初日は、今回のワークショップの題材となる試験酒が生まれた経緯について福井さんから説明を受けたのち、まずは「飲んでみる」ことからスタート。

実は、このイベントを企画した当初は、「まったく美味しくない酒ができた」というところがスタートライン。日本酒は時間とともに味が熟成・変化していくのですが、その変化の結果、イベント当日の味がどのようなものになっているかは誰にも想像が付いていませんでした。造り手本人である福井さんも、出来た時に味見して以来、約半年ぶりに口にすることで、参加者さんと同じ「初めて味わう」という体験を共有しました。

まずはお酒単体でテイスティングをし、参加者さんそれぞれが感じた味と印象を、言葉でシェア。

▼初めて口にしたときの印象・イメージ

・カカオ感の強いチョコレート
・熟したバナナ
・番茶
・杏仁豆腐の香り
・メロン(腐りかけ直前の!)
・濃いリキュール ワイン スピリッツ
・はじめと後で味が違う
・日本酒ではなくワインみたい。日本酒が苦手だけどこれなら飲める

複数の人どうしで重なるイメージもあれば、かなり独特な表現も飛び出します。皆でシェアすることで、自分の表現や語彙のなかになかったアイデアや感覚も引き起こされ、感覚が研ぎ澄まされていきます。その後、ソムリエ 九里さんによる「味の表現」や「ペアリング」の基本についてのレクチャーを受けつつ、特徴的ないくつかの食べ物とあわせてみることで、このお酒の「美味しい部分」が引き出される組み合わせやシーンを探す時間を過ごして、1日目は終了。


▲(左)福井弥平商店 福井さんによる、試験酒が生まれた経緯の説明パート。 (右)初日は皆で「未知の味に出会う」時間を過ごしました。九里さんは初日はソムリエスタイルで登場。

宿題:「向き合う」

初日の終了時に、参加者の皆さんには宿題が出されました。実はこのワークショップは2日間ではなく、「1週間」にわたってお酒と向き合う試み。各自宿題に取り組んで、2日目(=最終日)に発表を行います。その内容は、以下の通り。

▼宿題(1)
次回ワークショップまでの1週間、試験酒を1本持ち帰り、自らの暮らしのなかで、飲み方やシーンを考える実験を行って日記をつけてくること。

▼宿題(2)
このお酒をポジティブに表現し、まだ飲んだことがない人に伝える「キャッチコピー」を考えてくること。

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▲ 宿題シート。7日間の記録と、体験から導き出したキャッチコピーを1枚にまとめます

DAY2:「表現する」

2日目は、各自向き合ってきた時間の活動報告と、キャッチコピーの発表を実施しました。皆さん忙しいなか、「食事とあわせてみる」「温度を変えてみる」「いろいろな器で飲んでみる」「環境を変えてみる」など、人ごとに異なるアプローチで実験。キャッチコピーも、ひとつとして同じものがない表現が生まれました。

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▲ 各自発表。MTRL KYOTOでもイベント「Alcohol Lab」を展開するドリンクディレクター セキネさん(Nokishita711)は、シートの代わりにこのお酒を元にしたオリジナルカクテル2種類でプレゼンテーションしました。

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▲ 参加者さんたちの宿題シート。拡大版はこちらからもご覧いただけます。

また、今回のテーマとなった試験酒のいわば “兄弟” にあたる、同じ酵母、同じ酒米を元禄時代の製法で醸造した萩乃露の新製品「葵つぶらか」も飲み比べ。
ネーミングやラベルのデザインなど、商品企画からアートディレクション全般を担当した九里さんによる、デザインプロセスの解説も加わりました。同じ経緯から誕生し、先に「商品」として実際に世にでることになった酒がいかにして完成に至ったかを知ることで、今回の体験を「では、どうやって本当に製品として完成させるのか?」というもう一歩先の問いへ引き上げることができました。

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▲2日目はデザイナーとしてプレゼンテーションする九里さん。貴重なアイデアメモやデザインの過程が垣間見える資料も当日は公開しました。

ワークショップを終えて

今回のワークショップでは、「優れたキャッチコピーを選出する」ことには目的を置きませんでした。

▼体験(1)
「”こうしたら美味しさを引き出せるのでは?”と仮定する」→「実験してみる」→「結果を分析する」→「分析をフィードバックしてまた実験する」ことの繰り返し(≒科学的態度)

▼体験(2)
「体験と分析から見出した魅力や価値のイメージを、言語化して他者に伝えようと試みる」こと(≒感覚的態度)

上記の「対象と向き合う」体験と、そしてその過程や結果をオープンにシェアすることで「多様な視点・価値観を獲得する」「そこで見えた共通項から製品の本質的価値を発見しようと試みる」プロセス自体が、参加くださった皆さんにとって、今回の日本酒以外でも「試作品を製品・サービスとして世の中に出していく」ための一つのヒントになったならよいなと考えています。

今後も、MTRL KYOTOでは、新しい製品やサービス、表現を生み出すために「素材と向き合い、今までになかった価値の創造・発見を試みる」取り組みを実施していきます。コラボレーションのご提案も大歓迎。気になる方はぜひMTRL KYOTOへお越しください。

(text : MTRL KYOTO 木下浩佑)

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