Interview

2016.6.18

バイオラボの作り方(3) 〜 YCAMバイオラボにはどういう設備があるの?〜

FabCafe編集部

BioClubでは、バイオラボ設置のため準備をしています。前回は、岩崎先生の研究室へと訪問させて頂き、『研究室』というものに対して具体的なイメージを描くことができました。ただ、いざ始めてみると、「これも必要、あれも必要….じゃぁ何から始めよう、、、?」となってしまうことが少なくありません。

そこで今回は、前回に引き続き、日本でも先駆けてアートセンターにバイオラボを開設・運営している山口情報芸術センター(以下、YCAM)の伊藤隆之さんと津田和俊さんにインタビューをさせて頂き、YCAMバイオラボの設備面について、レポートいたします!

YCAMのバイオラボは、主に2部屋から成っています。メインのワークスペースとパントリーです。

▲バイオラボのメインのワークスペース[ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]

まず、メインのスペースに関して。こちらはガラス張りの実験室で、BioClubのバイオラボスペースよりもひとまわり大きいくらいのスペース(幅3.3メートル×奥行き4.2m)です。例えば以下のような機材が揃っています。

  • クリーンベンチ
  • 冷凍冷蔵庫
  • インキュベーター 2台
  • 乾燥機(インキュベーターとしても使用)
  • 遠心分離機
  • PCR装置
  • ゲル電気泳動装置
  • ゲル撮影用トランスイルミネーター
  • 電子レンジ
  • 顕微鏡 2種類

ただし、これらは最初から全て用意されていたわけではなく、ラボを運営する中で譲り受けたり、必要に応じて調達しつつ揃えられました。

▲クリーンベンチの様子[ 画像提供:山口情報芸術センター[YCAM]]

ここで注目すべきは、メインの作業スペースには「水道がない」ということ。実は、P1レベルのバイオラボを作る上で、水道の設置義務はありません。今の段階では、こちらのメインルームでは必要に応じてポリタンクの純水を使用しているそう。ちなみに純水タンクは、BioClubの一部メンバーが活動しているBioHack Academyでもお馴染み『モノタロウ』でも購入可能です。5リットルで1,000円ほど。

▲水タンクの様子[ 画像提供:山口情報芸術センター[YCAM]]

伊藤さん達曰く、いまのところ実験に大量の水を使うのは実験機材などを『洗うとき』。ということで、最後に洗うときにはパントリーに移動し水道を使用すれば、現段階ではメインルームに水道がなくとも不自由ないとのことでした。ただ、このパントリーの水道は、通常必要はないですが、『逆止弁』を取り付けることで、より安全性を高める工夫をしているそうです。

逆止弁付きの水道の他、パントリー(幅1.7メートル×奥行き2.7メートル)には以下の機材が設置されているそうです。

  • 純水製造機(カートリッジタイプ)
  • オートクレーブ(消臭機能つき)
  • はかり(パン用のものも使っていて、それでも割と大丈夫)
  • 試薬棚(鍵付き)
  • マグネティックスターラー
  • pHメーター(試薬のpH調整用)
  • 製氷機(液体を混ぜたりするときに酵素などを冷やし続ける必要がある)
  • フリーザー(-80℃)

▲パントリーの様子[ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]

さすが実際に実験を進めているラボだけあって、設備の充実度が素晴らしいですね。公共空間に設置したYCAMならではの工夫は、消臭機能付きのオートクレーブを使用しているということ。オートクレーブは結構な臭いが出るそうで、BioClubのバイオラボもその辺は考慮した方が良さそうですね。

YCAMでは、このような設備を活用し、「食」をテーマにしたワークショップも行われています。ただ、そういったイベントの際には、施設内のYAMA KITCHENも利用しているそうです。

▲YAMA KITCHENで開催したBio Barの様子[ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:StudioECHO ]

YAMA KITCHENは、もともと館内レストランとして使われていた場所を『シェアキッチン』として使用しているもので、基本的な調理場としての設備が整っています。『無菌状態』を気にする必要がなく、大勢のひとが作業に関わるような企画には、こちらのキッチンを利用しているそう。例えば、酵母からパンを作るワークショップなどを行う場合、『酵母』を選びとるような、ある程度無菌で操作したほうが良い作業はクリーンベンチのあるワークスペースで行うそうですが、それ以外はキッチンやパントリーでも作業をするそうです。

つまり、YCAMのバイオラボでは、メインのワークスペースに水道機能は無く、水洗いなどが必要な場合は併設するパントリーを利用し、更に多くのひとが参加するワークショップ等を開催する場合はYAMA KITCHENを活用する、というかたちで複数の空間を利用して作業をしているのだそうです。ひとつの空間内で完結させるのではなく、目的に応じて柔軟に対応しているYCAMの例は、非常に参考になりました。

▲「アグリ・バイオ・キッチン」ワークショップの様子 [写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:田邊アツシ ]

場所を選ぶ上での判断基準として、『水を使用するか』『ひとはどのくらい参加するのか』ということはイメージがつきやすいかと思いますが、ことバイオに関わる作業で重要な基準は、『無菌状態で作業をする必要があるか』という点です。

細菌や糸状菌(カビなど)などの微生物は、空気中や皮膚などあらゆるところに存在しています。実験において、これら微生物は実験の対象であると同時に、実は、実験の結果を邪魔するものでもあります。このように実験の対象「外」の微生物が混入してしまうことを『コンタミネーション』というのですが、全てのバイオの実験においては、このコンタミネーションが起きうる状況を見極めることが非常に重要です。今後こちらのブログでも何故コンタミネーションを避ける必要があるのか具体例を交えつつ紹介していく予定です。微生物の性質をきちんと学び、YCAMのように、柔軟に・楽しく実験ができると良いですね。

伊藤さん、津田さん、ありがとうございました!今後とも、日本にバイオラボを広めるべく、情報シェアしつつ頑張りましょう。

今後、BioClubは具体的な設計プロセスに入っていきます。それらの工程も全て公開していきます。ここが聞きたい!これが知りたい!等ございましたら、お気軽にコメントして頂けますと幸いです。また、こちらのブログでは、バイオルーム完成後、クラブメンバーが取り組むであろう活動の材料集めをしていきたいと考えています。最新の研究動向や、バイオを使った面白実験等も紹介していきますので、今後ともお付き合いよろしくお願いいたします。

 

追記:YCAMのバイオリサーチでは、年間を通じて活動を紹介する場「オープンデイ」を、この6月から年間6回開催予定とのこと。館内でリサーチのプロセスを展示で紹介するとともに、YCAMスタッフによるバイオラボツアーや、バイオテクノロジーについてのあれこれを意見交換できる場を設けています。

▲YCAMバイオリサーチ・オープンデイの様子(イメージ図)(イラスト提供:山口情報芸術センター[YCAM])

現在YCAMでは、2012年から毎年手がけている「コロガル公園シリーズ」の最新版「コロガルガーデン」も6月18日からお目見えしているようです。多種多様なメディア・テクノロジーを埋め込んだ子ども向けの遊び場で、遊びながら学びを得る、子どもたちが創造するメディア公園です。YCAMバイオリサーチ・オープンデイに、コロガルガーデンに、夏のYCAMがとても楽しそうです。是非、YCAMに足を運んでみませんか。

▲コロガルガーデンの様子[写真提供:山口情報芸術センター[YCAM] 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)]

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